『Glory in my mind -中編-』 目次

過激化してゆくメガロード反対運動。人類に希望があるのは宙(そら)か大地か。

少年は成長し、兵士になった
今再び戦場へと旅立つ

一条輝 最後の戦い


  1 「あんたはバカだよバカ」

  2 12月10日。

  3 人間、食べ慣れたものが一番のご馳走だ。

  4 クローディア・ラサール中佐の現在の肩書きは

  5 クローディアからの連絡で

  6 みんなを見送って、

  7 その部屋に入った瞬間に、

  8 「リン・ミンメイさんのコンサートは」

  9 「艦長、大丈夫ですか」

 10 会議に出ていたジノビエフが

 11 現役の軍トップのスキャンダルは

 12 メガロードを護衛する防宙団は

 13 輝はブリーフィングルームを後にする。

 14 その日はメガロード側メンバーの最後の顔合わせだった。

 15 自分と輝は、同じ想いを抱いている。

 16 秘密の会合の席には、

 17 使われていない小部屋がいくつかあった。

 18 ブエノの休憩宣言と共にトイレへと立った輝は

 19 自分以外に、未沙がそんな顔を見せるとは思わなかった。

 20 会合の席に戻った未沙は落ち着かなかった。

 21 未沙は動揺していた。

 22 未沙はアキラに付き添われて

 23 アラスカ、マクロスシティ郊外。

 24 シティへと凱旋したリン・ミンメイは

 25 「や、やあ、ミンメイ」

 26 ビルとビルの間に

 27 最後のTV出演となったLIVE放送も終わり

 28 ライトグレーの光沢のあるスーツ

 29 「驚いたわ、兄さんが突然現れるなんて」

 30 「お客さん?」

 31 ミンメイが待っていたのは

 32 出発を明日に控え

 33 「やあ、ミンメイさん。初めまして」

 34 「やめて!乱暴しないで!」

 35 「…ご無沙汰じゃん、色男」

 36 輝の軍用携帯は延々着信の嵐だった。

 37 第13ブリーフィングルームの扉を潜ると

 38 「元気そうだね」

 39 2人の話し合いが無事に終わったらしい事は

 40 真っ赤に腫れた目元を見られたくなくて

 41 「 Glory in my mind 」 中書き 2




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「あんたはバカだよバカ」

「あんたはバカだよバカ」

ヨーコ・タジマの罵声に、早速始まったとばかりに会場は大盛り上がりだ。

「バカとは何ですか失礼な。いいから人の話を最後まで聞きなさい」

憤慨した顔で言い返すのは元大学教授のプロフェッサー・マスゾエだ。薄くなった前頭部から頭頂部にかけて剥き出しの頭皮を真っ赤にしながら、それでも冷静さを保とうと声を抑えている。

アラスカ中央放送局。
ウィークデーのお楽しみと言えば、政治討論とは名ばかりのいい歳した肩書き付きが大人気ない言い争いをするコメディトークショーだ。
北米大陸で10万人の視聴者を持つこのプログラムの人気は凄まじく、出演者達は髪を振り乱し口泡を飛ばし、時には立ち上がって殴りかからんばかりの大立ち回りでもって視聴者の期待に毎回充分なくらい応えてくれる。

中でも人気の悪役2人。共に日本人だと言うが、その出自国からくる大人しいイメージにはまったくそぐわないふてぶてしさと暴走っぷりが、視聴者の熱い視線を集めてる。
フェミニスト運動家のミス・タジマ、そして社会学者のプロフェッサー・マスゾエ。両者の感情剥き出しのナンセンスな罵り合いは、日々の労働に疲れたお茶の間の視聴者に失笑気味の笑いと他人を蔑む優越感を与え、ほんの一時ストレスから解放してくれる。
視聴者は時には出演者と一緒になって興奮し、時には理路整然と(あくまでも自分の中では)反論して異議を唱え、そしてその馬鹿馬鹿しさに腹の底から大笑いする。

「移民計画は人の命がかかってるんです。リスクを最小限に減らす努力は、やってやり過ぎな事はないんですよ。医学的にも空間認識能力は男性の方が優れている。何も妊娠中の不安定な状態の女性が無理に艦長なんて勤めなくても…」

「じゃあ女はお家で子守でもしてろってのかい。バカにすんじゃないよ。あんた学生時代モテなかったろ」

今日の議題は星間移民計画についてだ。今この地球においてもっともホットな話題である。
話の流れの中で、移民計画の安全性について取り沙汰されたが、現場の総責任者である早瀬艦長が妊婦である事にスポットが当てられた。確かに激務である艦長と言う仕事に対して、繊細な環境が求められる妊娠期の女性がそれに当たるというのは問題を感じない訳ではない。
この手の討論は彼女の妊娠が軍広報から発表されてから約半年、ずっと続いている。

「いいかい、女は人間1人この世に産み出すチカラがあるんだ。女が子供を産んでる時、男は一体何をしてる?青い顔でその辺ウロチョロしてるだけだろう。役立たずの男共と一緒にすんじゃないよ」

「だからそう言う話をしているんじゃないんだよ、何遍言ったら分かるんだこのオバハンは」

自分では出産経験のないミス・タジマだが、女を代表したつもりの発言で会場を盛り上げる。それに苦虫を噛み潰した様な顔のプロフェッサー・マスゾエ。
もはや定番となっている2人の掛け合い。理屈で論破しようとするプロフェッサーに対し、ミス・タジマは感情論で応戦する。基本的に会話が成り立っていないのだが、そのチグハグなやり取りが視聴者に大ウケなのだ。番組プロデューサーも「もっと!もっと!」とカメラの陰で煽っている。

「早瀬艦長はあんたがマクロスの隅っこで震えながらションベン漏らしてた時から先頭で戦ってきたんだ。あたしら生き残った地球人はみんなあの人に恩があるんだよ。そんな事も忘れちまって妊婦はダメだ女はダメだと、人間のいない今のこの地球で子供を産むって事がどんなに神聖な事か分かってるのかい!」

「だから、出産の重要性とこの話とは別問題なんだよ!妊婦の体調が悪い時に敵が攻めて来たらどうするんだ⁉︎」

「その時のために男がいるんだろうが!体張って守れよ!チ◯コ付いてんだろう!」

燃え上がる論戦にウキウキでステップを踏んでいたプロデューサーが慌てて頭上にバッテンサインを作る。
放送禁止用語はダメ!自主規制になるからヤメテ!
しかし走り出した暴走機関車二両は止まらない。

「チ◯コ付いてるからって何でもやれってのは性差別だろう!あんたフェミニストじゃないのか⁉︎」

「チ◯コ付いてたら何でもやれよ!あたしゃ女性の社会進出を後押しするのが仕事だ!男の事なんか知るか!」

観覧客の口笛に煽られてマスゾエとタジマが立ち上がって怒鳴り合う。スタジオ内はやんやの喝采、予定調和のトラブルに視聴率もウナギ登りだ。ただしプロデューサーだけはこの後の局長からのお小言を想像して青い顔になっている。

騒然となる現場の中で、番組出演者の中でも重鎮の政治学者、ミスター・ミヤケが隅っこの方でボソボソと話し出した。

「こらぁ今日も途中から音声切り替えですかな」

話し掛けられた、コメディアンで番組の看板タレントのキタノが肩を揺らす。

「生放送になる話あったけど、当分無理でしょうね」

2人は呆れた笑いを浮かべて事の成り行きを眺めている。
そんなtelevisionの映像を、自宅のダイニングで苦笑しながら見ていた新統合軍のクローディア・ラサール中佐は、ベッドルームから彼女を呼ぶ声に「今行くわ」と返事をして微笑みながらモニターのスイッチを切った。




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12月10日。

12月10日。
アラスカは既に深い雪の中に閉ざされている。

シティの道路には融雪用の温水が流れ、赤い鉄分がアスファルトの上を化粧していた。地下から引き上げられる温水には多量の酸化鉄が含まれていて、冬が終わる頃にはシティ中の道路は鉄の匂いで満たされる事になる。
遊歩道には、ところどころ温水の届かない箇所箇所に雪が降り積もっている。子供達はそれらをかき集め、スノーマンやサンドマンを幼い感性で不器用に作り上げてははしゃいでいた。

北国の冬は厳しい。
シティのブロードウェイを歩きながら、新統合軍の一条輝少佐は白い息を吐きつつ鼻をすすった。冷たい空気を吸い続けて、痛いくらい鼻先が凍りついている。防寒マスクを忘れたのは良くなかったかも知れない。喉を痛める原因にもなるだろう。

この日、久し振りに星間移民艦メガロードはシティの近郊に降り立ち、最後の移民受け入れの準備を始めていた。出航後のトラブルが無い様に、移民参加者はこの時点で殆どがメガロードに移り住んでおり、2週間後の本出発に備えて本格的な艦内生活を営んでいたのだ。

地上に降りたメガロードはシティのパトロール隊の防空圏に置かれる。仕事の無くなった輝は一月ぶりの休暇を取って、アラスカの懐かしい街並みを歩いていた。

「ジジ、インドカリーを食べた事はあるか?」

輝の半歩後ろを歩く背の高い金髪の女性は、愛称で名前を呼ばれてその青い目を上官に向けた。

「いえ、ありません少佐」
「寒い日には最適だ、香辛料たっぷりで温まるぞ。知ってるか?人間の幸福感は小腸から出るセロトニンで決まるんだ。それには香辛料をふんだんに使ったカリーがピッタリなのさ。
この先に双子のインド人兄弟がやってる人気の店があってな…」

輝の指差す先では、この寒空にも関わらず大勢の人が白い息を吐きながら路上に行列を作っていた。ざっと30人はいそうだ。

「…でも今日はやめとこう。ああ、そうだロシア料理は好きかい?うまいボルシチを作ってくれるオバさんの店がすぐ近くだ。ほら、あそこに…」

そこからすぐ裏の通りに意気揚々と歩いて行った輝は、上げかけたその手を途中で止めた。小さなロシア料理店の前にも、先程と似た様な光景が繰り広げられていたからだ。輝は後ろを振り返り、鷲鼻の白人女性に肩をすくめて見せる。

「なんだか、しばらく来ないうちにこの街も人が増えたらしい」
「復興の良い兆しでしょうか、少佐」
「うん、まあ、そういう事にしとこうか」

輝はヤレヤレといった風に笑った。ズザーナはいつも通り無表情で輝の側に直立している。

メガロードでの大隊勤務を始めて以来、輝は東欧系カナダ人のズザーナ・ライトと時間を過ごす事が多くなっていた。特に男女の関係という訳ではないが、気取らない性格の輝にとって、無機質な態度のズザーナは気を遣わなくていい便利な相手だったのだ。

ズザーナが何故輝に懐いているのかは良く分からない。メガロード初日から輝について回っているので、周りの者の中には2人の関係を誤解してあらぬ噂を立てる輩も居た。でも、輝はそれに対して特に言い訳をしたりはしなかった。
輝にとって、ズザーナ・ライトは年上の妹の様な存在だった。輝にそう思わせたのは、思わぬ自分との出生の共通点が彼女にあったからだ。

輝もズザーナも、共に母親を亡くしている。
父親に育てられた父子家庭は今の時代そんなに珍しいものでも無かったが、問題は母親を亡くしたタイミングだ。
2人とも、自分が産まれた際に母親を失っているのだ。

幼い頃の輝は、自分が産まれたせいで母親が死んだという事実を心の中で消化するのに相当な苦労を強いられた。父親や若かったフォッカーらの存在が、彼を家族という疑似体験で包み込んでくれなかったら立ち直れなかったかも知れない。
あの頃の辛い気持ちを、経験した人間がいま目の前にいる。この狭い世の中で、輝にとってある意味同志と呼べる相手は彼女だけだ。

彼女の出生について知ったのは偶然だった。別段隠すような性格でもないのだろう、あっさり自分でそう語ったズザーナを、輝はプライベートでは特別扱いする様になっていた。

今日も、貴重なオフを共に過ごしている。街に降りようと声を掛けたのは輝からだった。ズザーナはいつも「はい、少佐」と無表情に答えるだけだ。

「さて、どうするか。腹が減っては戦も出来ないな」

鼻を赤くした輝が、ストリートの左右を見回しながら呟くと、ズザーナが無表情のまま口を開いた。

「少佐、出撃時に胃の中へ物を詰めておくのは危険ではありませんか」

「あ、うん、そうなんだけどさ」

輝は苦笑して、生真面目な6つ歳上の女性士官を眺めやった。ズザーナに日本語の慣用句を説明するのもちょっと面倒くさい事になりそうだ。


一条輝は21歳になっていた。
間もなく宇宙移民の旅を控えている輝にとって、これが地球で過ごす最後の冬となる。




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人間、食べ慣れたものが一番のご馳走だ。

人間、食べ慣れたものが一番のご馳走だ。
そう言って輝がズザーナを連れて来たのは、マクロス時代に世話になった中華料理店「娘娘」だった。
ミンメイと初めて出会った場所でもある。
そして輝の数少なくなった「帰る家」でもあった。

「輝ちゃん、お帰りなさい」

娘娘のおばさんはいつ見てもスタイルがいい。もう40半ばを過ぎている筈だが、スラリと細長いそのシルエットを見るたびに、ミンメイの「おばさんみたいにスリムに生まれたかった」と口惜しがる顔を思い出す。

「おばさん、俺の部隊の部下なんだ。世界一美味しいおじさんのチャーハンを食べさせたくて連れて来たよ」

輝はズザーナを紹介する。直立で15度の敬礼をするズザーナは「ズザーナ・ライトです」と名を名乗った。おばさんは笑顔で迎えてくれる。

「綺麗な人ね、輝ちゃんも隅に置けないわ」
「違うよ、そんなんじゃないさ」

輝はおばさんの攻めを軽くいなして席に着いた。昼食時からはかなり外れていたが、店は相変わらず混雑していてかなり忙しそうだ。もう顔馴染みとなったアルバイトの子も額に汗して頑張っている。おじさんに挨拶したかったが、これでは却って邪魔になってしまうだろう。

「ここは俺の家の様なもんだ、気楽にしてくれ」
「少佐の生家でありますか」
「いや、そうじゃない。世話になってる人の家なんだ」
「では他人の家でありますか」
「う、うん、そうとも言うな」

ズザーナの無感動な反応にはいつも面喰らわされる。まるでゼントラーディ人を相手にしているみたいだ。なまじっか常識があるだけに余計面倒くさい。

部隊でも変わり者扱いされるズザーナだが、輝はそんな風変わりな彼女が家族の様に思えて可愛くて仕方なかった。
大隊長という、軍隊においてはかなり規模の大きな組織の長として、輝はまるで家長の様な気持ちで多くの隊員達と接している。
自らもエースパイロットとして戦闘機を駆る輝だが、少しずつ世の中における自分の立ち位置が変わりつつある事を肌で感じていた。
今まで、自由に好きなだけやりたい事をやらせて貰ってきた。我儘な事もたくさん言ってきたと思う。そんな、ヤンチャな現役でいられる時間もいよいよ残り少ないのかも知れない。
自分の体調に関する事も、もしかしたらそうした流れに纏わる天啓なのだろうか。

「ジジは中華は好きか?」
「分かりません。嫌いでもありません」
「じゃあそういう時は好きって言うんだよ」
「はい、少佐」

素直なのは一種の才能だ。輝はズザーナの素朴な態度がとても気に入っていた。
アジア風の雰囲気が珍しいのか、ズザーナはキョロキョロと店内を見回している。その向こうからおばさんが大盆を手にして歩いて来た。

「はい、輝ちゃんのチャーハン。ちょっと固めにしてあるってウチの人が」
「ああ、さすがおじさん。良く分かってる」
「そりゃ自慢の息子の好物だもの、忘れようがないわ」
「そういえば誕生日のお祝いありがとう。宿舎に届いててビックリしたよ」
「フフ、私とあの人とで選んだのよ」

楽しそうに会話しているおばさんと輝を交互に見ているズザーナ。視線に気が付いて、そのズザーナにおばさんが水を向けた。

「ズザーナさんはチャーハンは初めて?」
「はい、初めてです」
「チャイニーズ・フライドライスよ。気に入って貰えるといいけれど」

にこやかに微笑まれて、ズザーナは何故か少しおどおどしだした。それを見て輝が不思議そうに尋ねる。

「どうしたジジ」
「は、何でもありません少佐」

輝に声を掛けられてズザーナは背筋を伸ばす。「ゆっくりして行ってね」とおばさんが席を外すと、その背中をじっと見ているのが輝には気になった。

「さ、あったかい内に食べようか」

輝に促され、ズザーナはレンゲを手に取る。初めて目にした陶器製のスプーンをしげしげと眺めてから、丸く山の様に盛られたチャーハンへとそれを差し込んだ。
大きく口を開けて大量のチャーハンを放り込む。

「どうだ?美味いだろう」
「はい、美味いです少佐」

輝は安心して微笑んだ。

「俺はこれが大好きなんだ。パラパラっと米が一粒ずつ分かれてるだろう?たまんないよな」
「はい少佐」
「メガロードの士官用サロンじゃこうはいかない。知ってるか?あそこにはガス調理器が無いんだ。キッチンのベイクリードさんはれっきとしたコックなのに、IH電熱器ばかりで悲しいって嘆いてたよ」
「はい少佐」
「中華は火力が命なんだ。安全と効率の為にガスを使わないなんて、どうせ設計した奴らは本物の中華料理を食べた事がないんだろう。精々エビチリくらいしか知らないんじゃないか」
「はい少佐」

会話なのか輝の独り言なのか、第三者が居たら判断の難しいやり取りが続く。しかし2人にとってはこれがいつものコミュニケーションだった。輝は満足気にスープを啜っていたが、返事をしながらどこかモジモジとしているズザーナが気になって改めて質問してみた。

「どうしたんだジジ?何か気になるのか?」

問われたズザーナは逡巡しながらも、少し声と姿勢を低めて話し出した。こんな彼女は珍しい。

「その…あの女性はまるで少佐のお母さんの様です」
「そうだな、俺の母親みたいな人だ」
「でも、少佐とは他人だと伺いました」
「まあ、血は繋がってないな」
「育ての親という事でしょうか」
「う〜ん…出会ったのは4年前で、その時はもう俺1人で生きてたけどな」
「では何故少佐の母親になれるのですか」

輝はここまで会話して、何となくズザーナがいつもと違う原因を理解した。

「ジジはずっとお父さんと生きて来たんだっけ」
「はい少佐」
「カナダのどこだっけ?」
「パウエルリバーです」
「…どこだそれ」
「ずっと西の方になります」
「森の奥とかか」
「はい、森の奥です」

輝はレンゲを置くと、自分の顎を撫でてズザーナの精悍な顔立ちを眺めた。人よりクマの方が人口の多いカナダの山奥で育ったズザーナは、あまり他人と接触しないまま成長したらしい。妙に世間からズレているのもそれが原因なのだろう。
そのうえ生まれた時から母親のいなかった彼女にとって、娘娘のおばさんと輝の関係が不思議に映るのも致し方の無い事だろうか。

「人は血が繋がっていなくても、親兄弟の様な関係になれるものさ。それは信頼であったり、愛情であったり、色んなものがキッカケで結ばれるものなんだ。寂しさだっていい」

ズザーナは少し困った様な顔をしている。輝の言う事をうまく噛み砕けないのだろう。輝は可笑しくて笑いが込み上げて来た。

「ジジがそんな事に興味を持つなんてな。意外だったよ」
「不思議に思っただけです」

ズザーナは特に感慨も無さそうに返事をした。輝はズザーナのそんなところも可愛いと感じてしまう。

「今の俺にとっては大隊のみんなが家族みたいなもんだ。俺はジジを妹だと思ってる」
「少佐は自分より年下であられますが」
「いいんだよ、雰囲気だ雰囲気」
「はい少佐」

輝は込み上げる笑いを抑えながらレンゲをまた手に取った。しばし2人は黙々とチャーハンをかき込む。

「…少佐」
「なんだジジ」
「自分にも…お母さんになってくれる人が現れるでしょうか」

意外な言葉に、輝は米粒を吹き出した。喉につかえて慌てて胸をドンドン叩く。

「な、なんだって?」
「いえ、何でもありません」

黙ってチャーハンを口に運ぶズザーナを見て、輝は少しだけ悲しくなった。それは、自分とズザーナにだけ分かる感情だったかも知れない。

「なあジジ」
「はい少佐」
「おばさんにさ、君のお母さんになってくれる様に頼んでみようか?」

輝の提案に、ズザーナは忙しそうに立ち回るおばさんの姿に目をやった。輝も視線でそれを追う。

マクロス時代での縁が元で、未だに娘娘の夫婦には何かと甘えさせて貰っている。カイフンやミンメイとあんな事になっても、おじさんとおばさんは変わらぬ態度で輝を迎え入れてくれていた。
ミンメイとの事も、知らない訳じゃないだろう。あれだけワイドショーなどで騒がれているのだ。でも、二人共一言も輝にその事を聞いて来ない。

本当に、俺の母さんが生きていたら、あんな人であって欲しい

最近の輝はそうまで思える様になっていた。それは単なるノスタルジーだったかも知れない。でも、輝にとってはとても大切な想いの一つだった。

「…いえ、あの方は少佐のお母さんです。自分のお母さんではありません」

「…そうだな」

ズザーナの、ちょっと寂しそうな表情に胸を打たれて、輝は黙ってしまった。
温かい筈のチャーハンも、すっかり冷たく感じてしまう休日の午後だった。




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クローディア・ラサール中佐の現在の肩書きは

クローディア・ラサール中佐の現在の肩書きは、新統合軍の軍史編纂室室長という、知っている者が聞けば「…ああ、あそこね」と微妙な顔をするものだった。

軍における戦闘や暴動鎮圧、記念行事や組織編成の移り変わりといった様々な歴史を記録し、節目のタイミングで軍史書を校正出版するという歴史的価値の高い部署なのだが、戦う為にいる軍人達にとってあまり食指をそそられない役割であるのは間違いない。
それ故か、ここに配属されれば最後、昇進や勲章などの華々しい栄誉ともまったくの無縁と言われている。有り体に言えば、左遷先として用意されたいわゆる閑職と呼ばれる職場の一つであった。

クローディアは毎朝9時に出勤し、ビジネスアカウントのメールチェックから1日の仕事を始める。くだらない用事ばかりで、ほとんどを流し読みで済ませてしまう。
午前中は特にやる事もなく、スタッフと談笑したり、ネットショッピングをしながら次の休暇プランを考える。最近出来た年下の彼氏は金銭的に頼れないので、自分の自由に出来るコストの範囲内で旅行先をチョイスして遊ぶ。

一通り時間を潰してから、ランチを取りに士官食堂へ行くと指令センターのキムを見つけた。懐かしい昔話に花を咲かせ、意味のない愚痴を言い合ってから遅めに編纂室へ戻ると、デスクに置きっぱなしにしていた軍用携帯に着信があった事をスタッフに告げられる。

誰かしら?こっちの携帯に掛かってくる事なんて、今じゃ滅多にない事なのに

スタッフが出してくれたコーヒーの湯気を顎に当てながら、クローディアは見知らぬ番号にリダイヤルする。2コールで繋がった先はなんと病院だった。

マクロス記念病院。
グローバル総司令の入院しているシティ最大の総合病院だ。

『お目覚めになられたら、こちらの番号にご連絡するよう承っておりましたもので』

電話の相手の衝撃的な言葉に、しかしクローディアは表情を変えずにさり気なく左右に視線を走らせる。

「あらありがとう。その件はまたこちらから返事をしますので、そのままにしておいて下さって結構ですわ。他への連絡もいりませんから」

クローディアは微笑みながら電話を切った。「どうしました?」と聞いてくる若手の下士官には「今日は天気いいわね」と笑いかけるだけだった。




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びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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