『赤い星のメモリー』 目次

過激化してゆくメガロード反対運動。人類に希望があるのは宙(そら)か大地か。

月から見える火星。



早瀬未沙
新統合軍大佐。人類初の星間移民艦メガロード艦長。一条輝というフィアンセが地球にいる。通称“鬼より怖い大佐”。本章の主人公。23歳。

ライバー・フォン・フリューリンク
未沙の初恋の人。8年前に火星から帰る途中を襲撃され死亡。

クライス・アルトナー
ライバーにそっくりな容姿のドイツ人青年。新統合政府経済産業省参事官。現在は宇宙事業団に出向中で、月面アポロ基地に赴任している。28歳。

オドンネル中将
アポロ基地司令官。アフリカ系アメリカ人。亡くなった未沙の父の部下だった。温厚で老齢な人物。

ウルリッヒ・アイヒンガー
初代アポロ基地司令官。反乱軍「デァモント」の総帥。不気味な老人。

ビル・ベケット中佐
アポロ基地警備部長。アイルランド系アメリカ人。自由と奔放を愛する男。つまり適当。45歳。

副官
ベケットの副官。役立たずな上司を盛り立てる影の功労者。

ディエゴ・コスタ大尉
メガロード航宙士。血の気の多い闊達なメキシカン。38歳。

ラジュシュ・ネール中佐
メガロードの作戦参謀。熱心なヒンドゥー。戦場の経験が豊富な頼れる人物。

コートニー・ソーンスミス少尉
メガロードの戦略情報処理課の情報士官。混乱とトラブルを愛するお騒がせ女。趣味は昼メロ。26歳。

サニ・スリワイ少尉
メガロードのトップフロア補佐官。陽気なインドネシア人。イスラム教徒だが戒律は緩い。パーティ大好き。26歳。

スニール・シェティー中尉
アポロ防宙隊バルキリーパイロット。コートニーにベタ惚れのインド人。28歳。

早瀬輝(あきら)
未沙の従兄。元新統合軍アビントン空軍基地司令官。ゼントラーディ人を連れた地球外逃亡計画を企て失敗。現在は生死不明。33歳。


  1 1969年7月20日

  2 我々にとって、アポロとは

  3 地球からの連絡シャトルが

  4 シャトルがアポロ基地へと入る際

  5 月面に設営された、統合軍アポロ基地。

  6 マクロスと同レベルのメガロード

  7 この度、メガロードの艦長を拝命しました、早瀬未沙です。

  8 現在のアポロ基地の司令官は、

  9 アポロ着任の翌日

 10 「言いませんでしたっけ?今年から宇宙事業団にいるって」

 11 翌日の未沙は、やはり忙しく

 12 「遅れてすみません」

 13 居住区の民間コロニーの中で

 14 メガロードのシミュレーション訓練が開始される。

 15 新造艦メガロードの第一回全体起動シミュレーションは

 16 勤務中だが、コートニー・ソーンスミス少尉は

 17 早瀬艦長の歓迎会は

 18 後になって関係者から話を聞くと

 19 スワダニ軍曹は

 20 艦内の見取り図をモニターに出させる。

 21 侵入者の一団は

 22 未沙は侵入者を相手に

 23 隔離壁を解放する事に成功した侵入者達は

 24 「しかし、凄ぇ事考える艦長だな」

 25 ブリッヂが被弾した場合

 26 メガロード艦内のエアごと

 27 アポロ基地は人類世界で1番安全な基地だ。

 28 ベケット中佐(の副官)が率いる警備班の登場

 29 地上の無知で蒙昧な統合政府

 30 制圧されたのは

 31 「なんで不機嫌なんだよ」

 32 アポロ基地の兵士で

 33 「会談の申し入れ?」

 34 未沙は着替えていた。

 35 未沙と同じくらい、アルトナーの方も驚いていた。

 36 席を外していた早瀬艦長がブリッヂに戻って来た。

 37 両陣営の会談は、アポロ標準時間20:00に始まった。

 38 未沙は混乱していた。

 39 「我が甥は火星からの帰り道で死んだ」

 40 メガロードから来た3人は

 41 どうやら反乱軍は

 42 医務室の前にも兵士がいた。

 43 「艦長、こっちです!」

 44 「き、貴様…」

 45 「ウチの艦長って結構ぶっ飛んでますよね」

 46 未沙、コスタ、ベケットの3人は

 47 宇宙公団事務局は銃撃戦の真っ只中だった。

 48 銃声は上のフロアからだった。

 49 宇宙公団事務局の屋上。

 50 未沙はその瞬間を見た。

 51 暗い部屋の中には1人の老人がいた。

 52 「月の老人は失敗した様です」

 53 クライス・アルトナーの日記 (8月15日〜4月17日の抜粋)

 54 「…そういう訳で、地球との通信が出来なかったの」

 55 「赤い星のメモリー」 校了にあてて




スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

1969年7月20日

1969年7月20日
人類は初めて、地球以外の星にその足跡を刻んだ。

太陽系第三惑星第一衛星「月」。
太陽系において5番目に大きなその衛星は、古来より地上の人々にとって神秘の星だった。
兎が餅をつき、耽美な姫が舞い踊り、巨大な蟹がハサミを振り上げ、獅子が吠える。
その、未知の領域を既知へと変えるべく、サターンVロケットに乗ってケネディ宇宙センターを飛び立ったアポロ11号は、約4日間の旅の後、月周回軌道に到達する。

北米ロックウェル社により開発されたアポロ司令船から、グラマン社により製作された月着陸船が切り離され、月面へと降下を開始した。途中、目標地点を外れるトラブルなどもあったが、アームストロング船長を中心とした訓練されたクルー達の活躍により無事月面へと着陸に成功する。

「That's one small step for a man, one giant leap for mankind.(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である)」

有名な、アームストロング船長の言葉だ。彼らは粉っぽい月の地表に降り立ち、深々と堆積した砂の上に自らの足跡を記した。



それから約40年。
月は今、かつての人々が想像出来ないレベルでの大規模開発が進んでいる。
異星人によって持ち込まれたOTM(オーバーテクノロジーオブマクロス)による現生人類の枠組みを超えた技術が、飛躍的な発展を月にもたらした。現在、月面には5つのコロニーを有する軍事基地「アポロ」が、地球に居るのと何ら変わりのない生活を人々に提供している。

その数、ざっと5万人。もはやひとつの都市機構だ。

軍属と、その家族が暮らすコロニー居住区。宇宙船の出入りがある宇宙港区。基地司令部の置かれた司令区。軍事兵器の研究・開発・製造までを担う兵廠区の4つからなるアポロベースは、地球防衛の最前線基地としてその役割りを担っている。

そして、それらの区を結ぶ中央のセントラルポートでは、全長2km超にも及ぶ巨大な宇宙船がその姿を横たえていた。

SDF-2 メガロード

人類の夢と希望を乗せて銀河の彼方へと飛び立つ日を待っているその長大な雄姿は、あまりに大き過ぎて端から端までを1度にその視界に捉える事は困難だった。
特殊カーボンとコバルトのハイブリッドボディは静かに冷たくその時を待ちわび、銀色に輝くシルエットは深い山並みを思わせた。


人類初の星間移民船として生を受けたこの船が、今日ここまでの姿にたどり着くのには様々な歴史と因縁が存在した。
この船の艦長としてまもなく赴任する早瀬未沙が、その全てを知ることは無いだろう。彼女にとって、メガロードとは過去ではなく未来であり、昨日ではなく明日の存在だった。

地球で暮らす多くの人々と、メガロードと共にアポロ基地に住まう人々。

月は、彼ら全ての想いを飲み込んでただ静かに輝き続ける。


波乱はここから始まる。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

我々にとって、アポロとは

「我々にとって、アポロとは即ちバビロンであった。永遠に完成しないバベルの塔そのものと言っても過言ではない」

後に、オーテック会長ベン・チャップリン氏は著書の中でそう語っている。
マクロスの原型となった監察軍の宇宙戦艦が南アタリア島に墜落した4年後、2003年にアポロ基地は建造が開始された。当時盛んだったOTM(オーバーテクノロジーオブマクロス)の研究成果が遺憾なく発揮された新しい軍事計画として、人類の期待を背負ってスタートした最先端の宇宙事業だ。

アラスカのグランドキャノン構想、SDF-1マクロスの建造、そして月面アポロ基地という三種の神器は、この2年前に発足したばかりの地球統合政府の威信をかけた地球防衛計画の柱だった。


初代アポロ基地司令官はアイヒンガー中将で、鷲鼻の白人男性だった。
彼は苛烈な性格で知られ、まだ厳しい環境にあった月面基地においてその辣腕を振るい、優れた規律と強固な精神を併せ持つ独特の価値観を備えた軍隊組織を作り上げる。
ところが、これが地球の統合軍首脳陣に問題視され、アイヒンガー中将は解任されてしまう。まだ、反統合軍との戦いの記憶が新しい時代に、私設軍隊ばりの偏った指向性を持った組織は強く警戒されていたのだ。しかし、この歴史をアポロは以後何度となく繰り返す事となる。

2代目の基地司令官は老齢な黒人男性のオドンネル少将となった。
統合戦争の英雄早瀬提督の右腕の1人であり、統合政府の意向を色濃く含んだ人物である。
彼はアイヒンガー時代の幕僚を粗略にせず重用し、前任者のやり方を否定する事もなく特別な改革を行わなかった為、アポロ基地の面々には歓迎された。しかし年齢のせいか体調不良を起こして退任する事となる。噂では、アイヒンガー更迭の報復に一部の過激派が一服盛ったのだとも言われていた。

3代目の基地司令官が問題だった。
南アジア人女性のアム=パチャラパー・チャイチュア准将は34歳のバリバリのキャリアだが、実戦経験はない官僚タイプだった。
彼女は着任の挨拶で「間違った思想に染められた月面基地を矯正しに来ました」と言い放ち、鼻白む幕僚達を次々に更迭してゆく。
一種ヒステリックな性質のあったチャイチュア准将は、歯向かう者に容赦しなかった。自分に協力的だった兵士を中心に親衛隊を組織し、次々と「反政府狩り」を開始したのである。月面基地は恐怖と沈黙が支配する中世の宗教強権時代に逆戻りした。

多くの兵士が独房で獄死するに至り、堪え兼ねた数人の有志による地球への告発も、通信関連を完全に押さえた親衛隊によって阻止され、永遠に口を封じられた。

チャイチュア准将は2年間、月の女王として君臨したが、その地位はあっさり崩れ去る。地球から新たな司令官が赴任して来て、女王は全ての権限を剥奪された。
軍人ではなく、民間による密告だった。アポロは自身の増築と共にメガロードの建造も進めており、多くの軍需企業が出入りしていた。その中で、チャイチュア准将に取引指名を取り消された企業の仕業だと言われている。

月の女王は地上に引きずり落とされ、全ての悪行を弾劾され終身刑となった。彼女の親衛隊も裁かれたが、逮捕された者は幸せだ。憲兵の網の目を溢れた小物達は、月面基地の兵士達によって私刑にあい、ことごとく姿を消した。

4代目のチャオ准将は中国人男性で、頻発するアポロでの問題を調査する目的でやって来た。
何故、こうもトラブルが頻発するのか。この閉塞された空間が人に与える影響とは何なのか。
特別チームを連れて乗り込んだチャオ准将の調査報告を見た地球の統合軍首脳部は閉口する。基地の兵士の実に80%以上が、精神に何らかのストレス的問題を抱えていると言うのだ。現行の体制を維持するのにあまりに不利なその数字は、基本的には見なかった事にされた。その上で、長期的な改革案が提示され、アポロは当初の予定より遥かに規模を拡大して巨大化してゆく。アポロの建築開始から11年の歳月を経た現在も、月面における人類の最前線基地は増築を続けていた。


「凄いわね」

上級士官のみが閲覧可能なアポロの歴史を見ていた早瀬未沙は、月に向かうシャトルの中で呟いた。
ここまでのアポロ基地の歴史を振り返り、この月面が決して地上と同じでは無く、特殊な環境下にある事は推測が出来た。
しかし、メガロードを年末までに発進可能に仕上げる為には、今後アポロ基地での調整は欠かせない。未沙は、果たして自分が「アポロ派閥」と呼ばれる月の人々にどの様に接するべきか頭を悩ませていた。

フィアンセの口ぐせが頭に蘇る。

「何事も、やってみなけりゃ分からないさ」

そうね、と左の薬指に輝く指輪に話しかけ、未沙は瞳を閉じた。
お互い、同じ人間なのだ。異星人であるゼントラーディ人ともうまくやっている自分達が、人同士で理解し合えないとは思えない。
きっと今後もうまく行くだろう。

未沙はシートを倒し、ごく短時間の眠りについた。目が覚める頃には月周回軌道だろう。ほんの小一時間ほどの休息だが、ここのところ心労の重なった未沙にはありがたいタイムラグだった。


シャトルは間も無くアポロ基地からの通信で着陸コースへと入って行く。
月は相変わらず静かに輝いていた。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

地球からの連絡シャトルが

地球からの連絡シャトルがスペースポートに到着したのは、アポロ時間の18:00ピッタリだった。

シャトルのキャプテンは予定時刻をキッチリ守る男だ。いつもの安定した航行に、ベケット中佐は敬意を持って定期便を出迎えた。


今日は、新統合軍アポロ基地所属ビル・ベケットの誕生日だった。今年で45歳になる。家では妻と娘がささやかなバースデーパーティーの準備をしている頃だろう。出来れば仕事を早く切り上げて居住区へと帰りたかったが、こんな日に限って地球からVIP客がこのアポロを訪れるという。

いま、世界中で注目を集めるそのスーパーVIP。SDF-2 メガロード艦長となる人物。人類初の星間移民計画の直接責任者だ。

あの演説を、ベケットも見た。
録画VTRの彼女はなんとも凛々しい女性だった。
噂では相当な鬼軍曹らしい。マクロス乗艦時代は、彼女の逆鱗に触れて何人も営倉送りや降格処分になったという話を聞いた。
このアポロまで来て好き勝手はさせないつもりだが、若いながらも相手は上官だ。変に絡まれない事を祈る方が無難だろうか。


ポートに固定されたシャトルから、乗員がステップに降り始めた。間も無く乗客が降ろされる。ベケットは息を飲んだ。年甲斐もなく手に汗をかいている。

第一声は何と言おう。フランクによろしく大佐か?いやもっと丁寧に早瀬大佐殿の方が良いだろうか。
どうでもいい事をベケットが考えていると、エアハッチが開いて地球からの乗客が降りて来る。

科学者、観光客、エンジニア、軍人、ジャーナリスト、ビジネスマン、納品業者。地球人、ゼントラーディ人入り混じって100名近い連絡便の利用客がステップいっぱいに広がった。
みなワイワイガヤガヤ足早に隔離扉の向こうに消えてゆく。
ベケットは作り笑いを浮かべて人の波を見送った。観光客の家族の子供が手を振ってくる。うちの子にもあんな頃があった…そんな風に考えながら手を振り返す。

…が、お目当の女傑の姿が無い。

乗客はみな行ってしまった。遂にキャプテンとコパイロットが降りて来て、整備士がシャトルに群がり始める。
ベケットは隣りにいる副官と顔を見合わせた。もしかして見落としたか?いえ、自分は見ていません。だよなあ、便を間違えたか?

携帯を取り出してスケジュールを確認しようとしたその時。
最後の乗客が乗員を掻き分けて降りてきた。何やら電話で話をしている。

「いいえ、リマ区画のレーダーサイト設置は必ず期限に間に合わせてください。翌日から防空隊との合同演習が組まれています。人手不足?それをやりくりするのがあなたの仕事なんじゃない?」

厳然と言い放つその声色に、ベケットは彼女の影のアダ名を思い出した。


「The scary than demon Colonel (鬼より怖い大佐)」


…地球から来た兵士は、演説する彼女のVTRを前に確かそう言っていた。ベケットの手のひらに汗がじっとりと滲む。

「タイムスケジュールは3ヶ月前から確認していたのでしょう?泣き言は聞きたくないわ、結果だけ報告して頂戴」

それだけ言うと電話を切った。
白い軍服の襟元に、大佐の階級章。険しい眼差しと、澄んだ声。

聞いたところでは、士官学校首席の卒業だという。23歳で、軍属27年目のベケットの上官。ふと、目が合う。

「ほ、は、早瀬大佐!ようこそアポロ基地へ!」

敬礼する指先が、緊張で震える。自分の人生の半分しか生きていない小娘を前に、ベケット中佐は直立不動の姿勢を崩せなかった。

「出迎え、ありがとうございます。メガロードの早瀬です」

敬礼を返すメガロード艦長。
あの映像の通りにキリリと凛々しいその姿勢を見て、ベケットは堅苦しさを覚えた。どちらかと言うと自由と奔放を愛する自分としては、出来れば一緒に仕事はしたくないタイプだ。月面に到着と同時に、スケジュールの詰問の電話をするような23歳とは。

「ア、アポロ基地警備部長のベケット中佐であります!」

最初の出会いはインパクト絶大だったよ。後に、ベケット中佐は回想の中でそう語っている。


「これから一カ月、よろしくお願いしますね」

23歳の華やかな笑顔も、それを堪能するだけの余裕がベケットにはまだ無かった。





テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

シャトルがアポロ基地へと入る際

シャトルがアポロ基地へと入る際、未沙はまだうたた寝の中にいた。軽い意識の中で、誰かの視線を感じる。

なんとなく緊張して、未沙は目を覚ました。長い睫毛を瞬かせ、ゆっくりと視線を漂わせる。

新統合軍大佐にしてメガロード艦長である早瀬未沙が居たのは、いわゆるファーストクラスに分類されるVIPフロアで、未沙の他に乗客は居ないはずだった。しかし、空席の一番後ろ、通常の乗客スペースへと繋がる扉の隣りの席に人影がある。

全身黒いスーツを着ている。頭には黒いポーラーハット。俯き気味に、両手で杖を掴んで座っていた。
その表情はここからは窺い知れなかったが、鷲のように尖った鼻が印象的だった。かなり高齢に見える。

地球を出発する時は居なかった筈だ。途中で紛れ込んでしまったのだろうか。


まあ、そのうち乗員が見つけて声を掛けるだろう。未沙はVIP用のシートに身を預け、窓の外を眺めた。眼下に広がる月の原野は灰色だ。地上から夜空を見上げる美しい月とは大違いだった。


ふと、視線を上げると大宇宙に浮かぶ星々の中で一つだけ未沙の目を惹き付ける星があった。
赤く滲んでいる。とても小さく見えるが、実際にはとてつもなく大きいはず。

あの星は何だろう。航宙士としての知識を持ち合わせない未沙には分からなかったが、どこか懐かしい感じがした。じっと見つめていると、頭の上から声がする。

「火星がお好きですか」

驚いて顔を上げる。未沙の頭のすぐ上に、鷲鼻の老人の乾いた顔があった。

「あ、いえ」

未沙は体を引いて距離を取る。老人は暗い目で赤い星を指差した。

「火星は争いの星です。太古から死と災厄を振りまいてきた」

死んだ魚の様な、もしくは深い洞窟の暗がりのような目が未沙を捉えた。未沙は我知らず身震いする。

「しかし、誇り高き戦士の星でもある。あそこには沢山の戦って死んだ者達の魂が眠っているのです」

底知れぬ闇に引きずり込まれそうになり、未沙は全身に力を漲らせた。指先が冷たくなって行く様な気がする。

「あの星に魅入られたという事は、あなたにもそういう気があるという事だ」

老人は笑った。開いた口の中には、歯が無かった。
未沙は悲鳴を噛み殺して立ち上がる。とにかく逃げなくては。この人は普通じゃない。助けを呼ぼうとしたが、声が出なかった。

「それとも、あの星にいる誰かに呼ばれたのか?もしくはあなたが彼らを呼んでいるのか…」

老人が手を伸ばしてきた。未沙は硬直して立ち竦む。動けない。助けて。未沙はしわがれた手から逃れようと、顔をそらして固く目を閉じた。
老人の手が、未沙の肩を掴む。おぞましい感触が全身を駆け抜けた。
その瞬間、未沙は目を覚ます。

「大佐、着きました。アポロです」

目の前には、朗らかな女性乗務員の笑顔。未沙は目を見開く。

「…大佐?どうされました?」

訝しげに乗務員が聞いてくる。未沙は辺りを見回した。自分と、乗務員以外は誰もいない。
脇に冷たい汗が流れた。

「あ、あの…」

乗務員を見る。はいと返事。

「ここに、その、高齢の男性が乗っていたかしら?」

「…いいえ?このフロアはずっと大佐だけですよ?」

不思議そうに答える女性乗務員。未沙は、ふうと息を吐いて柔らかな背もたれに身を沈めた。

「夢…か…」

「お疲れですね。もう少しゆっくり飛べば良かったですね」

乗務員の冗談にも、うまく笑えていたかどうか。未沙は強張る顔のまま、脚に力を入れて立ち上がった。

「携帯電話はもう使える?」
「はい、大丈夫です」

未沙は携帯の電源を入れた。手が震えていた。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR