「早瀬総司令、あなたを逮捕します」

「早瀬総司令、あなたを逮捕します」

エデン軍総司令部の執務室。
部屋の主に向けられた無数の黒い銃口が、窓から差し込む陽の光を鈍く冷たく照り返している。
それらに視線を投げてから、人類史上初の地球外入植惑星となった“エデン”の軍最高指揮官は、ゆっくりとプレジデントチェアを後ろに引いた。肩にかかる髪を揺らし、薄いピンク色の唇を引き結んで悠然と立ち上がる。

ピッと背筋を伸ばすと、突き出された形の良い胸が美しいシルエットを描く。その凛々しくも威風堂々とした様は、彼女を半包囲する無礼な侵入者どもを一瞬怯ませた。

「ここはあなた方の様な人間が来る所ではありません。今すぐ出て行きなさい」

穏やかに、しかしハッキリとそう告げる。
その静かな迫力に抗せず、侵入者達は思わず顔を見合わせた。手にした短機関銃の銃口が自信無さげにウロウロと彷徨い出す。
しかしその場の動揺を見て取った人物が、すぐさま男達の間を割って前へと進み出た。

「エデンのレジェンドに対しての非礼はお詫びします。しかし早瀬元帥閣下、貴方には我々にご同道頂かねばなりません」

その男の顔を見た時に、全てを悟ったエデン軍総司令は、僅かに後悔の念を翡翠色の瞳の中に浮かべた。その細く長い指をギュッと握り締める。

「…あなたが裏切り者の正体だとは思いませんでした」

「早瀬閣下、それは違う」

男は硬い表情で否定する。

「裏切ったのはあなた方だ。我々を騙し、虐げ続けてきたその報いを、いま受ける時が来たのです」

もはや何を言っても無駄だと理解したエデン軍総司令は、翠緑の瞳を閉じて天を仰いだ。長い睫毛が微かに揺れる。



ああ、願わくばどうか神様
これ以上の血が流される事がありません様に

そしてどうか
どうか無事でいて

私の愛する、たった一人の娘


未来…




スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

惑星エデンは西暦2012年に

惑星エデンは西暦2012年に、太陽系より11.7光年離れたグルームブリッジ星系で発見された地球型惑星である。地球や火星と同じく岩石や金属などの難揮発性物質から構成され、惑星表面には水と大気が存在し、有害な宇宙線を通さないオゾン圏も形成されている。

「ふ〜ん」

広大な海と、地殻変動によって形成された山脈が織り成す3つの大陸がエデンの世界を形作っている。地表には藻類が繁殖し、酸素濃度、窒素、二酸化炭素などの空気の構成比も地球のそれと酷似した物である。

「へ〜」

現在は大規模な造成により、様々な動植物の繁殖にも成功している。母なる地球と寸分違わぬ住環境と言っても過言ではない。
外宇宙へと飛び出した人類の新たな入植先として「希望の星」とも呼ばれている。まさしく楽園(エデン)と呼ぶに相応しい新天地である。

「なるほどね〜」

ただっ広いラウンジで惑星エデンの紹介VTRを見ながら、俺はポテトチップスをパリパリと健康な白い歯で噛み砕いていた。アルミバッグに手を突っ込むが、どうやら今のが最後の一枚だったらしく、指先は虚しく空を掴む。残念そうに空振りした指先の脂をペロペロと舐めていると、天井いっぱいに広がるEL液晶の巨大モニターに青い星が映し出された。これはリアルタイムの外の景色だろうか?となると、いよいよこの宇宙船も惑星エデンに到着という訳だ。

「何してんのお兄ちゃん」

不意に後ろから声を掛けられる。振り向くと、ショートカットの女の子がドリンクボトルを片手にこちらへ歩いて来るところだった。
毛先が軽く跳ねた黒い髪に、大きくてドングリのようなキョロキョロした黒い瞳。
多くの人はこの子の事を「東洋人」と一言で片付けるが、俺には分かる。彼女はれっきとした「日本人」だ。
何故なら、兄である俺もまた「日本人」の血を引いているからである。

「別に何も」

俺はアルミバッグをクシャクシャと丸めてダストカンに放り投げる。リクライニング・チェアに身体を投げ出すと、両腕を頭の後ろに組んで枕の代わりにした。
天井の巨大モニターが目の前に広がり、青く輝く美しい星がまるで手の届く距離にあるかの様に感じられる。

「パパがね、もうじきエデンに着くから降りる準備をしておけって」

妹の深雪はズズズと音を立ててドリンクボトルのストローを吸っている。
ライトネイビーのニットシャツに、ダークトーンのプリーツスカート。足元はモコモコとしたファーサンダル。今年15歳になるリトルシスターは、リクライニング・チェアの横まで来ると俺に倣って天井を見上げた。

「おっきな星ねぇ」
「そうか?地球と変わんない筈だぞ」
「じゃあ地球もおっきいのねぇ」
「宇宙に比べりゃ小さいさ」

俺はうーんと全身で伸びをした。星間船に乗って地球を出てから今日で一週間。この代わり映えのしない船内の光景にはいい加減ウンザリしていたところだ。早くあの星に降りて、太陽の下で無茶苦茶走り回りたい気分でいっぱいだ。
まあ多分実際に走り回ったりはしないだろうけど。

「ここが私たちの生まれ故郷かぁ」

深雪は特に感慨も無さそうに呟いた。俺はただ小さく頷く。

「まぁ、俺は正確にはこの星で生まれた訳じゃないんだけどね」

俺は天井いっぱいの青きエデンを眺める。この星が発見されたのは今から16年前、俺が1歳の時だった。
その時の俺は、両親に連れられて星間移民艦メガロードに乗っていた。だから、生まれたのは移民艦の中であってこの星ではない。

当時は移民艦メガロードで初めて産まれた子供という事で、「Children of the universe(宇宙の子供)」なんて騒がれていたらしい。まあ、当然ながら1歳の俺は何も覚えていない訳だが。

「エデンねぇ」

見上げた楽園(エデン)は青く美しく、雄大だった。
俺は両手を上げて指で丸を作る。その中に、大きなエデンは収まり切らない。
人類の第2の故郷、そして新たなる希望の星エデン。帰って来たのは10年ぶりだ。

「ただいま、エデン」

蓼丸 航 (たでまる こう) 17歳、日本人。この日、故国たる“惑星エデン”へと降り立った。

物語はここから始まる。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

「お兄ちゃん、こっちこっち!」

「お兄ちゃん、こっちこっち!」

妹の深雪に呼ばれて、俺はバックパックを片肩に担ぎながら早足でセントラル・ゲートをくぐった。
ここは惑星エデンのスペースポート。地球やその他の惑星からやって来る人々が最初に訪れる、宇宙の玄関口だ。
宇宙港は見渡す限りの人の渦だった。よくこれだけ人間が集まるもんだと感心してしまう。もしかしたら地球を出た時のアラスカのスペースポートより混雑しているかも知れない。
長い旅を経てこの星へとやって来た者、逆にこの星を去る者、出迎える者、見送る者。目的は人それぞれだろうけれど、新しい惑星らしく皆活気に満ち溢れている。こうした喧騒は湿っぽくなくて気分が良い。

生体認証による入星チェックを受けた俺は、すでにゲートの外で待っていた親父と妹の所へと急ぐ。
視線をウィンドゥの外に向ければ、灰色の空にチラホラと雪が舞っていた。今日は新しい年の最初の日New Year's Dayだ。日本風に言えば『元旦』である。アラスカほどではないだろうが、エデンにも冬は存在するのだから雪は珍しくない筈だ。
俺は目を細めて、幼い頃に見ていたはずの景色を眺める。10年ぶりに見るエデンの冬空。正直、地球とそんなに変わらない気がする。

「お兄ちゃん、前!」
「きゃっ」
「うわっ」

余所見をしていた俺は、早足のまま他の通行人にぶつかってしまった。しなやかで軽やかな感触の後、勢いのままその相手を押し倒す。

「す、すみません!」

慌てて身を起こそうとして、右手の柔らかな感触に気が付いた。まず自分の右手を確認し、次いで相手の顔を確認する。翠緑の瞳とバッチリ目が合った。
押し倒したのは年上の女性だった。年の頃は20代後半か、30代といった所だろうか。薄いピンク色の唇、すっと通った鼻すじ、ライトブラウンの長い髪。肌は白くて陶器のようだった。長い睫毛、小さな耳朶、そして何よりその深く透き通ったライムグリーンの静かな瞳…

「手…どかしてくれる?」

相手の女性は少し困ったような顔をして、俺の右手を指差す。俺は素早く右手をパッと引き戻した。でも、手のひらには確かに…その双丘の膨らみの柔らかな感触が残っていた。顔がカァッと熱くなる。

「す、すみません!」

もう一度謝って、勢い良く立ち上がる。相手の女性に手を貸そうと右手を差し出し掛けて、すぐに左手に差し替えた。なんだかこの不届きな手で助け起すのは失礼な気がしたから。

「ありがとう」

女性は俺の左手を取ってゆっくりと立ち上がった。何と言うか、ただ立ち上がるだけでもとても優雅な仕草だった。
背丈は俺と同じくらい。いや、少し低いかも知れない。ゴールドの金具がアクセントになったアイボリーのトレンチコートを羽織り、ダックイエローのハイヒールを履いている。胸元からはチラリとターコイズブルーのアンダーシャツが覗いていて、真っ白なデコルテには小さな金細工のネックレスが揺れていた。
スラリとしたスタイルで、とても腰が細かった。まるでファッションショーのモデルさんみたいだ。

女性はサッとコートの埃を払うと、俺に向かって「大丈夫?怪我はない?」と聞いて来た。俺は気を使うべきなのは自分だと気が付いて恥ずかしくなる。

「だ、大丈夫です、あなたこそお怪我は…」
「平気よ、ありがとう」

女性は笑った。白い歯がキラリと光って、艶のある長い髪がサラサラと揺れる。よく整えられた細眉が美しいカーブを描いていた。
綺麗な人だ、俺は純粋にそう思った。

「前をよく見て歩いてね」

女性は笑顔でそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いて「それじゃあ」と身を翻した。何故か俺はその人に立ち去って欲しくなくて「あ、あの!」とその背に声を掛ける。女性は立ち止まり、振り向いてくれた。

「さ、触っちゃってすみません…」

女性は一瞬えっという顔になったが、すぐにクスリと笑って「Happy new year」とだけ応えて去って行った。ハイヒールの立てるコツコツという音だけがスペースポートの喧騒の中で俺の耳を捉えて離さない。
人混みへと消えて行く女性の後ろ姿を呆然と見送る俺。その尻を後ろから誰かが蹴りつけた。

「イテッ」
「なぁにボケっとしてんのよ」

振り返ると、妹の深雪が腕を組んで立っていた。仁王のように両の眉尻が吊り上っている。

「デレっとしちゃってさ、このスケベ」
「べ、別にデレっとしてねぇよ」
「どうだか」

深雪はベーっと舌を出すと、さっさと俺を置いて先に歩き出した。「お、おい待てよ」と追いかけようとする俺の肩を誰かが掴む。

「航、今の女性は?」

親父だった。蓼丸 勇(たでまる いさむ)46歳、政府の役人をやってる。俺が7歳の時に、エデンを離れて地球へと移り住んだのもこの親父の仕事関係によるものだった。
今回、深雪と一緒にエデンへ帰って来たのもまた親父の仕事の都合だ。

「いや、余所見してたらぶつかっちゃってさ。別に何でもないよ」

俺は照れ隠しに肩をすくめて見せる。親父は「そうか…」と呟いただけでそれ以上何も言わなかった。何だろう、好みのタイプだったのかな?
でもまあ親父みたいなおっさんじゃあ、あんな美人はちょっとハードルが高いよね。

「男ども〜!早くしろ〜!」

深雪がチューブトレインのゲート前で大声を張り上げる。腰に手を当てて鼻から荒い息を吐いていた。俺は「はいはい」と呟きながら歩き出す。親父は何も言わずその後に続いた。

窓の外は相変わらずの雪である。2029年1月1日、年明けのエデンは真冬の真っ只中だった。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

エデンの首都へと向かうチューブトレインの中で

エデンの首都“アイランド・シティ”へと向かうチューブトレインの中で、俺はモバイルタブレットを操作する。地球の仲間たちのSNSをチェックしているのだ。

サボリ魔のベニートは無事進級試験に合格したらしい。ナンパ野郎のバジリオはまた女の子に振られたようで、気のいいイサークに慰められている。エンゾとコッキーのノミのカップルは、この冬は山荘に篭ってボード三昧みたいだ。多分春まで街に帰って来ないだろう。

みんな相変わらず楽しくやってるようだった。アラスカの冬は厳しいけれど、あの愉快な面々がいるマクロス・シティが懐かしく感じる。まだ離れて一週間しか経っていないのに。

液晶画面に指を走らせてSNSのウォールをロールしていると、ある投稿の上で指が止まった。そこにはブロンドヘアの少女が大勢の仲間に囲まれて微笑んでいる。

「リゼット元気そうじゃん」

横から覗き込んで来た深雪がボソッと囁く。ビックリした俺は慌てて画面をスクロールさせた。

「人の画面覗くなよ!」
「女々しいのう兄者、振られた相手をSNSで眺めるだけとは」
「ふ、振られてねえし」

クフフと笑う深雪を押しやって、俺はモバイルタブレットをポケットへとしまい込む。が、思い直してもう一度取り出した。
今度は画像アルバムをタップする。スルスルと昔の日付けを探し出し、10年前のフォルダを開いた。いくつかの画像がバーっと液晶画面に広がる。

その中の1つをタップすると、3人の子供が現れた。男の子が一人、女の子が二人。
男の子は7歳の頃の俺だ。女の子の片方は5歳の時の深雪。まだエデンを去る前の昔の写真である。

「あ、懐かしい〜」

また横から深雪がタブレット画面を覗き込んで来る。俺は深雪の頭を押しやってどかすと、じっとその写真を見つめた。子供時代の俺と深雪の間で、満面の笑みを浮かべている酷いくせっ毛の女の子…俺と同じ、星間移民艦メガロードで生まれたもう一人の「Children of the universe(宇宙の子供)」だ。

「元気かな、未来ちゃん」

深雪は嬉しそうに呟く。深雪はこのくせっ毛の女の子…『未来(みく)』によく懐いていたから、久し振りに会えるのは楽しみだろう。
もっとも、もう10年も前の話だから、向こうはとっくにこちらの事など忘れているかも知れない。俺だって、こうしてエデンに舞い戻る事になるまでは、あの頃の事など思い出しもしなかったのだ。

「今なにしてるんだろうね?」
「そりゃ、俺たちと同じ学生だろ」

未来は俺と同じ日に、同じメガロードの病院で生まれた。なので俺が17歳ならあいつも17歳なのだ。特に問題がなければ、今はハイスクールの二回生をしている筈だ。

「会えるの楽しみだな〜。私たちのこと覚えてるかな?」
「どうだかな。10年も前じゃ忘れてるんじゃないの」
「そんな事言って〜、本当はお兄ちゃんも気になって仕方ないんじゃないの?」
「バ、バカ言え、なんで俺が」

ニヤニヤと笑う深雪を押しのけると、俺はタブレットをポケットにしまった。
未来と俺と深雪は、エデンには珍しい日本人の子供という事で昔はよく一緒に遊んだものだ。無茶苦茶なくせっ毛が特徴の奴で、いつも頭が爆発してボッサボサになっていた。遠くにいても、あの頭のお陰で誰だかすぐに分かった位だ。
あまりにチンチクリン過ぎて、俺はずっと未来のことを男だと思っていた程である。

あの未来も、俺と同じ17歳か。
あの頃の未来の顔を思い出す。地球にいた頃はまったく意識しなかったけれど、こうしてエデンに帰って来るとちょっと気になる相手ではある。

…でもまあ、あのチンチクリンが17歳になったところで大して期待も出来ないが…

「もうじき駅だぞ」

親父が振り向いて俺と深雪に声を掛けた。俺は「おう」と応え、深雪は「は〜い」と返事をする。
チューブトレインは、雪に煙るアイランド・シティ・ステーションへと差し掛かっていた。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

惑星エデンの首都“アイランド・シティ”。

惑星エデンの首都“アイランド・シティ”。
北大陸の東端にある、300平方マイルほどの島を丸ごと近代都市化したメトロポリスだ。エデンにおける政治経済の中心であり、これから俺たち家族が暮らす街でもある。

「ねぇ、君でしょ?地球から来た転入生って」

短い冬休みが終わり、1月5日から再開された冬学期(日本で言う三学期)から、ここノースポート校のハイスクールに俺は通い始めた。
かつてエデンにいた頃は、エレメンタリースクール(日本で言う小学校)の二回生だった。10年後の今はハイスクールの二回生という訳だ。
妹は、同じノースポート校のミドルスクール(日本で言う中学校)に通っている。

「ああ、航(KOH)って言うんだ。よろしくね」

声を掛けられて、俺は愛想良く応対する。こうした適応力の高さこそが日本人の美徳だと、政府のお役人をしている親父が昔言っていた。ホントかどうかは知らないが、この愛想の良さのお陰で地球でも友達付き合いには困らなかった。
しかし、声を掛けられるのはこれで朝から何人目だろう?ノースポート校ではよほど転入生が珍しいのか、それともいよいよモテ期到来の奇跡が始まったのか…

「ああ、そんなの簡単よ」

フレンチフライを齧りながら、カフェテリアランチ(学食のこと)で俺に色々と教えてくれたのはアビー・ミシェルカと言う女の子だった。
三つ編みおさげの赤毛に、頬いっぱいのソバカスが特徴的な女子だ。かなりなおしゃべりで噂好きだというのは、会って5分で良く分かった。

「“地球帰り”が珍しいからよ。みんなあっちの話を聞きたいんだから」

アビーがニヤリと笑う。その隣りでストロベリー・シェイクをストローでズルズルと吸っていたケニー・イースタディがうんうんと頷いた。

「そうだよね、地球人はここじゃあ珍しいもんね」

ケニーは栗毛碧眼の好青年だ。童顔で可愛らしいルックスだが、低い身長と相まってその事を本人はかなり気にしているらしい。自己紹介の時に「君と同じ“17歳の”ケニー・イースタディだよ」と、俺と同い年である事を何度も何度も強調していた。まあ、そんな事はどうでもいいんだけれど。

「そうだな、多分二回生には地球人はいないな」

俺の隣りに座っていたツォフが腕組みをしながらそう発言する。オレンジ色の髪をして、かなりガタイの良い奴だった。別に本人に聞いた訳じゃないが、見ただけで分かる。間違いなく彼はゼントラーディ人だろう。
ノースポート校に限らず、エデンにはゼントラーディ人が多かった。ガキンチョの頃はそうした人種の違いを意識した事はなかっけれど、地球で10年も暮らしていれば嫌でも「地球人」と「ゼントラーディ人」の違いは分かる。
エレメンタリーでもミドルでも、お互いの環境を侵さぬよう、その2つの人種はハッキリと「区別」されていた。
いや、むしろ「差別」と言っても良かったかも知れない。それらは学校側からも公然の事として認められていた。公平なはずの教師でさえ、その例からは漏れていなかったのだ。

だから、エデンに帰って来て最初に驚いたのはゼントラーディ人が普通に過ごしている事だった。ここでは地球人とゼントラーディ人の区別はない。どちらも同じ人間、いや「エデン人」と言う事なのだろうか。俺には分からないが、そうした空気感のような物をヒシヒシと感じる事がこちでは多々ある気がする。

「地球人って言っても、俺は元々こっちに居たからなぁ」

俺は肩をすくめた。このエデンが発見されたのは今から16年前で、俺と同じ二回生17歳のこいつらは全員エデン以外で生まれている筈であり、その後にこの星へと家族に連れられて入植した筈だ。純粋なエデン生まれのエデン人は俺たちより下の年代にしかいない理屈になる。

「え〜、でもずっと地球に居たんでしょう?」

アビーが不満そうな声を上げる。俺はわざと勿体つけて頷いた。

「そりゃあ居たけれど」
「何歳から?」
「ん〜と、10年前だから…7歳?」
「じゃあ人生の半分以上地球じゃん!いいなぁ〜」

アビーは心底羨ましそうにそう言った。横でケニーがウンウンと頷く。
どうもエデンでは「地球帰り」というだけでかなりのステータスになるらしい。まあ、確かに地球と言えば人類発祥の星だし、21世紀の現代でも政治文明文化全ての基盤となっている。
例えば新統合政府の内閣府は地球にあるし、世界最大の重工業会社である新星インダストリーの本社ビルはアラスカにある。スペース・ビルボードチャートは地球での流行りを一番に取り上げるし、人気のあるディーバがスペース・ツアーをやる時は大トリは間違いなく地球のどこかのステージでだ。かの伝説のリン・ミンメイですらそれは例外じゃない。
ただ「地球で暮らしていた」というだけで自分にプレミア感が生まれている事に、俺の虚栄心はこしょこしょと擽られている。まあ、持ち上げられるのは正直悪い気はしない。行き過ぎると害悪になるのでその辺は注意が必要だが。

「エデンに居たのは7歳までか」

横に幅広い自分の顎を撫でながらツォフが呟く。なんかコイツ妙に賢しそうな雰囲気があって油断出来ない気がする。

「そんな子供の頃なんて、さすがにあんまり覚えていないんじゃないか?」

ツォフの何気ない一言に、何故かその時の俺はハッと反応した。

「いや、覚えていなくもない」

俺はモバイルタブレットを取り出す。写真フォルダを開き、まだエデンで暮らしていた10年前の日付をタップした。

「これ、俺がエデンにいた頃の写真だ」

そこには俺と妹の深雪、そして同じ日、同じメガロードの病院で生まれた「Children of the universe(宇宙の子供)」未来が笑顔で写っている。

「これ、エデンにいた頃の写真なんだ」

モバイルタブレットの画面をみんなに見せる。3人は興味津々に画面を覗き込んできた。

「やだ、可愛い〜!」
「で、どれがコー?」
「見りゃ分かるだろ、左の美男子が俺だ」
「美男子かどうかはともかく、面影は確かに分かるかな」
「…ツォフ、おべっかって言葉知ってるか?」

俺たちはワイワイやりながら昔の話を語り合った。写真の2人の女の子について聞かれたので、俺は妹の深雪と、幼馴染みの未来の説明をする。

「…という訳で、昔馴染みの未来って子がこっちにいる筈なんだけれど、何しろガキの頃の話なので連絡先とかそんなのはまったく覚えていないんだ」

俺は未来が写っている画像をいくつか3人に見せる。おしゃべりアビー、童顔ケニー、ゼントラーディ人のツォフは興味津々といった顔で画面を覗き込んだ。

「もしかしたらこのノースポート校に居たりしないかと思ったんだけど、オタクら心当たりない?」

俺はなるべく軽い感じで3人に質問を投げ掛けてみる。3人は最初それぞれに腕組みをして考えてくれていたが、やがて顔を見合わせてお互いを探り合うような表情で口を開いた。

「…知ってる?」
「う〜ん、分からないや」
「ちょっと心当たりがないかな」

俺は少し肩を落として「そうか」と呟いた。あまり残念そうな感じを見られると変な誤解をされるかも知れないので「まあ、そんなに気にしてないんだけどな、ハハハ」と笑って誤魔化す。

「あ、でも」

アビーがポンと手を叩いた。

「このくせっ毛って、もしかしてミックじゃない?」

アビーの一言に、ケニーとツォフは眼を見張る。

「え?これ、ミックの子供時代の写真?」
「これミックか?そんな訳が…いや、確かに似てるか…いや…」

ん?どういう事?俺は3人の返事を待つが、3人は「いやいや」とか「まさかそんな」と妙な反応を繰り返すばかりだ。

「その、ミックってのは誰?」

俺は気になって質問をする。おしゃべりアビーがその大きな口を開こうとした瞬間、三つ編みおさげの後ろから甲高い声が響き渡った。

「あなたが“地球帰り”さん?」

その声に、3人は一斉にすくみ上がる。俺は何事かと視線を声の主に向けるが、相手はバッチリとこっちを睨め付けている所だった。

「ちょっと、お話聞かせて頂けるかしら?」

現れたのは、毛先がクルクルと巻かれたブロンド白人の女の子だった。
見れば、両脇にお付きの手下みたいなのを2人連れ従えている。

「私、アマンダ・バルヒェットですの。“地球帰り”さん、ちょっとお時間いただけます?」

その場の3人だけじゃない。カフェテリアランチのそこかしこの学生たちの反応から、俺はこの娘が要注意人物である事をハッキリと認識する事が出来た。




テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR