HAPPY BIRTHDAY MINMAY at Sunday.

本番の終わった深夜2時。ここはシティのナイトクラブ。出演者も裏方も、番組の関係者が一堂に会して朝まで打ち上げパーリーナイトが開かれる。

パーティーの主役はもちろんその週のホストと音楽ゲストだ。
なので今週のホスト役であるエマ・ジェファーソンは当然ながら今夜の主役の1人である。大勢のスタッフに取り囲まれてワイワイ騒がれている様子が見て取れた。しかし彼女はオンカメラでのトークは得意なのだが、オフカメラで愛想を振りまくのは苦手、というか嫌いみたいだった。さっきからスタッフ1人1人を捕まえては「あんたは気が利かない」とか「あんたは将来出世しない」とかよく分からないダメ出しを連発している。
まったくもって顔も性格もブスな彼女だが、社交性も特別に悪いらしい。
呆れたような顔をしてスタッフが1人また1人と逃げて行く。しかしアルコールの入ったエマから逃れるのは至難の業だ。僕は可能な限りあの災厄に触れないようにフロアの端っこへと逃れるように歩いて行った。

するとそこに、ミンメイがいた。今夜のパーティーのもう一人の主役。のはずなのに、壁際の席で独り静かに座ってフロアの様子を眺めている。このミッドナイトパーティーが、彼女の19歳の誕生日のお祝いも兼ねているのにも関わらず、だ。
僕に気がついたミンメイは「Hi」と片手を上げた。少しだけ酔っているのか、ほんのりと赤い顔をしている。機嫌は良さそうに見えたので、僕は対面の席に腰掛けた。フロアは大勢で盛り上がっていて、ノリの良いハウス・ミュージックがひっきりなしに僕らの鼓膜を叩いている。

「さっき社長が来てたよ」
「うん、バースディプレゼント貰った」
「へー、何だった?」
「これ」

ミンメイは左腕のブレスレットを見せる。クラブの照明がカラフルに変化するので何色か分からないが、きっと高価な物なのだろう。でもミンメイは興味なさそうだった。

「なんか今日は大人しいね」

僕が不思議に思って訊ねると、ミンメイはテーブルの上に置いてある自分のモバイルフォンをツンツンと指でつついた。

「お祝いが、来ないのよ」
「?誰から??」
「一番欲しい人から」

僕はクラブの中を見渡す。今日はウィークエンドな上にあのリン・ミンメイの誕生日祝いだという事で、かなりの数の芸能関係者がパーティーに駆けつけている。クロークにはミンメイ宛ての花やらプレゼントボックスやらが山積みだ。売れっ子のロックシンガーからご同業のアイドル仲間を始めとして、スポンサー関係で有名企業の経営者やどこぞのお偉い議員さんまで華々しい顔ぶれが揃っていた。
その錚々たる面々を差し置いてミンメイをこんな表情にする相手と言えば…

「例の、その、パイロットさん?」

ミンメイは答えなかった。ただ小さな三角グラスを掴むとクイッと一息にあおる。さくらんぼには触れずにそのままの状態でグラスに残した。

「わたし、何やってるんだろ…」

大きく息を吐いて、ミンメイはテーブルに突っ伏した。そんなミンメイがなんだかいつもより小さく見えて僕はちょっとだけ心配になる。何か言ってあげなきゃ、ここは元気づけてあげる場面だ。なにしろ僕はあの人類の救世主、”世紀のアイドル”リン・ミンメイのマネージャー(サブだけど)なんだから!

「ねえミンメ「よう、ミンメイ」

僕の台詞にかぶさるように現れたのは、このパーティーの影の主役とでも言えるアラスカTV界の大物プロデューサー、ローン・マイケルズだった。マイケルズは僕のことは無視してミンメイの隣りにドッカと腰掛ける。フロア内の音楽は少しポップ調に明るく、テンポの速い物になっていた。

「なんだ、もう飲み潰れたのか」
「そんな訳ありませんよ〜だ」

ミンメイは頬を膨らませて起き上がる。マイケルズは笑顔で新しいグラスを差し出した。ミンメイが受け取ると、自分のグラスをそれに合わせる。カチンとガラスの音がして水滴が弾けた。

「ひとこと言い訳をしておきたくてな」

琥珀色の液体に満たされたグラスを一口あおってから、マイケルズはそう呟いた。ぼうぼうの口ひげを撫でてミンメイを正面から見つめる。ミンメイは膝を揃え、ちょこんと座り直してマイケルズと正対した。

「別に俺はな、お前さんが憎くて意地悪をしてやろうとか、そういう意図でやってるんじゃないんだ」
「ハイハイ」
「サタデー・ナイト・ライブ出身で売れた連中は大勢いる。みんな俺が育ててやった。リン・ミンメイにも同じ気持ちで接してるんだ」
「ウンウン」
「お前さんを成長させるために考えて、敢えてああいう事をやってるんだぜ?俺たちショー・マンは人生を切り売りしてなんぼだ。他人のも、自分たちの人生もな」
「そうそう」
「俺はこの番組に命を懸けてる。だから一緒にやる連中にもその覚悟を持っていて欲しい」
「ほうほう」
「…本当に分かってるのか?」
「はいはい」

ミンメイに軽くいなされて、マイケルズは苦笑するしかない。アラスカ1のビッグ・プログラムのボスも、かのリン・ミンメイの前では手も足も出ない有様だ。たったいま19歳になったばかりの小娘に。

「まあ、なんだ、その」

マイケルズは視線をミンメイからそらした。”それ”の到来を明敏に感じ取って、ミンメイは大粒の瞳を見開いてじーっとマイケルズのヒゲ面を見つめている。

「…悪かったよ。今回はちょっとズルかった」
「いえいえ」

ミンメイは笑った。「でもほんのちょっとだぞ」とマイケルズがどうでもいい釘を差し、ミンメイはまた「ハイハイ」と軽くいなしてグラスをかかげる。マイケルズは「Happy Birthday PRINCESS」と言ってミンメイをハグし、藍色の髪にキスをした。あ、このスケベオヤジめ、僕だってそんなのした事無いのに。

マイケルズが去ったあと、オカマのチーフマネージャーが入れ替わりにミンメイの元へとやって来た。やっぱり隅っこでひっそりしているミンメイの事が心配になったらしい。
が、ミンメイの顔を見るなりチーフは口を噤み、何も言わずに静かに席に座った。フロアではDJが変わったらしく、ソリッドなコテコテのテクノ・ミュージックが流れている。

「私ね、あなたに謝らなきゃならないわ」

ミンメイが不思議そうな顔をしていると、チーフは微笑みながらミンメイの藍色の髪を撫でた。

「私、ずっとあなたの事を過保護に扱っていたみたい。気が付かないうちに、あなたを何も出来ない幼い子供か何かのように考えていたの。でも、あなたはもう立派な大人なのよね」

ミンメイはチーフが何を言っているのかよく分かっていないみたいだ。というか僕もよく分からない。ミンメイの小首をかしげる仕草が可愛らしかったからか、チーフはとても優しい目になって言葉を紡いだ。

「あなたはあなたの人生を生きるのね。自分で考えて、自分で決めて。初めから私なんて必要なかったんだわ」

1人で喋って1人で納得したチーフは、「Happy Birthday MINMAY」とだけ言い残して席を立った。最後に僕の方を見て「なんだあんた居たの」だって。失礼しちゃうよ。

クスクス笑っているミンメイを恨みがましく僕が眺めていると、今度はエマ・ジェファーソンがフラフラとやって来た。大分酔っているらしい、目がかなり据わっている。僕はすかさずその場から消えようとしたけれど、笑顔のミンメイに「まさか逃げないわよね」と言われて「ハイ」と大人しく座り直した。

「あらミンメイ、御機嫌いかが?」

ちょっと呂律のあやしいエマは赤く湯だったタコみたいになっていた。きっと面倒くさがられてスタッフ達にガンガン飲まされたんだろう。でも目論見は失敗して、酔い潰れるどころかもっと面倒くさそうなのが現れたっていう寸法だ。

「上機嫌よ。あなたは?」
「ええ、とってもいい気分だわ」

エマはひゃっくりをしながら答えた。しかし何故かそのまま黙ってしまう。席に座るでもなく、かと言って立ち去るでもなく。どうしたんだろうと僕とミンメイが見守る前で、何か言いたい事でもあるのかモジモジと人差し指を突き合わせている。

「ね、ねえミンメイ」
「なぁにエマ」

エマ、と呼ばれてエマの顔がぱあっと明るくなった。ん?何だ?どういう事??

「そ、その、今日の、いえもう昨日ね。あの歌、とってもカッコ良かったわ」
「ホント?ありがとう」

ミンメイはファンの子達に対するように100点満点の営業スマイルでお礼を言った。ほんと、こういうところは彼女は誰よりも当たりが良くて素晴らしい。こういうのって天性の才能だと思う。

「あ、あのね、だからって訳じゃないんだけれど」

またモジモジしだしたエマ。どうしたブサイク、映画の意地悪学級委員長の役を思い出してミンメイに皮肉でも言いに来たのか。

「その、あの、と、とも…ってあげ…」
「ん?なぁに??」

急に声が小さくなるエマ。ミンメイは笑顔のままでエマに顔を近づけた。エマの顔がさらに真っ赤になる。こりゃきっとウォッカを飲まされてるな。

「ああの!」

意を決したようにエマがギュッと目を閉じて叫んだ。

「と、友だちになってあげてもいいわよ!」

クラブの音楽はガンガンにハードコア・テクノだ。勢いだけでぶっちぎろうとする音圧がこの広くて狭い空間を支配する。僕は聞き間違いかと思って確認のためにミンメイの顔を見た。ミンメイも僕の顔を見た。

「い、いやならいいのよ」

赤を通り越して赤黒くなったエマが足早に立ち去ろうとするのを、ミンメイは手を伸ばして引き止めた。エマは硬直して彫像のようになる。

「嬉しいわ、ありがとう。エマとは今日からお友達ね」

微笑むミンメイ。パッと明るい表情で振り向くエマ。僕はその時、ふと金曜日のリハでエマがわざわざミンメイを探しに来たのは、ミンメイの歌を聞きたかったからじゃないのかな、なんて思った。もともとこのブサ…個性派女優はミンメイのファンだったんじゃないのか?

急に馴れ馴れしくなったエマはミンメイの隣りに座ると「telナンバー交換しましょう!」と鼻息を荒くしてミンメイに迫る。まるで映画の意地悪学級委員長が、弱い者いじめの獲物を見つけた時のような迫力だ。
ミンメイはその勢いに少し困ったような顔をしていたが、僕の気のせいだろうか、どことなく嬉しそうな表情にも見えた。

ふとテーブルを見れば、ミンメイのモバイルフォンがチカチカと光っている。しかしフロアにはガンガンにエグいシュランツが鳴り響いていてミンメイはそれに気が付かない。
僕は邪魔しちゃ悪いと思って、エマの首根っこを掴むとそのままフロアへと引きずって行く。エマは激怒して僕の足を踏んづけまくるが、僕は涙を堪えて意地悪学級委員長をミンメイから引き剥がした。

振り向いて、テーブルを指差す。ミンメイはハッとなってチカチカ光るモバイルフォンに手を伸ばした。

「Happy Birthday,MINMAY」

そう声を掛けたけれど、きっともう聞こえていなかっただろう。弾むような笑顔でモバイルフォンに話し掛けるミンメイを残して、僕はゆっくりとエマをダンスフロアへと連れて行った。





HAPPY BIRTHDAY MINMAY おわり


関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

麗しの方

麗しのボリさんだー!嬉しいーです。(≧∇≦)
セコの語りだったので、ボリさんをグラスの中の氷の様なあつかいになるのかと心配しておりましたが、最後まで存在感があって嬉しいかぎりです。
ありがとうございます。

大物プロデューサーさんですが、読み続けていって私の脳内では、彼が大橋巨泉さんに思えて仕方がありませんでした。
癖のある芸能の方が少なくなってきましたよね。

やっぱり、びえりさんのミンメイは可愛いです!(*´꒳`*)
近頃では賢くもなってきましたね。ハードスケジュールの中でもちゃんと勉強してるんですね。
知る事は最大の武器ですね。
私の古びた脳みそも刺激を与えなければ。
近頃では…言葉が乏しいです。(TT)

Re: 麗しの方

大橋巨泉www
それは予想外でしたwww
さすがkomesaさん、イマジネーションの幅が広いです!!
マイケルズはモデルはいないんですが、ビジュアルイメージはあります。でも名前忘れちゃった( ̄∀ ̄;)

ミンメイはやっぱり可愛いですね(´ω`)うん、可愛い。
良かったです。これで晴れてkomesaさんもミンメイ派閥という事で…え?違う?

ボリお好きですか。では次回はボリと輝ちゃんのラブラブなお話を…そう言えば来月輝ちゃんのお誕生日ですよね…( ̄▽ ̄)

「未紗、別れてくれ」
「え、ど、どうして⁈」
「好きな人が出来たんだ…」
「ミンメイでしょ!酷いわ!!」
「いや、この人だ」
「ハァ〜イどうも〜」
「お、男〜?!!?!」

あれ、なんですかその怖い目は…あ〜れ〜


> 麗しのボリさんだー!嬉しいーです。(≧∇≦)
> セコの語りだったので、ボリさんをグラスの中の氷の様なあつかいになるのかと心配しておりましたが、最後まで存在感があって嬉しいかぎりです。
> ありがとうございます。
>
> 大物プロデューサーさんですが、読み続けていって私の脳内では、彼が大橋巨泉さんに思えて仕方がありませんでした。
> 癖のある芸能の方が少なくなってきましたよね。
>
> やっぱり、びえりさんのミンメイは可愛いです!(*´꒳`*)
> 近頃では賢くもなってきましたね。ハードスケジュールの中でもちゃんと勉強してるんですね。
> 知る事は最大の武器ですね。
> 私の古びた脳みそも刺激を与えなければ。
> 近頃では…言葉が乏しいです。(TT)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: ナイショ

いやいやいやw
マジですかww

へ〜そうなんですか(@_@)知らない世界ですが、ある意味性別を超えて似たような趣味趣向が大衆化してしまうものなんですかね〜。この辺は国民性に近いのかも知れない…

いや〜、さすがにキツいですwなかなかハードルがww
裏ページはもっと清く爽やかにいきたいんです(大嘘)( ̄ー ̄)ニヤリ

はじめまして

はじめまして、少し前からチェックさせていただいてます。

びえりさんのミンメイ愛が溢れ出てくる作品ですねえ。作品中での少女から少し成長したミンメイという感じがあっていいですねえ。
TVシリーズと劇場版が共に輝に振られて歌で生きていくという終わり方と、Flashback2012での物寂しげなイメージがあるためか、明るいミンメイというイメージがないのがおかしいなあと思うのです。天性のアイドルであるリン・ミンメイは、誰が亡くなってももっと明るく振舞うと思うのです。びえりさんなら、輝と未沙が早々に爆死した後で二人とのことを想い出として割り切っているリン・ミンメイを描くと面白いのでは思っているのですが。リン・ミンメイを主役とするためにも。

最後の電話のシーンがなければ、そんな感じでも成立すると思うのですが。どうでしょ(笑)

Re: はじめまして

初めましてこんにちは!^ - ^

実は私は割りとミンメイ普通の子だと思ってるので、そんなに強いキャラクター性は求めてないんですよね〜。
何というか、漫画やアニメって登場人物の人格を記号化してデフォルメで勝負するじゃないですか。ああいうのあんまり好きじゃなくて、なるべく「デフォルメ世界の中に息づくリアル路線」的なラインを追求したいんです( ̄▽ ̄)

でもまあ、現実世界だったら誰が死んでも人は生きて行けますよね。一生悲しみだけで生きる人間なんてこの世にいないし^ - ^


> はじめまして、少し前からチェックさせていただいてます。
>
> びえりさんのミンメイ愛が溢れ出てくる作品ですねえ。作品中での少女から少し成長したミンメイという感じがあっていいですねえ。
> TVシリーズと劇場版が共に輝に振られて歌で生きていくという終わり方と、Flashback2012での物寂しげなイメージがあるためか、明るいミンメイというイメージがないのがおかしいなあと思うのです。天性のアイドルであるリン・ミンメイは、誰が亡くなってももっと明るく振舞うと思うのです。びえりさんなら、輝と未沙が早々に爆死した後で二人とのことを想い出として割り切っているリン・ミンメイを描くと面白いのでは思っているのですが。リン・ミンメイを主役とするためにも。
>
> 最後の電話のシーンがなければ、そんな感じでも成立すると思うのですが。どうでしょ(笑)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: よかったね

ありがとうございます^ - ^
お楽しみ頂けて良かったです〜。

もっと楽しいお話をどんどん書いていけたらいいんですけどね〜。
カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR