『悪魔の船 希望の星』 目次

過激化してゆくメガロード反対運動。人類に希望があるのは宙(そら)か大地か。

輝と未沙は月を目指す。



  1 悪魔の船

  2 時間を少し遡って、暦は春4月

  3 「先輩、早瀬さん。今日はありがとうございます」

  4 いまやトレードマークのサングラスを中指で押し上げて

  5 「アポロに行く事になりそうなの」

  6 久し振りのマクロス司令部。

  7 広報部のリン・チーリン中尉は、

  8 新統合軍、広報部。

  9 久し振りのシティを、輝は歩いて行く。

 10 早瀬未沙の現在の正式な肩書きは、

 11 忙しいのは間違いない

 12 移民庁を出る時

 13 シティの流行発信地、シュヴァンニュアベニュー。

 14 「輝」

 15 その日、未沙は珍しく日の沈む前に帰ってきた。

 16 一晩寝て、輝は懺悔の念と共に目を覚ました。

 17 電話は、広報のリン・チーリンからだった。

 18 ホアン先生!

 19 未沙は、翌日の記者会見に向けた原稿のチェックをしていた。

 20 その日の午後、未沙はマクロス司令部に来ていた。

 21 未沙の反応が鈍かったので、

 22 4月10日

 23 早瀬未沙艦長 所信表明

 24 早瀬未沙艦長の会見の間

 25 早瀬未沙艦長の会見の翌日。

 26 暗い瞳で歩いて行く輝を見つけて

 27 オーテック・ミリタリーインダストリー

 28 「君はもっと世間知らずかと思っていたよ」

 29 女性秘書を加えた4人は、

 30 VF-4は、

 31 実に半年ぶりのパイロットスーツだ。

 32 新統合政府の星間移民計画の発表は、

 33 これ以上は特に新しい情報も無さそうだ

 34 また行方不明になってしまったホアン老人を探しに

 35 ホアン老人はすぐ見つかった。

 36 シャワーと着替えだけに寄ったホテルから

 37 午後は内閣府での打ち合わせがある為

 38 マクロス・レイクにほど近いシティの南側。

 39 移民庁政務次官にして、新造艦メガロード艦長の早瀬未沙大佐

 40 「それはなかなか通りませんなぁ」

 41 「どういう事なんでしょう」

 42 ゼントラーディ大女のティテムは

 43 カイフンがその場についた時

 44 「アラスカに行こうと思います」

 45 いまや時の人であるメガロード艦長の襲撃事件に

 46 グローバル総司令とクローディアが病室を訪れたのは

 47 星間移民計画の発表は

 48 シャミー・ミリオムの日記(3月24日〜4月20日の抜粋)

 49 「彼は有望そうかね」

 50 「悪魔の船 希望の星」 校了にあてて




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悪魔の船

アラスカの夏は短い。

生命の繁殖期であるこの貴重な季節に、再生プログラムによって繁殖に成功したたくさんの虫達が、交尾相手を求めて命の限り鳴き狂う。
残り少ない時間を惜しむかの様に、悪天候にも関わらず日没後は求愛のオーケストラが真っ盛りだ。


そんな蒸し暑い夜の帳の中で、容赦なく大粒の雨が人々の顔を叩いていた。
それでも、人々の熱気を冷ますにはまだ足りない。多くの者は、むしろその暗黒の空からの攻撃に立ち向かうかの様に、夏の雨に顔を上げて瞳に炎を灯す。

彼らの視線の先には、1人の長髪の男が立っていた。
壇上でマイクを握る男は、真っ白なスーツを雨でずぶ濡れにしながら、闇の中、幾つものライトに照らし出されている。


『この地球には、かつて100億を越える人類がいた』

スピーカーの大音量は、虫達の生命の営みをもかき消した。

『しかしいま、この星に住んでいる人々は200万人に過ぎない。
かつての5,000分の1の人口だ。
何故、人類はこれほどまで絶滅の危機に晒されねばならなかったのか』

男の言葉は熱を含んでいて、聴衆達にある種の期待と狂気を抱かせてくれる。

『我が同胞のほとんどは、家族を、恋人を、息子を、娘を、父を、母を、友人を、兄妹を、あの宇宙戦争によって失った。
にも関わらず、政府はこの地球の現状を顧みず再び宇宙へ飛び立とうとしている。
貴方達は、自分の息子や娘に再び宇宙戦争の恐怖を、苦しみを、悲しみや辛さを味あわせて、それで平気だと言うのか』

怒りのエネルギーがうねりとなって周囲を暴れまわる。
許せない、とんでも無いと怒号が上がった。
男は壇上から人々を見渡す。

『武力が必要な時代もあるだろう。それは否定しない。
だが、我々には平和に生きてゆく権利がある。
砲弾を掻い潜り、死の恐怖と隣り合わせの生活ではなく、愛する人と手を取り合い、暖かな食事と広い寝床で眠る日常を過ごす、ごく普通の人として生きる権利が。
人間が、人間らしく、人間として生きて行く権利が』

大勢が拳を振り上げ、賛同の雄叫びがこだまする。人々の声の重なりは大地をも震わせ、草陰の音楽家達は我先にと姿をくらませた。

『いずれ人類は気がつくだろう。
宇宙船を作るよりも、汚れた水源を浄化することの方が、何倍も大切だという事を。
いずれ人類は思い知るだろう。
戦闘機を量産するよりも、荒れた大地を癒し、田畑を取り戻す事の方が何十倍も子供たちを救えるのだという事を』

男の声は雄々しく、人々の間をよく通った。雨に濡れた体からは白い湯気が立ち昇り、彼の熱意を証明しているかの様だ。

『何故いま、また天罰を受けるべく宙(そら)へ上がろうと言うのか。
彼らは飢える世間を見ようとはせず、自分達の利権にしか興味がない。一部の人間だけが裕福な生活を送り、金のかかるオモチャをいじって遊んでいる。
そんな私欲にまみれた政府や軍部の高官達に、人類の未来を託していいと言うのか、いいや良くない!』

男が左手を振り上げた。
真っ直ぐ伸びた指先には、分厚い雨雲に見え隠れする赤い月が不気味に輝いている。

『あの月に、悪魔の船がいる!
飢える子供達から食料を取り上げ、病気で死んでゆく赤子達に届くはずだった薬を溜め込んで宇宙に冒険しに行くという。
そんなふざけた話を、死んだ子供を胸に抱いた母親の前で説明出来るのか⁉︎
私は許せない!
政府を!軍隊を!あの宇宙船を!』

聴衆の興奮が頂点に達した。
鬱屈した不平不満が、彼らの背中を後押しする。
貧しい戦後の食料事情、頻発するゼントラーディ人の暴動、減らない犯罪、低迷する経済。
復活の兆しが見えない今の生活に、多くの人々が怒りの捌け口を求めていた。
そして、その矛先を教えてくれる男がそこにいた。
怒りは、希望に転化した。

『今こそ我々は立ち上がらなくてはならない!
この星の為、愛する者の為、そして生まれてくる子供達の為に!
為政者を倒し、真に平和を実現するために、あの悪魔の船を葬ろうではないか!!』

男は拳で天を突く。濡れた長髪が水滴を散らして跳ねた。
口からは、炎のように熱い言葉。

『宇宙船に死を!星に安らぎと平穏を!』

その叫びに、聴衆が歓声で応えた。

宇宙船に死を!
星に安らぎと平穏を!
宇宙船に死を!
星に安らぎと平穏を!
宇宙船に死を!
星に安らぎと平穏を!


黒い雨雲に厚く覆われた夜空に、いつまでもいつまでも人々の声が響き渡っていた。


アラスカ、7月の出来事である。




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時間を少し遡って、暦は春4月

「早くしてくれよ、置いてっちまうぞ」

呆れた声で、一条輝はポーチから家の中へ声を掛けた。
木造の、クラシックなコテージ風の建物。その奥からは、かすかに生返事が帰ってくる。輝は肩をすくめて黒檀の杖で木の床を叩いた。

「まったく、女ってのはこれだよ」

どことなくぎこちない歩き方で、門へと続くアプローチを進んでゆく。左手に握られたステッキが石畳にカツッカツッと音を立てた。

細身のブラックジャケットに、白いカットソー。柔らかな色合いのブルージーンズが春らしさを感じさせる。足元のコンバーススニーカーは程よいヌケ感を与えてくれた。

新統合空軍の一条輝准佐。
21歳になった癖っ毛の青年は、もうじき結婚を控えている。
お相手は司令部でも名の知れたエリート士官で、彼よりも上官だ。
若手の兵士を中心に、隠れファンクラブがある程の有名人だが、輝にとっては普通の女の子だった。
ちょっとだけ、キツくて怖い処があるが。いや、ほんのちょっとだけ。


アラスカも4月となれば、一年で最高の季節がもうじきやって来る。この北国に、遅い春が訪れるのだ。
陽射しも日に日に強くなってゆく。どんよりとした、アラスカの灰色の空に慣れてしまった輝には眩しすぎるくらいにいい天気だった。

サングラス越しに、青空を見上げる。遠くにバルキリーの編隊が飛んで行った。あれはどこの部隊だろうか。最近は、新しいチームが増えて顔の知らないパイロットばかりになってしまった。


しばらく戦闘機に乗っていない輝としては、少しだけ胸の奥にジリジリとした焦燥感を味わう。自分の時計だけが止まっている、この感覚。
いつ、また再びあの大空へ飛び立てるのだろう。このまま地面で一生を終えてしまうのではないだろうか。そんな不安と戦いながら、最近の輝は日々を過ごしている。

目元の傷跡を隠す為と、視力が完全に回復していない左目の保護の為に、輝はいつも外出時にはサングラスが手放せなかった。
「早く治したければ言うことを聞きなさい」と医者にも脅されていた。仕方なくむず痒さを我慢している。

左脚も完治とは言い難い。バランスが取りづらいので、ステッキをついている。黒檀の細身の杖。
杖頭には、鈍く光る小さな黄金の髑髏。元スカル中隊のメンバーから贈られた物だ。
輝のフィアンセは「悪趣味よ」と嫌がったが、彼は気に入っていた。自分がまだ、スカルナンバーの一員なのだという小さな証拠を貰えたような気がしていたから。


ゆっくりとステッキをついて、輝は門前で待ちくたびれた様子のタクシーまでやって来た。

「悪いね、待たせて」

タクシーの運転手は、先ほどの輝と同様に肩をすくめた。

「奥方様は、どこも一緒ですわ」
「そんなものかい」

輝が苦笑すると、石畳を叩くハイヒールの音が後ろに聞こえて来る。運転手が軽く会釈した。

「月に行く準備でもしてるのかと思ったよ」

振り返った輝の憎まれ口に、フィアンセは口先を尖らせた。

「女には色々と準備があるのよ。もっと気を使っていただきたいものだわ」

春の陽の下に現れた彼女。
スナップボタンのロングテーラードジャケットを纏っている。明るめの紺色に、白いシャツが覗くと上品な印象だ。タイトパンツはライトグレーで落ち着き、足元は白いハイヒール。
左の薬指には、キラリと光るプラチナリングが輝く。自慢の長い髪は花柄のシュシュで軽くまとめられていた。

…かわいい。それだけは否定出来ない。

そう思ったが、顔には出さずに「はいはい」と答えて輝はタクシーの後部座席へ彼女をエスコートする。

「今日は膝は痛まない?」
「平気さ、天気がいい日はね」

輝は左脚を上げて見せる。

昨年のヴァーミリオン作戦で、奇跡の生還を果たした一条輝准佐は、いまだ半年前の傷が癒えずにいた。そのせいで、愛機のVF-1Sはプロメテウスのハンガーの奥に眠ったままだ。他のバルキリー達は、とっくに郊外の新しい空軍基地へと移り、元気に大空を飛び回っているというのに。
まるで置いてけぼりの気分だ。輝は悟られない程度に小さくため息を吐くと、ゆっくりと彼女に続いてタクシーの座席に収まった。

「じゃあ、行こうか未沙」
「行きましょうか、輝」

2人は微笑みあう。
それを合図に、タクシーはゆっくりと田舎道を走り出した。




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「先輩、早瀬さん。今日はありがとうございます」

「先輩、早瀬さん。今日はありがとうございます」

マックスは笑顔で2人を出迎えた。
柔らかなオーバーハンドのニットシャツが、彼の物腰柔らかな性格を表している様だ。
輝と、次いで未沙と握手を交わす。

「具合良さそうですね」
「ああ、今すぐにでも飛べるぜ。誰かさんが止めたりしなければ」

わざとらしく、まるで未沙に聞かせるかの様に輝は高めに声を上げた。
しかし、彼のフィアンセはまったく同意のつもりは無いらしい。

「ダメよ、ドクターのOKが出るまでは。
せめてその眼が回復してからにしてちょうだい」

新統合軍の早瀬未沙大佐は、部下の嫌味にも涼しい顔だ。
さすが「氷の姫」と陰でアダ名されるだけの事はある。負け惜しみに小声で毒づく輝の肩を叩いて、マックスは「敵いませんよ、白旗にしましょう」と囁いて2人を奥へ案内した。


今日はゼントラーディ人パイロット、ミリア・ファリーナ・ジーナスの誕生日だ。

オープンテラスのガーデン型リストランテを貸し切って、気の知れた仲間だけが集う楽しいパーティー。早咲きの真っ赤な薔薇が庭の茂みに咲き誇り、芳しい香りで辺りを包んでいる。
本来なら、ゼントラーディ人には誕生日というものが無い。言うなれば製造日とでも言うのだろうが、誰も自分がいつ造られたのかなどという事を覚えてはいなかった。
また、惑星の公転周期が個々に異なる宇宙では地球と暦が違う。地球の公転期間である1年を365日で数える習慣は、ミリアはマックスに教えて貰った。

あれは誰の誕生日だったか。バースデーパーティーの席で、マックスはミリアにも誕生日祝いをしてあげたいと輝に相談を持ちかけて来た。
ケガ人の隣りに付き添っていた未沙が、マックスの横にちょこんと座るミリアに好きな数字を聞いてみた。

「7だ。ラッキーセブンというらしい。マックスに教えて貰った」

なら、直近の4月7日にお祝いしましょう。未沙の提案で、今日のパーティーが決まった。ミリアは生まれて、いや造られて初めての自分のバースデーパーティーに、珍しくソワソワと落ち着かない様子でみんなの周りをウロウロしている。
彼女のイメージカラーであるビビッドレッドのカーディガンがとても目立つ。ライトグリーンの長髪がよく映えた。

「かなり興奮してます。朝からずっとあんなです」

輝に説明するマックスも、顔がニヤけて嬉しそうだ。シティの高級住宅街の中にあるこの贅沢なまでに緑に囲まれた空間へ、次々と花やプレゼントの包みを持って顔見知り達が現れた。

「コミリアちゃん、大きくなったわね」

未沙が4歳になったコミリアの緑色の頭を撫でる。可愛がって育てられているコミリアは、そうされるのが好きなのを未沙はもう知っていた。

「みさおねぇちゃんこんにちは!」
「お、コミリア、デカくなったな」
「…こんちは、ひかるおじちゃん」

子供は美人には愛想がいい。未沙には懐くコミリアだが、輝には鼻もかけなかった。
仏頂面の輝を笑うマックス。

「お前、可愛がり過ぎて躾が上手くいってないんじゃないのか?」
「照れてるんですよ。先輩はいつも可愛い子にモテるから」

軽い揶揄が含まれている事に気付いて、輝はマックスの肩を小突いた。

「先輩のとこはいつなんです?結婚式は夏のうちに?」

マックスの質問に、輝は未沙に視線を走らせた。
シャミーとコミリアが同レベルで言い争いをしているのを、面白そうに笑って見ている。

「出来ればそうしたいな」
「じゃあ準備急がないと。地球でお式、挙げてくれるんでしょう?」

マックスも未沙を見た。

「私も見たいですよ、早瀬さんの花嫁姿」
「…そうだな」

仲間との会話が弾んで、未沙は楽しそうだ。彼女の笑顔がとても可愛らしい。

対照的に輝は、今の自分の境遇に情けなさを感じていて、ちょっとだけ表情に暗い影を落としていた。
普段は鬱陶しいはずのサングラスが、そんな彼の救いだった。




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いまやトレードマークのサングラスを中指で押し上げて、

いまやトレードマークのサングラスを中指で押し上げて、輝はソファの背もたれに身を投げ出した。
パーティーにやって来た面々を見渡す。知っている顔ばかりで、ここはとても居心地が良かった。

輝はヴァーミリオン作戦での功績により階級を1つ上げた。未沙と同じ佐官の扱いだ。
だが現在、実務からは完全に遠ざかっている。
負傷の癒えない身体。終わったはずのミンメイとのスキャンダル報道。作戦内容を表沙汰にしたくない軍上層部による関係者の隔離と口止め。
パイロットチームは副長だった松木が正式に隊長となり、新たな所属先も決まらないまま、輝はいま新統合空軍において何の役職も無い宙ぶらりんの状態だった。

「静養して、早く治してくれたまえ」

とは聞こえのいい話だが、色々とほとぼりが冷めるまで大人しくしていろという事なのだろう。
輝は自分の立場が、何かとても脆弱な薄氷の上に立たされているかの様な不安に襲われていた。


あの戦いに勝って、作戦を成功に導き、生きて帰ってきた。
それで万々歳の筈だった。しかし、戻ってきたら自分の居場所は無くなっていた。いま輝はシティの外れ、計画的自然化地域の中にある別荘で寝て起きての生活を送っている。

未沙は、輝と暮らす為にわざわざ毎日ヘリでシティの中心街まで飛んでいる。何もそこまでしなくてもと思ったが、自分の身体を想ってくれての事であるのは明白だ。

「大佐になって、ワガママ言いやすくなったのよ」

冗談めかして言う彼女が愛おしい。自分などより、何倍も大人の彼女。


早瀬未沙は、星間移民船の艦長を公式に拝命した。同時に大佐に昇進。現在は指令センターを離れ、政府の民生省移民庁に出向している。

未沙ももはや只の軍人ではない、軍官僚の仲間入りだ。人類の行く末を背負う覚悟と、煌めく将来。
今の自分とは真逆に光り輝く彼女の姿を、輝は眩しそうに見つめている。


「どうしたの?一条君」

声を掛けてきたのはクローディアだった。輝は「いえ、別に」とサングラスを深く掛け直す。

「お酒もういいんでしょう?作ってあげるわ」

クローディアは輝の隣りに座ると、バーボンウィスキーをグラスに注ぎ、ソーダ水で割ってあげる。その慣れた手つきに見惚れていると、クローディアがライムを切りながら輝に語りかけてきた。

「未沙がね、指輪をしてるじゃない?」

クローディアがライムの種を掬う。輝の前にペーパーコースターを添えて差し出した。

「仕事中にね、時たま指輪を見つめてるの。ピアスさえした事無かったあの子が、嬉しそうにね。
あなたに貰った指輪、本当に大切なのね」

輝は黙ってグラスに手を伸ばす。軽くあおるつもりだったが、一気に飲み干してしまった。
クローディアが口笛を鳴らす。

「今のあなたの状況は気の毒だとは思うけれど、時間が全て解決するわ。だって生きているんですもの」

クローディアの言葉は、グサリと輝のハートに突き刺さる。思い浮かぶのは、陽気で頼り甲斐のある大男の日焼けした笑顔。

「それまで、あの子の気持ちをいつも忘れないでいてあげてね」

クローディアは輝から空のグラスを取り上げると、またバーボンウィスキーのボトルに手を伸ばした。
「酔い潰す気じゃないですよね」と軽口を叩く輝に、クローディアは「10年早いわ」と楽しそうに笑った。




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びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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