MCC -8-

女性で身長180cmを越えれば、かなり長身の部類に入る。
グリグリのスパイラルパーマ、キリリと太い眉、分厚い唇。ネイティヴ・アフリカンらしい褐色の肌を持つケイリー・モレイラ准尉は、一言で言って迫力のある女性だった。同じ部署のスタッフと並び立つと、ほとんどの場合彼女は相手を見下ろしながら話をする。
いつもムスッと不機嫌そうな表情をしているので、会話の相手は余計にケイリーに気を使う傾向にあった。
特に同僚の中で一番背の低いクリクリ頭のジェニファーなどは、ケイリーの事を怖がってさえいる気配がする。

ケイリー自身は、決して気難しい性格という訳ではなかった。故郷のアンゴラでは友人も普通に居たし、10人いる兄妹とも仲は良かった。みんな戦争で死んでしまったが。

うまく自分の気持ちを表現出来ない人というのは、どのコミュニティにもいる。楽しい時に楽しい気持ちを、感謝している相手に感謝の気持ちを、ケイリーは表現するのが下手だった。だからついムクれた表情をして誤魔化してしまう。それが彼女なりの自己防衛となり、クセというか日常となってしまったのだ。

「モレイラ准尉、何か不満かね」

上官の命令にも、反抗的だと指摘を受ける。本人は決してそんなつもりは無いのだが、言われれば言われるほど内なる殻に閉じこもってしまう。だから士官学校の同期の中でも昇進は遅い方だった。あの宇宙戦争で大勢死ななかったら、今でも尉官になっていなかったかも知れない。

「ケイリー、ちょっと来てくれる?」

そんな取っ付きにくい自分に、この女だけはいつも平然と話し掛けて来る。同じブラック・アフリカンである気安さからか、もしくはただの変わり者か。

「何でしょう、ラサール中佐」

司令部の秘書室を代表する首席秘書官に、ケイリーは敬礼しながら返事をした。かつてマクロスが宇宙においてゼントラーディ大艦隊と戦っていた頃、火器管制官として最前線にいた人物らしい。現在の新統合軍においてはかなりの有名人だ。

いつも笑顔で、周りへの気遣いも完璧で、余裕のあるオーラを放っている。私とはまったく正反対の人間。

「ちょっと仕事があるのよ。あなたにしか頼めないの、お願い出来る?」

落ち着いた口調で、慈愛に満ちた笑顔で話し掛けて来る。この人はいつもそうだ。
普通の人間なら愛想良く「喜んで!」と返事をする所だろうが、ケイリーとしてはそうした態度を取る事で何かに負けてしまうような気がして抵抗があった。
卑屈である事は自覚している。だが、素直になるにはケイリーはもう長い時間自分を演じ過ぎていたのだ。

「…ご命令とあらば」

仕方がないから、という態度がありありと見て取れた。ラサール中佐はやれやれといった表情で「じゃあこちらへ来て」とケイリーを隣室へといざなう。


マクロス・ベースのトップフロア。ここには、新統合軍の中枢である司令部が設営されている。ケイリーはそこの秘書室に勤務していた。
仕事の実直さには定評があったが、仕えるべき将官には人気が無い。「無愛想過ぎる」「いつも不機嫌そう」「あの子は笑顔とか出来ないのかね」等々苦情の嵐で、担当先をたらい回しにされた結果、今は秘書室の待機要員として扱われている。
周囲からの視線も痛い。ケイリーは益々無愛想になり、頑固な堅物として秘書室のお荷物になっていた。

そんな私に、出来る仕事なんてない

ケイリーは不機嫌そうな顔をして、ラサール中佐の後に付いて行く。首席秘書官は「あなたにしか頼めない」と言った。この私にしか頼めない?どうせ高い所にあるケースを取ってくれとか、素行の悪い将官の所へ行くのに付いて来いとか言うのだろう。
こんな深夜勤にご苦労な事だ。もうじき日付も変わろうかという真夜中に、くだらない仕事に付き合わされるとは如何にも私らしい。

「暗いから気を付けてね」

ラサール中佐はそう言ってとある部屋へ入って行く。確かにその部屋は真っ暗だった。明かりがついていないのは何故だろう?

「何の作業なのですか?」

ケイリーは嫌な予感しかしなくて、部屋へ入るのを躊躇った。しかしラサール中佐は「いいから入って」と気軽に闇の中から呼び掛ける。

「明かりを点けないのですか?」
「照明が故障しているのよ」
「管理の者を呼んではいかがですか?」
「もうすぐ0時になるのに?明日の朝まで誰も来ないわ」
「暗闇の中では何の作業も出来ないと思いますが」

こういう面倒臭いところが将官から避けられる原因なのだが、ケイリーは気が付かない。なかなか部屋の中へ入ろうとしないケイリーに、ラサール中佐が小さなため息を吐くのが聞こえた。

「大丈夫よ。次の定例会のレジュメのチェックをしたいから、それを運んで欲しいの」

「レジュメのチェック?こんな真夜中にですか?」

ケイリーは文句を言いつつも、暗闇の部屋へとようやく一歩を踏み入れる。するとラサール中佐の声の調子が少しだけ明るくなった。

「そうね」

クローディア・ラサール中佐は闇の中で笑った。

「ちょうど0時だわ」

その言葉と同時に、部屋の明かりがパッと点いた。突然の眩しさにケイリーは眼をつぶる。が、両耳は複数の破裂音を捉えていた。

パパンッ パパンッ

「「「Happy birthday, Kaley!!」」」

ケイリーは銃撃されたのかと思って驚いた。床に伏せようとして腰を屈めた時に、眩しさを我慢して開いた薄眼がタイトスカートに包まれた複数の脚を目撃する。

「ケイリー、驚いた⁈」

喜色満面にそう聞いて来たのはクリクリ頭のジェニファーだった。中腰で構えたままのケイリーは、目を見開いてその秘書室で一番背の小さな同僚を見つめた。

部屋の真ん中にテーブルが置かれ、その周りには秘書室の同僚たち。手に手にクラッカーを持ち、頭にはカラフルな三角帽子をかぶっている。みんな笑顔で、固まっているケイリーを見て笑っていた。
テーブルの上には小さなホールケーキ。チョコレートの板には「Happy birthday Kaley」の文字が。

「…え?」

「今日はあなたの誕生日でしょう?」

そう言ってケイリーにグラスを差し出したのはラサール中佐だ。細長いグラスをケイリーに渡すと、自分のグラスをそれにカチンと合わせる。

「勤務中だからジュースよ」

「…はあ」

ドヤドヤとケイリーの周りに同僚が集まって来た。一人一人がケイリーのグラスにカチンカチンと音を立てて合わせて行く。

「…そうか、今日は私の…」

ケイリーはようやく得心した。腕時計を確認すると、まさについさっき0時を回って日付を更新したばかりだ。
そして新しく迎えた今日という日は、ケイリー・モレイラの30歳の誕生日なのだ。

「ケイリーのお誕生日、どうやって祝おうかってみんなで話したんだけど、サプライズが良いじゃんって」

クスクスと笑う小さなジェニファー。この子、私の事を怖がって近付かないと思っていたのに…。

「ホラ、私たち毎日おじんの相手ばっかりで気が詰まるでしょう?たまにはこうして息抜きしないとね」

ラサール中佐はグラスを掲げてウィンクしてみせた。みんなそれに合わせてグラスを高々と掲げる。

「おっさん将官どもに乾杯!」
「若い高級士官を寄越せ!」
「出来ればイケメンで、ダンスが上手くて、背が高くて、あとあと…」

深夜の司令部の一室。秘書官の面々は勝手な事を言いながらキャアキャアと盛り上がっていた。
ケイリーは喜んでいいのか呆れるべきなのか、微妙な顔で立ち尽くしている。
そんなケイリーに、ラサール中佐がケーキを切り分けたペーパーソーサーを差し出した。

「ホラ、今日くらいは笑って過ごしなさい。ケーキ美味しいわよ」

ケイリーは渋面でそれを受け取ると、プラスチックフォークで生クリームとスポンジを口へと運んだ。途端に顔がほころぶ。

「…甘い」

「そうそう、その顔」

ラサール中佐が笑い掛ける。この人は何故いつもこんなに優しげな笑顔を人に向けられるのだろう。ケイリーは悪いクセで、また変に意固地に身構えてしまいそうになる。
が、何故か今だけは素直な気持ちになれそうな気がしたので、頑張ってラサール中佐に笑顔を返した。馴れないせいか、少し、いやかなり硬い笑顔だった。

「良い笑顔よ」

中佐がケイリーの背中を叩く。続いてジェニファーが、他の同僚たちが次々とそれに続いた。

「ケイリーお誕生日おめでとう!」

ケイリーは少しだけ恥ずかしかったが、「ありがとう」とお礼の言葉だけは何とか言えた。




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No title

思うに私のとって未沙さんは憧れの女性で、クローディアは理想の女性、かも。

Re: No title

あてくしとしては、クローディアさんの闇の部分も書いてみたいでやす( ̄▽ ̄)



> 思うに私のとって未沙さんは憧れの女性で、クローディアは理想の女性、かも。
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