MCC -7-

マクロス・ベース内の士官用サロン。
明るい時間帯であれば、ひと時の安らぎを求めて大勢のマクロス職員が集う憩いの空間である。

しかし時は既に23時過ぎ。昼間の喧騒が嘘のようにサロンからは人気が絶え、その寂しい空気の中でポツンと2人の士官が不味そうにコーヒーを啜っていた。
据え置き型の大型ソリビジョンを見上げ、そこに映し出された深夜番組を見るとはなしに眺めている。

「…平和だな〜」

ポツリと呟いたのは、アンニュイなウェーブヘアをした男性士官だった。
年の頃は30代そこそこといった所か。少し長めの黒髪に、よく整った細面をしている。肌は浅く日焼けしていて、細い眼の中に小さなサファイア色の虹彩が輝いていた。
セクシーなヒゲは不揃いで、彼の秀麗な顔に絶妙なアンバランスさを加えている。

ブラジル生まれのペデロ・ペレストレオはモテる男だった。イケメンだし、独身だし、背も高いし仕事もまあまあ出来る方だ。
階級は昨年末に少尉となり、MCCの運用システム主任としてそれなりに権限を持った職務に就いている。

女性職員の比率が高いMCCにおいて、ペデロは金のエンゼルである。言い寄る女は数知れない。
しかし、彼は一切職場の女性達に靡かなかった。以前は金切り声のスオミ(フィンランド人)の上官に積極的にアタックされていたが、その上官も郊外に新設された空軍基地の航空管制主任へと栄転して去って行った。
やれやれ助かったと思っていたら、お邪魔虫は居なくなったとばかりに一斉に周りからのアタックが激しくなる。
みんな同じ職場の仲間だし、あまり無下にも出来ずに困り果てる毎日が続いていた。今日もここに来るまでに数人に声を掛けられた。それらをやんわりと断って、向かいの席に座る相手とこのガラ空きのサロンへと逃げて来たところだ。

そんなペデロの相席相手は彼の話を聞いている風もなく、赤毛を耳上でかき上げながら「チャンネル回してもいい?」と大型ソリビジョンのリモコンに手を伸ばした。

そのほっそりとした手がリモコンを掴むのを、ペデロはぼんやりと眺めている。白くてスベスベとした肌はサロンの照明を受けてまるで輝いているようだった。…いや、どうやら本当に輝いている。なんだかキラキラするその細腕を見て、ペデロは太くて立派な眉毛を寄せた。

「お前、またパール入り塗ってるだろ」

「へへ、分かる?」

ちょっと嬉しそうに相手は自分の細腕を撫でた。笑うといたずらっ子の様な表情になる。
チャーリー・ソミック・チャンは見た目はとても『可愛らしいお嬢さん』といった風体だった。アイメイクの感じなどちょいロリータゴシックが入っていて、軍人というよりは「ただ普通の女の子が軍服を無理やり着させられています」といった印象を受ける。

極東ロシア、ハバロフスクで生まれたチャーリーはまだ17歳と極端に若いが、人手不足の新統合軍においては立派な戦力だ。MCCでは通信担当オペレーターとして活躍している。

細く華奢な体に、腰まである真っ赤なストレートヘア。大きなペールグリーンの瞳をしていて、顎は細く小さかった。プックリとした桃色の唇のすぐ上には小さな黒いピアスを刺していて、それがまるでホクロのように見える。
そのロングの赤毛を撫でながら「新しいコンディショナーが髪に合わないみたい」と愚痴をこぼしている。それを眺めるペデロはやれやれと肩をすくめて見せた。

「そんな勤務中にあちこちキラキラさせちまって。またキャビロフ統括に嫌味を言われるぜ。『ここはハイスクールのクラスルームじゃありません!』ってな」

ペデロがセクション2統括官の口調を物真似したので、チャーリーはプクッとした唇に手を当ててクスクスと笑った。澄んだ色合いの大粒の瞳が揺れる。

「あの子、あたしと歳たいして違わないのに。なんであんなに威張ってるのかしら」

「威張ってるって…そりゃ上官だからだろう」

ペデロは呆れたように言う。チャーリーは「そっかー」と呟いてまた笑った。笑えば、長い赤毛がサラサラと揺れた。


夜も更けた時間にガラガラのサロン。たった二人の客は夜間勤務の休憩時間をここで過ごしている様だった。
パッと見は、美男美女の仲の良いカップルといった態である。しかしMCCのメンツは彼らの事を良く知っている。いや、正確には『可愛らしいお嬢さん』の方の素性を良く知っていると言うべきか。

チャーリー・ソミック・チャンはLGBTだった。見た目は完全にゴシックロリータ女子だが、身体的特徴を言えば彼女には…いや、彼にはペニスが付いている。胸は完全にペタンコで、少女期特有のほんのりとした膨らみのカケラもない。新統合軍の女性士官用の軍服を着てはいるが、その中身は完全に男…健全なる青少年そのものであった。

「あたし乾燥肌だから、クリーム塗ってないと痒くて掻いちゃうのよ」
「ニベア塗っとけ、ニベア」
「臭いからヤダよ」
「だからって軍人がパール入りはマズいだろう。この前もそれで注意されたじゃないか」
「キラキラしてると、女の子は気分が上がるの」

お前は女じゃねぇだろ、と密かに心の中で突っ込むペデロ。

「このぐらい良いじゃない。ていうか、むしろ軍規で積極的に推進するべきよ。『女子は常にキラキラした物を身に付けて、精神衛生管理に邁進すべし』って!シャネルの販売員だって、女子が性的に興奮する香水を付けて仕事してるのよ」

「どこのバカ司令官がそんな指示出すんだ」

「いいじゃない、ケチ」

理不尽な非難を浴びて、ペデロは「俺に言うなよ」とまた肩をすくめた。

「あ、ミンメイ!」

チャーリーが唐突に声を上げる。客のいない夜のサロンに彼女…いや、彼の黄色い声が響き渡った。
ペデロが大型ソリビジョンを見上げると、派手なヒラヒラ衣装の少女が可愛らしくステップを踏んでいる。曲のイントロだろうか、その笑顔はまるでその場にパッと華が咲いたかの様で、見る者全てを魅惑して止まなかった。
あの笑顔を、世界中の誰もが知っている。人類を歌で救った「世紀のアイドル」リン・ミンメイの天使の笑みだ。

「あたしミンメイ大好き。あの子なんであんなに可愛いのかしら。ああ、ミンメイになりたい」

チャーリーはうわ言のように呟く。ソリビジョンの中のアイドルを見つめる瞳は熱く潤んでいた。プックリとした桃色の唇は自然に動き、流れて来る曲に合わせて小さく歌を奏でている。

そんな様子を横目に見ながら、ペデロはあご髭を撫でてポツリと呟いた。

「…お前の方が全然可愛いよ」

「え?なんて??」

聞き取れなかったのか、チャーリーはペデロに向き直る。ペデロは途端に口ごもり「な、なんでもねーよ」とそっぽを向いた。
チャーリーは「変なの」と笑うと、再び憧れのアイドルに視線を戻す。今度は振り付きで熱唱し始めた。

腰まである長い赤毛が、サロンの照明を反射してキラキラと揺れている。弾けるような笑顔でミンメイソングを歌う17歳の男の娘(おとこのこ)を、ペデロは優しい眼差しでずっと見つめていた。




関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

制服は女性。でもなんとなく一人でいるんだ…

イケメンの甘さに群がる女より、女の子を楽しむチャーリーがカワイイって思う彼。なんかいいですね。

Re: タイトルなし

きっと奴はホモですな( ̄▽ ̄)


> 制服は女性。でもなんとなく一人でいるんだ…
>
> イケメンの甘さに群がる女より、女の子を楽しむチャーリーがカワイイって思う彼。なんかいいですね。
カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR