私のバカな(未来の)彼氏 3

「世の中はおっぱいだ」

彼のその第一声を聞いた時、未沙は血の気が引いて卒倒しかけた。

「大きさや形は関係ない。男として生まれた以上、あの柔和なシルエットには無条件降伏するしかないと深く深く本能に刷り込まれているんだ。ハリウッド映画を見てみろよ、映画の後半1時間からはヒロインの白人女は必ずタンクトップで泥まみれだ。誰も映画なんか見ちゃいない、みんな揺れるおっぱいに釘付けさ」

さも自慢げにそう語るくせっ毛少年の誇らしげな表情に「ついにこの人は頭がどうかしてしまったんだわ」と恐ろしいものでも見るかのように青ざめた視線を向ける未沙。
しかしそんな彼女の心配をよそに、対面から颯爽と対抗馬が名乗りを上げる。

「いやいや隊長、そりゃ違いますよ」

柿崎はその大きな手の平をずいと前に突き出して見せた。身体も大きければ声も大きい。柿崎速雄17歳、彼は彼なりに主張したいところがあるらしい。

ここはマクロス内の士官用サロン。一息つこうと訪れたこのラウンジで、たまたま顔馴染み達が1つの席に会していた。最初は何気ない世間話を交わしていたのだが、ネット配信のゴシップニュースに「あなたはおっぱい派?それともおしり派?」という死ぬほどくだらない記事が載っていたのをキッカケに、性少年達は不毛にして激アツな議論を戦わせようとしていたのである。

「結局のところ、女は顔でしょう。体なんて抱ければどうでも良い。可愛い子ちゃんのキラキラした笑顔に敵うものなんて、この世にありゃあしませんよ」

鼻の穴を大きくして声を張り上げる柿崎。そのあまりに品性のない発言に、未沙は足元から彼ら戦友達への信頼感が崩れ去って行くのをひしひしと感じてしまっていた。
そんな未沙の心持ちをあざ笑うかのように、横から冷笑を浴びせかける者がいる。いや実際には柿崎の発言を笑ったのだが、未沙にはもうどちらでも同じ事だった。

「柿崎君は子供だな」

そう言って鼻で笑うのは、ティアドロップ型のサングラスを鈍く光らせるマクシミリアン・ジーナスだ。天才パイロットと名高い少年は高々と足を組み、優雅にティーカップから立ち昇る湯気の香りを楽しんでいる。

「なんだよマックス!お前だってミンメイちゃんみたいな可愛い子が迫って来たら堪らないだろう⁈」

拳を振り上げて詰問する柿崎。そんな雄弁も、天才はサラリと躱して余裕の表情だ。

「そりゃあ勿論そうだよ。でもね柿崎君、抱ければそれで良いなんて女性の良さをキチンと理解していない証拠さ。女性はやはり腰だよ腰。こう、抱き締めた時のあの腰の肉感、細さ、柔らかさ。まるで生きた宝石箱さ。その点、僕のミリアの腰つきは絶品だね」

マックスの隣りに座るライムグリーンの長髪をしたゼントラーディ人に、一斉に視線が集まる。男たちの討論をただ大人しく聞いていただけのミリアは「なるほど、そうなのか」と分かっているのかいないのかしきりに頷いている。

未沙も心中頷く。たしかにミリアはスタイル抜群でシルエットもスラリとしている。男性からしたら抱き心地も良いのだろう。でも、私だってスタイルはそう悪い方じゃない。バストもウェストもそれなりに…
未沙は意中の相手をチラリと盗み見るが、くせっ毛の少年は会話に夢中で気が付かない。胸だ、いや顔だと喧々轟々男同士で最低な話題を繰り広げている。相変わらずの様子に密かにため息を吐いていると、唐突に豪快な笑い声がそんな未沙の憂鬱を吹き飛ばした。

「ガハハ、せいぜいガキどもはママのおっぱいでも咥えてるんだな!」

偉そうにそう宣うのは黙って話を聞いていたロイ・フォッカーだ。浅黒い肌のエース・パイロットは金髪の前髪をピンと指先で弾きながら、小僧どもへの女体指南を繰り広げる。

「いいかガキども!女を見るのに一番大事なのは尻だ。人間は原始時代は猿だった。猿のオスはメスの何を見て興奮する?赤く発情した尻だろうが!」

含蓄があるのかないのかよく分からないフォッカーの発言に、まだハイティーンの少年たちはへーとかほーとか言いながら感心している。それに気を良くしたのか、スカル大隊長はラウンジを見回すと一人の若い女性士官を指さした。ラティーノ系だろうか?上背のある良い体格をしている。

「見ろ、ああいうブルンとした丸い尻こそが最高だ!男と女、2人きりになったらやる事なんざただ一つだ。無理矢理押し倒してあのデカ尻をひっつかんでだな…」
「む、無理矢理はちょっと」
「馬鹿野郎!多少の強引さがなくてどうする!そんなんだからお前らはいつまでたっても童貞なんだ。見てろよ、俺が手本を…」

立ち上がりかけたフォッカーだが、何者かにその肩を掴まれる。なんだ、止めるなと振り向いたエース・パイロットは、しかし相手の顔を見るなりしおしおと大人しく席に座り直した。

「オフタイムでも後輩の指導にご熱心なのね」

落ち着いた声色でそう語りかけるのはブリッジの主任オペレーター、クローディア・ラサールだった。チョコレート色の整った顔立ちに、ボリューミーで真っ赤なリップが笑っている。

「何をどう手本を見せてくれるのかしら?」
「あ、いや、その」
「別室で詳し〜く聞かせてもらおうかしら。男と女、2人っきりになってね」

フォッカーが引きつった笑いを浮かべる。クローディアは優しく微笑み返すと「じゃあねみんな」とその場の面々に挨拶し、フォッカーの襟首を掴み上げた。そのまま、スカルリーダーはズルズルといずこかへと引きずられて行ってしまった。残された面子は震え上がりながら顔を見合わせる。

「怖ぇ〜な、クローディアさん…」
「俺ちょっぴりチビっちゃいました」
「大隊長が腎虚気味だって噂、案外本当だったりして」

消え行くフォッカーを見送る三バカトリオ。それらの様子を眺めていた未沙は深く深くため息を吐く。彼にもそんな強引さがあったらどんなにいいか。いや、そもそも男と女という概念を持ち合わせていない可能性すらある。未沙は大きく肩を落として、女性の目の前で女性の身体の話で盛り上がる無神経なセクハラ少年達をどう戒めるべきか頭を悩ませていた。
すると「あの〜」と小さな声で手を挙げる者がいる。その場で未沙だけがそれに気が付き「どうしたの町崎君?」と問いかけた。

「ぼ、僕は女性はやはり脚だと思います」

あ、ここにもバカが一人いた。未沙は顔に無数の縦線を引いた暗い目で、おかっぱ頭の町崎を見つめた。

「僕の夢は、脚のキレイな女性にハイヒールで踏ん付けられながら罵られる事なんです。網タイツか、真っ赤なガーターベルトが似合うようなハイソな女王様に…」

言いながら、思わずよだれが溢れて手の甲で拭っていた。ウヘヘと町崎の目尻がグングン垂れ下がって来る。
その目が自分を見つめている事に気が付いて、未沙は全身の毛が逆立つのを覚えた。

「ちょ、ちょっと町崎君。そんな目で見ないで頂戴」
「す、すみません。でも早瀬少佐は僕の理想の女性で…」
「あ〜、確かに少佐は女王様とか似合いそうだよな」

未沙と町崎のやり取りを聞いていた輝が何気なくそう呟いた。瞬間、未沙の表情が凍りつく。マックスがさり気なくハンドサインで輝を止めに入るが、編隊長はまったく気が付いていない。

「…なにそれ、どういう意味?」
「だってさ、早瀬少佐と言えば”鬼より怖い首席の少佐”だろ?女王様でも裁判官でも氷の魔女でも、何でも似合いそうじゃんか」

無神経な輝のコメントを必死に押しとどめようとするマックスはフル回転でハンドサインを送りまくるがまったくの無意味だった。隣りのミリアが「どうしたマックス、ダンスの練習か」と呑気に問いかけただけである。

「なんなら町崎のこと踏んであげたらどうです?網タイツとか履いてさ」
「そりゃあいい、きっと似合いますよ少佐!」

考えなしの輝、無邪気にはしゃぐ脳内小学生の柿崎、ウヒヒと気持ち悪い視線を送ってくる町崎、それらを止められないマックス、旦那にしか興味のないミリア。未沙はお腹の底からふつふつと熱い何かが湧き上がるのを感じ、それと同時に周囲の空気が冷たく凍っていくのを強く意識していた。
どこからか、冬の冷気が風に乗ってラウンジに流れて来る。輝は「ん?空調の故障かな?」などと呑気な感想を述べているが、マックスだけが青い顔になって必死に輝に合図を送り続けていた。

「あなたたちねぇ〜…」

未沙はゆらりと立ち上がる。その身体からは、絶対零度に匹敵する氷の凍気が冷たく溢れ出していた。

「いつまでバカっ話に興じているつもりなの〜!!!とっとと任務に戻りなさ〜い!!!!!!!」

爆発した氷の姫の迫力に、テーブルにいた者たちだけでなくラウンジ全体が震え上がった。まるで蜘蛛の子を散らすかのように、士官サロンから全ての人間が一目散に逃げて行く。あまりの恐ろしさに、休憩していた者どころかサロンの従業員まで逃げ出していた。

人っ子一人いなくなったラウンジで、未沙はハアハアと肩を震わせる。大きく一つ息を吸い込み、吐き出した。それだけで瞬時に冷静さを取り戻すのはさすがの一言といえるだろう。
通路の向こうに慌てて去っていくくせっ毛頭を遠くに見て、未沙は「私だって少しは…」と自分の女性らしく膨らんだ胸にそっと手を添えるのだった。



「こえ〜、やっぱり一番怖いのは早瀬少佐だったな」
「いや、ある意味隊長の方が怖いです」
「?なんでだよマックス」
「その鈍感っぷりが一番の恐怖ですよ」
「2人ともなんの話??」




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Re: No title

ありがとうございます~^^
まさにこっちの気も知らずにって感じですね( ̄▽ ̄)
マクロス乗艦時代はそれこそウブな坊やでしたからw

あと、マクロスラジオの動画ありがとうございました^^
めっちゃ良かったです!あの時代の真理さんの生声は本当に貴重ですね~!
関連動画とかでヴァネッサの声の人も見付けたりして楽しかったです^^

好みは〜

マックスの「腰」に1票 (//∇//)

輝の鈍感恐るべし。これは最強の防御盾ですね。

Re: 好みは〜

お、マジですか〜( ̄▽ ̄)
私はそうだな〜、お腹ですかねw引き締まった腹筋が好きです^ - ^

輝ちゃんと言えばやはりレイニーナイトのアレですよね〜。
「どうしてって、早瀬少佐は一条大尉のこと愛してるんでしょう?」
「未沙が僕を?まさかぁ」
この頃の輝に妙なチグハグ感があるのは、脚本家同士の連携が一本通ってなかったからでしょうかね〜(´・ω・`)
あと、ヴァネッサの「愛してる」発言は時代性なんでしょうか?今なら「好きなんでしょう?」くらいが適当な気が…( ̄▽ ̄)


> マックスの「腰」に1票 (//∇//)
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> 輝の鈍感恐るべし。これは最強の防御盾ですね。
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FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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