HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Wednesday.

サタデー・ナイト・ライブ、通称SNLは生放送のコメディショーだ。
その週に起きた出来事を皮肉ったスケッチ(コント劇)を中心に、ニュース番組風のコーナーやゲストのトークショーなどが主なプログラムを占める。扱うネタのジャンルは多岐に渡り、政治経済事件事故、倫理ネタから不倫ゴシップまで基本的に何でもござれだ。

「ゼントラーディネタはヤバいですよ」

それでも禁忌はあるらしい。ライターの1人が手にしたA4サイズのレポート用紙を放り投げる。レポートはヒラヒラと厨を待って、ちょうど僕の前までたどり着いた。手に取ろうとしたら横から伸びた手がさっと目の前で掻っ攫う。僕は恨みがましい目を向けるが、向けられた方は知らん顔だった。
我がスタジオ・イングリッドバーグマンのチーフマネージャー。この男こそチーム・ミンメイのドン、Mr.ボーリゾン・ボギンスカヤだ。銀髪白顔のロシア人。見た目以上に性格は冷たくてドライである。その特徴的な蒼氷色の眼がさっとレポートの表面を走り、一瞬で内容を把握すると僕とは反対側の隣人にそれを手渡した。ちょっとちょっと、僕には見せないんかい。
反対側でそれを受け取ったのは「世紀のアイドル」僕らのリン・ミンメイだ。ミンメイは対象的にゆっくりとレポートを読み、少し間を置いてクスクスと笑った。たったそれだけなのに、その様子がなんとも可愛らしくてミーティングルームの誰もが思わず頬を赤らめる。

「これ以上当局を突っつくのはヤバいです。また呼び出しをくらいますよ」

先ほどのライターが同じような発言をする。SNLの打ち合わせでは良く見る顔なので多分レギュラー作家なのだろう。
しかしその対面の若そうなライターが立ち上がって反対した。どうやらこのスケッチ(コメディネタ)の作者らしい。

「政府の検閲を恐れてなにがTVマンですか!世の中を漏らさず笑い飛ばす。それこそSNLの信条でしょう?!」

なんだかリベラリストの演説みたいな言葉だった。きっとこの熱血漢な若者とはお友達にはなれないだろうなぁと僕はぼんやりそんな事を思い浮かべた。
水曜日の今日。僕らはマイケルズの個人事務所で台本の読み合わせをしに来ていた。昨日までにライター陣が上げてきた50本近いネタを今日一日で10本前後まで絞り落とす。その厳選されたネタを持って明日からのリハーサルに挑むのだ。その週の生放送2時間分のネタを決める、とっても大事なミーティングの日である。
本来ならミュージックゲストのミンメイには関係のない会議だったが、今回はミンメイも一部のスケッチに参加する事が決まっていて、そのネタ定めに我々もやって来たという訳だ。
でも、僕には素朴な疑問があった。

「なんでゼントラーディネタはダメなんです?」

当然の質問だろう。少なくとも僕はそう思った。でも隣りのロシア人…きっと寒い国に居すぎて心まで凍っているであろうチーフ・マネージャーは冷めた眼で僕を見るのだ。

「あんたそんな事も知らないの?」

「はい知りません」とはさすがに恥ずかしくて言えなかったので、僕は照れたように愛想笑いをする。チーフは薄目で僕を睨むが、そこに予想外の質問が降ってきて助かった。反対側からミンメイが「なんでダメなの?」と質問をかぶせて来たのである。チーフ・マネージャーは(因みにこの人オカマだ)途端に目尻を下げてミンメイに振り向いた。

「政府がゼントラーディ人への差別撤廃を方針に掲げてるからよ。TV報道で必要以上に彼らを貶めるような事は言っちゃいけないの」

チーフの気持ち悪い猫なで声に、ミンメイは「へー」と眼を丸くしていた。僕も知らなかった。そんな大人の事情がTVの裏にあったなんて。
実際、この世界でゼントラーディ人の犯罪事件は多い。地球での生活に馴染めずに反社会的な行動を取るゼントラーディ人も増えていると言う。かつてのテロリスト・カムジンによるシティ襲撃事件のような大規模な暴動に繋がると大変だから、人々が不安に思うのも当然だと思うけどな。

「みんな仲良くしなきゃダメって事ね」
「そうそう。身も心も仲良くしろって事ね」

チーフが言うと違う意味に聞こえてくる。僕はミンメイが手放したレポート用紙を手を伸ばしてサッと奪い取った。今度こそ内容を確認する。ふむふむ、あ、これ本当にそういう内容だったのか。
レポート用紙に書かれたネタは、性知識の無いゼントラーディ人が売春宿で大騒動を巻き起こすという物だった。まあ、こういう事件は確かに現実に起きているらしい。でも確かにゼントラーディ人にしてみれば、決して面白いネタとは言えないだろう。

「政府は人類とゼントラーディ人との融和政策を進めているもの。いずれは同化するんだからケンカなんかしてても仕方ないのよ」

チーフの言葉に、両脇の僕とミンメイはちょっとビックリする。え、って言う事はあいつらと血が混じるって事ですか…?!

「え〜っと…つまりそれって、人類がゼントラーディ人と同化するって事ですか?」
「あんたまともに質問するだけの語彙力もないのね」

僕のオウム返しに、オカマのマネージャー、つまりオカマネージャーは憐れむような目線を返して来た。いや、僕そういうの苦手なんで。

「どのみち地球人だろうとゼントラーディ人だろうと、DNA的に違いがないのは科学的に証明されているんだから。同化もなにも最初っから同じ人間同士なのよ」
「へ〜、あんなオレンジ色の髪の毛した連中がですか」
「フェオメラニンとユーメラニンの割合の違いでしょ。あんたがちょっかい掛けてるここの受付の子だって赤毛じゃない」

チーフの台詞に、周りが一斉に僕を見る。僕は「あ〜」とか「いやその」とか言って頭を掻いて誤魔化した。

「その、え〜と、同化賛成」

ミンメイがまたクスクスと笑う。ああいいさ、そうやって僕を笑い者にしていればみんな平和なんだ。

「ゼントラーディ人に肉親を殺された人は大勢いる。これはとても難しい問題なんだ」

レギュラー作家が渋い顔で話を戻す。若いライターはそれでも食い下がった。

「ホモ・サピエンスはネアンデルタールや他の原人ともDNAを交換して進化して来た。今さらゼントラーディ人だけを特別扱いする必要なんかありませんよ!」
「ここは大学の講義の場じゃないぞ」
「政治の場でもないでしょう。当局が怖くてTV屋なんか務まりませんて!」

なんか議論が白熱してきた。僕は一番奥の席に座るマイケルズを盗み見る。SNLの総指揮官は、ライター達のやり取りをニヤニヤと楽しそうに眺めているだけだ。
そう言えば聞いた事がある、マイケルズがちょくちょく総務省に呼び出しをくらってるって。アレはもしかしてこういう件が原因だったのか?だとしても、彼の顔色を見るにまったく懲りた様子は見られない。
喧々囂々のミーティングはなかなか終わりそうにない。僕は少し退屈してきて、トイレにでも行こうかと腰を浮かしかけたその時。「ハイ」と手を上げて発言を求めた者がいた。我らがアイドル、リン・ミンメイだ。

「ど、どうぞ」

レギュラー作家に促されて、ミンメイは頷く。スッと立ち上がると、僕の手元のレポート用紙をサッと奪い返した。

「このお話、シェークスピア風にアレンジしたら?」

え?と大勢の人間が反応した。ミンメイはレポート用紙をパンパンと叩き、その大きくてキラキラしたお目々で室内のみんなを見渡した。

「売春宿のお話なんかじゃなくて、ゼントラーディさんと普通の地球人女性との恋話にするのよ。それこそ『ロミオとジュリエット』みたいにしたらいいわ。ああロミオ様、あなたは何故ゼントラーディ人なの」

ミンメイは苦悩する女性を真似てポーズを取った。一同はあっけに取られる。
すると大きくド派手な拍手がバチバチと室内に響き渡った。奥の席でずっと黙って話を聞いていたマイケルズだ。

「いいな、それ!採用!!」

マイケルズは立ち上がり、モッサモサの口ひげを揺らしながらミンメイを指差した。

「そのジュリエット役、ミンメイがやれ!」

「ご用命とあらば」

ミンメイはハーフスカートの両端をつまむと、優雅に一礼して見せる。まるで本当に中世のお姫様になったみたいな、美しい仕草だった。

こうして、ミンメイが出演するスケッチはあっさりと決まった。それも彼女自身が考えたネタで。




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