僕と私の誕生日 -中編-
その日、マクロスは朝から輝の話題でもちきりだった。
「東部パトロール中隊の一条中尉が!」
「え、あの噂のエースパイロット?!」
「どこどこ、見せて見せて」
「あ、いた!あれあれ!」
人々は一斉に指さされた方角を見る。そこには仏頂面で医務室から出てくる噂の人物、一条輝の姿があった。
背は低くなっている。体全体のシルエットも明らかに小柄に見えた。しかしそれとは逆に、胸とお尻は膨らんで妙にブカブカに見える。それはそうだろう、輝がいま着ているのは男性士官用の軍服なのだ。
「隊長〜!」
パトロール中隊の部下達が駆け寄って来る。輝は「ハハハ」と乾いた笑いで仲間を迎えた。
「隊長、どうでしたか?!」
「う、うん。まあ、俺が俺だって事はDNA検査で証明されたよ…」
「で、なんで女になったんですか?!」
「…それはまだ分からんとさ。医者も首をひねってた」
輝は大きくため息をつく。そんな隊長の様子を、部下達は色んな表情で取り囲んでいた。
「聞きましたよ先輩」
昼になって隊長室にやって来たのは、含み笑いのマックスだった。輝は「お前もか」という顔でゲンナリとする。
「お前までからかいに来たのか。勘弁してくれよ」
「フフフ、朝から大人気だったみたいですね」
マックスはふてくされる輝をしげしげと眺めやる。興味本位で見られるのにウンザリしていた輝は、手のひらでしっしっと追い払う真似をした。
「先輩、ちょっと縮みましたね」
「何せ女になったからな。見ろよ」
輝は腕を伸ばして見せる。いつも着ている筈の自分の軍服は、袖が長過ぎて指先まで埋まってしまっていた。
「袖をまくってもまだ余るぜ」
「ハハハ、なんとも可愛らしい中隊長さんですね」
「言ってろ」
輝は舌打ちをして背もたれをギシリと揺らせた。元々童顔の輝だが、今は兵士らしい険が取れてもっとあどけない顔になってしまっている。いくら毒づいても何の迫力も感じない。
「しかし参りましたね」
「ああ、本当に参ったよ」
「いや、そうじゃなくて」
マックスは少し声を潜めた。部屋には2人しかいないが、口元に手をやって輝だけに聞こえるような小声で囁く。
「早瀬さんに、なんて言うんです?」
「う、うん」
輝は思わず口籠った。今朝はあまりの出来事になかなか頭が回らなかったが、冷静になればなるほど今後の自分の生活が心配になって来る。そしてそれは、現在パートナーとして公認されつつある彼女に対しても同じだ。
「もう連絡は入れたんですか?」
「今日から女になりましたってか?そんな事言える訳無いだろ」
「でもきっとすぐに耳に入りますよ」
「う、うん、そうだな」
輝は困り果てた顔になる。マックスも腕組みをして思案顔だ。そんな沈んだ2人の空気を裂くように、パトロール隊の部下達がドカドカとドアを開いて入って来た。
「隊長、もうじきパトロールに出発する時間ですよ」
「おう、もうそんな時間か」
輝は椅子から立ち上がる。バルキリーに乗るためにパイロットスーツに着替えなくてはならない。
マックスに別れを告げ、隊長室を出て通路を歩いて行く。その輝の後ろから、部下達がゾロゾロとくっ付いて来た。
「まったく、毎日毎日パトロールばっかで嫌になっちまうよな」
口調は変わらず男子のそれだが、ルックスは完全に女子そのものになっている。輝の歩く後ろ姿、ゴツかったシルエットは柔らかな曲線に変わっていて、特に小さくなったヒップラインはぷりぷりと女の子らしい丸みを感じさせてくれる。
そんな輝を、何か期待を込めた眼差しで見守る部下達。輝はそれに気がついて不思議そうに尋ねた。
「??なんだ?お前ら」
「隊長、あの〜」
部下を代表して同じ日系人の松木が口を開く。
「ロッカールームは、やっぱり男子の物を使うんですよね?」
松木は通路の左を指差す。輝は指さされた方角を見た。
通路の左は男子用ロッカールーム、右は女子用のロッカールームだ。
「…は?」
輝は一瞬意味がわからない。しかしすぐに気が付いて顔を真赤にする。
「ば、馬鹿言ってないで早く着替えろ!」
怒鳴られた部下達は慌ててロッカールームに飛び込んだ。憤慨した輝は腕組みをしてそれを見送ると、周りに誰もいないのを確認してからほんのちょっぴり軍服の襟元を覗いてみる。
…ある。胸の谷間が。間違いなく今の自分が女である事の証明が、確かにそこに息づいている。
「まったく、バカどもが…」
そう呟きながらも、2つのロッカールームの間でオロオロとさまよう一条輝だった。
「東部パトロール中隊の一条中尉が!」
「え、あの噂のエースパイロット?!」
「どこどこ、見せて見せて」
「あ、いた!あれあれ!」
人々は一斉に指さされた方角を見る。そこには仏頂面で医務室から出てくる噂の人物、一条輝の姿があった。
背は低くなっている。体全体のシルエットも明らかに小柄に見えた。しかしそれとは逆に、胸とお尻は膨らんで妙にブカブカに見える。それはそうだろう、輝がいま着ているのは男性士官用の軍服なのだ。
「隊長〜!」
パトロール中隊の部下達が駆け寄って来る。輝は「ハハハ」と乾いた笑いで仲間を迎えた。
「隊長、どうでしたか?!」
「う、うん。まあ、俺が俺だって事はDNA検査で証明されたよ…」
「で、なんで女になったんですか?!」
「…それはまだ分からんとさ。医者も首をひねってた」
輝は大きくため息をつく。そんな隊長の様子を、部下達は色んな表情で取り囲んでいた。
「聞きましたよ先輩」
昼になって隊長室にやって来たのは、含み笑いのマックスだった。輝は「お前もか」という顔でゲンナリとする。
「お前までからかいに来たのか。勘弁してくれよ」
「フフフ、朝から大人気だったみたいですね」
マックスはふてくされる輝をしげしげと眺めやる。興味本位で見られるのにウンザリしていた輝は、手のひらでしっしっと追い払う真似をした。
「先輩、ちょっと縮みましたね」
「何せ女になったからな。見ろよ」
輝は腕を伸ばして見せる。いつも着ている筈の自分の軍服は、袖が長過ぎて指先まで埋まってしまっていた。
「袖をまくってもまだ余るぜ」
「ハハハ、なんとも可愛らしい中隊長さんですね」
「言ってろ」
輝は舌打ちをして背もたれをギシリと揺らせた。元々童顔の輝だが、今は兵士らしい険が取れてもっとあどけない顔になってしまっている。いくら毒づいても何の迫力も感じない。
「しかし参りましたね」
「ああ、本当に参ったよ」
「いや、そうじゃなくて」
マックスは少し声を潜めた。部屋には2人しかいないが、口元に手をやって輝だけに聞こえるような小声で囁く。
「早瀬さんに、なんて言うんです?」
「う、うん」
輝は思わず口籠った。今朝はあまりの出来事になかなか頭が回らなかったが、冷静になればなるほど今後の自分の生活が心配になって来る。そしてそれは、現在パートナーとして公認されつつある彼女に対しても同じだ。
「もう連絡は入れたんですか?」
「今日から女になりましたってか?そんな事言える訳無いだろ」
「でもきっとすぐに耳に入りますよ」
「う、うん、そうだな」
輝は困り果てた顔になる。マックスも腕組みをして思案顔だ。そんな沈んだ2人の空気を裂くように、パトロール隊の部下達がドカドカとドアを開いて入って来た。
「隊長、もうじきパトロールに出発する時間ですよ」
「おう、もうそんな時間か」
輝は椅子から立ち上がる。バルキリーに乗るためにパイロットスーツに着替えなくてはならない。
マックスに別れを告げ、隊長室を出て通路を歩いて行く。その輝の後ろから、部下達がゾロゾロとくっ付いて来た。
「まったく、毎日毎日パトロールばっかで嫌になっちまうよな」
口調は変わらず男子のそれだが、ルックスは完全に女子そのものになっている。輝の歩く後ろ姿、ゴツかったシルエットは柔らかな曲線に変わっていて、特に小さくなったヒップラインはぷりぷりと女の子らしい丸みを感じさせてくれる。
そんな輝を、何か期待を込めた眼差しで見守る部下達。輝はそれに気がついて不思議そうに尋ねた。
「??なんだ?お前ら」
「隊長、あの〜」
部下を代表して同じ日系人の松木が口を開く。
「ロッカールームは、やっぱり男子の物を使うんですよね?」
松木は通路の左を指差す。輝は指さされた方角を見た。
通路の左は男子用ロッカールーム、右は女子用のロッカールームだ。
「…は?」
輝は一瞬意味がわからない。しかしすぐに気が付いて顔を真赤にする。
「ば、馬鹿言ってないで早く着替えろ!」
怒鳴られた部下達は慌ててロッカールームに飛び込んだ。憤慨した輝は腕組みをしてそれを見送ると、周りに誰もいないのを確認してからほんのちょっぴり軍服の襟元を覗いてみる。
…ある。胸の谷間が。間違いなく今の自分が女である事の証明が、確かにそこに息づいている。
「まったく、バカどもが…」
そう呟きながらも、2つのロッカールームの間でオロオロとさまよう一条輝だった。
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