HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Friday.

ライブ番組には大抵1人の司会者がいる。
サタデー・ナイト・ライブが特徴的なのは、この司会者が毎回変わる事だ。基本的に同じ人が連続して司会者をやる事はない。その週その週ごとに話題の人物がピックアップされゲスト司会者として招かれる。
この司会者はホストと呼ばれ、オープニングのモノローグから登場し、番組の最後まで展開を引っ張っていくのが役割だ。
ホストが毎週変わるので「次週のホストは誰がやるの⁈」と予測するのも視聴者にとっては楽しみの一つになっている。

「音楽ゲストはミンメイでしょ?トークの打ち合わせをまだしてないんだけど」

今週のホストを務めるエマ・ジェファーソンはちょっとブサイクな女の子だ。もちろん本人に面と向かってそう言う度胸は僕には無いが、彼女が女優として人気があるのは決してルックスが良いからではないと神に誓って断言出来る。いや、ある意味ではルックスが要因と言えるのか。

世の中には「ちょいブス」というジャンルがある。その手の嗜好家や同性からはとても人気が高いジャンルだ。スクール物の映画なんかだと必ずクィーンの取り巻きに1人ぐらい混ざっていて、確固たる地位を獲得している。彼女らはブスだからこそポジションを与えられているのだ。それはとても残酷な現実だが、同時に人間社会の懐の深さを表していると言えなくもなくもないこともない。
その「ちょいブス」の代表格たるエマが、ストレートロングの赤毛を指でかき上げながら「ねえミンメイ呼んでちょうだいよ」と僕に偉そうに命令して来た。まるでつい先日出演したばかりの「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の意地悪な学級委員長役そのものだ。ふん、誰がお前みたいな顔面へちゃむくれの言う事を聞くもんか。

「ちょっとあなた、早く呼んで来なさいよ!」
「あ、は、はい」

叱りつけられて、僕は薄暗いスタジオの中を一目散に駆け出した。畜生、負けたんじゃない。あくまでも物事を円滑に進めるための自己犠牲を自ら選んだんだ。ホストとミンメイの仲が悪いと番組もスムーズに行かないものな。

「ダメよ、ミンメイはいま歌のリハーサル中よ」

走り出した僕に鋭く警告が飛ぶ。声を発したのはオカマのチーフマネージャーだった。突然スタジオの暗がりから現れたから、思わず口から心臓が飛び出すかと思った。いや、実はちょっと出たかも。
ギラギラとスタジオの照明を反射するパールホワイトのエナメル靴を翻して、ゴースト・イン・ザ・オカマはエマ・ジェファーソンに正対した。

「エマ、MTGは後にしてちょうだい。ちゃんとスケジュールを貰っている筈よ」

この人の蒼氷色の眼で睨まれたら、言い返せるやつなんかこの世に存在しないと思う。意地悪学級委員長はムッとした顔で「な、なによ」とか言いながら一、二歩後退りした。

「手が空いてるならさっさと終わらせようと見に来ただけよ」
「なら残念でした。ミンメイはこのあとスケッチのリハもあるのよ。あなたとのマッチングはそれが終わってからだわ」
「ふん、ちょっとばかり可愛いからってチヤホヤされちゃってさ」
「『ちょっとばかり』じゃないわ。『とてつもなく』よ」

「もしくは『誰よりも』ね」と付け加えてチーフはまたスッとスタジオの闇の中へと消えた。時たま思うんだけれど、この人はジャパニーズ・ニンジャの末裔かなんかなんじゃないだろうか。

「いい気なもんだわ」

フンッとソバカスだらけの鼻を鳴らして(僕にはブヒッと聞こえたのだが彼女の名誉のためにそうは書かない)エマはパイプ椅子に腰掛けた。短い腕を伸ばし、ミンメイのために用意されていたテーブルのお菓子をバリボリと貪り喰らい始める。あれ、帰らないのかな。もしかして暇なのかしら。

「気が利かないわね。お茶は?!」
「あ、はい、ただいま」

僕はすぐ隣りのケータリングスペースに飛び込みローズヒップティーをカップに注ぐ。エマに手渡すと、お礼も言わずにグビグビと飲みだした。ローズヒップには女性を美しくする効果があるらしい。願わくばほんの少しでもその効果が彼女に現れてくれたら(容姿よりも心の方に)世の中平和になるかも知れない。
無力なローズヒップティーを飲み下したエマがゲフッと下品な音をたてるのとほぼ同時に、ただッ広いスタジオにセンセーショナルなホーンセクションが響き渡った。僕とエマはピクッと反応してステージの方に目を向ける。ステージには…スキニーデニムにクロップドTシャツという簡単な格好のミンメイが立っていた。
彼女がマイクを口元に持ち上げるのが遠くに見える。


Stop! In the name of love
Before you break my heart

Baby, baby I'm aware of where you go
Each time you leave my door
I watch you walk down the street
Knowing your other love you'll meet
But this time before you run to her
Leaving me alone and hurt
After I've been good to you
After I've been sweet to you


行かないで、愛の名のもとに
私の心を引き裂く前に

ねえあなた、私わかってるのよ
あなたがドアを出て行くたびに
通りを去り行くあなたを見ていたから
私とは違う愛を求めて会いに行くのを知っているの
でもあの人の処へ向かう前に
私の身も心も引き裂いて、一人ぼっちにしていくのね
あんなに尽くしてあげたその後に
あんなに甘く癒やしてあげたその後に



「何よコレ。もしかして振られてメソメソしてるってわけ?」

伸びやかな歌声に身を浸し、遠目に歌うミンメイを眺めていたら、背後のエマが鼻で笑うのが聞こえた。僕は思わずムッとなって振り返る。

「ほ、ホントはこの曲を歌うはずじゃ無かったんだ!」
「でも明日はこれを歌うんでしょう?」
「う、うん、多分…」
「じゃあそうなんじゃない」

ニヤニヤと笑うエマが憎らしくて、僕は地団駄を踏みたかった。

「どうせマイケルズ辺りが言い出したんでしょう。ミンメイのゴシップならネットニュースでみんな知ってるわ。明日はTVの前で全員ミンメイの歌でお涙ちょうだいって寸法ね」

エマの物言いはとてつもなくムカついたけれど、全部事実で一言も言い返せない。ミンメイが軍のパイロットとのスキャンダルをすっぱ抜かれてから大分経つけれど、彼女がその傷から回復していないのは身近にいる僕らにはよく分かっていた。だからこそ、それを視聴率に利用しようとする業界人の目論見には余計に腹が立つ。

「ミンメイはそんな弱い女の子じゃないよ!自分で歌うって言ったんだ。求められたら歌うのがショー・ビジネスだってね!」

僕はエヘンと胸を張った。エマは呆れたような顔になる。

「ならミンメイも自分のゴシップを利用するのを認めたって事じゃない。TV屋連中と同じ穴のムジナだわ。人生の切り売りお疲れ様」

あ、あれ?そう、なるのかな??
僕のぽか〜んとした顔がよほど変だったのか、エマはゲ〜と舌を出すとパイプ椅子から立ち上がった。そして「お茶アリガト。マズかったわ」と捨て台詞を吐いて去って行く。一体この子は何しにここへ来たんだろう。まさかミンメイの歌を聞きに来た訳でもあるまいし。
畜生、二度と来るなと僕は聞こえないよう小さな声で呟いた。するとエマが立ち止まったので心臓が止まりそうになる。いや、実はちょっと止まったかも。

エマはステージの方を振り返った。薄暗いスタジオの隅で、遠くステージからの照明に淡く浮かび上がったエマの顔はどこか悲しそうに見えた。

ブスはブスなりにいい表情をするな。僕はこの時そう思った。



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