MCC -13-

憲兵隊長チェチーリオ・バッチは悩んでいた。

本日未明に起きた大事件。人類の護り手、我らが新統合軍の中枢機関MCC(マクロス指令センター)が何者かに襲撃されたのだ。
犯行グループは全員射殺ないし捕縛された様だが、MCCという軍部の頭脳を襲われるという重大な事態に、各方面のショックは相当なものだった。

…が、バッチ少佐にとってはそんな事はどうでも良かった。

今のところ犯行声明も出ておらず、敵の正体も目的も分かっていない。事件の背景については、今後の捜査が待たれるところである。ここからは憲兵隊の出番だ。
明らかに何らかの組織的犯罪と思われるが、バッチ少佐にとって割りとその辺はどうでも良かった。

無防備な所を急襲されたMCCでは負傷者が多数出ている。死者もいるらしい。
現場は血塗れの状態である。しかし24時間稼働が義務付けられているMCCでは、血なまぐさい中で現在も業務は遂行されている。
痛ましい出来事だが、不謹慎にもバッチ少佐にとってはどうでも良かった。

セキュリティについてどこまで責任が問われるものか現時点では分からないが、今後大きく見直されるのは間違いないだろう。もしかしたら憲兵部隊もその責任を問われるかも知れない。
しかしそれすらも、今のバッチ少佐にとってはどうでも良い事だった。


今、ちょび髭のイタリア人の頭を悩ませている問題はただ1つ。
それは、この事件を上長にどう報告するかという事だ。
時刻はようやく午前5時に差し掛かろうかとしている。外では雪もやみ、天候は大分落ち着いて来たようだ。冬のアラスカでは、この時刻は滅多に陽の光を見る事は出来ない。窓の外は真っ暗で、眠らない街マクロス・シティのネオンが眼下でキラキラと輝いていた。バッチ少佐は窓辺で目を凝らしながら、深く深く思案を巡らせる。

憲兵総監はご高齢で、朝は早起きかも知れない。しかし幾ら何でもこんな早朝に電話で叩き起こされたらどう思うだろうか?
表向きは文句は言わないだろう。だが、これはもう終わった事件だ。あとで報告したところで事態は何も変わらない。むしろ拙速過ぎて「気の利かない奴だ」と嫌なイメージで名前を覚えられてしまうかも知れない。ここは総監にはゆっくりとお休みいただいて、ご出勤の途中に事件のあらましをご報告するのが適切ではないのか。それが最も気分を害さずに済ます方法だろう。

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「総監がご出勤時に車内で概要を確認出来るよう、事件の報告をまとめておいてくれ給え」
「Yes,Sir!」

ミラー少尉は敬礼してキーボードを叩き始める。それを満足気に眺めてバッチ少佐は頷いた。
…が、その表情が一瞬曇る。

待てよ。
MCCのトップはキレ者と噂の早瀬中佐だ。詳しくは知らないが、女だてらに「鬼より怖い」と称されるような厳しい仕事人間だと聞いている。そんな女が、ノンビリと事後報告で納得するだろうか?

バッチはMCCのセンター長である早瀬未沙中佐とは特に面識がない。しかし以前からその噂についてはよく耳にしていた。

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「センター長の早瀬中佐に緊急連絡を。事件の発生についてご報告申し上げろ」
「Yes,Sir!」

ミラー少尉はキーを打つ手を止め、目の前の受話器に手を伸ばす。通信士に繋いで早瀬中佐の携帯番号を鳴らすのだ。
それを見て、バッチは満足そうに頷いた。
…が、その表情が一瞬曇る。

待てよ、事件発生からはすでに2時間近く経っている。緊急連絡と称して早朝に叩き起こされたのに、タイムラグがあったら早瀬中佐はどう思うだろう?
一番可能性が高いのは「何故もっと早く知らせなかったのか」と言う叱責だ。「手抜きだ」と糾弾されるかも知れない。それはマズい、マズいぞ。
バッチは右手を上げてミラー少尉を制止する。

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「緊急連絡は無しだ。早瀬中佐にはメールにて事件の概要を報告しろ」
「Yes,Sir!」

ミラー少尉は受話器を叩きつけると、すぐさまキーボードに向き直った。カチャカチャをキーを叩く音が室内に木霊する。
それを確認して、バッチはホッと一息ついた。
…が、その表情が一瞬曇る。

いや待て、早瀬中佐には知らせたのに、憲兵総監閣下には知らせなかったとなるとこれはこれで問題なのではないか。
基地の治安を護る総責任者が知らず、小娘…もとい、センター長だけに連絡があったとなるとこれはマズい。やはりここは総監閣下にもご連絡申し上げた方が後々の責任問題を回避出来るのでは…

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「早瀬中佐の次に、総監閣下にも同様のメールを送るように」
「Yes,Sir!」

ミラー少尉の軽やかなキーボード捌きを眺めながら、バッチはウンウンと何度も頷いた。
…が、その表情が一瞬曇る。

順番はこれで良いのか?
早瀬中佐にメールして、総監閣下にメール。これだと、もしメールの送信時間を確認された時に、総監閣下を蔑ろにしていると受け取られてしまうのではないか。
我輩の直属の上司であり、階級も総監閣下の方が早瀬中佐より上だ。やはりここは総監閣下からご報告申し上げねば…

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「メールの送信順番を入れ替えろ。まず憲兵総監閣下に、次いで1分後に早瀬中佐にだ」
「Yes,Sir!」

ミラー少尉は慌ててマウスで宛先を訂正している。危なかった、自分の素早い判断で何とか間に合ったらしい。
バッチは自慢のちょび髭を撫でながら窓の外を眺めた。闇夜の窓に反射して自分の顔が映り込む。
端正な細長いマスクに、今日もウットリする。突き出た鼻、尖ったアゴ、細長くて離れた両目。まるでげっ歯類のような愛嬌ある前歯に、ハンカチを当ててキュッキュッと磨き始めた。
…が、その表情が一瞬曇る。

待てよ、MCCでは死者も出ている。という事は早瀬中佐は部下を殺されている訳だ。そんな状況で、呑気にメールで事後報告などと許されるのだろうか?後で責任問題を問われるのではないか?

「ミラー少尉」
「はい少佐!」
「やはり早瀬中佐に緊急連絡を…あ、いやメールの表題にそう書き足して…あ、いや総監閣下にまず…」

憲兵隊長の悩みはますます深まって行く。
寒風吹きすさぶ窓の外、冬のアラスカはまだまだ暗かった。




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はあ〜ぁ。

バッチさん、こん時も御身大事だったんですね。( ̄◇ ̄;)
もしかしてあの時の輝の査問会議は、この時の名誉挽回だったのでしょうか?

保身は本能だろうけど。

なんか・・・バッチさんの心情が何となく理解できてしまう。
やだなぁ。己も保身気味だなぁ。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: はあ〜ぁ。

皆さまに愛されるバッチです!
憲兵隊のバッチ、憲兵隊のバッチをどうぞよろしくお願い致します!

チュー!


> バッチさん、こん時も御身大事だったんですね。( ̄◇ ̄;)
> もしかしてあの時の輝の査問会議は、この時の名誉挽回だったのでしょうか?

Re: 保身は本能だろうけど。

ふふふ、そんなあなたにはバッチ印の「保身クラブ」入会証を差し上げましょう( ̄▽ ̄)

これであなたもネズミーランドの一員です。チュウ。


> なんか・・・バッチさんの心情が何となく理解できてしまう。
> やだなぁ。己も保身気味だなぁ。

Re: タイトルなし

いや待てよ、全て夢オチだったという可能性も…


( ̄▽ ̄)
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