学校というのは閉ざされた社会の縮図だ。

学校というのは閉ざされた社会の縮図だ。
その昔、人生に必要な知恵は砂場で云々という本があったらしいが、世の中の理不尽さや人間関係の煩わしさは年齢を問わず全ての世代に存在する。国籍人種も関係ない、万国共通の問題なんじゃないだろうか。

ハイスクールにおいてもそれは変わらない。親が金持ち、ルックスが良い、スポーツ万能、学力No. 1、特殊な技能の持ち主だったり、腕っぷしが強いとかおべっかが上手いなどなど。一芸に秀でたり条件がハイレベルだったりすると、この狭っ苦しい環境下においては相当有利な学生生活が送れる事になる。
俗に言うスクールカーストという奴だ。常に人間社会は縦と横の繋がりで出来ていて、往々にしてそれらは強固な鎖として人生を縛り続ける物なのである。

「私、アマンダ・バルヒェットですの。“地球帰り”さん、ちょっとお時間いただけます?」

その唐突に現れた女は、毛先がクルクルに巻かれたブロンドヘアをしていた。ゴールドのアクセサリーが身体のあちこちでキラキラと輝いている。
ビタミンイエローのジャケットに胸元の開いたブラックシャツ、ホワイトのピッチピチなホットパンツからはスラリとした生脚が伸びていて、足元はゴールドのハイヒールがピカピカに光っていた。

両脇には劣化コピーのような似た格好の女を2人従えている。まるで取り巻きをする為に生まれて来ましたとでも言わんばかりに、脇に控えているのがしっくり来る卑屈な顔の2人組だった。もしかして3人セットでこの世に生を受けたんじゃないだろうか。

それら子分?を従えて、腕組みをして薄ら笑いを浮かべる白人女。右45度の斜に構え、顎を上げて上から見下ろすような視線でこちらを見ている。

「大企業の社長令嬢よ」

おしゃべりアビーがそっと耳打ちしてくれる。俺は密かに頷くと、スッと立ち上がって右手を差し出した。

「航だ。よろしく」

アマンダと名乗った派手な格好の娘は、ジロリと俺の差し出した手を見下ろしただけだった。俺は行き場を失った右手を虚しく引っ込める。隣りに座る理知的なゼントラーディ人ツォフの顔を見た。

「エデンじゃ握手はしないんだっけ」
「さっき俺たちとしたじゃないか」

俺は軽く肩をすくめる。毎朝セットするのが大変そうなクルックルのゴージャスヘアを弄りながら、アマンダ・バルヒェットは薄ら笑いを浮かべて甲高い声で話し始めた。

「私も、お父様のお仕事の関係でよく地球に連れて行って頂くの。ここでは地球を知らない人ばかりでしょう?話が合わなくて困っていたのよ」

周りによく聞こえるように声を張って話している。両隣りでは劣化コピーがウンウンと相槌のように首を縦に振っていた。
俺は周りを見回すが、我関せずと背を向ける者、羨望の眼差しを送る者、明らかに敵意を持った暗い視線を放つ者など反応は様々だ。ある意味、人気者と言っていいタイプなのかも知れない。ただ目立っているだけという説も捨て切れないが。

「ここいいかしら」

童顔のケニーが座っている席を、ピカピカのリングが嵌まった人差し指で指差すアマンダ。ケニーは「あ、ど、どうぞ」とあっさり席を譲った。スクールカーストの悲しい現実を見た気分だ。
劣化コピー2人を従え、高々と脚を組むゴージャス女。さすがは金持ちの娘、テーブルから覗く膝頭は白くてツヤツヤ輝いていた。きっとお手入れも入念にしているに違いない。

「あなた地球のどちらにいらしたの?え〜っと…」
「航、蓼丸 航だ」
「コー、地球のどちらのご出身?」
「生まれたのはこっちさ。7歳の時に地球に移住したんだ」
「あら、なんだそうなの」

アマンダは鼻で息を吐いた。少し背をのけぞらせて片眉を吊り上げる。

「生粋の地球人じゃないのね。ああ、だから“地球帰り”(returned from Earth)ってわけ」

ちょっと見下したような物言いが引っかかったが、事実なので致し方ない。俺は「何なの、コレ」とアビーを見るが、おしゃべりな筈の赤毛女はそっぽを向いて知らん顔だ。

「私、お父様に連れられていつも地球のアラスカに行くのよ。普通の人はなかなか入れて貰えない、アラスカの特別な街にね」

自慢げに語るアマンダは、腕組みをしたまま自慢げな顔になる。相変わらず周りによく聞こえるように声を張っていた。

「あなたご存知かしら?ええと…」
「航」
「コー、名前くらいは聞いた事があるかしら。この宇宙の中心“マクロス・シティ”の事を!」

人の名前を覚えようとしないのは、俺なんかに本当は興味がないからだろう。こいつはただ地球の話がしたいだけ…というか、地球の事を喋っている自分をみんなに見せたいだけなのかも知れない。
しかし“マクロス・シティ”という言葉は久々に耳にした気がする。ピンクパールの唇から飛び出した思わぬ単語に、俺は一瞬反応が遅れた。アマンダは俺が何も言わないのを見て得意満面といった表情になる。

「“マクロス・シティ”はね、選ばれた人間しか入る事を許されない街なの。だってご存知?あそこには人類政府の総理大臣や、伝説の歌姫が暮らしているのよ。普通の平民なんかが足を踏み入れたら失礼よね」

平民という言葉を歴史の授業以外で初めて聞いた気がする。この女は時代錯誤にも自分が貴族の子女か何かと思っているのだろうか?
俺が何も言わないのを感服しているとでも勘違いしたのか、貴族のお嬢さまはさらに饒舌に喋り続ける。

「“マクロス・シティ”には、街の真ん中に巨大な人型要塞が立っているの。それは1,000メートルもの高さがあって、頂上は雲にも届こうかという高さなのよ。その巨大な要塞が夜には全身ライトアップされて…夜空に浮かぶ鋼鉄の巨人。それはそれはとても幻想的な光景でしてよ」

アマンダの話に、両脇の劣化コピーらがウットリとした顔になる。
なんだコイツら、と少し気持ち悪くなったが、懐かしい光景の話題に思わず俺は身を乗り出した。

「君もシティに行った事あるんだ。俺あそこに住んでたんだよ」

え?というアマンダの表情に気が付かなかったのは俺の失敗だった。俺はシティで一緒に過ごした気の良い連中の顔を思い出しながら喋り出す。

「シティのサウスアタリア・ストリートで暮らしてたんだ。マクロスの南側にある区画でさ…あ、マクロスってのはその人型要塞の名前な。っていうか、住んでる奴はわざわざシティの事をマクロス・シティなんて呼ばないけどな。地球でシティと言えばあの街の事だし、そんな呼び方するのはシティを地図でしか知らない地方の人か、田舎から来た観光客くらいだから。大体シティをどう呼ぶかでそいつが田舎モンかどうかがすぐに分かる…」

話している途中で、ゼントラーディ人のツォフに肘で突つかれた。俺は「何だよ、痛えな」とツォフを見たが、ツォフが小さく首を横に振るのを見て、ようやくこの場の空気に気が付いた。

目線を正面に戻すと、豪奢なブロンド縦ロールの金ピカ娘がプルプルと細かく震えている。
その横でアビーが下を向いてヒクヒクと笑いを堪えていた。

「あ〜、えっと…俺、なんか言った?」

童顔のケニーはコクコクと青い顔で頷く。後ろの劣化コピー共はオロオロと手を揉み合わせていた。
どうやらいらない失言をしてしまったらしい。ここは何かフォローをせねばと俺は頭を巡らせる。
コミュニケーション能力が高いことこそが日本人の美徳の筈だ。相手の呼吸を読み取り、ディベートするのではなくディスカッションを重ねる。それが日本風のやり方なのだと親父に教わった。それで17年の人生、割りと上手くやって来たのだ。

「ん〜っと」

ここは、取り敢えず相手の面目を立たせなくてはならない。こういう女はプライドばかりが高いのだから、それを保たせてやるのが重要なポイントだ。

「まあ、知らなくても仕方ないよな。だってあんた、ただの観光客だもんな」

ブッとアビーが吹き出した。童顔ケニーの顔がさらに青ざめるのが目の端に見える。横でツォフはヤレヤレと頭を振っていた。

顔を真っ赤にしたアマンダは目を見開いていた。音を立てて立ち上がると「失礼するわ!」と言い残して早足でその場から歩み去った。慌てて取り巻き2人がその後を追いかける。カツカツとヒールがカフェテリアランチの床を強く叩くのが耳に響いた。
童顔のケニーがそれを心配そうに見送っている。

「ブフフフ、あんた最高!」

目に涙を浮かべながらアビーが右手を差し出して来た。俺は不承不承といった顔でその手を握り返す。

「コー、改めてよろしく。面白い奴は大歓迎だよ」
「そりゃどうも」

俺は肩をすくめる。やれやれ、地域ギャップというのは本当に面倒くさいもんだ。

「あのアマンダが顔真っ赤とか初めて見たわ。さっすがミックの幼馴染みね」

アビーの言葉に、隣りでツォフがウンウンと頷く。ケニーはまだ去って行った顔真っ赤娘の事を気にしている。俺は3人を見比べながら口を尖らせた。

「なあ、そのミックってのは何なんだ?」

俺は先ほどからの疑問を改めて口にした。




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