クラブ・イエローがある区画は

クラブ・イエローがある区画はイースト・ヴィレッジと呼ばれ、アベニューAなど犯罪が多発する事で知られた場所だった…と言うのは、クラブへと向かう道すがら、ゼントラーディ人のツォフに教えてもらった話だ。

ゴミゴミとした、ちょっと薄汚れた風景のストリート。道端にはよく分からないゴミ屑が散乱し、浮浪者と思われる灰色の人影があちこちに見受けられる。
大きなドラム缶で何か物を燃やして暖を取っている人たちや、紙袋に包まれた酒瓶を昼間から呷って道端に転がっている人など。ずっとエデンに対して抱いていたイメージとはかけ離れた街の景色に、俺は少なからずショックを受けていた。

「この街は大きいんだ。色んな場所があって、色んな人が住んでるのさ」

オレンジ頭のツォフはそう言った。俺は黙って頷く。
世界中が貧困と暴力に憂いているのは、ソリビジョンでニュースを見ていれば常識としてはよく分かる。だが、今までそうした事実を現実として触れる機会はほとんど無かった。いかに自分が恵まれた環境にいたのかを思い知らされる。

「マクロス・シティは良い街だった?」

ツォフの質問に、俺は「うん」としか答えられなかった。まるで自分が甘やかされた子供のように感じられて恥ずかしかったからだ。

サブウェイの駅から15分も歩くと、クラブ・イエローが見えてきた。雑居ビルの地下にあるクラブで、螺旋階段を降りて行くと巨大なホールが広がっている。
地球にいた頃も、年齢を誤魔化してこっそりクラブへ遊びに行った事が何度かあった。このフロア内の雰囲気だけは、どこの国でも変わらない気がする。まるでこの空間だけ世界から切り離されて同期し合っているみたいだ。

カウンターでコカ・コーラを注文し、薄暗いホールをウロついていると何人か知っている顔に出会った。どうやらノースポート校の連中が結構いるみたいだ。まあ、同じハイスクールの奴が出演るのだから当然と言えば当然だろう。
そんな中で初対面ながら声を掛けて来たそいつは、何故か別のハイスクールの奴だった。

「きみ、噂の“地球帰り”だろう?」

東洋人だった。ウー・レイと名乗ったその青年は、サウスポート校の二回生だそうだ。自分と同じイエロースキン。名前の感じからすると中国人だろうか。アラスカでも中国人は多かった。

「ツォフも来てたんだ、意外だな」
「ただのお付き合いさ。こういう雰囲気は苦手だ」

レイとツォフは知り合いらしい。「顔が広いんだな」とツォフに言うと、オレンジ色の頭を横に振った。

「顔が広いのは俺じゃない、レイの方だ」
「そんな事ないさ。“Thinking giant”(考える巨人)はどこの学校でも有名だよ」

Thinking giant?ロダンのThe Thinker(考える人)の事だろうか?
この時は意味が分からなかったが、後で聞いた話によるとツォフは一回生の時に数学オリンピックでノースポート校の代表に選ばれた秀才なのだそうだ。偏見はいけないけれど、一般的なゼントラーディ人としてそれはかなり凄い事なんじゃないだろうか。

「でも意外だったよ」

レイは不思議そうな顔で俺に問い掛ける。

「アジア人の君がノースポート校に行くとは思わなかった。やっぱりエリート意識とかあったりする訳?」

レイの言っている事が分からない。「ん?どう言う事?」と聞き返すと、レイは「ああ、“地球帰り”だから何も知らないのか」と勝手に納得していた。

「君、ノースポート校にいて周りがコーカサス・ホワイト(白人)ばっかだと思わなかった?」
「う〜ん、そう言われてみればそうかも」
「サウスポート校はアジア人とかアフリカン・ブラック(黒人)ばっかりだよ。ああ、最近はヒスパニックも多いね」

そこまで言われれば、レイの言わんとする事が何となく理解出来る。つまりノースポート校はホワイトの溜まり場で、有色人種はサウスポート校へ通うという不文律のような物がある訳だ。
人種差別というのはどの世界においても永久不滅なルールなんだろうか。今や宇宙開拓をしようというこの時代に、何とも懐古主義的なお話だ。

「…それは、考えた事もなかったな」
「親が決めたクチかい?」
「ああ、親父が手配してるから」
「じゃあ親父さんもレイシストなのかもね」

特段、悪意があった訳ではないのかも知れない。レイは笑顔でそう言った。しかし俺はさすがにカッとなってレイの胸ぐらに摑みかかる。

「お前、俺の親父の何を知ってるってんだ!」
「アハハ、ごめんごめん。今のは口が過ぎたよ」

謝っている態度じゃないが、知らない土地でいらない揉め事はゴメンだ。俺は突き飛ばすようにレイを放した。レイは笑顔のまま少しだけ咽せる。
それらの様子をジッと見ているだけで、ツォフは止めようともしなかった。コイツはコイツで問題ありそうな奴だ。

「でも、俺たち期待してたんだよ」

レイが両手の平を天井に向けて弁解した。

「“地球帰り”は絶対ウチに来るって、楽しみにしてたんだ。そしたら北(ノースポート校)なんかに行っちゃっただろう?だから悔しくてさ」
「知るかよ」

他人の期待など知ったことか。そんな風に勝手な思い込みをされても迷惑なだけだ。そもそもノースポートにだって白人しかいない訳じゃない。というか、ゼントラーディ人はどっちに通うんだ?ツォフがノースポート校にいるのは変じゃないのか?

「まあ、機嫌直してくれ。あとでなんか奢るよ」

そう言ってレイは笑う。なんか調子のいい野郎だ。もし俺がサウスポート校に転入していたとしても、きっと友達にはなれなかっただろう。絶対そうだ。
ツォフは「気にするな」とだけ言っていたが、この後味の悪さは当分忘れられそうになかった。

「じゃあね、また」

そう言って立ち去ろうとしたレイが、思い出したように振り向いた。ツォフに向かって声を掛ける。

「そういやミックは元気?」

不意に飛び出したその名前に、俺は大きく反応した。ツォフは頷く。

「今日来てる筈だ。その辺で会えるだろう」
「そうか、挨拶しときたいな」
「そう言えば、こいつミックの幼馴染みらしいぞ」

ツォフの言葉に、レイは目を見張る。「え?マジで?なんで?」と俺に問い掛けた。
なんでも何も、未来とは同じ日、同じ病院で生まれた仲だ。家も隣り同士だったし、兄弟同然にずっと過ごして来た。理由なんてありゃあしない。
勿論、そのミックとやらが俺の知っている未来だったとしたら、の話だが。

ていうかミックが来てる?そんなの聞いてないぞ。

「え?だから今日来たんじゃないのか?」

逆にツォフに不思議そうな顔をされた。俺は「いや、知らなかった」と首を横に振る。レイは先程までとは明らかに違う態度で「なあ、ミックに俺を紹介してくれないか?」と目を輝かせて訴えて来た。なんだコイツ、本当に調子のいい野郎だ。

そう言えば、耳を澄ませばあちこちから「ミックに会えるの久しぶり!」とか「ミックはどっちに行った?」「これミックに渡しといて」など、噂のミックの話題が漏れ聞こえて来る。

「なあ頼むよ〜。今度奢るからさ、な?」

レイはしつこく付きまとって来る。そんなにミックとやらと仲良くなりたいのだろうか。

ミックって一体何者なんだ?

俺は、自分の知っている未来とミックが本当に同じ人物なのかどうか少し不安になって来た。
でも、その答えももうじき分かる筈だ。俺はツォフに「ミックを見かけたら教えてくれ」とコッソリ耳打ちしておいた。

今夜、10年ぶりに。
あの“未来”に会えるかも知れない。
そう思うと、胸が高鳴った。




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