初めましてのご挨拶 びえり

皆様初めまして
本稿をお読み頂きありがとうございます。

30年前の作品である初代マクロスが大好きで、思い付きでSSブログを始めてしまいました「びえり」と申します。


続きを読む

スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

MCC -17-

「ありゃ、こんな時間か」

左手首にかかる細身の腕時計を見て、ユアン・アイフェイは一人呟いた。まもなく午前9時になろうとしている。今日という一日の始まりの時間だ。
ユアンはコーヒーの紙カップを飲み干してトラッシュカンに放り投げると、人混みを避けるように足早に通路を歩き始める。

まつ毛の長い瞳を上げる。ふとセンター正面に見えるビッグウィンドゥへ視線を移せば、青灰色の空と黒い雲海…そしてその向こうに、ほんのりと薄オレンジ色の光が見て取れた。

冬のアラスカは一日中暗い雲が厚く立ち込めていて、眩しい太陽を拝める機会はかなり稀だ。
しかし今、雲海に浮かぶ僅かな光を捉え、人々は「久し振りに朝日が拝めるかも」と小さな希望に胸を膨らませている。

荒れていた天候も大分収まって来たようだ。ここは地表から800メートルの高さにあり、下層域に広がる雨雲を突き抜けてしまっているので良く分からないが、下界で吹き荒れていた猛吹雪はようやく止んだらしい。
ウィンドウの向こうに広がるのは落ち着きを取り戻した雲の平原と静かな青灰色の空。そこに生まれた小さな小さな日の光とが渾然一体となって、まるで創世記の夜明けのような色彩に世界は包まれている。


世界の中心、マクロス指令センター。通称MCC(macross military command center)。かつて宇宙を飛翔した超時空要塞マクロスの頭部に位置し、1秒刻みで地球上のあらゆる情報が集まる総合オペレーションセンターである。
北米をはじめ、人類の空の安全を一手に担っている。今日もどこかで何かが起きていて、センターでは24時間体制で不眠不休の臨戦体制が敷かれていた。

眼下に広がる灰色の雲海を眺めながら、ユアンは幾分閑散としたMCCのセンターフロアを歩いて行く。
今日はお気に入りのライトブルーのパンプスを履いて来た。朝のTV占いでは「七月生まれのあなた、今日のラッキーカラーはブルー!」と言っていた。
特に占いを信じる方では無かったが、今朝はなんとなくゲンを担ぎたい気分である。何しろ、自分のいない間に職場では大変な事件があったのだから。

巻き込まれなくて良かったとホッとする想いと、顔見知りが犠牲になっているかも知れないという不安とが、今まさにその現場を歩いているユアンを交互に襲っている。
見渡せば、明らかに事件のものと思われる痕跡があちこちに見受けられた。
中にはまだ清掃も終わっていない、生々しく赤黒い血痕まで残っている。そういえば空気もどことなく火薬の臭いが混じっているような気さえした。空調設備は正常な筈だから、気のせいなのかも知れないけれど。

人死にが出ているからだろうか。いつになくピリピリと荒んだホールの雰囲気に、ユアンとしてもどうしても過敏になってしまう。

いつもの指令センターの風景にまったく馴染んでいない黄色いKEEP OUTテープを横目に見ながら、早足に進んで行く。
見たこともない重武装の警備兵達があちこちに屯していて、通り過ぎるユアンをチラチラと眺めやった。その間を幾分緊張しながら抜けて行くと、なんとも予想外の顔がユアンを待っていたのである。

戦術航空管制のオペレーターシートでは、昨夕挨拶して別れた筈のブルーアイズが、顰めっ面でインカムの向こうの相手とやり合っていた。

「いえ、ですからレッド1はNE-4のチャクラム中隊と一緒に…いえ、ブルーリーダーはSWなのでまったくの逆方向からの進入になりますから同行はダメです…そうです、はい、いやだから勝手な進路を取らないでくださいってば!」

特徴的な濃いターコイズブルーの瞳をした、整った小顔の女性士官。緩いウェーブスタイルの金髪を怒りに震わせて、どこかのパイロットと押し問答している。
ユアンの親友レイチェル・クック少尉だ。

ユアンはあれ?と眉根を寄せる。彼女は昨日の夜間勤務(17時〜25時)を担当していた筈だが、25時からの深夜勤務(25時〜9時)と交代しなかったのだろうか?

「いいえ、それだとNEが手薄に…は?マックスと一緒がいい?だってあなた中隊長でしょ⁈自分の部隊への責任は…ハロー?もしも〜し!もしも〜し!!」

呼び掛けは虚しくこだまする。
レイチェルは相手の反応がないと分かると、小さな拳で力一杯スチール製のコンソールを叩いた。バンと弾むような音が響いて、周囲のスタッフ達が驚いて視線をそちらに向ける。
ユアンは苦笑しながらレイチェルに近付き、そっと怒りに震える肩へ手を添えた。

「Morning sister!ま〜たミリア・ジーナス中尉に振り回されてるの?」

「ええ!またよまた!!あのイチャイチャ女…ああ、おはようユアン」

頭から湯気を立てていたレイチェルが、ユアンに気が付いてハッと我に返った。んっんっと咳払いすると、オペレーターチェアに座ったまま親友とハグする。
直後に微妙な表情になって「私、匂わない?」と小さな声で聞いて来た。

「別に?いつものフレグランスはしないみたいだけど」

「シャワーを浴びる暇も無かったのよ。昨夜何があったか聞いた?」

ゲッソリとした表情のレイチェルの問いに、ユアンは頷く。

「聞いたわ、酷い事件ね。…あなたが無事で何よりよ。っていうか深夜勤と交代しなかったの?」

レイチェルは背もたれに身体を預け、細く長い脚を伸ばして膝で組んだ。口をへの字に曲げて肩をすくめる。

「昨夜の風雪で、交代勤務が事故って来れなかったのよ。お蔭で16時間働きっ放しな上に、人生初の銃撃戦に巻き込まれたわ。まさにFeels like so shit today!(最悪の一日よ!)」

レイチェルはベーッと舌を出す。
普段はお茶目で可愛らしいレイチェルが珍しく毒づくのを見て、ユアンは思わず笑ってしまった。

「ちょっと、笑い事じゃないのよ」

「アハハ、ごめんごめん」

ユアンは笑いながら、もう一度親友を抱き締めた。そして追い出すようにレイチェルをオペレーターシートから押し出すと、代わりにそこへ腰掛ける。
強化繊維で編み上げられたシンプルで機能的な椅子。独特の低反発がお尻にうまくフィットする。
親友から手渡されたインカムを装着し、どこかの空域管制でのやり取りが漏れ聞こえて来ると、「お仕事モード」のスイッチが入る。
ユアンは右手を伸ばし、コンソールの液晶画面に五指を触れて指紋照合した。補佐AIが「Welcome,Yuan」といつも通りに迎えてくれる。

「Hi,ボーイ。今日もよろしくね」

ユアンは液晶画面にウィンクした。補佐AIはレッドアラートでそれに応える。

「はいはい、今日の駄々っ子ちゃん第一号ね」

ユアンは素早くコンソールに指を走らせた。オペレーターの交代を認識した補佐AIが、自動的に画面右端へ12時間以内に起きた出来事をリストアップ表示して行く。それに視線を走らせながら、ユアンは発生したアラートへの対処に取り掛かる。

「コーヒー持って来るわ」

青い目のレイチェルがユアンの肩を叩く。ユアンは目線だけで「ありがとう」とお礼を言った。
頷いて顔を上げたレイチェルが、その時初めて気が付いて嬉しそうな声を上げる。

「太陽が出てる…!」

その言葉に周りのオペレーター達も反応する。皆、正面のビッグウィンドゥに目を向けた。
ユアンもつられて顔を上げる。その目には、灰色の雲海から昇り来る眩い太陽の光が映し出された。
実に数週間ぶりの太陽だ。冬のアラスカの厳しい気候の中で、久方ぶりに目にした強烈な恒星の光線は人々の目に強く焼き付いた。
誰もが言葉を失くして、しばしの間オレンジに燃える雲海のかなたに魅入っていた。

「…陽はまた昇る、か」

ユアンの呟きに、特に意味はなかった。ただふと浮かんだ言葉をそのまま口にしただけだった。でもレイチェルは深く頷いた。

「そうよ。どんな事があったって、毎日は続いて行くんですもの。夜は明けて、また朝が始まる。世界はずっとその繰り返しよ」

何気ないレイチェルの言葉に、ユアンはなにか心の奥底を揺さぶられるような感慨を覚える。
何てことはない、古臭いありふれた文句。しかし何故だろう。一瞬、まるで何かを諭されたかのような気持ちになる。


この小さな私達の世界には色んな朝がやって来て、辛い事も悲しい事も全て終わりがある事を教えてくれる。
明けない夜はない。いつしか朝は必ずやって来るのだ。


太陽を拝むのがあまりに久し振りだからだろうか。来光に霞む視界をゴシゴシと指で擦ると、ユアンは再び視線をコンソールのモニターに落とした。
気持ちを入れ直そう。今日の仕事はまだ始まったばかりだ。

「Blue reader, MCC,Contact onogi Control on 103.9」

ほんの瞬きの間を置いて、再び喧騒に包まれるMCC。
新しい一日の始まりに、ユアン・アイフェイは明るく元気に声を張り上げた。


忙しいMCCの1日が、今日も始まる。





MCC おわり


テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

MCC -16-

AKST(Alaska Standard Time:アラスカ標準時間)午前8時。
未だ陽の昇らない真っ暗な窓の外を眺めながら、アンナ・スビトナヤ少尉は深々とため息を吐いた。

ここはマクロスの中腹、総務部人事会計課のオフィスである。月末の兵士向け給与計算で大わらわのため、いつもより1時間早く出勤したアンナを待っていたのは、マクロスの頭脳とも呼べるMCCが襲撃されたという前代未聞の事件報告だった。

窓辺から視線をデスクに落とすと、そこには死傷者のリストが並べられている。この事件の犠牲者達だ。
これから保険課と掛け合って、死傷者には遺族に対する給付金の審査を、負傷者には軍が負担する入院費の査定を行わなくてはならない。
この月末のクソ忙しい最中に、まったくとんでもない話だ。

「どうせ事件を起こすなら月初にやれよクソが」

たびたび”言葉遣いの悪さ”を指摘されるアンナ・スビトナヤ少尉は、その下馬評通りの口の悪さで現在の心境を吐き捨てた。
薄いペールイエローの金髪をショートカットボブに切り揃え、細い銀ブチの眼鏡をクイッと人差し指で押し上げる。
レンズの下で光る細く切れ長の双眸は、目付きの鋭さから「いつも睨んでいるみたいで怖い」と陰で囁かれているのをよく耳にする。虹彩の色が“くすんだ灰色”である事も、その評判に一役買っている要因であると思われた。

28歳のロシア人は、全体的にモノトーンが配色された薄暗い絵画のような印象の女性だった。戦前はカタブツな銀行員だった彼女は、生まれて来た時に「面白味」という言葉を母親の胎内に置き忘れてしまったのだと言われている。入隊後、その経歴から当たり前のようにお金を扱う部署へと配属になり、本人曰く「世界一面白味のない部署」に勤務している。
アンナは言う。そもそもお金とは個人や組織の信用を数字で表したものである。目には見えない「信用」という概念を、誰にでも分かりやすく換算してあげた物が貨幣制度なのだ。まれに「人の命をお金で計るな」と批難する者がいるが、それは価値基準を正しく理解していないだけである。


デスクにズラリと並べられたリストから、アンナは手前にあった一枚の資料を適当に手に取る。実に関心も無さそうにペラペラと中身をめくった。
それは死亡した女性士官の経歴書で、表紙には黒インクでデカデカと『Dead』のハンコが押されている。

「26歳か。人生なんて分からないもんね」

アンナは下品にもピューと口笛を吹く。この経歴書、見れば見る程エリートの経歴だ。国立防衛学校から士官学校卒、そして移民艦の幹部候補生。相当優秀な人物だったのだろう。

「その子生きてるわ」

不意に掛けられた声に視線を向けると、会計課のフロアをズンズンとこちらへ歩いて来る巨大な雪だるまがいた。
周りのスタッフ達が驚きながら雪だるまに道を譲る。アンナは冷めた目でその雪だるま…の格好をした着ぐるみの女性、ジョージィー・バディール少尉を眺めやった。

「あんたのその格好については特に何も聞かないわ、説明もいらない」

「来週の戦災孤児院の慰問用よ。衣装合わせの途中に呼び出されたの。これ、一回脱ぐとまた着るのに10分くらいかかるのよね」

アンナの断りを無視して話し出したジョージィー・バディール少尉は、人事部保険課の人間だ。ブルキナファソ出身で、特別にメラニン色素が濃い、漆黒の肌を持つ影のようなネグロイド女性である。
確か同い年だと記憶していたが、“モノトーンの女”アンナと圧倒的に違うのは、その「脳みそが抜け落ちてるんじゃないか」と思わず足元を探してしまうほどの陽気なキャラクター性だった。

「メンドくさいからこのままでいいでしょ。あ、コーヒー貰える?」

「…なんでスノーマンなのよ」

「私、ディビッド・ボウイ大好きなの!あ、お砂糖入れないでね」

手近にいた男性下士官に注文を付けて、巨大な雪だるまはドッカとデスクに腰掛けた。丸々とした真っ白なシルエットがアンナの視界を無遠慮に占領する。

「黒人が雪だるまとか、配色ミスだろ」

「ん?なんか言った?」

「いえ別に」

アンナは口笛を吹いて誤魔化す。ジョージィーは紙カップのコーヒーを受け取ると男性下士官に「ありがとう」とウィンクした。雪だるまの着ぐるみのままなので色気のカケラもない。

「で、生きてるってこのブロンド女?」

アンナは「Dead」のハンコが押された資料をヒラヒラとさせる。ジョージィーはコーヒーを一口含み「アチチ」と感想を漏らしてから頷いた。

「ええ、そう。さっき一命を取り留めたってホスピスから。MCCのレイヤード補佐官がくれぐれもよろしくって」

「はいはい、そりゃめでてぇこって」

「それがそうでもないのよ」

保険課のジョージィー・バディール少尉は眉根を寄せた。両手の平を天井に向けてみせるが、何しろ雪だるまなので何をしても格好が決まらない。

「その子、今度の移民艦の航宙士なのよ」

「そうみたいね、資料に書いてあった。そら補佐官様も気にするわな」

「多分さっき膵臓とか腎臓とか摘出しちゃってるからもう乗れないわ」

「…あ〜、そう」

口の悪いロシア人もさすがに言葉を失くす。一瞬、色んな想いが頭の中をグルグルと駆け巡った。
本人は意識を取り戻したらどう思うだろう。命が助かって神に感謝するか、もしくは自分の現状に対して絶望するか。
にしても…

「エラい額の損失だわ」

「そうなのよ〜」

雪だるまは額に手を当てて天を仰いだ。何をやってもよく分からない丸っこい生き物にしか見えない。
中身の本体はスリムでモデル体型のセクシーネグロイドなのに、着ぐるみの存在が全てを帳消しにしてしまう。

「生き残った場合、障害者だと死ぬまで傷病保険を払い続けなきゃならないわ。腎摘だと透析も必要だし、かなりの額ね」

「そんなのはどうでもいい。こいつ一人を育成するのに一体軍がいくら払ったと思ってるんだ」

ブルキナファソ人の嘆きをロシア人の不満が鼻息で吹き飛ばす。

「教育費だけじゃないぞ。毎日の衣食住から人件費、プログラムコストやシミュレータ費用まで。コーヒー一杯飲むのだってタダじゃないんだ。専門職の航宙士一人作ろうと思ったら、戦闘機一機作るより何倍も金が掛かってるんだぞ」

人情のカケラもないカネの話が、会計課と保険課の間で繰り広げられる。近くで聞いている数人が思わず顔を見合わせた。

「そんなもんなんでしょうか」

思わず口を挟んだのは、先ほど雪だるまにコーヒーを持ってきてくれた男性下士官だった。今度は”モノトーン女”アンナにコーヒーの紙カップを渡す。アンナはお礼も言わずに受け取った。

「人間一人が頑張って成果を出して、みんな毎日必死に生き抜いているのに。それをデータの上の数字だけで判断して、ましてお金がどうこうって」

モノトーン女と雪だるまは同時に男性下士官を見やった。確かに普通の人の感覚はそういうものなのかも知れない。しかしそれは、目の前のあやふやな日常という”かすみ”に視界を奪われているからだ。

「あら、別に卑下してる訳じゃないのよ」

雪だるまはにこやかな笑顔で両手を広げた。もう深夜TVのコメディショーにしか見えない。

「私たちは現実のお話をしているの。限りあるリソースをどう活用するかは社会全体の問題だわ。それと感情論は別の問題よ」

「でも人の命に値段は付けられません」

「付けられるよ。お前さんなんかせいぜい10万ドルだな」

アンナは嫌味な笑いを浮かべる。男性下士官は少しだけムッとした顔をした。

「あんたタバコは吸うかい?」
「す、吸います」
「なら他の人より早死にするね」
「そんなの分かりませんよ!」
「統計上の仮説よ、か・せ・つ」
「あんたがタバコ吸って早死にすると政府が儲かるんだ。この儲けが命の値段って訳さ」

男性下士官は意味がわからないといった顔をした。アンナは童話に出てくる意地悪いおばあさんのような笑いを浮かべる。

「あんたがタバコ吸って病気になれば、若いうちは医療費が掛かる。これは政府の損失だ。でも統計通り早死にすれば老後の医療費は払わなくて住む。年金も浮く。オマケにタバコ税も入る。これでチャリンチャリンとお釣りが来るって寸法だ」

雪だるまは顎に手を当ててため息を吐いてみせた。

「人間、生産者世代を過ぎると生きてるだけで金食い虫なのよね〜」

アンナが男性下士官を指差す。

「まあ今の若いあんたなら、働いてる限りは黒字だけどね。今はね」

「その黒字度合いを金額に算出するの。社会そのものの富の割り合いに比例するんだから、別に変じゃないでしょう?」

雪だるまは明るくニッコリと笑う。異様な雰囲気の2人に畳み掛けるように迫られて、男性下士官は言葉を詰まらせた。
そしてアンナはいつも通りの言葉を紡ぐ。

「命に値段を付けてるんじゃない。その人間の信用を数字で測ってるんだ。算出する金額は、その人間の行いそのものなんだよ」

「そ、そんなの、功利主義の言い分じゃないですか」

「功利主義は経済学の母だろう。世の中の有り様を否定したいなら政治家にでもなんな」

アンナはシッシッと犬を追い払うような仕草をした。男性下士官は納得できないといった顔でその場を後にする。

「もうちょっと優しく諭してあげればいいのに」

雪だるまことジョージィー・バディール少尉はヤレヤレといった顔で笑った。アンナは軽く鼻を鳴らすだけだ。

「…でも、まあ」

アンナ・スビトナヤ少尉は紙カップのコーヒーを一気に飲み下すと、再び手にした資料を見下ろした。
高画質で印刷されたエリート士官の顔写真は笑っていた。ブロンド巻き毛のセクシーないい女だった。

「生きてて良かったわね、この子」

「そうね」

雪だるまは微笑んだ。こんな素直じゃないところもアンナの実に可愛いところだ。
アンナは窓の外を眺める。8時を過ぎても空はまだ青黒かった。
アラスカの厳しい冬の朝は、まだ暖かな陽の光を拝むのには早過ぎるようだった。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

MCC -15-

「こりゃあ酷い」

そのフロアに一歩踏み入れた瞬間、ルシオ・ナバス特別捜査官はむせ返るような血の匂いに顔をしかめた。

ここは新統合軍の中枢、マクロス指令センター。通称MCC。
世界中のありとあらゆる情報がかき集められ、24時間体制で地球上の新統合軍を指揮統率する現代のヴァルハラである。
普段であれば、部外者のナバスなどが絶対に足を踏み入れる事など出来ない機密だらけのシークレット・ゾーンだった。

「で、そのMCCを襲撃した理由ってのは何なんだ?」

ナバスは長尺のマグライトを片手に、照明が半分落ちて薄暗くなった通路を歩きながら呟いた。
ルシオ・ナバスは軍務省の人間だ。マクロス・シティ犯罪捜査局(Macross City Criminal Investigative Service)に所属する特別捜査官である。
軍人ではなく、身分としては文官に当たる。シビリアンコントロールの思想の元、軍は政府によって統率されている。慣習通りであればそれは現場においても通用する筈であった。
だが実際には、現場に築かれた両者を隔てる壁の高さは想像以上の物があったのである。

大事件の一報を聞くや否や、寒さも厳しい冬の早朝に、ナバスは部下を引き連れていち早く現場へと飛び込んだ。仕事熱心なナバスは、いかに現場に早く到着するかがその後の捜査の鍵を握る事を良く心得ていたのだ。
午前7時のマクロス指令センター。しかしその場はすでに軍警察である憲兵隊が群れを成して支配しており、当局側の介入にあからさまな難色を示して来た。

「ここから先は軍の最高機密エリアです。軍属以外の立ち入りはご遠慮願いたい」

事件直後のMCC。そこでナバスら部外者の前に立ちはだかったのは、痩せこけてちょび髭を生やした背の低い憲兵隊長だった。その貧相な顔立ちは、ネズミなどの下品なげっ歯類を想起させる。

「その軍事機密とやらが事件の原因かも知れん。初動捜査の邪魔はせんでもらおう」

ナバスは譲歩を迫ったが、仲間を大勢引き連れたネズミ男は強気の態度で一歩も引き下がらなかった。その場で両者は真っ向から対立する。

数を頼みに行く手を阻む憲兵隊。
令状を手に通せと迫る捜査官達。

「我々は正規の手続きでここに来たのだ!見ろ、書類もある!」

憤慨しながら捜査令状を突き出すナバス。犯罪捜査局長のハンコも付いた正式な書類だ。ここに来る途中に、寝ている局長を叩き起こして無理やり押させた物である。
しかしネズミ男はフンと鼻を鳴らして流し目に見やるだけだった。「そりゃ結構ですな」とチョビ髭をいじるまでで、手に取って確認しようとすらしない。

ナバスは「正式な手続きで抗議するぞ」と脅すが、ネズミ男は「官庁からの苦情は広報部を通して統合参謀本部へどうぞ」と軽く受け流すだけだ。
その後ものらりくらりと話の論点をズラしながら、なかなかナバスらを通そうとしない。

「貴様では話にならん、上の者を出せ」
「上の者とは具体的に誰のことでしょう」
「知るか!基地司令官でも誰でもいい!」
「ではお呼び立てするので、しばしお待ち頂けますかな。そのまま、この場所で」

そう言って、憲兵の一人を使いに出した。しかしいつまで経っても使いの者は帰って来ない。誰も連絡を取ろうと携帯電話を手に取る気配もない。
「早く呼び出せ!」とナバスは怒鳴るが「やれやれ、ラティーノは気が短い」と鼻で息を吐くだけだ。その余裕の態度がまたこちらの神経を逆撫でる。

いかにも憲兵らしい、イヤらしい性格をした相手だった。会話の中に時たま折り混ぜられるネチネチとした嫌味がまた憎らしく、相手を煽るやり口には熟練した職人らしささえ感じられる。
ある種、人を不快にさせる天賦の才能なのかも知れない。その芸術的とも言えるネチッこさは、側で見ていただけならナバスも思わず感心してポンと手の一つも叩きたくなる代物だった。

しかしこれでは捜査がまったく進まない。ナバスは周りにも聞こえるくらい大きな音で舌打ちした。
こいつら憲兵どもの魂胆などハナから分かっている。奴らはただ、自分達のメンツに拘っているだけだ。この現場を自分たちの主導で、我が物顔で仕切りたいだけなのだ。

しかしこちらは天下の軍務省の役人である。憲兵ごときの言うことをイチイチ聞いてやる道理などない。
痺れを切らしたナバスは無理やりにでも現場へ押し入ろうとするが、憲兵隊はアリのように大群で固まり数で対抗して動かない。

苛立ちのあまり声を荒げる場面も増えてきた。いい加減そろそろ我慢の限界だと拳を握り締めたナバスだったが、その時「センター長が来ました!」というMCCスタッフの声がその場の全員の耳を捉えた。
ナバスら捜査官も憲兵達も声のした方へ一斉に振り向く。

「早瀬中佐が入られます!」

その掛け声がホールに響くと、周りの兵士達は直立不動となり敬礼の姿勢を取った。
略式の敬礼は腕を使わない。まっすぐ直立し、斜め上方を見上げるだけだ。

掛け声のあと、すぐにエレベーターホールからその一団は現れた。
空色のオペレーター服に囲まれて、真っ白な生地にエメラルドグリーンのラインが走る高級士官服を来た女性が先頭を歩いて来る。

その場の空気が変わった事を、ナバスはハッキリと感じ取った。周囲の兵士に軽く緊張が走るのが見て取れる。
道を塞いでいた憲兵達が、波が引くようにサァーッと居なくなった。それにつられてナバスら捜査官達も通路の端へと身を寄せる。

その目の前を、まるでモーゼが海を割ったかのように堂々と女性士官は歩いて行った。スラリと細いシルエット、薄い腰付き、姿勢良く伸びた背中、ツンと突き出した形の良い胸、そして艶やかに流れるライトブラウンのロングヘアー。

すれ違う瞬間、チラリと女性士官がこちらを見た。目が合って、ナバスは思わずゴクリと唾を飲み込む。
とても澄んだ、綺麗な翡翠色の瞳をしていた。東洋人か、キルギス辺りの大陸人だろうか?さっきセンター長が来たと言っていたが、こんな若い女性がこの指令センターの責任者なのだろうか。

それはほんの一瞬の邂逅だった。去り際に、女性士官が小声で「この人達はなに?」と隣りのオペレーター服に聞くのを、ナバスの耳は聞き逃さなかった。
しかし女性士官の凛々しい迫力に気圧されてしまい、名乗り出るタイミングを逸してしまう。取り巻きのオペレーター達は「さぁ?」と気のない返事を返しただけだった。

そのまま、一行は足早にMCC内へと消えて行った。それを呆然とただ見送るナバス達。
ふと我に帰ると、女性士官らの通った跡には誰も立っていない。それ今だとばかりにナバスは通路を駆け出した。部下の捜査官たちも一斉に後へ続く。
虚を突かれた憲兵達は、ナバスらのMCCへの進入を許してしまった。慌てて追い掛けるが後の祭りだ。
振り返れば、例のネズミ男は少し離れた所でこちらを眺めていた。不機嫌そうに腕を組んで口をへの字に曲げている。ナバスはこれ見よがしに手を振ってやったが、相手からの返事は無かった。

揉み合う捜査官と憲兵の間を抜けながら、ナバスは未だ血生臭い事件現場へとようやく足を踏み入れる。そこでは、事件直後でもノンストップで活動しているMCCスタッフ達が必死の形相で行き来していた。

案内を頼もうにも、とてもそんな雰囲気ではない。思案にくれる特別捜査官は、ふと何かの書類を踏んづけている事に気が付いた。拾い上げてみると、それはベッタリと血糊の付いたプリントの束だった。
書類の表紙には『GCCに関する調査報告書』とある。報告者の署名は『A.A』となっていた。

「何だこりゃ?」

きっと憲兵らの言うところの「軍機」の一端なのだろう。ナバスはよく分からない書類を、手近なコンソールの上へと放り投げる。

「ナバス特別捜査官、こちらの方がフロア責任者だそうです」

部下に呼ばれてナバスはそちらへ顔を向ける。部下が連れて来たのは、これも若い女性だった。チーノ(中国人)か南アジア人だろうか?ショートカットの黒髪で、少しボーイッシュな雰囲気の女性士官である。
先ほどのセンター長といい、このフロア責任者といい、軍の中枢である筈のMCCのチーフ格がこんな若い娘ばかりで良いのだろうか。

「セクション統括のキャビロフ中尉です」

若い娘は敬礼を寄越した。文官であるナバスは胸に手を当ててそれに応える。

「MCCIS(Macross City Criminal Investigative Service マクロス・シティ犯罪捜査局)のナバス特別捜査官です。こんなクソ忙しい中大変申し訳ないのだが、聞き取り調査のご協力をお願い出来ますか」

「勿論です。あちらへどうぞ」

幾分青ざめた顔をしたキャビロフ中尉は管制コンソールのエリアを指し示した。その指先が少し震えているのに気が付いて、ナバスは神妙な面持ちとなる。


そうだよな、いくら統括だか中尉殿だかでも、こんなに若い娘だもんな


可哀想に、とまで言うのは軍人さんには失礼だろうか。そんな事を考えながら歩き出そうとしたナバスだが、ふとある事に気付く。
つい先ほどその辺に放り投げた、血糊のついた書類が見当たらない。どこかに落ちたのだろうか?それとも、このほんの数十秒の間に誰かが持ち去った?

「どうなさいました?」

キョロキョロしているナバスを不審に思って、キャビロフ中尉が声を掛ける。とてもチャーミングな顔立ちの娘だった。軍人なんかで無ければ、気分を落ち着けるためにお茶のひとつも誘いたいくらいだ。

「いえ、別に」

ナバスはかぶりを振って歩き出した。取るに足らない事案はこの際どうでもいい。今は事件の捜査に集中しなくては。


この後、事件の捜査を通じてルシオ・ナバス特別捜査官はキム・キャビロフ中尉と親しくなり、何度かデートに誘う事に成功する。
が、お互い仕事も忙しく、古典趣味のナバスと流行り物好きのキムとではすれ違う事も多かった。
結局、程なくして振られてしまった様である。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

~もしもシリーズ~

持っていた短機関銃を護衛の兵士に渡し、輝はセット裏を元いた反対側に走る。ボーリゾンが後に続いた。

「ボリ、これが終わったら酒を飲みに行こう」
「あら、あんたから誘うだなんて珍しいわね」
「昔話がしたくなったんだ。フォッカー先輩のこと、忘れちゃ可哀想だろ?」

ボーリゾンは驚いた顔になる。血で固まった輝の癖っ毛を見て、静かに頷いた。

「…そうね、たまにはいいわね。死んだ男を酒の肴に」
「あの世でも飲んでそうだよな」
「間違いないわ、あの呑んだくれ」

2人は顔を見合わせて笑った。

『いのちの選択を 後編』




もしもこんな事があったらシリーズ!
お遊びで、かのmichyさんがこんなの書いてくださいました!
michyさんありがとうございます~(´。✪ω✪。`)



~もしも輝ちゃんがボーリゾンと酒を飲みに行っていたら~

あたしがフォッカー隊長が好きだったのは知っているでしょ?
はじめはね、イイ男がいるからあわよくば…って思ったの
ほら、私みたいな性癖って、相手を探すには、まずは同じ性癖ってのが条件じゃない?
彼はストレートでしょ、でも、それでも愛してるって思えたの、そんな事があったのよ

スカル隊のみんなで飲んでる時、ちょっと二人になったの

その時に、ちょっと言ってみたの

私みたいなのでも、好き?って。

そしたらね、彼ったらガハハって笑って、こう言ったの

「俺は女が好きだがなー…まあ、お前も悪くない」

当然、本心じゃないって解ったわ
でもね、彼は私を傷つけないように、そう言ったの、それが彼の私への愛だって、解ったの

私ったらね、もう乙女みたいにキラキラした気持ちになって、もうチンコがどうとか関係なくって、ただキラキラして、ドキドキしたの…
あんな気持ち、初めてだったわ


borisannkirakira.jpg
※おっさんです


あの男は、本当に優しい男だった
ただ、女の所で死んだのは、余分だったけどね





TEXT and PICTURE
Presented by michy大先生

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR