次の授業のために教室を移動しようと

次の授業のために教室を移動しようとコリドールを歩いていると、見るからにヤバそうな奴に呼び止められた。

艶のある黒髪をツンツンに立たせたパンキッシュなヘアスタイルに、つま先の尖ったハイカットブーツ。上下黒のレザージャケットとレザーパンツ。それらの所々に銀色の鉄鋲が物々しく嵌め込まれている。
全身真っ黒に固めたガリガリの死神みたいな格好の男は、コントラストのせいか肌の白さがより際立って見えた。
まるで間違って真昼間に散歩に出かけてしまった屍食鬼か吸血鬼みたいな出で立ちだ。街で会ったらあまり声を掛けたくないタイプなのは間違いない。

「よう、あんた」

見た目に反して、声は妙にハスキーだった。暗いアンバーブルーの瞳がジロリと俺を睨み付ける。
朝からもう何人にも“地球帰り”に興味津々な連中に呼び止められているので、ウンザリしていた俺は「はいはい、何でございましょう」と適当な返事をした。
しかしその昼間の吸血鬼から発せられた単語は意外な物だったのである。

「あんた、ミックの幼馴染みだって?」

おっと、これは不意打ち。俺の話じゃなくて、例のミックちゃんとやらの話だったか。
つい先ほど、カフェテリアランチでおしゃべりアビーから聞いた話を思い出す。

「確かミックも日本人って言ってたと思う。だからコー、あんたの探してる幼馴染みって多分ミックの事じゃない?」

アビーは俺の見せた10年前の未来の写真を見ながらこう言った。

「だってあの子、ものっ凄いくせっ毛だもの」

10年前の写真。そこには俺と妹の深雪、そしてチンチクリンで酷いくせっ毛頭の未来とが三人並んで写っている。
あの頃の未来のくせっ毛頭はいつもくしゃくしゃに爆発していて、湿気にすぐ反応するからか「今日は午後から雨が降る」とか「しばらくお天気が続く」など、生きたウェザーニュースと呼ばれるほど正確な天気予報を教えてくれていた。
あそこまでのくせっ毛は確かにそうそういないだろう。

しかし、その「ミック」とやらが俺の知っている未来かどうかの確証はまだない。なのに俺がその「ミック」の幼馴染みかも知れないとアビーが言い出したら、周りの俺を見る目が少し変化した。
何だろう?“地球帰り”を物珍しげに見ていた視線から、ちょっと変わった生き物でも眺めるような視線に変わったみたいだった。何だか前にも増してとても妙な気分である。
俺はいよいよ、その「ミック」とやらがとても気になり出していた。レザージャケットの男に声を掛けられたのは、丁度そんなタイミングだったのである。

しかしついさっきアビー達とカフェテリアランチで話していたその事を、何でこの男が知っているのだろうか。
答えは簡単だ。おしゃべりアビーはおしゃべりだからだ。

「いや、まあ、まだ良く分からないんだ」

俺は正直にそう答える。何しろ噂のミックちゃんとやらにまだ会ってさえいないんだ。
そもそもミックってなんだ?未来(ミク)じゃなくてミック?それって男の愛称じゃないの?

「分からない?」

俺の返事に、吸血鬼は怪訝そうな顔をする。決して血色が悪いとか不健康だとかそういうんじゃなくて、元々肌が白いのだろう。しかも瞳の色がアンバーブルーなので余計に薄気味悪さが際立っている。
顔は…まあまあ端正な方だ。もっと健康的な格好をしてくれたらもう少し好感が持てるかも知れない。

「分からないって、何だよ」
「いや、まだ俺の知ってる子かどうか分かんないんだよね。会ってもいないし」
「会ってない?」

男は怪訝そうな顔をする。そして俺の顔をジロジロと覗き込んで来た。なんとも不躾で失礼な野郎だ。でもちょっと雰囲気がヤバそうな奴だから刺激しないでおいた方が良いかもしれない。

「ミック・イチジョーだぜ?知らないのか?」
「え〜っと、どうだったかな」

俺は昔の記憶を辿ってみる。何しろ7歳の頃の話だ、未来の苗字までは忘れてしまった。妹を入れて3人でミク、コー、ミユキと呼び合っていた事だけは憶えている。

「なんだ、ただのガセかよ」

男は舌打ちして立ち去ろうとした。ホッと安堵のため息が漏れる。が、安心したのも束の間、思い直したように男は立ち止まって振り向き、ニヤニヤと笑いながら俺の肩に手を掛けて来た。

「なあ、あんた音楽は好きか?」
「まあ、普通程度には」
「そうかそうか、そりゃあ良かったぜ」

男はレザーパンツのポケットに手を突っ込むと、クシャクシャの紙片を2枚取り出した。それを俺の手にポンと置く。

「週末、クラブ・イエローだ。見に来いよ」

俺はそのクシャクシャの紙片を広げてみる。どうやらライブ・チケットらしい。今どきペーパーチケットだなんて珍しい古臭さだ。

「オタク、バンドマン?」
「見りゃ分かるだろ、パンクロッカーだ」

男は親指で自分を指差した。まあ、そう言われてみればそうなのかも知れない。なんだか色んな意味で危ない雰囲気なのもこれで納得だ。しかしパンクロックとはまたオールドな…

「俺、こういうのはあんまり聞かないんだけど」
「必ず来いよ、仲間にも紹介してやる」

男は右手を差し出して来た。やはりエデンでもちゃんと握手の習慣はあるらしい。
果たしてどんな仲間に紹介されるものやら。そう思いながらも、俺は男の右手を握り返す。まあ、友達もいない新天地で親しくしてくれる相手を無下にするのも良くないだろう。ここは相手に合わせて上手く付き合っておくのも一つの手だ。
何しろ、日本人の美徳は穏やかなコミュニケーションにこそあるのだから。

「ニューク・ブラウンだ。よろしく」

男は名乗った。ごく平凡な名前でちょっぴり拍子抜けだ。コンスル・ヴラドとかDr.フランケンシュタインとかの方がよっぽどそれっぽかった。

「蓼丸 航だ。地球から来た」
「ああ、良く知ってるぜ。あんた有名人だ、“地球帰り”ってな」

ニュークと名乗ったパンクロッカーはニコニコと微笑んだ。意外に良い奴なのかも知れない。俺も愛想良く微笑み返す。

「20ドルだ」
「ん?」

ニュークはニコニコ笑っている。俺も取り敢えず笑顔を返している。

「チケット2枚で20ドルだ」
「…」

前言撤回、良い奴なんかじゃない。見た目通りの奴だった。




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おぉ、これは!

なんとなく、某アメリカの学園ドラマ的なことになってきましたね。
こういう展開は、ちょっと予想外でした。
まぁ、びえりさんですから、ここからどうなっても面白くなるでしょう。
期待して読ませていただきます。

Re: おぉ、これは!

面白くなるかどうかは分かりませんが( ̄∀ ̄;)
取り敢えず楽しんで書いております( ̄▽ ̄)

何しろいつも同じ話は書けない性分なのであります(о´∀`о)

> なんとなく、某アメリカの学園ドラマ的なことになってきましたね。
> こういう展開は、ちょっと予想外でした。
> まぁ、びえりさんですから、ここからどうなっても面白くなるでしょう。
> 期待して読ませていただきます。
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