HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Sunday.

本番の終わった深夜2時。ここはシティのナイトクラブ。出演者も裏方も、番組の関係者が一堂に会して朝まで打ち上げパーリーナイトが開かれる。

パーティーの主役はもちろんその週のホストと音楽ゲストだ。
なので今週のホスト役であるエマ・ジェファーソンは当然ながら今夜の主役の1人である。大勢のスタッフに取り囲まれてワイワイ騒がれている様子が見て取れた。しかし彼女はオンカメラでのトークは得意なのだが、オフカメラで愛想を振りまくのは苦手、というか嫌いみたいだった。さっきからスタッフ1人1人を捕まえては「あんたは気が利かない」とか「あんたは将来出世しない」とかよく分からないダメ出しを連発している。
まったくもって顔も性格もブスな彼女だが、社交性も特別に悪いらしい。
呆れたような顔をしてスタッフが1人また1人と逃げて行く。しかしアルコールの入ったエマから逃れるのは至難の業だ。僕は可能な限りあの災厄に触れないようにフロアの端っこへと逃れるように歩いて行った。

するとそこに、ミンメイがいた。今夜のパーティーのもう一人の主役。のはずなのに、壁際の席で独り静かに座ってパーティーの様子を眺めている。このミッドナイトパーティーが、彼女の19歳の誕生日のお祝いも兼ねているのにも関わらず、だ。
僕に気がついたミンメイは「Hi」と片手を上げた。少しだけ酔っているのか、ほんのりと赤い顔をしている。機嫌は良さそうに見えたので、僕は対面の席に腰掛けた。フロアは大勢で盛り上がっていて、ノリの良いハウス・ミュージックがひっきりなしに僕らの鼓膜を叩いている。

「さっき社長が来てたよ」
「うん、バースディプレゼント貰った」
「へー、何だった?」
「これ」

ミンメイは左腕のブレスレットを見せる。クラブの照明がカラフルに変化するので何色か分からないが、きっと高価な物なのだろう。でもミンメイは興味なさそうだった。

「なんか今日は大人しいね」

僕が不思議に思って訊ねると、ミンメイはテーブルの上に置いてある自分のモバイルフォンをツンツンと指でつついた。

「お祝いが、来ないのよ」
「?誰から??」
「一番欲しい人から」

僕はクラブの中を見渡す。今日はウィークエンドな上にあのリン・ミンメイの誕生日祝いだという事で、かなりの数の芸能関係者がパーティーに駆けつけている。クロークにはミンメイ宛ての花やらプレゼントボックスやらが山積みだ。売れっ子のロックシンガーからご同業のアイドル仲間を始めとして、スポンサー関係で有名企業の経営者やどこぞのお偉い議員さんまで華々しい顔ぶれが揃っていた。
その錚々たる面々を差し置いてミンメイをこんな表情にする相手と言えば…

「例の、その、パイロットさん?」

ミンメイは答えなかった。ただ小さな三角グラスを掴むとクイッと一息にあおる。さくらんぼには触れずにそのままの状態でグラスに残した。

「わたし、何やってるんだろ…」

大きく息を吐いて、ミンメイはテーブルに突っ伏した。そんなミンメイがなんだかいつもより小さく見えて僕はちょっとだけ心配になる。何か言ってあげなきゃ、ここは元気づけてあげる場面だ。なにしろ僕はあの人類の救世主、”世紀のアイドル”リン・ミンメイのマネージャー(サブだけど)なんだから!

「ねえミンメ「よう、ミンメイ」

僕の台詞にかぶさるように現れたのは、このパーティーの影の主役とでも言えるアラスカTV界の大物プロデューサー、ローン・マイケルズだった。マイケルズは僕のことは無視してミンメイの隣りにドッカと腰掛ける。フロア内の音楽は少しポップ調に明るく、テンポの速い物になっていた。

「なんだ、もう飲み潰れたのか」
「そんな訳ありませんよ〜だ」

ミンメイは頬を膨らませて起き上がる。マイケルズは笑顔で新しいグラスを差し出した。ミンメイが受け取ると、自分のグラスをそれに合わせる。カチンとガラスの音がして水滴が弾けた。

「ひとこと言い訳をしておきたくてな」

琥珀色の液体に満たされたグラスを一口あおってから、マイケルズはそう呟いた。ぼうぼうの口ひげを撫でてミンメイを正面から見つめる。ミンメイは膝を揃え、ちょこんと座り直してマイケルズと正対した。

「別に俺はな、お前さんが憎くて意地悪をしてやろうとか、そういう意図でやってるんじゃないんだ」
「ハイハイ」
「サタデー・ナイト・ライブ出身で売れた連中は大勢いる。みんな俺が育ててやった。リン・ミンメイにも同じ気持ちで接してるんだ」
「ウンウン」
「お前さんを成長させるために考えて、敢えてああいう事をやってるんだぜ?俺たちショー・マンは人生を切り売りしてなんぼだ。他人のも、自分たちの人生もな」
「そうそう」
「俺はこの番組に命を懸けてる。だから一緒にやる連中にもその覚悟を持っていて欲しい」
「ほうほう」
「…本当に分かってるのか?」
「はいはい」

ミンメイに軽くいなされて、マイケルズは苦笑するしかない。アラスカ1のビッグ・プログラムのボスも、かのリン・ミンメイの前では手も足も出ない有様だ。たったいま19歳になったばかりの小娘に。

「まあ、なんだ、その」

マイケルズは視線をミンメイからそらした。”それ”の到来を明敏に感じ取って、ミンメイは大粒の瞳を見開いてじーっとマイケルズのヒゲ面を見つめている。

「…悪かったよ。今回はちょっとズルかった」
「いえいえ」

ミンメイは笑った。「でもほんのちょっとだぞ」とマイケルズがどうでもいい釘を差し、ミンメイはまた「ハイハイ」と軽くいなしてグラスをかかげる。マイケルズは「Happy Birthday PRINCESS」と言ってミンメイをハグし、藍色の髪にキスをした。あ、このスケベオヤジめ、僕だってそんなのした事無いのに。

マイケルズが去ったあと、オカマのチーフマネージャーが入れ替わりにミンメイの元へとやって来た。やっぱり隅っこでひっそりしているミンメイの事が心配になったらしい。
が、ミンメイの顔を見るなりチーフは口を噤み、何も言わずに静かに席に座った。フロアではDJが変わったらしく、ソリッドなコテコテのテクノ・ミュージックが流れている。

「私ね、あなたに謝らなきゃならないわ」

ミンメイが不思議そうな顔をしていると、チーフは微笑みながらミンメイの藍色の髪を撫でた。

「私、ずっとあなたの事を過保護に扱っていたみたい。気が付かないうちに、あなたを何も出来ない幼い子供か何かのように考えていたの。でも、あなたはもう立派な大人なのよね」

ミンメイはチーフが何を言っているのかよく分かっていないみたいだ。というか僕もよく分からない。ミンメイの小首をかしげる仕草が可愛らしかったからか、チーフはとても優しい目になって言葉を紡いだ。

「あなたはあなたの人生を生きるのね。自分で考えて、自分で決めて。初めから私なんて必要なかったんだわ」

1人で喋って1人で納得したチーフは、「Happy Birthday MINMAY」とだけ言い残して席を立った。最後に僕の方を見て「なんだあんた居たの」だって。失礼しちゃうよ。

クスクス笑っているミンメイを恨みがましく僕が眺めていると、今度はエマ・ジェファーソンがフラフラとやって来た。大分酔っているらしい、目がかなり据わっている。僕はすかさずその場から消えようとしたけれど、笑顔のミンメイに「まさか逃げないわよね」と言われて「ハイ」と大人しく座り直した。

「あらミンメイ、御機嫌いかが?」

ちょっと呂律のあやしいエマは赤く湯だったタコみたいになっていた。きっと面倒くさがられてスタッフ達にガンガン飲まされたんだろう。でも目論見は失敗して、酔い潰れるどころかもっと面倒くさそうなのが現れたっていう寸法だ。

「上機嫌よ。あなたは?」
「ええ、とってもいい気分だわ」

エマはひゃっくりをしながら答えた。しかし何故かそのまま黙ってしまう。席に座るでもなく、かと言って立ち去るでもなく。どうしたんだろうと僕とミンメイが見守る前で、何か言いたい事でもあるのかモジモジと人差し指を突き合わせている。

「ね、ねえミンメイ」
「なぁにエマ」

エマ、と呼ばれてエマの顔がぱあっと明るくなった。ん?何だ?どういう事??

「そ、その、今日の、いえもう昨日ね。あの歌、とってもカッコ良かったわ」
「ホント?ありがとう」

ミンメイはファンの子達に対するように100点満点の営業スマイルでお礼を言った。ほんと、こういうところは彼女は誰よりも当たりが良くて素晴らしい。こういうのって天性の才能だと思う。

「あ、あのね、だからって訳じゃないんだけれど」

またモジモジしだしたエマ。どうしたブサイク、映画の意地悪学級委員長の役を思い出してミンメイに皮肉でも言いに来たのか。

「その、あの、と、とも…ってあげ…」
「ん?なぁに??」

急に声が小さくなるエマ。ミンメイは笑顔のままでエマに顔を近づけた。エマの顔がさらに真っ赤になる。こりゃきっとウォッカを飲まされてるな。

「ああの!」

意を決したようにエマがギュッと目を閉じて叫んだ。

「と、友だちになってあげてもいいわよ!」

クラブの音楽はガンガンにハードコア・テクノだ。勢いだけでぶっちぎろうとする音圧がこの広くて狭い空間を支配する。僕は聞き間違いかと思って確認のためにミンメイの顔を見た。ミンメイも僕の顔を見た。

「い、いやならいいのよ」

赤を通り越して赤黒くなったエマが足早に立ち去ろうとするのを、ミンメイは手を伸ばして引き止めた。エマは硬直して彫像のようになる。

「嬉しいわ、ありがとう。エマとは今日からお友達ね」

微笑むミンメイ。パッと明るい表情で振り向くエマ。僕はその時、ふと金曜日のリハでエマがわざわざミンメイを探しに来たのは、ミンメイの歌を聞きたかったからじゃないのかな、なんて思った。もともとこのブサ…個性派女優はミンメイのファンだったんじゃないのか?

急に馴れ馴れしくなったエマはミンメイの隣りに座ると「telナンバー交換しましょう!」と鼻息を荒くしてミンメイに迫る。まるで映画の意地悪学級委員長が、弱い者いじめの獲物を見つけた時のような迫力だ。
ミンメイはその勢いに少し困ったような顔をしていたが、僕の気のせいだろうか、どことなく嬉しそうな表情にも見えた。

ふとテーブルを見れば、ミンメイのモバイルフォンがチカチカと光っている。しかしフロアにはガンガンにエグいシュランツが鳴り響いていてミンメイはそれに気が付かない。
僕は邪魔しちゃ悪いと思って、エマの首根っこを掴むとそのままフロアへと引きずって行く。エマは激怒して僕の足を踏んづけまくるが、僕は涙を堪えて意地悪学級委員長をミンメイから引き剥がした。

振り向いて、テーブルを指差す。ミンメイはハッとなってチカチカ光るモバイルフォンに手を伸ばした。

「Happy Birthday,MINMAY」

そう声を掛けたけれど、きっともう聞こえていなかっただろう。弾むような笑顔でモバイルフォンに話し掛けるミンメイを残して、僕はゆっくりとエマをダンスフロアへと連れて行った。





HAPPY BIRTHDAY MINMAY おわり


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HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Saturday.

毎週土曜日、23時。
それはアラスカに住むTVフリークにとっては特別な時間を表す。

画面には2人の男女。1人は新統合政府のゲノム総理…役のニセ者。そしてその奥様の役も当然ニセ物。
最近、ゲノム総理大臣は女性スキャンダルをパパラッチされたばかりだ。場面は唐突に2人の夫婦喧嘩から始まる。
ゲノム総理に扮したコメディ俳優が「やあメラニア」と女性に呼びかけると、メラニア婦人に扮した女性コメディアンが「あら浮気者。今夜はこっちの家に帰って来たのね」と皮肉で応酬する。舞台観覧者達の笑い声が集音マイクを通してTV画面に漏れ伝われば、コールド・オープンの準備完了だ。

ここは自由の国アラスカ。例えどんなに偉い政治家や大企業の社長であっても、サタデー・ナイト・ライブの前ではただのスケッチ・ネタの具材に過ぎない。みんなまとめてブラックな笑いの鍋へと無条件に放り込まれる運命にある。普通だったら告訴されてもおかしくないレベルの皮肉のスパイスがふんだんに降り注がれ、演者達は調子に乗りまくって誹謗中傷を有る事無い事喋り捲る。行き過ぎた風刺のヤバさこそこの番組の真骨頂だ。
途中、浮気相手とされる女優(なんとゲノム総理より歳上だ)役のニセ物が現れ、舞台上でプチ修羅場を演出する。それまでじっと立っているだけだったSPに、ゲノム総理(役のコメディ俳優)が「おい、仕事しろ!」と叫ぶとようやくみんなの中に割って入る。舞台下で生観覧している観客たちの愉快そうな笑い声や口笛が響き渡り、ひとしきり全員が騒ぎ終わったタイミングで一斉に顔をカメラに向けて声を合わせた。

「LIVE from MACROSS! It’s Saturday Night!!」

まさにお決まりの「番組開始!」の合図。人々の拍手と歓声が巻き起こり、聞き慣れた音楽を背景に番組のオープニング映像が流される。さてさて、今夜もアラスカ最大のビッグ・プログラム”Saturday Night Live”の始まりだ。
映像の切れ間には、シャンパンレッドにドレスアップしたホスト役のエマ・ジェファーソンがアラスカ中に向けて始まりの挨拶をする。出演した映画「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の興行成績も好調な悪役学級委員長エマは、普段の彼女からは想像もつかないような知的でおしゃまなハイセンス・トークでモノローグを語り始めた。すると番組のレギュラー陣(ほとんどがコメディアンだ)が途中からそのスタンドアップ・トークに面白おかしく乱入して来る。どうやらみんな、今回は観客の中に紛れ込んで「変な人」を演じているみたいだ。
現れたのは病院から抜け出した統合失調症の患者、KKKの格好をした大男、知恵遅れのゼントラーディ人、そして銃(のおもちゃ)を振り回す過激派のテロリスト。よく見れば毎週番組を盛り上げてくれるお馴染みの面々が扮している。彼らにモノローグを邪魔されながら、エマは苦笑いを繰り返しつつも何とかうまくトークタイムを盛り上げる。

「へ〜、やるじゃん。面白いね」

舞台袖で見ていた僕は、エマの器用さに少し感心した。さすがは腐ってもシティ女優。だてに見た目も性格もブスじゃないね。

「なに呑気な事言ってるの。もうすぐミンメイの出番よ」

ぼーっと舞台を見ていたらチーフに耳を引っ張られた。イテテテ、わ、分かってますよもう。抗議の眼差しをチーフに向けようとしたら、後ろから今夜のドンが近づいて来るのが目に映った。総合プロデューサーのローン・マイケルズはゴールドのラメラメジャケットを着ていて、はっきり言って出演者達よりもギラギラと目立っていた。このままステージに出て行ってもおかしくないような派手っぷりだ。
マイケルズは「よう」と片手を上げて挨拶をして来たが、チーフはフンと鼻を鳴らすだけで顔を見ようともしない。多分ミンメイの選曲の件でまだ怒っているんだろう。

「いい加減に機嫌直せよ。まったく女の腐ったみたいな野郎だな」
「今の発言でなおのこと許す気持ちが無くなったわ」
「ミンメイ本人は納得してるんだぜ?周りが勝手に腹立てんのはちょいとお門違いだろうがよ」
「あの子はまだ子供よ。あんな何も分かってない若い娘を利用しようだなんて」
「だから、それがショー・ビジネスってもんだろうが」

マイケルズとチーフの言い争い。この怪物同士の口論は本当にしょっちゅうだ。実は仲が良いんじゃないかとたまに邪推してみたくもなる。…て事は、オカマのチーフは男性が好きな訳だから…いや、やめよう。考えるだに恐ろしい。
僕がとんでもない妄想に身震いしているその横を、ミンメイがするりと通り抜けた。軽やかな足取りで自分のステージへと向かう。僕は慌てて「が、頑張って!」と工夫のない声を掛ける。ミンメイは振り向かずに「ハイハーイ」と片手を挙げてそれに応えた。
チーフとマイケルズもミンメイに気が付く。文句の言い合いを中断して二人はミンメイに注視した。

「ああ心配だわ。あの子ホントに大丈夫かしら」
「母親かよ。いい加減子離れしやがれ」

ホスト役のエマがトークを繰り広げる、そのすぐ隣りの舞台にミンメイが陣取った。予め待機していた楽団も楽器を手に準備万端だ。
今夜のミンメイは黒を基調としたパーティ・ドレスを着ている。背中がざっくりと大きくハイカットされていた。セクシーだけれど落ち着いた雰囲気の衣装にして来たのはやはり選曲の影響だろうか?後でスタイリストのデカ女に聞いてみるとしよう。豊かに膨らむ胸元はウエストをキュッと絞ることでより一層存在感を増している。その上の真っ白なデコルテには大粒のパールがキラキラと照明を反射して綺麗だった。

エマがトークの仕上げに入る。いよいよカメラが切り替えられてミンメイの歌の出番だ。かの「世紀のアイドル」の出演回とあって今夜のアラスカの視聴率は相当なものだろう。僕は覚悟を決めて生唾を飲み込んだ。チラリと視線を走らせれば、チーフはハラハラとハンカチを握りしめ、マイケルズはニヤニヤと笑みを浮かべている。
ディレクターの合図で、カメラのランプが切り替わった。さあ、ミンメイ、君のステージだ!

例のセンセーショナルなホーンセクションが舞台に響き渡り、ミンメイは男に捨てられる女の苦悩を歌い上げる…筈が、僕らの耳に飛び込んで来たのは静かだけれど力強いピアノのイントロだった。

「…アレ?」

僕がおかしいと気が付いたくらいだ。チーフもマイケルズもすぐに気がついただろう。でもこれは全アラスカにLIVE放送中である。今さらどうにも出来やしない。
ミンメイを見れば…彼女はスタンドマイクを握りしめ、僕のまったく知らない歌を歌い始めた。
とても静かな表情で。なのに力強い歌声で。



Ain’t got no home, ain’t got no shoes
Ain’t got no money, ain’t got no class
Ain’t got no skirts, ain’t got no sweaters
Ain’t got no perfume, ain’t got no luck
Ain’t got no fate

Ain’t got no culture, ain’t got no mother
Ain’t got no father, ain’t got no brother
Ain’t got no children, ain’t got no aunts
Ain’t got no uncles, ain’t got no roots
Ain’t got no man

Ain’t got no country, ain’t got no schooling
Ain’t got no friends, ain’t got no nothing
Ain’t got no water, ain’t got no air
Ain’t got no smokes, ain’t got cookie
Ain’t got no

Ain’t got no water, ain’t got no love
Ain’t got no fate, ain’t got no luck
Ain’t got no wine, ain’t got no money
Ain’t got no fate, ain’t got no God
Ain’t got no love

Then what have I got
Why am I alive anyway?
Yeah, what have I got
Nobody can take away

I got my hair, got my head
I got my brains, got my ears
I got my eyes, got my nose
I got my mouth, I got my smile
I got say

I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got laugh
I’ve got healing
I’ve got doing
I’ve got bad times too like you
I got my hair, I got my head
I got my brains, I got my ears
I got my eyes, I got my nose
I got my mouth, I got smile
I got my tongue, I got my chin
I got my neck, I got my boobies
I got my heart, I got my soul
I got my back, I got my sex
I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got freedom
I’ve got life…


私には家もない、靴もない
お金もない、階級もない
スカートもない、セーターもない
香水もない、ツキもない
運命もない

教養もない、母もない
父もない、兄弟もない
子供もない、叔母もない
叔父もない、根もない
男もいない

国もない、学校もない
友達もいない、何もない
水もない、空気もない
煙草もない、お菓子もない
何もない

水もない、愛もない
運命もない、ツキもない
ワインもない、お金もない
運命もない、神様もない
愛もない

それでも、私は何か持ってるんだわ
だって、私はどうやって生きているというの?
そうよ、私は持っているのよ
誰も奪い取れないものを

私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には話せる
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には笑い声がある
私には癒しがある
私には行動がある
私にもあなたたちみたいに悪い時がある
私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には舌がある、顎がある
私には首がある、乳がある
私には心がある、魂がある
私には背骨がある、性がある
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には自由がある
私には命がある…







「え?なにコレ、え?」

愛の名の元には?シュープリームスは??僕の知らない間に何か変更があったんだろうか???
僕はマイケルズを見た。でもマイケルズもビックリして目をまん丸くしていた。あ、この人こんな顔するんだ初めて知った。
マイケルズはその太い指でチーフの肩をガッシと掴む。よく見たら毛むくじゃらの指はシルバーの指輪だらけだ。

「おい、お前の仕業か!」

そう問い詰められて、振り返ったチーフの顔は…やっぱりビックリしてた。

「知らないわ…でもコレって…」

チーフは蒼氷色の目を見開いてた。アラスカTV界にその名を知られる裏方の大物2人は顔を見合わせて一つの名前を呟いた。

「「ニーナ・シモンだ」わ」

これは後でチーフに教えて貰ったんだけれど、そのニーナ・シモンって人はまさに60年代アメリカの公民権運動の真っ只中にいた黒人歌手なんだそうだ。
キング牧師なんかと一緒になってデモ・パレードをしていたらしい。かなり過激な人だったんだけれど、人種差別のなくならないアメリカに失望して結局国を出ていっちゃうんだ。そのさよならライブで歌ったこの曲が、当時の人種差別と戦う人たちのシンボリック・ナンバーになっていたらしい。

ある日突然故郷のアフリカで捕らえられ、奴隷として裸のまま見知らぬ新大陸に連れてこられた黒人たち。その子孫であるアフリカ系アメリカ人の自分たちには「家もない、靴もない、お金もない、国もない、文化もない」と黒人の現実を切々と歌っている。しかしそれでも最後には「私にはこの体が、命がある。それだけは誰にも奪えない」と力強く歌い切るこのナンバー。『Ain't Got No...I've Got Life(何もない…でも私は生きている)』という曲だそうだ。
あまりに皮肉が効きすぎていて、21世紀になってもアメリカ南部の一部の州では放送禁止になっていたらしい。

成る程、マイケルズがやりたい「TVに公民権運動を持ち込みたい」「ミンメイをそのアイコンにしたい」にはピッタリの曲なわけだ。しかし何故…

「何故、ミンメイがこんな曲を知ってるの?」

チーフが僕と同じ疑問を口にする。マイケルズはステージのミンメイを眺めながら渋い顔だ。

「知るか、誰かの入れ知恵だろう」
「いいえ違うわ」

後ろから声を掛けられて、僕らは驚いて振り向く。そこにはブス…じゃない、個性派女優のエマ・ジェファーソンが立っていた。

「彼女、自分でその歌に決めてたわよ。マイケルズがゼントラーディ問題と公民権運動を重ねてるって話を聞いてから、ちゃんと自分で世界の歴史を勉強したのよ」

「え、そうなの?!」

僕はそこに一番ビックリした。あの本を読んだり勉強したりなんてのが何よりも大嫌いなミンメイが…というか、朝から晩まで仕事仕事で寝る間もない毎日なのに、どこに一体そんな時間があったのだろう。
チーフも同じ思いだったらしく、愕然とした顔をしている。そのチーフに向けてエマが短い指を突き出した。

「ボーリゾンさん?でしたっけ?あなたが思っているより、彼女子供じゃないわよ。これからはもっと一人前の女性として扱うことね」

そして腕を組むと、憐れむような小馬鹿にしたような目線をアラスカ一の大物プロデューサーに向ける。

「マイケルズ、あなたも年ね。あんな小娘に出し抜かれるなんて」

「し、しかし撮影は…リハは…」

言いかけてマイケルズはハッとなる。番組のディレクター(監督)は年甲斐もなくミンメイの大ファンだ。一昨日もスタジオに入ったミンメイの手をベタベタと触っていた。彼女がお願いすれば、コロンと簡単に言うことを聞くに違いない。直前に曲目を変えるのなんて、ワガママ娘で名の通ったミンメイにしたら別に珍しい事でも何でもない。

「リハなんてなくても平気よ」

今度は反対側から声がした。いつもの、聞き慣れた声。澄んでいて、それなのにどことなく意志の強さを感じさせる芯の通ったキャンディ・ボイス。

「これでも、プロの歌手なんですからね」

「ミンメイ…」

呆然とマイケルズは呟く。歌い終えたミンメイが、ステージから袖に戻って来ていた。その顔は上気していて、しっかりと任務をやり遂げた女の迫力をじんわりと醸し出している。
頬を赤く充血させてミンメイは微笑んだ。

「話題になれば良いんでしょう?だってショー・ビジネスですもの!」

確かに。こんなドラマティックな曲をリン・ミンメイが歌うとはなかなかに世の人々の関心を買っただろう。くだらないゴシップネタなんか一瞬で吹き飛んだ。
マイケルズが意図していた「ゼントラーディ問題」=「現代の人種差別」という図式を人々に意識させるのにも充分だ。

「急な話で、楽団にはちょっぴり迷惑掛けちゃったけれどね」

そう言ってペロッと舌を出す。そのあまりのキュートなギャップに僕らは言葉も出なかった。

「…負けたよ」

マイケルズはただ一言、静かにそう言って肩をすくめた。




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HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Friday.

ライブ番組には大抵1人の司会者がいる。
サタデー・ナイト・ライブが特徴的なのは、この司会者が毎回変わる事だ。基本的に同じ人が連続して司会者をやる事はない。その週その週ごとに話題の人物がピックアップされゲスト司会者として招かれる。
この司会者はホストと呼ばれ、オープニングのモノローグから登場し、番組の最後まで展開を引っ張っていくのが役割だ。
ホストが毎週変わるので「次週のホストは誰がやるの⁈」と予測するのも視聴者にとっては楽しみの一つになっている。

「音楽ゲストはミンメイでしょ?トークの打ち合わせをまだしてないんだけど」

今週のホストを務めるエマ・ジェファーソンはちょっとブサイクな女の子だ。もちろん本人に面と向かってそう言う度胸は僕には無いが、彼女が女優として人気があるのは決してルックスが良いからではないと神に誓って断言出来る。いや、ある意味ではルックスが要因と言えるのか。

世の中には「ちょいブス」というジャンルがある。その手の嗜好家や同性からはとても人気が高いジャンルだ。スクール物の映画なんかだと必ずクィーンの取り巻きに1人ぐらい混ざっていて、確固たる地位を獲得している。彼女らはブスだからこそポジションを与えられているのだ。それはとても残酷な現実だが、同時に人間社会の懐の深さを表していると言えなくもなくもないこともない。
その「ちょいブス」の代表格たるエマが、ストレートロングの赤毛を指でかき上げながら「ねえミンメイ呼んでちょうだいよ」と僕に偉そうに命令して来た。まるでつい先日出演したばかりの「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の意地悪な学級委員長役そのものだ。ふん、誰がお前みたいな顔面へちゃむくれの言う事を聞くもんか。

「ちょっとあなた、早く呼んで来なさいよ!」
「あ、は、はい」

叱りつけられて、僕は薄暗いスタジオの中を一目散に駆け出した。畜生、負けたんじゃない。あくまでも物事を円滑に進めるための自己犠牲を自ら選んだんだ。ホストとミンメイの仲が悪いと番組もスムーズに行かないものな。

「ダメよ、ミンメイはいま歌のリハーサル中よ」

走り出した僕に鋭く警告が飛ぶ。声を発したのはオカマのチーフマネージャーだった。突然スタジオの暗がりから現れたから、思わず口から心臓が飛び出すかと思った。いや、実はちょっと出たかも。
ギラギラとスタジオの照明を反射するパールホワイトのエナメル靴を翻して、ゴースト・イン・ザ・オカマはエマ・ジェファーソンに正対した。

「エマ、MTGは後にしてちょうだい。ちゃんとスケジュールを貰っている筈よ」

この人の蒼氷色の眼で睨まれたら、言い返せるやつなんかこの世に存在しないと思う。意地悪学級委員長はムッとした顔で「な、なによ」とか言いながら一、二歩後退りした。

「手が空いてるならさっさと終わらせようと見に来ただけよ」
「なら残念でした。ミンメイはこのあとスケッチのリハもあるのよ。あなたとのマッチングはそれが終わってからだわ」
「ふん、ちょっとばかり可愛いからってチヤホヤされちゃってさ」
「『ちょっとばかり』じゃないわ。『とてつもなく』よ」

「もしくは『誰よりも』ね」と付け加えてチーフはまたスッとスタジオの闇の中へと消えた。時たま思うんだけれど、この人はジャパニーズ・ニンジャの末裔かなんかなんじゃないだろうか。

「いい気なもんだわ」

フンッとソバカスだらけの鼻を鳴らして(僕にはブヒッと聞こえたのだが彼女の名誉のためにそうは書かない)エマはパイプ椅子に腰掛けた。短い腕を伸ばし、ミンメイのために用意されていたテーブルのお菓子をバリボリと貪り喰らい始める。あれ、帰らないのかな。もしかして暇なのかしら。

「気が利かないわね。お茶は?!」
「あ、はい、ただいま」

僕はすぐ隣りのケータリングスペースに飛び込みローズヒップティーをカップに注ぐ。エマに手渡すと、お礼も言わずにグビグビと飲みだした。ローズヒップには女性を美しくする効果があるらしい。願わくばほんの少しでもその効果が彼女に現れてくれたら(容姿よりも心の方に)世の中平和になるかも知れない。
無力なローズヒップティーを飲み下したエマがゲフッと下品な音をたてるのとほぼ同時に、ただッ広いスタジオにセンセーショナルなホーンセクションが響き渡った。僕とエマはピクッと反応してステージの方に目を向ける。ステージには…スキニーデニムにクロップドTシャツという簡単な格好のミンメイが立っていた。
彼女がマイクを口元に持ち上げるのが遠くに見える。


Stop! In the name of love
Before you break my heart

Baby, baby I'm aware of where you go
Each time you leave my door
I watch you walk down the street
Knowing your other love you'll meet
But this time before you run to her
Leaving me alone and hurt
After I've been good to you
After I've been sweet to you


行かないで、愛の名のもとに
私の心を引き裂く前に

ねえあなた、私わかってるのよ
あなたがドアを出て行くたびに
通りを去り行くあなたを見ていたから
私とは違う愛を求めて会いに行くのを知っているの
でもあの人の処へ向かう前に
私の身も心も引き裂いて、一人ぼっちにしていくのね
あんなに尽くしてあげたその後に
あんなに甘く癒やしてあげたその後に



「何よコレ。もしかして振られてメソメソしてるってわけ?」

伸びやかな歌声に身を浸し、遠目に歌うミンメイを眺めていたら、背後のエマが鼻で笑うのが聞こえた。僕は思わずムッとなって振り返る。

「ほ、ホントはこの曲を歌うはずじゃ無かったんだ!」
「でも明日はこれを歌うんでしょう?」
「う、うん、多分…」
「じゃあそうなんじゃない」

ニヤニヤと笑うエマが憎らしくて、僕は地団駄を踏みたかった。

「どうせマイケルズ辺りが言い出したんでしょう。ミンメイのゴシップならネットニュースでみんな知ってるわ。明日はTVの前で全員ミンメイの歌でお涙ちょうだいって寸法ね」

エマの物言いはとてつもなくムカついたけれど、全部事実で一言も言い返せない。ミンメイが軍のパイロットとのスキャンダルをすっぱ抜かれてから大分経つけれど、彼女がその傷から回復していないのは身近にいる僕らにはよく分かっていた。だからこそ、それを視聴率に利用しようとする業界人の目論見には余計に腹が立つ。

「ミンメイはそんな弱い女の子じゃないよ!自分で歌うって言ったんだ。求められたら歌うのがショー・ビジネスだってね!」

僕はエヘンと胸を張った。エマは呆れたような顔になる。

「ならミンメイも自分のゴシップを利用するのを認めたって事じゃない。TV屋連中と同じ穴のムジナだわ。人生の切り売りお疲れ様」

あ、あれ?そう、なるのかな??
僕のぽか〜んとした顔がよほど変だったのか、エマはゲ〜と舌を出すとパイプ椅子から立ち上がった。そして「お茶アリガト。マズかったわ」と捨て台詞を吐いて去って行く。一体この子は何しにここへ来たんだろう。まさかミンメイの歌を聞きに来た訳でもあるまいし。
畜生、二度と来るなと僕は聞こえないよう小さな声で呟いた。するとエマが立ち止まったので心臓が止まりそうになる。いや、実はちょっと止まったかも。

エマはステージの方を振り返った。薄暗いスタジオの隅で、遠くステージからの照明に淡く浮かび上がったエマの顔はどこか悲しそうに見えた。

ブスはブスなりにいい表情をするな。僕はこの時そう思った。



HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Thursday.

木曜日。舞台はTV局に移り、いよいよスタジオでリハが開始される。
僕らはアラスカ中央放送局へと乗り込み、第6スタジオに通された。そこではミンメイが本番で歌うバックセットがすでに設置されている。
見たところ雰囲気はジャズバーと言った風合いだ。なるほど、ブラックミュージックと言えばこれがテンプレートになる訳か。

「曲はちゃんと聴き込んで来た?」

オカマのチーフマネージャーの質問に、ミンメイはウンと小さく頷いた。それについては大丈夫、僕が保証する。何しろ昨日は遅くまでずっと歌合せに付き合わされたからね。お陰で今日は眠たいよ。
ミンメイの入りに気が付いたディレクターが、向こうから早足で飛んで来た。50代後半のコイツは年甲斐もなくミンメイの大ファンだったはずだ。ウキウキした表情で小躍りしながらミンメイの手を取る。

「ミンメイちゃん、今日はまた一段と綺麗だねぇ!惚れ惚れするよ」
「あら、ありがとうディレクター」

ミンメイは100点満点の営業スマイルだ。しかしさらりと手を引き抜くと、相手に気づかれない様に後ろ手のままスカートでその手を拭った。ああ、女の子って怖い。

「今日は局のお偉いさんも見学に来るらしいよ!みんな君のファンなんだ」
「ホント?嬉しいわ。うんと綺麗に撮ってね」
「勿論だよ!ミンメイちゃんのためなら局中の撮影カメラを全部ここに集めて…」
「あ〜ハイハイもう行くわよ」

1人盛り上がるディレクターを押しやると、オカマのチーフマネージャーはミンメイを引っ張ってズンズンとスタジオを横切って行く。本日の主役を休憩スペースに腰掛けさせると「ああいうのは危ないからあまり近づいちゃダメよ」と小声で囁いた。

「うん、大丈夫」

朗らかに笑うミンメイ。どこまで分かっているのか良く分からないが、まあディレクター風情がこの子に手なんかだそうものなら火傷どころじゃ済まないもんな。
カメリハは終わっていたらしく、音合わせにミンメイがすぐに呼ばれた。「ハ〜イ」と可愛らしく返事をして、ミンメイはオレンジ色のレザージャケットを肩から降ろす。それをパイプ椅子に掛けるとそのままテクテクとステージへと歩いて行った。「頑張って!」と後ろから声を掛けたら「ハイハ〜イ」と手を上げて返事をしてくれる。うん、今日は機嫌が良さそうだ。

「ミンメイ、機嫌良さそうですね」
「だといいけど」

オカマのチーフマネージャーにそう言うと、少し心配そうな返事が返ってきた。僕は不思議に思ってチーフを見るが、ちょうどそこに総合プロデューサーのマイケルズが現れて会話が中断する。マイケルズは今日は玉虫色のギラギラしたジャケットを羽織っていた。完全に悪趣味なマフィアのドンだ。

「ようボーリゾン。姫は調子良さそうだな」
「本心からそう思って言ってる?」

マイケルズの挨拶をチーフは冷たくあしらう。マイケルズは鼻で息を吐くと軽く肩を竦めた。

「なんだ、姫じゃなくてこっちの機嫌が悪いのか。ゲイのくせにあの日か?」
「シュープリームスはまあいいわ。あなたの意図も分かるわよ。でもあの曲を歌わせようだなんて許さないわよ」
「だから変えたじゃないか。そう怒るなよ」

チーフは冷たい視線をアラスカ一の大物プロデューサーに投げかける。このロシア人、時たま本気で人を殺してそうな眼をするから怖いよ。でも、曲を変えたって何の事だろう。

「60年代の公民権運動を、今のゼントラーディ問題に例えようだなんてイヤらしい発想だわ」
「そうかな。根本は同じ問題だぜ」

マイケルズはドッカとパイプ椅子に腰掛けた。禁煙のスタジオで平然とタバコに火をつける。

「あの時代は黒人なんてのは犬も同然だった。女たらしの牧師さんのお陰で今は大分マシになったがな。モータウン・ミュージックはあの頃の黒人どもの希望の星だったんだよ」
「虐げられる黒人が、今のお可哀想なゼントラーディ人って訳ね。ミンメイに現代のダイアナ・ロスをやれとでも言うの?」
「その通りだ」

マイケルズは煙をフーと吐き出す。前かがみになって急に真面目な顔付きになった。

「ゼントラーディ問題を本気で捉えてるヤツなんかTV界にはいない。俺だけが本気であの宇宙人どもの事を考えてやってるんだ」
「思い上がりも甚だしいわね。たかがTV屋が政治家にでもなったつもり?」
「政治屋なんかに世の中は変えられやしないさ。俺たちメディアだけが時代を作れるんだ」
「ご高尚ですこと」

チーフはフンと鼻で強く息を吐く。そしてドリンクのペットボトルやスナック菓子が置かれたテーブルの上に何やら書類を放り投げた。あれは…楽譜だ。

「その割には、ミンメイのゴシップネタに当て込んでこんな歌を歌わせようだなんて。下品な三流ワイドショーの考えそうな事だわ」

そう言ったチーフの眼の中は赤く燃えていた。明らかに怒っている。マイケルズは言い返さずに肩をすくめるだけだ。
僕は気になってその楽譜を覗き込んだ。曲のタイトルは…『Stop! In The Name Of Love』(行かないで、愛の名のもとに)


なるほど、なんとなく分かって来た。
マイケルズはくだんのゼントラーディ人差別の問題を、かつての黒人差別になぞらえているんだ。で、60年代のアメリカの公民権運動をこのSNLでやろうとしている。だから当局に怒られたとしても、いつもゼントラーディネタをスケッチに入れ込むんだ。
当時の黒人歌手であるシュープリームスを選んだのもその為なのか。そして現代の歌姫であるミンメイに、シュープリームスのようなシンボリックな活躍を期待してる訳だ。

しかしそこはやっぱりSNL。選んだ曲が『Stop! In The Name Of Love』(行かないで、愛の名のもとに)とは。

ミンメイが軍のパイロットと何やら三角関係になっているのをまさに皮肉った選曲だ。これを今のミンメイに歌わせるのはいくら何でもちょっと酷過ぎる。チーフが怒るのも無理はない。きっと話が来た時に、チーフが突っぱねて変えさせたんだろう。

僕はマイケルズを見る。SNLのドンは批判などどこ吹く風といった感じで、涼し気な顔をしていた。まあ、こんな事でペコペコするような神経だったらこの番組を続けてなんか来れなかっただろう。茶化しているようで、彼は彼なりに世の中に問題解決のためのアプローチを発信しているのだ。やり方はゲスいけれど。
僕はチーフとマイケルズを交互に見やった。決して仲が良いという訳ではない二人だけれど、今は特に険悪な雰囲気だ。僕は巻き込まれないようにソロソロと後ずさりする。が、マイケルズに「おい、灰皿探してきてくれ」と声を掛けられてしまった。はいはい、タバコ吸うなら灰皿ぐらい自分で用意しておけよ…

「ふ〜ん」

不意に伸びてきた手がテーブルの上の楽譜を掴んだ。ハッと気が付いたオカマのチーフマネージャーは慌てて楽譜を取り上げようとしたが、その手…ミンメイの手はひょいと躱して空振りに終わる。さっさと音合わせを終えて戻って来たミンメイは、手にした楽譜をしげしげと眺めやった。

「本当はこれを私に歌わせたかったわけ?」
「違うのよミンメイ。そんなの歌わなくていいの」

チーフは優しい笑顔でミンメイを宥める。この人、本当にミンメイが好きなんだな(オカマだけれど)。
ミンメイはマイケルズを見る。マイケルズは悪びれた様子もなくミンメイに肩をすくめて見せた。

「いいわよ、歌っても」
「ミンメイ!」

チーフがミンメイの手から楽譜を取り上げた。でも、ミンメイは特に動じた様子もなくまっすぐにマイケルズの眼を見て言葉を放つ。

「それがプロデューサーのご要望なんでしょう?期待に応えるのがショー・ビジネスだわ」

「さすが俺の姫君だ」

マイケルズは満面の笑みで片膝を付き、ミンメイを崇めるような格好をする。ミンメイはそれを軽くいなすと、心配そうな表情のチーフに向き直った。

「平気よチーフ。たかが歌だもの」
「たかがって、あなた…」
「フフ、みんな気を使いすぎなのよ」

ミンメイは何でもないわとでも言いたげに笑った。それはいつも通り華やかで可愛らしい笑顔だったけれど、見ている僕の心にはほんのちょっぴり痛ましさが浮かんで消えなかった。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Wednesday.

サタデー・ナイト・ライブ、通称SNLは生放送のコメディショーだ。
その週に起きた出来事を皮肉ったスケッチ(コント劇)を中心に、ニュース番組風のコーナーやゲストのトークショーなどが主なプログラムを占める。扱うネタのジャンルは多岐に渡り、政治経済事件事故、倫理ネタから不倫ゴシップまで基本的に何でもござれだ。

「ゼントラーディネタはヤバいですよ」

それでも禁忌はあるらしい。ライターの1人が手にしたA4サイズのレポート用紙を放り投げる。レポートはヒラヒラと厨を待って、ちょうど僕の前までたどり着いた。手に取ろうとしたら横から伸びた手がさっと目の前で掻っ攫う。僕は恨みがましい目を向けるが、向けられた方は知らん顔だった。
我がスタジオ・イングリッドバーグマンのチーフマネージャー。この男こそチーム・ミンメイのドン、Mr.ボーリゾン・ボギンスカヤだ。銀髪白顔のロシア人。見た目以上に性格は冷たくてドライである。その特徴的な蒼氷色の眼がさっとレポートの表面を走り、一瞬で内容を把握すると僕とは反対側の隣人にそれを手渡した。ちょっとちょっと、僕には見せないんかい。
反対側でそれを受け取ったのは「世紀のアイドル」僕らのリン・ミンメイだ。ミンメイは対象的にゆっくりとレポートを読み、少し間を置いてクスクスと笑った。たったそれだけなのに、その様子がなんとも可愛らしくてミーティングルームの誰もが思わず頬を赤らめる。

「これ以上当局を突っつくのはヤバいです。また呼び出しをくらいますよ」

先ほどのライターが同じような発言をする。SNLの打ち合わせでは良く見る顔なので多分レギュラー作家なのだろう。
しかしその対面の若そうなライターが立ち上がって反対した。どうやらこのスケッチ(コメディネタ)の作者らしい。

「政府の検閲を恐れてなにがTVマンですか!世の中を漏らさず笑い飛ばす。それこそSNLの信条でしょう?!」

なんだかリベラリストの演説みたいな言葉だった。きっとこの熱血漢な若者とはお友達にはなれないだろうなぁと僕はぼんやりそんな事を思い浮かべた。
水曜日の今日。僕らはマイケルズの個人事務所で台本の読み合わせをしに来ていた。昨日までにライター陣が上げてきた50本近いネタを今日一日で10本前後まで絞り落とす。その厳選されたネタを持って明日からのリハーサルに挑むのだ。その週の生放送2時間分のネタを決める、とっても大事なミーティングの日である。
本来ならミュージックゲストのミンメイには関係のない会議だったが、今回はミンメイも一部のスケッチに参加する事が決まっていて、そのネタ定めに我々もやって来たという訳だ。
でも、僕には素朴な疑問があった。

「なんでゼントラーディネタはダメなんです?」

当然の質問だろう。少なくとも僕はそう思った。でも隣りのロシア人…きっと寒い国に居すぎて心まで凍っているであろうチーフ・マネージャーは冷めた眼で僕を見るのだ。

「あんたそんな事も知らないの?」

「はい知りません」とはさすがに恥ずかしくて言えなかったので、僕は照れたように愛想笑いをする。チーフは薄目で僕を睨むが、そこに予想外の質問が降ってきて助かった。反対側からミンメイが「なんでダメなの?」と質問をかぶせて来たのである。チーフ・マネージャーは(因みにこの人オカマだ)途端に目尻を下げてミンメイに振り向いた。

「政府がゼントラーディ人への差別撤廃を方針に掲げてるからよ。TV報道で必要以上に彼らを貶めるような事は言っちゃいけないの」

チーフの気持ち悪い猫なで声に、ミンメイは「へー」と眼を丸くしていた。僕も知らなかった。そんな大人の事情がTVの裏にあったなんて。
実際、この世界でゼントラーディ人の犯罪事件は多い。地球での生活に馴染めずに反社会的な行動を取るゼントラーディ人も増えていると言う。かつてのテロリスト・カムジンによるシティ襲撃事件のような大規模な暴動に繋がると大変だから、人々が不安に思うのも当然だと思うけどな。

「みんな仲良くしなきゃダメって事ね」
「そうそう。身も心も仲良くしろって事ね」

チーフが言うと違う意味に聞こえてくる。僕はミンメイが手放したレポート用紙を手を伸ばしてサッと奪い取った。今度こそ内容を確認する。ふむふむ、あ、これ本当にそういう内容だったのか。
レポート用紙に書かれたネタは、性知識の無いゼントラーディ人が売春宿で大騒動を巻き起こすという物だった。まあ、こういう事件は確かに現実に起きているらしい。でも確かにゼントラーディ人にしてみれば、決して面白いネタとは言えないだろう。

「政府は人類とゼントラーディ人との融和政策を進めているもの。いずれは同化するんだからケンカなんかしてても仕方ないのよ」

チーフの言葉に、両脇の僕とミンメイはちょっとビックリする。え、って言う事はあいつらと血が混じるって事ですか…?!

「え〜っと…つまりそれって、人類がゼントラーディ人と同化するって事ですか?」
「あんたまともに質問するだけの語彙力もないのね」

僕のオウム返しに、オカマのマネージャー、つまりオカマネージャーは憐れむような目線を返して来た。いや、僕そういうの苦手なんで。

「どのみち地球人だろうとゼントラーディ人だろうと、DNA的に違いがないのは科学的に証明されているんだから。同化もなにも最初っから同じ人間同士なのよ」
「へ〜、あんなオレンジ色の髪の毛した連中がですか」
「フェオメラニンとユーメラニンの割合の違いでしょ。あんたがちょっかい掛けてるここの受付の子だって赤毛じゃない」

チーフの台詞に、周りが一斉に僕を見る。僕は「あ〜」とか「いやその」とか言って頭を掻いて誤魔化した。

「その、え〜と、同化賛成」

ミンメイがまたクスクスと笑う。ああいいさ、そうやって僕を笑い者にしていればみんな平和なんだ。

「ゼントラーディ人に肉親を殺された人は大勢いる。これはとても難しい問題なんだ」

レギュラー作家が渋い顔で話を戻す。若いライターはそれでも食い下がった。

「ホモ・サピエンスはネアンデルタールや他の原人ともDNAを交換して進化して来た。今さらゼントラーディ人だけを特別扱いする必要なんかありませんよ!」
「ここは大学の講義の場じゃないぞ」
「政治の場でもないでしょう。当局が怖くてTV屋なんか務まりませんて!」

なんか議論が白熱してきた。僕は一番奥の席に座るマイケルズを盗み見る。SNLの総指揮官は、ライター達のやり取りをニヤニヤと楽しそうに眺めているだけだ。
そう言えば聞いた事がある、マイケルズがちょくちょく総務省に呼び出しをくらってるって。アレはもしかしてこういう件が原因だったのか?だとしても、彼の顔色を見るにまったく懲りた様子は見られない。
喧々囂々のミーティングはなかなか終わりそうにない。僕は少し退屈してきて、トイレにでも行こうかと腰を浮かしかけたその時。「ハイ」と手を上げて発言を求めた者がいた。我らがアイドル、リン・ミンメイだ。

「ど、どうぞ」

レギュラー作家に促されて、ミンメイは頷く。スッと立ち上がると、僕の手元のレポート用紙をサッと奪い返した。

「このお話、シェークスピア風にアレンジしたら?」

え?と大勢の人間が反応した。ミンメイはレポート用紙をパンパンと叩き、その大きくてキラキラしたお目々で室内のみんなを見渡した。

「売春宿のお話なんかじゃなくて、ゼントラーディさんと普通の地球人女性との恋話にするのよ。それこそ『ロミオとジュリエット』みたいにしたらいいわ。ああロミオ様、あなたは何故ゼントラーディ人なの」

ミンメイは苦悩する女性を真似てポーズを取った。一同はあっけに取られる。
すると大きくド派手な拍手がバチバチと室内に響き渡った。奥の席でずっと黙って話を聞いていたマイケルズだ。

「いいな、それ!採用!!」

マイケルズは立ち上がり、モッサモサの口ひげを揺らしながらミンメイを指差した。

「そのジュリエット役、ミンメイがやれ!」

「ご用命とあらば」

ミンメイはハーフスカートの両端をつまむと、優雅に一礼して見せる。まるで本当に中世のお姫様になったみたいな、美しい仕草だった。

こうして、ミンメイが出演するスケッチはあっさりと決まった。それも彼女自身が考えたネタで。




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