HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Thursday.

木曜日。舞台はTV局に移り、いよいよスタジオでリハが開始される。
僕らはアラスカ中央放送局へと乗り込み、第6スタジオに通された。そこではミンメイが本番で歌うバックセットがすでに設置されている。
見たところ雰囲気はジャズバーと言った風合いだ。なるほど、ブラックミュージックと言えばこれがテンプレートになる訳か。

「曲はちゃんと聴き込んで来た?」

オカマのチーフマネージャーの質問に、ミンメイはウンと小さく頷いた。それについては大丈夫、僕が保証する。何しろ昨日は遅くまでずっと歌合せに付き合わされたからね。お陰で今日は眠たいよ。
ミンメイの入りに気が付いたディレクターが、向こうから早足で飛んで来た。50代後半のコイツは年甲斐もなくミンメイの大ファンだったはずだ。ウキウキした表情で小躍りしながらミンメイの手を取る。

「ミンメイちゃん、今日はまた一段と綺麗だねぇ!惚れ惚れするよ」
「あら、ありがとうディレクター」

ミンメイは100点満点の営業スマイルだ。しかしさらりと手を引き抜くと、相手に気づかれない様に後ろ手のままスカートでその手を拭った。ああ、女の子って怖い。

「今日は局のお偉いさんも見学に来るらしいよ!みんな君のファンなんだ」
「ホント?嬉しいわ。うんと綺麗に撮ってね」
「勿論だよ!ミンメイちゃんのためなら局中の撮影カメラを全部ここに集めて…」
「あ〜ハイハイもう行くわよ」

1人盛り上がるディレクターを押しやると、オカマのチーフマネージャーはミンメイを引っ張ってズンズンとスタジオを横切って行く。本日の主役を休憩スペースに腰掛けさせると「ああいうのは危ないからあまり近づいちゃダメよ」と小声で囁いた。

「うん、大丈夫」

朗らかに笑うミンメイ。どこまで分かっているのか良く分からないが、まあディレクター風情がこの子に手なんかだそうものなら火傷どころじゃ済まないもんな。
カメリハは終わっていたらしく、音合わせにミンメイがすぐに呼ばれた。「ハ〜イ」と可愛らしく返事をして、ミンメイはオレンジ色のレザージャケットを肩から降ろす。それをパイプ椅子に掛けるとそのままテクテクとステージへと歩いて行った。「頑張って!」と後ろから声を掛けたら「ハイハ〜イ」と手を上げて返事をしてくれる。うん、今日は機嫌が良さそうだ。

「ミンメイ、機嫌良さそうですね」
「だといいけど」

オカマのチーフマネージャーにそう言うと、少し心配そうな返事が返ってきた。僕は不思議に思ってチーフを見るが、ちょうどそこに総合プロデューサーのマイケルズが現れて会話が中断する。マイケルズは今日は玉虫色のギラギラしたジャケットを羽織っていた。完全に悪趣味なマフィアのドンだ。

「ようボーリゾン。姫は調子良さそうだな」
「本心からそう思って言ってる?」

マイケルズの挨拶をチーフは冷たくあしらう。マイケルズは鼻で息を吐くと軽く肩を竦めた。

「なんだ、姫じゃなくてこっちの機嫌が悪いのか。ゲイのくせにあの日か?」
「シュープリームスはまあいいわ。あなたの意図も分かるわよ。でもあの曲を歌わせようだなんて許さないわよ」
「だから変えたじゃないか。そう怒るなよ」

チーフは冷たい視線をアラスカ一の大物プロデューサーに投げかける。このロシア人、時たま本気で人を殺してそうな眼をするから怖いよ。でも、曲を変えたって何の事だろう。

「60年代の公民権運動を、今のゼントラーディ問題に例えようだなんてイヤらしい発想だわ」
「そうかな。根本は同じ問題だぜ」

マイケルズはドッカとパイプ椅子に腰掛けた。禁煙のスタジオで平然とタバコに火をつける。

「あの時代は黒人なんてのは犬も同然だった。女たらしの牧師さんのお陰で今は大分マシになったがな。モータウン・ミュージックはあの頃の黒人どもの希望の星だったんだよ」
「虐げられる黒人が、今のお可哀想なゼントラーディ人って訳ね。ミンメイに現代のダイアナ・ロスをやれとでも言うの?」
「その通りだ」

マイケルズは煙をフーと吐き出す。前かがみになって急に真面目な顔付きになった。

「ゼントラーディ問題を本気で捉えてるヤツなんかTV界にはいない。俺だけが本気であの宇宙人どもの事を考えてやってるんだ」
「思い上がりも甚だしいわね。たかがTV屋が政治家にでもなったつもり?」
「政治屋なんかに世の中は変えられやしないさ。俺たちメディアだけが時代を作れるんだ」
「ご高尚ですこと」

チーフはフンと鼻で強く息を吐く。そしてドリンクのペットボトルやスナック菓子が置かれたテーブルの上に何やら書類を放り投げた。あれは…楽譜だ。

「その割には、ミンメイのゴシップネタに当て込んでこんな歌を歌わせようだなんて。下品な三流ワイドショーの考えそうな事だわ」

そう言ったチーフの眼の中は赤く燃えていた。明らかに怒っている。マイケルズは言い返さずに肩をすくめるだけだ。
僕は気になってその楽譜を覗き込んだ。曲のタイトルは…『Stop! In The Name Of Love』(行かないで、愛の名のもとに)


なるほど、なんとなく分かって来た。
マイケルズはくだんのゼントラーディ人差別の問題を、かつての黒人差別になぞらえているんだ。で、60年代のアメリカの公民権運動をこのSNLでやろうとしている。だから当局に怒られたとしても、いつもゼントラーディネタをスケッチに入れ込むんだ。
当時の黒人歌手であるシュープリームスを選んだのもその為なのか。そして現代の歌姫であるミンメイに、シュープリームスのようなシンボリックな活躍を期待してる訳だ。

しかしそこはやっぱりSNL。選んだ曲が『Stop! In The Name Of Love』(行かないで、愛の名のもとに)とは。

ミンメイが軍のパイロットと何やら三角関係になっているのをまさに皮肉った選曲だ。これを今のミンメイに歌わせるのはいくら何でもちょっと酷過ぎる。チーフが怒るのも無理はない。きっと話が来た時に、チーフが突っぱねて変えさせたんだろう。

僕はマイケルズを見る。SNLのドンは批判などどこ吹く風といった感じで、涼し気な顔をしていた。まあ、こんな事でペコペコするような神経だったらこの番組を続けてなんか来れなかっただろう。茶化しているようで、彼は彼なりに世の中に問題解決のためのアプローチを発信しているのだ。やり方はゲスいけれど。
僕はチーフとマイケルズを交互に見やった。決して仲が良いという訳ではない二人だけれど、今は特に険悪な雰囲気だ。僕は巻き込まれないようにソロソロと後ずさりする。が、マイケルズに「おい、灰皿探してきてくれ」と声を掛けられてしまった。はいはい、タバコ吸うなら灰皿ぐらい自分で用意しておけよ…

「ふ〜ん」

不意に伸びてきた手がテーブルの上の楽譜を掴んだ。ハッと気が付いたオカマのチーフマネージャーは慌てて楽譜を取り上げようとしたが、その手…ミンメイの手はひょいと躱して空振りに終わる。さっさと音合わせを終えて戻って来たミンメイは、手にした楽譜をしげしげと眺めやった。

「本当はこれを私に歌わせたかったわけ?」
「違うのよミンメイ。そんなの歌わなくていいの」

チーフは優しい笑顔でミンメイを宥める。この人、本当にミンメイが好きなんだな(オカマだけれど)。
ミンメイはマイケルズを見る。マイケルズは悪びれた様子もなくミンメイに肩をすくめて見せた。

「いいわよ、歌っても」
「ミンメイ!」

チーフがミンメイの手から楽譜を取り上げた。でも、ミンメイは特に動じた様子もなくまっすぐにマイケルズの眼を見て言葉を放つ。

「それがプロデューサーのご要望なんでしょう?期待に応えるのがショー・ビジネスだわ」

「さすが俺の姫君だ」

マイケルズは満面の笑みで片膝を付き、ミンメイを崇めるような格好をする。ミンメイはそれを軽くいなすと、心配そうな表情のチーフに向き直った。

「平気よチーフ。たかが歌だもの」
「たかがって、あなた…」
「フフ、みんな気を使いすぎなのよ」

ミンメイは何でもないわとでも言いたげに笑った。それはいつも通り華やかで可愛らしい笑顔だったけれど、見ている僕の心にはほんのちょっぴり痛ましさが浮かんで消えなかった。




関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: ミンメイは強気?

こっちは雨続きで激寒です>< 私、寒いのダメなんですよ~夏が懐かしい~。まあ、アラスカの寒さはこの比じゃないと思いますが(;´∀`)

ミンメイとコートニーwそれはまた恐ろしい組み合わせですねwしかしコートニーがお好きとは…怖いところがお好みですねw

まあ、大抵の女の子はみんなそんなもんだと思います(;^ω^)

へ~大山さんてそんなイメージなかったですね。やっぱり人間、安定しちゃうと腐っちゃうんですかね~。武田鉄矢も自分で「金八先生やってた頃の自分は本当はクズでした」って言ってましたから、イメージと現物は全然違いますねw

未沙ネタはあるんですが、毎回書くのが大変でして…(;・∀・)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 女の子はそんなもん

アラスカを選んだのは、単に土地が余ってたからじゃないですかね〜( ̄▽ ̄)
宇宙からの攻撃に耐えるために地下深くを掘るには、大規模な増設工事が必要ですもんね。アメリカの北米防空総司令部なんかもロッキー山脈の地下なんですが、核ミサイルの攻撃に耐える為なんですよね。
まあアラスカは耐えられませんでしたがw

コートニーはモデルはいないんですが、ビジュアルイメージは作りました。カテゴリーの「ロマネスク」に実写版キャストが載ってるのでもし良かったら探してみてください^ - ^

急に寒くなりましたからね、お互い気を付けましょう>_<
ホントに寒いのは苦手…(;´・ω・)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 悪しき習慣ですね

いや〜、長雨のトドメに台風はキツかったですよね〜( ̄∀ ̄;)
ウチの方も災害らしい災害って無いんですが、それでもあの雨続きはちょっと怖かったです…

人間なんて所詮自分が属さないコミュニティには冷たいですよねw
面白い話があるんですが「猿の惑星」って映画ありますよね。あれは猿にもチンパンジー・ゴリラ・オランウータンの三種類が出てくるんですが。
最初、猿役のアクター達は白人と黒人に分かれて集まってるんですよ。でも猿の着ぐるみを着てメイクをしたら、今度は猿の種類ごとに分かれて集まってるんです。中身は黒人と白人なのにね。
つまり人間は中身なんか関係なくて、見た目で判断する事が普通なんでしょう。だから永遠に差別は無くならないんでしょうね。ゼントラーディ人なんて髪の毛緑色だし、肌はグレーだしw
日本にいたら日本人ばっかで安全安心ですね^ - ^

コートニーの実写版ネタはAshlee Simpsonですね。
http://selebcasual.blog12.fc2.com/blog-entry-357.html
お姉ちゃんのJessica Simpsonの方がよりビッチっぽいけど、ビジュアルイメージでいったらAshleeの方がピンと来たので(*´∀`*)

じゃあそのうちコートニーと輝ちゃんのラブラブ話でも…え?そんなの別に見たくない??チーン

ホント、寒くなりますね〜(@_@)
びえりは寒いのでガチでダメです…
カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR