HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Tuesday.

ローン・マイケルズはアラスカで一番有名なプロデューサーだ。
アラスカ最大のTVショー「Saturday Night LIVE」の全てを取り仕切っていて、戦前から40年以上続いているこの老舗番組の現在の顔役でもある。
一時期「マイケルズのやり方は古い」と経営陣からクビを言い渡された事がある。しかしローンのいなくなったSNLの視聴率は低迷し、結局頭を下げて現場にカンバックして貰ったという経緯がある。それ以来ずっと、土曜日23時からの2時間はこの男の独壇場となっている。

マイケルズは50代半ばの壮年男性だ。まるで鉄人レースとも称される”週刊生放送”のSNLを2年以上に渡って引っ張り続けている。合言葉は「戦後の世界に活力を」。何しろ本人が活力の塊りみたいな存在なので説得力はあると思う。今日も気力も体力も満ち満ちた顔で僕らの前に現れた。

「ようお姫様」

陽気に片手を挙げて部屋へ入って来るローン・マイケルズ。ふっさふさの口ひげに浅黒い肌。紅茶色の高そうなスーツにコーヒー色の高そうな尖った革靴。初見でどこそこのマフィアのドンだと紹介されればきっと信じてしまうだろう。アラスカ中央放送局においては今や彼を上回る大物はいない。

「なんだ、今日は機嫌悪そうだな」

ミーティングルームの一番奥の席で、不機嫌そうにモバイルフォンを弄っているミンメイ。そんな彼女にマイケルズは豪快に笑いかけた。
多くの売れっ子を排出して来たSNLの総合プロデューサーは、対面相手の心の動きを決して見逃さないという噂だ。ウチのオカマのチーフマネージャーからも「マイケルズの前では、彼の機嫌よりもミンメイの機嫌に気を配ってちょうだい」とよく言いつけられていたものだ。まあ、さっそく失敗している訳だけれども。
マイケルズの呼び掛けに、しかしミンメイは返事をしない。薄茶のティアドロップ型サングラスを掛けていて、モバイルフォンをいじりながら顔をあげようともしなかった。マイケルズは隣りの僕に視線を向ける。無言で「どうしたんだこりゃ」と聞いてくるが、原因などさっぱり分からない僕はへへへと愛想笑いを返すだけだ。マイケルズは小さく舌打ちしてズカズカとミンメイの近くまで歩いてくる。えっと、今の舌打ちってもしかして僕宛て?

「よう、プリンセス。可愛いお顔をみせてくれよ」

それはまた、ギラついたおっさんが高飛車な若い娘を口説いているかのような光景だった。しかし片方はアラスカで最高の視聴率を持つ演出家で、もう片方は人類の救世主と来たもんだ。豪華な取り合わせに僕は少し場違いな自分の立場をほんのり自覚した。
ミンメイはサングラスから上目遣いで、すぐ横に立つマイケルズを見上げる。あまり歓迎されている雰囲気でもないのは誰が見ても明らかだ。しかしこういう気難しい場面を切り抜ける術を、この大物プロデューサーは持っている。だからこそマラソンレースのような週刊生放送をトラブルなくずっと続けていられるのだろう。
マイケルズは突然片膝を着くと、大きく手を広げて目を見開いた。そして朗々と大声を張り上げる。

「おお、あの窓からこぼれる光は何だろう?!向こうは東、とすれば…ミンメイ、君は太陽だ!」

その下手くそな芝居がかった語り口調に思わず僕はプッと吹き出す。するとマイケルズにジロリと怖い目で睨まれた。
しかしミンメイもすぐにぷっと吹き出してくれたので助かった。マイケルズはニヤリと笑うとミンメイの手を取って恭しく頭上に掲げる。

「シェイクスピアだわ。第二幕ね」
「ほう、気が付くとは感心感心」
「ローンが読めって言ったんじゃない」
「そうだ。シェイクスピアは全ての演出の基本だ。何もかもが詰まってる」
「でも古典でしょ?TVでやってるのは時事ネタなのにね」
「古典に新鮮なソースを掛けるんだ。だからいつまでも飽きない旨さなのさ」

ようやく角の取れた表情のミンメイに「座っていいかい?」と尋ねるマイケルズ。ミンメイは一度軽く肩を竦めてから「ええ、どうぞ」と促した。マイケルズは余裕たっぷりの態度で席に着く。
ここはシティのビジネス街にあるマイケルズの事務所だ。SNLの企画は毎週この事務所から生み出される。
月曜にライターチームが集まりキックオフミーティング。火曜に企画会議。水曜が台本の読み合わせで、木曜にはリハーサルから一部撮影にも入る。金曜が本リハで土曜日が本番という流れだ。もちろんこれらは実働時間であって、スタッフ達の頭の中はシーズン中は24時間SNLの事でいっぱいである。ああ、僕本当にここのスタッフじゃなくて良かった。

ミンメイはミュージックゲストなので、火曜日の今日にマイケルズとの打ち合わせだ。それでこうして彼の個人事務所へやって来たのだが、ライター達のスケッチの書き上げが押しているらしく、僕とミンメイは少しだけ待たされた。でもミンメイの不機嫌はそれが原因じゃない。だってここに来る前、朝から不機嫌だったもの。

「ねえローン。なんで今度の曲はこれなの?」

ミンメイは不満そうにテーブルの上のタブレットをマイケルズに押しやる。液晶画面には本番でミンメイが歌う予定の楽譜が浮かび上がっていた。ローンは黙ってタブレットを受け取ると、口ひげを撫でながら「なんだ、イヤなのか?」と逆に聞いて来た。

「イヤじゃないけど…なんでこんな古い歌なの?」

ミンメイは唇を尖らせる。まあそりゃミンメイにだって持ち歌はあるし、若い子なんだから若い子向けの歌も歌いたいだろう。60年代のヒット曲となればミンメイも僕もこの世に生まれてさえいない。マイケルズだってガキンチョの頃だった筈だ。
しかしマイケルズは慌てず騒がずタブレットを操作する。そして画面をミンメイに向けて見せた。

「リリックは読んだか?」
「読んだわ。それが何?」
「読んだか。なら結構」

マイケルズはそれだけ言うと立ち上がった。そしてあっさりと部屋を出て行く。僕は慌てて後を追いかけた。

「え?え?打ち合わせ、そんだけ?もう終わり??」

マイケルズはゴミでも見るような目を僕に向ける。あ、いや、そういう目で見ないで。

「小僧。たまには顔を見せろとボーリゾンに言っとけ。ああ、それとミンメイ」

呼ばれて、ミンメイがゆっくりとサングラスをずらす。形の良い大粒な瞳がようやく姿を現した。
マイケルズは健康的な白い歯を見せて脂ギッシュに笑う。

「土曜日、誕生日だな。本番後のパーティー楽しみにしとけよ」

おっさんは親指をグッと立てるとそのまま廊下へと消えて行った。僕は「何も決まっていないのに」とオロオロしてしまうが、当のミンメイはサングラスを掛け直して「じゃ、帰ろ」と平然と帰り支度を始めている。

「なんだよ〜、みんなもっと真面目に仕事しようよ〜」

僕の呟きなど気にならないミンメイは「さ、帰ろ帰ろ」と真顔で僕の背中をグイグイ押した。
こうしてSNLの準備は過ぎて行くのである。




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Re: 1週間?!

はい、そうなんです~^^
なんか思い付きで書き始めたんですが、毎日更新するつもりで早速サボっちゃいましたwお酒飲んで眠っちゃったのでw

さすがおじさんキラーの先生w自らもおじさん好きとは…
じゃあそのうち未沙とおじさんのからみを…え?それはダメ??

ボチボチ新作も書きたいな~。先生の新作も期待しています!!(`・ω・´)ゞ

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Re: おじ様×未沙はダメ

あ、NGですかwそりゃそうですよねww
前に未沙さんがエッチな事されちゃう話を読みたいってリクエストあったんですが、さすがに書かなくて良かったです(;´∀`)

秋はなんでも美味しいですね~( ̄▽ ̄)
最近ビールもワインもやめて、ハイボール一択にしたんです。何故かといえば、やはりお腹が…いや、もうおっさんだから仕方ないんですが…(;・∀・)見た目だけは気にしていきたいww

私も先生の続編をずっとお待ちしております(`・ω・´)ゞビシッ
出来れば先生の書くあの可愛いミンメイのお話が読みたい…(ノ´∀`*)
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