HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Saturday.

毎週土曜日、23時。
それはアラスカに住むTVフリークにとっては特別な時間を表す。

画面には2人の男女。1人は新統合政府のゲノム総理…役のニセ者。そしてその奥様の役も当然ニセ物。
最近、ゲノム総理大臣は女性スキャンダルをパパラッチされたばかりだ。場面は唐突に2人の夫婦喧嘩から始まる。
ゲノム総理に扮したコメディ俳優が「やあメラニア」と女性に呼びかけると、メラニア婦人に扮した女性コメディアンが「あら浮気者。今夜はこっちの家に帰って来たのね」と皮肉で応酬する。舞台観覧者達の笑い声が集音マイクを通してTV画面に漏れ伝われば、コールド・オープンの準備完了だ。

ここは自由の国アラスカ。例えどんなに偉い政治家や大企業の社長であっても、サタデー・ナイト・ライブの前ではただのスケッチ・ネタの具材に過ぎない。みんなまとめてブラックな笑いの鍋へと無条件に放り込まれる運命にある。普通だったら告訴されてもおかしくないレベルの皮肉のスパイスがふんだんに降り注がれ、演者達は調子に乗りまくって誹謗中傷を有る事無い事喋り捲る。行き過ぎた風刺のヤバさこそこの番組の真骨頂だ。
途中、浮気相手とされる女優(なんとゲノム総理より歳上だ)役のニセ物が現れ、舞台上でプチ修羅場を演出する。それまでじっと立っているだけだったSPに、ゲノム総理(役のコメディ俳優)が「おい、仕事しろ!」と叫ぶとようやくみんなの中に割って入る。舞台下で生観覧している観客たちの愉快そうな笑い声や口笛が響き渡り、ひとしきり全員が騒ぎ終わったタイミングで一斉に顔をカメラに向けて声を合わせた。

「LIVE from MACROSS! It’s Saturday Night!!」

まさにお決まりの「番組開始!」の合図。人々の拍手と歓声が巻き起こり、聞き慣れた音楽を背景に番組のオープニング映像が流される。さてさて、今夜もアラスカ最大のビッグ・プログラム”Saturday Night Live”の始まりだ。
映像の切れ間には、シャンパンレッドにドレスアップしたホスト役のエマ・ジェファーソンがアラスカ中に向けて始まりの挨拶をする。出演した映画「空飛ぶパンティ・地獄のゴリゴリハイスクール」の興行成績も好調な悪役学級委員長エマは、普段の彼女からは想像もつかないような知的でおしゃまなハイセンス・トークでモノローグを語り始めた。すると番組のレギュラー陣(ほとんどがコメディアンだ)が途中からそのスタンドアップ・トークに面白おかしく乱入して来る。どうやらみんな、今回は観客の中に紛れ込んで「変な人」を演じているみたいだ。
現れたのは病院から抜け出した統合失調症の患者、KKKの格好をした大男、知恵遅れのゼントラーディ人、そして銃(のおもちゃ)を振り回す過激派のテロリスト。よく見れば毎週番組を盛り上げてくれるお馴染みの面々が扮している。彼らにモノローグを邪魔されながら、エマは苦笑いを繰り返しつつも何とかうまくトークタイムを盛り上げる。

「へ〜、やるじゃん。面白いね」

舞台袖で見ていた僕は、エマの器用さに少し感心した。さすがは腐ってもシティ女優。だてに見た目も性格もブスじゃないね。

「なに呑気な事言ってるの。もうすぐミンメイの出番よ」

ぼーっと舞台を見ていたらチーフに耳を引っ張られた。イテテテ、わ、分かってますよもう。抗議の眼差しをチーフに向けようとしたら、後ろから今夜のドンが近づいて来るのが目に映った。総合プロデューサーのローン・マイケルズはゴールドのラメラメジャケットを着ていて、はっきり言って出演者達よりもギラギラと目立っていた。このままステージに出て行ってもおかしくないような派手っぷりだ。
マイケルズは「よう」と片手を上げて挨拶をして来たが、チーフはフンと鼻を鳴らすだけで顔を見ようともしない。多分ミンメイの選曲の件でまだ怒っているんだろう。

「いい加減に機嫌直せよ。まったく女の腐ったみたいな野郎だな」
「今の発言でなおのこと許す気持ちが無くなったわ」
「ミンメイ本人は納得してるんだぜ?周りが勝手に腹立てんのはちょいとお門違いだろうがよ」
「あの子はまだ子供よ。あんな何も分かってない若い娘を利用しようだなんて」
「だから、それがショー・ビジネスってもんだろうが」

マイケルズとチーフの言い争い。この怪物同士の口論は本当にしょっちゅうだ。実は仲が良いんじゃないかとたまに邪推してみたくもなる。…て事は、オカマのチーフは男性が好きな訳だから…いや、やめよう。考えるだに恐ろしい。
僕がとんでもない妄想に身震いしているその横を、ミンメイがするりと通り抜けた。軽やかな足取りで自分のステージへと向かう。僕は慌てて「が、頑張って!」と工夫のない声を掛ける。ミンメイは振り向かずに「ハイハーイ」と片手を挙げてそれに応えた。
チーフとマイケルズもミンメイに気が付く。文句の言い合いを中断して二人はミンメイに注視した。

「ああ心配だわ。あの子ホントに大丈夫かしら」
「母親かよ。いい加減子離れしやがれ」

ホスト役のエマがトークを繰り広げる、そのすぐ隣りの舞台にミンメイが陣取った。予め待機していた楽団も楽器を手に準備万端だ。
今夜のミンメイは黒を基調としたパーティ・ドレスを着ている。背中がざっくりと大きくハイカットされていた。セクシーだけれど落ち着いた雰囲気の衣装にして来たのはやはり選曲の影響だろうか?後でスタイリストのデカ女に聞いてみるとしよう。豊かに膨らむ胸元はウエストをキュッと絞ることでより一層存在感を増している。その上の真っ白なデコルテには大粒のパールがキラキラと照明を反射して綺麗だった。

エマがトークの仕上げに入る。いよいよカメラが切り替えられてミンメイの歌の出番だ。かの「世紀のアイドル」の出演回とあって今夜のアラスカの視聴率は相当なものだろう。僕は覚悟を決めて生唾を飲み込んだ。チラリと視線を走らせれば、チーフはハラハラとハンカチを握りしめ、マイケルズはニヤニヤと笑みを浮かべている。
ディレクターの合図で、カメラのランプが切り替わった。さあ、ミンメイ、君のステージだ!

例のセンセーショナルなホーンセクションが舞台に響き渡り、ミンメイは男に捨てられる女の苦悩を歌い上げる…筈が、僕らの耳に飛び込んで来たのは静かだけれど力強いピアノのイントロだった。

「…アレ?」

僕がおかしいと気が付いたくらいだ。チーフもマイケルズもすぐに気がついただろう。でもこれは全アラスカにLIVE放送中である。今さらどうにも出来やしない。
ミンメイを見れば…彼女はスタンドマイクを握りしめ、僕のまったく知らない歌を歌い始めた。
とても静かな表情で。なのに力強い歌声で。



Ain’t got no home, ain’t got no shoes
Ain’t got no money, ain’t got no class
Ain’t got no skirts, ain’t got no sweaters
Ain’t got no perfume, ain’t got no luck
Ain’t got no fate

Ain’t got no culture, ain’t got no mother
Ain’t got no father, ain’t got no brother
Ain’t got no children, ain’t got no aunts
Ain’t got no uncles, ain’t got no roots
Ain’t got no man

Ain’t got no country, ain’t got no schooling
Ain’t got no friends, ain’t got no nothing
Ain’t got no water, ain’t got no air
Ain’t got no smokes, ain’t got cookie
Ain’t got no

Ain’t got no water, ain’t got no love
Ain’t got no fate, ain’t got no luck
Ain’t got no wine, ain’t got no money
Ain’t got no fate, ain’t got no God
Ain’t got no love

Then what have I got
Why am I alive anyway?
Yeah, what have I got
Nobody can take away

I got my hair, got my head
I got my brains, got my ears
I got my eyes, got my nose
I got my mouth, I got my smile
I got say

I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got laugh
I’ve got healing
I’ve got doing
I’ve got bad times too like you
I got my hair, I got my head
I got my brains, I got my ears
I got my eyes, I got my nose
I got my mouth, I got smile
I got my tongue, I got my chin
I got my neck, I got my boobies
I got my heart, I got my soul
I got my back, I got my sex
I got my hair on my head
I got fingers, got on my legs
I got feet, I got my toes,
I got liver, I got my blood
I’ve got life
I’ve got freedom
I’ve got life…


私には家もない、靴もない
お金もない、階級もない
スカートもない、セーターもない
香水もない、ツキもない
運命もない

教養もない、母もない
父もない、兄弟もない
子供もない、叔母もない
叔父もない、根もない
男もいない

国もない、学校もない
友達もいない、何もない
水もない、空気もない
煙草もない、お菓子もない
何もない

水もない、愛もない
運命もない、ツキもない
ワインもない、お金もない
運命もない、神様もない
愛もない

それでも、私は何か持ってるんだわ
だって、私はどうやって生きているというの?
そうよ、私は持っているのよ
誰も奪い取れないものを

私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には話せる
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には笑い声がある
私には癒しがある
私には行動がある
私にもあなたたちみたいに悪い時がある
私には髪がある、頭がある
私には脳みそがある、耳がある
私には眼がある、鼻がある
私には口がある、微笑みがある
私には舌がある、顎がある
私には首がある、乳がある
私には心がある、魂がある
私には背骨がある、性がある
私には髪がある、頭がある
私には指がある、ひざがある
私には足がある、かかとがある
私には肝臓がある、血がある
私には命がある
私には自由がある
私には命がある…







「え?なにコレ、え?」

愛の名の元には?シュープリームスは??僕の知らない間に何か変更があったんだろうか???
僕はマイケルズを見た。でもマイケルズもビックリして目をまん丸くしていた。あ、この人こんな顔するんだ初めて知った。
マイケルズはその太い指でチーフの肩をガッシと掴む。よく見たら毛むくじゃらの指はシルバーの指輪だらけだ。

「おい、お前の仕業か!」

そう問い詰められて、振り返ったチーフの顔は…やっぱりビックリしてた。

「知らないわ…でもコレって…」

チーフは蒼氷色の目を見開いてた。アラスカTV界にその名を知られる裏方の大物2人は顔を見合わせて一つの名前を呟いた。

「「ニーナ・シモンだ」わ」

これは後でチーフに教えて貰ったんだけれど、そのニーナ・シモンって人はまさに60年代アメリカの公民権運動の真っ只中にいた黒人歌手なんだそうだ。
キング牧師なんかと一緒になってデモ・パレードをしていたらしい。かなり過激な人だったんだけれど、人種差別のなくならないアメリカに失望して結局国を出ていっちゃうんだ。そのさよならライブで歌ったこの曲が、当時の人種差別と戦う人たちのシンボリック・ナンバーになっていたらしい。

ある日突然故郷のアフリカで捕らえられ、奴隷として裸のまま見知らぬ新大陸に連れてこられた黒人たち。その子孫であるアフリカ系アメリカ人の自分たちには「家もない、靴もない、お金もない、国もない、文化もない」と黒人の現実を切々と歌っている。しかしそれでも最後には「私にはこの体が、命がある。それだけは誰にも奪えない」と力強く歌い切るこのナンバー。『Ain't Got No...I've Got Life(何もない…でも私は生きている)』という曲だそうだ。
あまりに皮肉が効きすぎていて、21世紀になってもアメリカ南部の一部の州では放送禁止になっていたらしい。

成る程、マイケルズがやりたい「TVに公民権運動を持ち込みたい」「ミンメイをそのアイコンにしたい」にはピッタリの曲なわけだ。しかし何故…

「何故、ミンメイがこんな曲を知ってるの?」

チーフが僕と同じ疑問を口にする。マイケルズはステージのミンメイを眺めながら渋い顔だ。

「知るか、誰かの入れ知恵だろう」
「いいえ違うわ」

後ろから声を掛けられて、僕らは驚いて振り向く。そこにはブス…じゃない、個性派女優のエマ・ジェファーソンが立っていた。

「彼女、自分でその歌に決めてたわよ。マイケルズがゼントラーディ問題と公民権運動を重ねてるって話を聞いてから、ちゃんと自分で世界の歴史を勉強したのよ」

「え、そうなの?!」

僕はそこに一番ビックリした。あの本を読んだり勉強したりなんてのが何よりも大嫌いなミンメイが…というか、朝から晩まで仕事仕事で寝る間もない毎日なのに、どこに一体そんな時間があったのだろう。
チーフも同じ思いだったらしく、愕然とした顔をしている。そのチーフに向けてエマが短い指を突き出した。

「ボーリゾンさん?でしたっけ?あなたが思っているより、彼女子供じゃないわよ。これからはもっと一人前の女性として扱うことね」

そして腕を組むと、憐れむような小馬鹿にしたような目線をアラスカ一の大物プロデューサーに向ける。

「マイケルズ、あなたも年ね。あんな小娘に出し抜かれるなんて」

「し、しかし撮影は…リハは…」

言いかけてマイケルズはハッとなる。番組のディレクター(監督)は年甲斐もなくミンメイの大ファンだ。一昨日もスタジオに入ったミンメイの手をベタベタと触っていた。彼女がお願いすれば、コロンと簡単に言うことを聞くに違いない。直前に曲目を変えるのなんて、ワガママ娘で名の通ったミンメイにしたら別に珍しい事でも何でもない。

「リハなんてなくても平気よ」

今度は反対側から声がした。いつもの、聞き慣れた声。澄んでいて、それなのにどことなく意志の強さを感じさせる芯の通ったキャンディ・ボイス。

「これでも、プロの歌手なんですからね」

「ミンメイ…」

呆然とマイケルズは呟く。歌い終えたミンメイが、ステージから袖に戻って来ていた。その顔は上気していて、しっかりと任務をやり遂げた女の迫力をじんわりと醸し出している。
頬を赤く充血させてミンメイは微笑んだ。

「話題になれば良いんでしょう?だってショー・ビジネスですもの!」

確かに。こんなドラマティックな曲をリン・ミンメイが歌うとはなかなかに世の人々の関心を買っただろう。くだらないゴシップネタなんか一瞬で吹き飛んだ。
マイケルズが意図していた「ゼントラーディ問題」=「現代の人種差別」という図式を人々に意識させるのにも充分だ。

「急な話で、楽団にはちょっぴり迷惑掛けちゃったけれどね」

そう言ってペロッと舌を出す。そのあまりのキュートなギャップに僕らは言葉も出なかった。

「…負けたよ」

マイケルズはただ一言、静かにそう言って肩をすくめた。




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Re: ぐうっ‥!

わ〜ありがとうございます〜(*´∀`*)
(ふふ、これでミンメイ派への転向にまた一歩近付いたのでは…)

この曲いいですよね〜^ - ^迫力があります。
元々はヒッピーの事を歌った歌で、「俺たち何にも持って無いけど生きてるだけマシじゃん」的な楽天的な歌だったんです。ビギンの「笑顔のまんま」的な感じですね(´ω`)
でもニーナ・シモンが歌い始めてから黒人の人生哀歌に変わって行きました。いや〜、歌は歌う人によって変わりますね〜。
これからもミンメイには沢山の歌を歌っていって欲しいです。
先生書いてくれないかな〜チラッ(pω・q)
くれないかな〜チラッ(pω・q)

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Re: 私は生きている~♪

お久しぶりです^^
苦手なミンメイをお読みいただいてありがとうございますww

当時ミンメイ嫌いだったけれど、大人になって可愛く思えるって方多いみたいですね。私は今も当時も可愛くて大好きなんですがwううむ、やはり未沙さん派は譲れないんですねww

お体大事になさってください。これから寒くなりますからね。私は最近温活にはまっていまして、特に足元を温めるのを大切にしています。フットウォーマーとか仕事中に使っているんですよ^^
この曲良いですよね!根源的なパワー、うん、それ分かります。私は生きているんだ!

また最近マクロスのお話が盛り上がって来たのか、新しく訪ねて来られる方もいらっしゃるみたいなので、その辺だけちょっと書き足してみましたw
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