初めましてのご挨拶 びえり

皆様初めまして
本稿をお読み頂きありがとうございます。

30年前の作品である初代マクロスが大好きで、思い付きでSSブログを始めてしまいました「びえり」と申します。


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テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

Future Funk Lynn Minmay







【sound cloud】
https://m.soundcloud.com/nanidato/super-riser




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Sunday.

本番の終わった深夜2時。ここはシティのナイトクラブ。出演者も裏方も、番組の関係者が一堂に会して朝まで打ち上げパーリーナイトが開かれる。

パーティーの主役はもちろんその週のホストと音楽ゲストだ。
なので今週のホスト役であるエマ・ジェファーソンは当然ながら今夜の主役の1人である。大勢のスタッフに取り囲まれてワイワイ騒がれている様子が見て取れた。しかし彼女はオンカメラでのトークは得意なのだが、オフカメラで愛想を振りまくのは苦手、というか嫌いみたいだった。さっきからスタッフ1人1人を捕まえては「あんたは気が利かない」とか「あんたは将来出世しない」とかよく分からないダメ出しを連発している。
まったくもって顔も性格もブスな彼女だが、社交性も特別に悪いらしい。
呆れたような顔をしてスタッフが1人また1人と逃げて行く。しかしアルコールの入ったエマから逃れるのは至難の業だ。僕は可能な限りあの災厄に触れないようにフロアの端っこへと逃れるように歩いて行った。

するとそこに、ミンメイがいた。今夜のパーティーのもう一人の主役。のはずなのに、壁際の席で独り静かに座ってパーティーの様子を眺めている。このミッドナイトパーティーが、彼女の19歳の誕生日のお祝いも兼ねているのにも関わらず、だ。
僕に気がついたミンメイは「Hi」と片手を上げた。少しだけ酔っているのか、ほんのりと赤い顔をしている。機嫌は良さそうに見えたので、僕は対面の席に腰掛けた。フロアは大勢で盛り上がっていて、ノリの良いハウス・ミュージックがひっきりなしに僕らの鼓膜を叩いている。

「さっき社長が来てたよ」
「うん、バースディプレゼント貰った」
「へー、何だった?」
「これ」

ミンメイは左腕のブレスレットを見せる。クラブの照明がカラフルに変化するので何色か分からないが、きっと高価な物なのだろう。でもミンメイは興味なさそうだった。

「なんか今日は大人しいね」

僕が不思議に思って訊ねると、ミンメイはテーブルの上に置いてある自分のモバイルフォンをツンツンと指でつついた。

「お祝いが、来ないのよ」
「?誰から??」
「一番欲しい人から」

僕はクラブの中を見渡す。今日はウィークエンドな上にあのリン・ミンメイの誕生日祝いだという事で、かなりの数の芸能関係者がパーティーに駆けつけている。クロークにはミンメイ宛ての花やらプレゼントボックスやらが山積みだ。売れっ子のロックシンガーからご同業のアイドル仲間を始めとして、スポンサー関係で有名企業の経営者やどこぞのお偉い議員さんまで華々しい顔ぶれが揃っていた。
その錚々たる面々を差し置いてミンメイをこんな表情にする相手と言えば…

「例の、その、パイロットさん?」

ミンメイは答えなかった。ただ小さな三角グラスを掴むとクイッと一息にあおる。さくらんぼには触れずにそのままの状態でグラスに残した。

「わたし、何やってるんだろ…」

大きく息を吐いて、ミンメイはテーブルに突っ伏した。そんなミンメイがなんだかいつもより小さく見えて僕はちょっとだけ心配になる。何か言ってあげなきゃ、ここは元気づけてあげる場面だ。なにしろ僕はあの人類の救世主、”世紀のアイドル”リン・ミンメイのマネージャー(サブだけど)なんだから!

「ねえミンメ「よう、ミンメイ」

僕の台詞にかぶさるように現れたのは、このパーティーの影の主役とでも言えるアラスカTV界の大物プロデューサー、ローン・マイケルズだった。マイケルズは僕のことは無視してミンメイの隣りにドッカと腰掛ける。フロア内の音楽は少しポップ調に明るく、テンポの速い物になっていた。

「なんだ、もう飲み潰れたのか」
「そんな訳ありませんよ〜だ」

ミンメイは頬を膨らませて起き上がる。マイケルズは笑顔で新しいグラスを差し出した。ミンメイが受け取ると、自分のグラスをそれに合わせる。カチンとガラスの音がして水滴が弾けた。

「ひとこと言い訳をしておきたくてな」

琥珀色の液体に満たされたグラスを一口あおってから、マイケルズはそう呟いた。ぼうぼうの口ひげを撫でてミンメイを正面から見つめる。ミンメイは膝を揃え、ちょこんと座り直してマイケルズと正対した。

「別に俺はな、お前さんが憎くて意地悪をしてやろうとか、そういう意図でやってるんじゃないんだ」
「ハイハイ」
「サタデー・ナイト・ライブ出身で売れた連中は大勢いる。みんな俺が育ててやった。リン・ミンメイにも同じ気持ちで接してるんだ」
「ウンウン」
「お前さんを成長させるために考えて、敢えてああいう事をやってるんだぜ?俺たちショー・マンは人生を切り売りしてなんぼだ。他人のも、自分たちの人生もな」
「そうそう」
「俺はこの番組に命を懸けてる。だから一緒にやる連中にもその覚悟を持っていて欲しい」
「ほうほう」
「…本当に分かってるのか?」
「はいはい」

ミンメイに軽くいなされて、マイケルズは苦笑するしかない。アラスカ1のビッグ・プログラムのボスも、かのリン・ミンメイの前では手も足も出ない有様だ。たったいま19歳になったばかりの小娘に。

「まあ、なんだ、その」

マイケルズは視線をミンメイからそらした。”それ”の到来を明敏に感じ取って、ミンメイは大粒の瞳を見開いてじーっとマイケルズのヒゲ面を見つめている。

「…悪かったよ。今回はちょっとズルかった」
「いえいえ」

ミンメイは笑った。「でもほんのちょっとだぞ」とマイケルズがどうでもいい釘を差し、ミンメイはまた「ハイハイ」と軽くいなしてグラスをかかげる。マイケルズは「Happy Birthday PRINCESS」と言ってミンメイをハグし、藍色の髪にキスをした。あ、このスケベオヤジめ、僕だってそんなのした事無いのに。

マイケルズが去ったあと、オカマのチーフマネージャーが入れ替わりにミンメイの元へとやって来た。やっぱり隅っこでひっそりしているミンメイの事が心配になったらしい。
が、ミンメイの顔を見るなりチーフは口を噤み、何も言わずに静かに席に座った。フロアではDJが変わったらしく、ソリッドなコテコテのテクノ・ミュージックが流れている。

「私ね、あなたに謝らなきゃならないわ」

ミンメイが不思議そうな顔をしていると、チーフは微笑みながらミンメイの藍色の髪を撫でた。

「私、ずっとあなたの事を過保護に扱っていたみたい。気が付かないうちに、あなたを何も出来ない幼い子供か何かのように考えていたの。でも、あなたはもう立派な大人なのよね」

ミンメイはチーフが何を言っているのかよく分かっていないみたいだ。というか僕もよく分からない。ミンメイの小首をかしげる仕草が可愛らしかったからか、チーフはとても優しい目になって言葉を紡いだ。

「あなたはあなたの人生を生きるのね。自分で考えて、自分で決めて。初めから私なんて必要なかったんだわ」

1人で喋って1人で納得したチーフは、「Happy Birthday MINMAY」とだけ言い残して席を立った。最後に僕の方を見て「なんだあんた居たの」だって。失礼しちゃうよ。

クスクス笑っているミンメイを恨みがましく僕が眺めていると、今度はエマ・ジェファーソンがフラフラとやって来た。大分酔っているらしい、目がかなり据わっている。僕はすかさずその場から消えようとしたけれど、笑顔のミンメイに「まさか逃げないわよね」と言われて「ハイ」と大人しく座り直した。

「あらミンメイ、御機嫌いかが?」

ちょっと呂律のあやしいエマは赤く湯だったタコみたいになっていた。きっと面倒くさがられてスタッフ達にガンガン飲まされたんだろう。でも目論見は失敗して、酔い潰れるどころかもっと面倒くさそうなのが現れたっていう寸法だ。

「上機嫌よ。あなたは?」
「ええ、とってもいい気分だわ」

エマはひゃっくりをしながら答えた。しかし何故かそのまま黙ってしまう。席に座るでもなく、かと言って立ち去るでもなく。どうしたんだろうと僕とミンメイが見守る前で、何か言いたい事でもあるのかモジモジと人差し指を突き合わせている。

「ね、ねえミンメイ」
「なぁにエマ」

エマ、と呼ばれてエマの顔がぱあっと明るくなった。ん?何だ?どういう事??

「そ、その、今日の、いえもう昨日ね。あの歌、とってもカッコ良かったわ」
「ホント?ありがとう」

ミンメイはファンの子達に対するように100点満点の営業スマイルでお礼を言った。ほんと、こういうところは彼女は誰よりも当たりが良くて素晴らしい。こういうのって天性の才能だと思う。

「あ、あのね、だからって訳じゃないんだけれど」

またモジモジしだしたエマ。どうしたブサイク、映画の意地悪学級委員長の役を思い出してミンメイに皮肉でも言いに来たのか。

「その、あの、と、とも…ってあげ…」
「ん?なぁに??」

急に声が小さくなるエマ。ミンメイは笑顔のままでエマに顔を近づけた。エマの顔がさらに真っ赤になる。こりゃきっとウォッカを飲まされてるな。

「ああの!」

意を決したようにエマがギュッと目を閉じて叫んだ。

「と、友だちになってあげてもいいわよ!」

クラブの音楽はガンガンにハードコア・テクノだ。勢いだけでぶっちぎろうとする音圧がこの広くて狭い空間を支配する。僕は聞き間違いかと思って確認のためにミンメイの顔を見た。ミンメイも僕の顔を見た。

「い、いやならいいのよ」

赤を通り越して赤黒くなったエマが足早に立ち去ろうとするのを、ミンメイは手を伸ばして引き止めた。エマは硬直して彫像のようになる。

「嬉しいわ、ありがとう。エマとは今日からお友達ね」

微笑むミンメイ。パッと明るい表情で振り向くエマ。僕はその時、ふと金曜日のリハでエマがわざわざミンメイを探しに来たのは、ミンメイの歌を聞きたかったからじゃないのかな、なんて思った。もともとこのブサ…個性派女優はミンメイのファンだったんじゃないのか?

急に馴れ馴れしくなったエマはミンメイの隣りに座ると「telナンバー交換しましょう!」と鼻息を荒くしてミンメイに迫る。まるで映画の意地悪学級委員長が、弱い者いじめの獲物を見つけた時のような迫力だ。
ミンメイはその勢いに少し困ったような顔をしていたが、僕の気のせいだろうか、どことなく嬉しそうな表情にも見えた。

ふとテーブルを見れば、ミンメイのモバイルフォンがチカチカと光っている。しかしフロアにはガンガンにエグいシュランツが鳴り響いていてミンメイはそれに気が付かない。
僕は邪魔しちゃ悪いと思って、エマの首根っこを掴むとそのままフロアへと引きずって行く。エマは激怒して僕の足を踏んづけまくるが、僕は涙を堪えて意地悪学級委員長をミンメイから引き剥がした。

振り向いて、テーブルを指差す。ミンメイはハッとなってチカチカ光るモバイルフォンに手を伸ばした。

「Happy Birthday,MINMAY」

そう声を掛けたけれど、きっともう聞こえていなかっただろう。弾むような笑顔でモバイルフォンに話し掛けるミンメイを残して、僕はゆっくりとエマをダンスフロアへと連れて行った。





HAPPY BIRTHDAY MINMAY おわり


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HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Saturday.

毎週土曜日、23時。
それはアラスカに住むTVフリークにとっては特別な時間を表す。

画面には2人の男女。1人は新統合政府のゲノム総理…役のニセ者。そしてその奥様の役も当然ニセ物。
最近、ゲノム総理大臣は女性スキャンダルをパパラッチされたばかりだ。場面は唐突に2人の夫婦喧嘩から始まる。
ゲノム総理に扮したコメディ俳優が「やあメラニア」と女性に呼びかけると、メラニア婦人に扮した女性コメディアンが「あら浮気者。今夜はこっちの家に帰って来たのね」と皮肉で応酬する。舞台観覧者達の笑い声が集音マイクを通してTV画面に漏れ伝われば、コールド・オープンの準備完了だ。

ここは自由の国アラスカ。例えどんなに偉い政治家や大企業の社長であっても、サタデー・ナイト・ライブの前ではただのスケッチ・ネタの具材に過ぎない。みんなまとめてブラックな笑いの鍋へと無条件に放り込まれる運命にある。普通だったら告訴されてもおかしくないレベルの皮肉のスパイスがふんだんに降り注がれ、演者達は調子に乗りまくって誹謗中傷を有る事無い事喋り捲る。行き過ぎた風刺のヤバさこそこの番組の真骨頂だ。
途中、浮気相手とされる女優(なんとゲノム総理より歳上だ)役のニセ物が現れ、舞台上でプチ修羅場を演出する。それまでじっと立っているだけだったSPに、ゲノム総理(役のコメディ俳優)が「おい、仕事しろ!」と叫ぶとようやくみんなの中に割って入る。舞台下で生観覧している観客たちの愉快そうな笑い声や口笛が響き渡り、ひとしきり全員が騒ぎ終わったタイミングで一斉に顔をカメラに向けて声を合わせた。

「LIVE from MACROSS! It’s Saturday Night!!」

まさにお決まりの「番組開始!」の合図。人々の拍手と歓声が巻き起こり、聞き慣れた音楽を背景に番組のオープニング映像が流される。さてさて、今夜もアラスカ最大のビッグ・プログラム”Saturday Night Live”の始まりだ。
映像の切れ間には、シャンパンレッドにドレスアップしたホスト役のエマ・ジェファーソンがアラスカ中に向けて始まりの挨拶をする。出演した映画「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の興行成績も好調な悪役学級委員長エマは、普段の彼女からは想像もつかないような知的でおしゃまなハイセンス・トークでモノローグを語り始めた。すると番組のレギュラー陣(ほとんどがコメディアンだ)が途中からそのスタンドアップ・トークに面白おかしく乱入して来る。どうやらみんな、今回は観客の中に紛れ込んで「変な人」を演じているみたいだ。
現れたのは病院から抜け出した統合失調症の患者、KKKの格好をした大男、知恵遅れのゼントラーディ人、そして銃(のおもちゃ)を振り回す過激派のテロリスト。よく見れば毎週番組を盛り上げてくれるお馴染みの面々が扮している。彼らにモノローグを邪魔されながら、エマは苦笑いを繰り返しつつも何とかうまくトークタイムを盛り上げる。

「へ〜、やるじゃん。面白いね」

舞台袖で見ていた僕は、エマの器用さに少し感心した。さすがは腐ってもシティ女優。だてに見た目も性格もブスじゃないね。

「なに呑気な事言ってるの。もうすぐミンメイの出番よ」

ぼーっと舞台を見ていたらチーフに耳を引っ張られた。イテテテ、わ、分かってますよもう。抗議の眼差しをチーフに向けようとしたら、後ろから今夜のドンが近づいて来るのが目に映った。総合プロデューサーのローン・マイケルズはゴールドのラメラメジャケットを着ていて、はっきり言って出演者達よりもギラギラと目立っていた。このままステージに出て行ってもおかしくないような派手っぷりだ。
マイケルズは「よう」と片手を上げて挨拶をして来たが、チーフはフンと鼻を鳴らすだけで顔を見ようともしない。多分ミンメイの選曲の件でまだ怒っているんだろう。

「いい加減に機嫌直せよ。まったく女の腐ったみたいな野郎だな」
「今の発言でなおのこと許す気持ちが無くなったわ」
「ミンメイ本人は納得してるんだぜ?周りが勝手に腹立てんのはちょいとお門違いだろうがよ」
「あの子はまだ子供よ。あんな何も分かってない若い娘を利用しようだなんて」
「だから、それがショー・ビジネスってもんだろうが」

マイケルズとチーフの言い争い。この怪物同士の口論は本当にしょっちゅうだ。実は仲が良いんじゃないかとたまに邪推してみたくもなる。…て事は、オカマのチーフは男性が好きな訳だから…いや、やめよう。考えるだに恐ろしい。
僕がとんでもない妄想に身震いしているその横を、ミンメイがするりと通り抜けた。軽やかな足取りで自分のステージへと向かう。僕は慌てて「が、頑張って!」と工夫のない声を掛ける。ミンメイは振り向かずに「ハイハーイ」と片手を挙げてそれに応えた。
チーフとマイケルズもミンメイに気が付く。文句の言い合いを中断して二人はミンメイに注視した。

「ああ心配だわ。あの子ホントに大丈夫かしら」
「母親かよ。いい加減子離れしやがれ」

ホスト役のエマがトークを繰り広げる、そのすぐ隣りの舞台にミンメイが陣取った。予め待機していた楽団も楽器を手に準備万端だ。
今夜のミンメイは黒を基調としたパーティ・ドレスを着ている。背中がざっくりと大きくハイカットされていた。セクシーだけれど落ち着いた雰囲気の衣装にして来たのはやはり選曲の影響だろうか?後でスタイリストのデカ女に聞いてみるとしよう。豊かに膨らむ胸元はウエストをキュッと絞ることでより一層存在感を増している。その上の真っ白なデコルテには大粒のパールがキラキラと照明を反射して綺麗だった。

エマがトークの仕上げに入る。いよいよカメラが切り替えられてミンメイの歌の出番だ。かの「世紀のアイドル」の出演回とあって今夜のアラスカの視聴率は相当なものだろう。僕は覚悟を決めて生唾を飲み込んだ。チラリと視線を走らせれば、チーフはハラハラとハンカチを握りしめ、マイケルズはニヤニヤと笑みを浮かべている。
ディレクターの合図で、カメラのランプが切り替わった。さあ、ミンメイ、君のステージだ!

例のセンセーショナルなホーンセクションが舞台に響き渡り、ミンメイは男に捨てられる女の苦悩を歌い上げる…筈が、僕らの耳に飛び込んで来たのは静かだけれど力強いピアノのイントロだった。

「…アレ?」

僕がおかしいと気が付いたくらいだ。チーフもマイケルズもすぐに気がついただろう。でもこれは全アラスカにLIVE放送中である。今さらどうにも出来やしない。
ミンメイを見れば…彼女はスタンドマイクを握りしめ、僕のまったく知らない歌を歌い始めた。
とても静かな表情で。なのに力強い歌声で。



Ain’t got no home, ain’t got no shoes
Ain’t got no money, ain’t got no class
Ain’t got no skirts, ain’t got no sweaters
Ain’t got no perfume, ain’t got no luck
Ain’t got no fate

Ain’t got no culture, ain’t got no mother
Ain’t got no father, ain’t got no brother
Ain’t got no children, ain’t got no aunts
Ain’t got no uncles, ain’t got no roots
Ain’t got no man

Ain’t got no country, ain’t got no schooling
Ain’t got no friends, ain’t got no nothing
Ain’t got no water, ain’t got no air
Ain’t got no smokes, ain’t got cookie
Ain’t got no

Ain’t got no water, ain’t got no love
Ain’t got no fate, ain’t got no luck
Ain’t got no wine, ain’t got no money
Ain’t got no fate, ain’t got no God
Ain’t got no love

Then what have I got
Why am I alive anyway?
Yeah, what have I got
Nobody can take away

I got my hair, got my head
I got my brains, got my ears
I got my eyes, got my nose
I got my mouth, I got my smile
I got say

I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got laugh
I’ve got healing
I’ve got doing
I’ve got bad times too like you
I got my hair, I got my head
I got my brains, I got my ears
I got my eyes, I got my nose
I got my mouth, I got smile
I got my tongue, I got my chin
I got my neck, I got my boobies
I got my heart, I got my soul
I got my back, I got my sex
I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got freedom
I’ve got life…


私には家もない、靴もない
お金もない、階級もない
スカートもない、セーターもない
香水もない、ツキもない
運命もない

教養もない、母もない
父もない、兄弟もない
子供もない、叔母もない
叔父もない、根もない
男もいない

国もない、学校もない
友達もいない、何もない
水もない、空気もない
煙草もない、お菓子もない
何もない

水もない、愛もない
運命もない、ツキもない
ワインもない、お金もない
運命もない、神様もない
愛もない

それでも、私は何か持ってるんだわ
だって、私はどうやって生きているというの?
そうよ、私は持っているのよ
誰も奪い取れないものを

私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には話せる
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には笑い声がある
私には癒しがある
私には行動がある
私にもあなたたちみたいに悪い時がある
私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には舌がある、顎がある
私には首がある、乳がある
私には心がある、魂がある
私には背骨がある、性がある
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には自由がある
私には命がある…







「え?なにコレ、え?」

愛の名の元には?シュープリームスは??僕の知らない間に何か変更があったんだろうか???
僕はマイケルズを見た。でもマイケルズもビックリして目をまん丸くしていた。あ、この人こんな顔するんだ初めて知った。
マイケルズはその太い指でチーフの肩をガッシと掴む。よく見たら毛むくじゃらの指はシルバーの指輪だらけだ。

「おい、お前の仕業か!」

そう問い詰められて、振り返ったチーフの顔は…やっぱりビックリしてた。

「知らないわ…でもコレって…」

チーフは蒼氷色の目を見開いてた。アラスカTV界にその名を知られる裏方の大物2人は顔を見合わせて一つの名前を呟いた。

「「ニーナ・シモンだ」わ」

これは後でチーフに教えて貰ったんだけれど、そのニーナ・シモンって人はまさに60年代アメリカの公民権運動の真っ只中にいた黒人歌手なんだそうだ。
キング牧師なんかと一緒になってデモ・パレードをしていたらしい。かなり過激な人だったんだけれど、人種差別のなくならないアメリカに失望して結局国を出ていっちゃうんだ。そのさよならライブで歌ったこの曲が、当時の人種差別と戦う人たちのシンボリック・ナンバーになっていたらしい。

ある日突然故郷のアフリカで捕らえられ、奴隷として裸のまま見知らぬ新大陸に連れてこられた黒人たち。その子孫であるアフリカ系アメリカ人の自分たちには「家もない、靴もない、お金もない、国もない、文化もない」と黒人の現実を切々と歌っている。しかしそれでも最後には「私にはこの体が、命がある。それだけは誰にも奪えない」と力強く歌い切るこのナンバー。『Ain't Got No...I've Got Life(何もない…でも私は生きている)』という曲だそうだ。
あまりに皮肉が効きすぎていて、21世紀になってもアメリカ南部の一部の州では放送禁止になっていたらしい。

成る程、マイケルズがやりたい「TVに公民権運動を持ち込みたい」「ミンメイをそのアイコンにしたい」にはピッタリの曲なわけだ。しかし何故…

「何故、ミンメイがこんな曲を知ってるの?」

チーフが僕と同じ疑問を口にする。マイケルズはステージのミンメイを眺めながら渋い顔だ。

「知るか、誰かの入れ知恵だろう」
「いいえ違うわ」

後ろから声を掛けられて、僕らは驚いて振り向く。そこにはブス…じゃない、個性派女優のエマ・ジェファーソンが立っていた。

「彼女、自分でその歌に決めてたわよ。マイケルズがゼントラーディ問題と公民権運動を重ねてるって話を聞いてから、ちゃんと自分で世界の歴史を勉強したのよ」

「え、そうなの?!」

僕はそこに一番ビックリした。あの本を読んだり勉強したりなんてのが何よりも大嫌いなミンメイが…というか、朝から晩まで仕事仕事で寝る間もない毎日なのに、どこに一体そんな時間があったのだろう。
チーフも同じ思いだったらしく、愕然とした顔をしている。そのチーフに向けてエマが短い指を突き出した。

「ボーリゾンさん?でしたっけ?あなたが思っているより、彼女子供じゃないわよ。これからはもっと一人前の女性として扱うことね」

そして腕を組むと、憐れむような小馬鹿にしたような目線をアラスカ一の大物プロデューサーに向ける。

「マイケルズ、あなたも年ね。あんな小娘に出し抜かれるなんて」

「し、しかし撮影は…リハは…」

言いかけてマイケルズはハッとなる。番組のディレクター(監督)は年甲斐もなくミンメイの大ファンだ。一昨日もスタジオに入ったミンメイの手をベタベタと触っていた。彼女がお願いすれば、コロンと簡単に言うことを聞くに違いない。直前に曲目を変えるのなんて、ワガママ娘で名の通ったミンメイにしたら別に珍しい事でも何でもない。

「リハなんてなくても平気よ」

今度は反対側から声がした。いつもの、聞き慣れた声。澄んでいて、それなのにどことなく意志の強さを感じさせる芯の通ったキャンディ・ボイス。

「これでも、プロの歌手なんですからね」

「ミンメイ…」

呆然とマイケルズは呟く。歌い終えたミンメイが、ステージから袖に戻って来ていた。その顔は上気していて、しっかりと任務をやり遂げた女の迫力をじんわりと醸し出している。
頬を赤く充血させてミンメイは微笑んだ。

「話題になれば良いんでしょう?だってショー・ビジネスですもの!」

確かに。こんなドラマティックな曲をリン・ミンメイが歌うとはなかなかに世の人々の関心を買っただろう。くだらないゴシップネタなんか一瞬で吹き飛んだ。
マイケルズが意図していた「ゼントラーディ問題」=「現代の人種差別」という図式を人々に意識させるのにも充分だ。

「急な話で、楽団にはちょっぴり迷惑掛けちゃったけれどね」

そう言ってペロッと舌を出す。そのあまりのキュートなギャップに僕らは言葉も出なかった。

「…負けたよ」

マイケルズはただ一言、静かにそう言って肩をすくめた。




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HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Friday.

ライブ番組には大抵1人の司会者がいる。
サタデー・ナイト・ライブが特徴的なのは、この司会者が毎回変わる事だ。基本的に同じ人が連続して司会者をやる事はない。その週その週ごとに話題の人物がピックアップされゲスト司会者として招かれる。
この司会者はホストと呼ばれ、オープニングのモノローグから登場し、番組の最後まで展開を引っ張っていくのが役割だ。
ホストが毎週変わるので「次週のホストは誰がやるの⁈」と予測するのも視聴者にとっては楽しみの一つになっている。

「音楽ゲストはミンメイでしょ?トークの打ち合わせをまだしてないんだけど」

今週のホストを務めるエマ・ジェファーソンはちょっとブサイクな女の子だ。もちろん本人に面と向かってそう言う度胸は僕には無いが、彼女が女優として人気があるのは決してルックスが良いからではないと神に誓って断言出来る。いや、ある意味ではルックスが要因と言えるのか。

世の中には「ちょいブス」というジャンルがある。その手の嗜好家や同性からはとても人気が高いジャンルだ。スクール物の映画なんかだと必ずクィーンの取り巻きに1人ぐらい混ざっていて、確固たる地位を獲得している。彼女らはブスだからこそポジションを与えられているのだ。それはとても残酷な現実だが、同時に人間社会の懐の深さを表していると言えなくもなくもないこともない。
その「ちょいブス」の代表格たるエマが、ストレートロングの赤毛を指でかき上げながら「ねえミンメイ呼んでちょうだいよ」と僕に偉そうに命令して来た。まるでつい先日出演したばかりの「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の意地悪な学級委員長役そのものだ。ふん、誰がお前みたいな顔面へちゃむくれの言う事を聞くもんか。

「ちょっとあなた、早く呼んで来なさいよ!」
「あ、は、はい」

叱りつけられて、僕は薄暗いスタジオの中を一目散に駆け出した。畜生、負けたんじゃない。あくまでも物事を円滑に進めるための自己犠牲を自ら選んだんだ。ホストとミンメイの仲が悪いと番組もスムーズに行かないものな。

「ダメよ、ミンメイはいま歌のリハーサル中よ」

走り出した僕に鋭く警告が飛ぶ。声を発したのはオカマのチーフマネージャーだった。突然スタジオの暗がりから現れたから、思わず口から心臓が飛び出すかと思った。いや、実はちょっと出たかも。
ギラギラとスタジオの照明を反射するパールホワイトのエナメル靴を翻して、ゴースト・イン・ザ・オカマはエマ・ジェファーソンに正対した。

「エマ、MTGは後にしてちょうだい。ちゃんとスケジュールを貰っている筈よ」

この人の蒼氷色の眼で睨まれたら、言い返せるやつなんかこの世に存在しないと思う。意地悪学級委員長はムッとした顔で「な、なによ」とか言いながら一、二歩後退りした。

「手が空いてるならさっさと終わらせようと見に来ただけよ」
「なら残念でした。ミンメイはこのあとスケッチのリハもあるのよ。あなたとのマッチングはそれが終わってからだわ」
「ふん、ちょっとばかり可愛いからってチヤホヤされちゃってさ」
「『ちょっとばかり』じゃないわ。『とてつもなく』よ」

「もしくは『誰よりも』ね」と付け加えてチーフはまたスッとスタジオの闇の中へと消えた。時たま思うんだけれど、この人はジャパニーズ・ニンジャの末裔かなんかなんじゃないだろうか。

「いい気なもんだわ」

フンッとソバカスだらけの鼻を鳴らして(僕にはブヒッと聞こえたのだが彼女の名誉のためにそうは書かない)エマはパイプ椅子に腰掛けた。短い腕を伸ばし、ミンメイのために用意されていたテーブルのお菓子をバリボリと貪り喰らい始める。あれ、帰らないのかな。もしかして暇なのかしら。

「気が利かないわね。お茶は?!」
「あ、はい、ただいま」

僕はすぐ隣りのケータリングスペースに飛び込みローズヒップティーをカップに注ぐ。エマに手渡すと、お礼も言わずにグビグビと飲みだした。ローズヒップには女性を美しくする効果があるらしい。願わくばほんの少しでもその効果が彼女に現れてくれたら(容姿よりも心の方に)世の中平和になるかも知れない。
無力なローズヒップティーを飲み下したエマがゲフッと下品な音をたてるのとほぼ同時に、ただッ広いスタジオにセンセーショナルなホーンセクションが響き渡った。僕とエマはピクッと反応してステージの方に目を向ける。ステージには…スキニーデニムにクロップドTシャツという簡単な格好のミンメイが立っていた。
彼女がマイクを口元に持ち上げるのが遠くに見える。


Stop! In the name of love
Before you break my heart

Baby, baby I'm aware of where you go
Each time you leave my door
I watch you walk down the street
Knowing your other love you'll meet
But this time before you run to her
Leaving me alone and hurt
After I've been good to you
After I've been sweet to you


行かないで、愛の名のもとに
私の心を引き裂く前に

ねえあなた、私わかってるのよ
あなたがドアを出て行くたびに
通りを去り行くあなたを見ていたから
私とは違う愛を求めて会いに行くのを知っているの
でもあの人の処へ向かう前に
私の身も心も引き裂いて、一人ぼっちにしていくのね
あんなに尽くしてあげたその後に
あんなに甘く癒やしてあげたその後に



「何よコレ。もしかして振られてメソメソしてるってわけ?」

伸びやかな歌声に身を浸し、遠目に歌うミンメイを眺めていたら、背後のエマが鼻で笑うのが聞こえた。僕は思わずムッとなって振り返る。

「ほ、ホントはこの曲を歌うはずじゃ無かったんだ!」
「でも明日はこれを歌うんでしょう?」
「う、うん、多分…」
「じゃあそうなんじゃない」

ニヤニヤと笑うエマが憎らしくて、僕は地団駄を踏みたかった。

「どうせマイケルズ辺りが言い出したんでしょう。ミンメイのゴシップならネットニュースでみんな知ってるわ。明日はTVの前で全員ミンメイの歌でお涙ちょうだいって寸法ね」

エマの物言いはとてつもなくムカついたけれど、全部事実で一言も言い返せない。ミンメイが軍のパイロットとのスキャンダルをすっぱ抜かれてから大分経つけれど、彼女がその傷から回復していないのは身近にいる僕らにはよく分かっていた。だからこそ、それを視聴率に利用しようとする業界人の目論見には余計に腹が立つ。

「ミンメイはそんな弱い女の子じゃないよ!自分で歌うって言ったんだ。求められたら歌うのがショー・ビジネスだってね!」

僕はエヘンと胸を張った。エマは呆れたような顔になる。

「ならミンメイも自分のゴシップを利用するのを認めたって事じゃない。TV屋連中と同じ穴のムジナだわ。人生の切り売りお疲れ様」

あ、あれ?そう、なるのかな??
僕のぽか〜んとした顔がよほど変だったのか、エマはゲ〜と舌を出すとパイプ椅子から立ち上がった。そして「お茶アリガト。マズかったわ」と捨て台詞を吐いて去って行く。一体この子は何しにここへ来たんだろう。まさかミンメイの歌を聞きに来た訳でもあるまいし。
畜生、二度と来るなと僕は聞こえないよう小さな声で呟いた。するとエマが立ち止まったので心臓が止まりそうになる。いや、実はちょっと止まったかも。

エマはステージの方を振り返った。薄暗いスタジオの隅で、遠くステージからの照明に淡く浮かび上がったエマの顔はどこか悲しそうに見えた。

ブスはブスなりにいい表情をするな。僕はこの時そう思った。



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iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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