ノースポート校とサウスポート校は

ノースポート校とサウスポート校は、その名の通り街の北港と南港に面した正反対に位置する学校だ。
学内にはミドル(中等部)とハイ(高等部)があり、大学を除けばエデンの首都アイランド・シティの中でも一番大きな学校になる。

お互い、「首都で一番の母校」という名誉を掛けて色々と対立する事も多いらしい。人種で大別されているのも、そうした諍いを煽る大きな要因になっている事は否めないだろう。
北はホワイト、南はカラードという寸法だ。まるでかつてのアメリカ大陸のようである。

「あまりサウスポート校の連中とは絡まないでくれ、揉め事になるから」

ツォフはそう俺に忠告した。俺だって別に知らない連中と絡みたい訳じゃない。だが、先ほどのウー・レイのように、こちらが知らなくてもあちらにとってはそうじゃない事もある。噂の“地球帰り”としては、何ともメンドくさい状況にあると言わざるを得ない。

「今日の対バンもノースとサウスの対決なんだ」

ツォフは壁に貼られたペーパーフライヤーを指差してそう言った。真っ赤に刷られたフライヤーには確かに「North VS South」とデカデカと書かれている。まったく、せっかく平和な世の中になったって言うのに、何を好き好んでこんな小さな世界で争っているんだろうか。

「よう、あんた“地球帰り”だってな」

まただ、知らない顔が声を掛けて来た。俺はコカ・コーラをチビチビしながら「ああ、どうも」と適当に返事をした。

「なあ、地球でリン・ミンメイに会ったりしたかい?俺大ファンなんだ」
「さあ、どうだったかな」
「地球に行くには政府に移民登録しないとイケねぇって言うじゃねぇか。それって酷くねぇか?俺、将来地球で働きてぇんだよ」
「俺に言われても知らないよ」

意外にしつこく話し掛けられたが、俺はあまり相手にしなかった。いい加減この手の話題にウンザリしていたのと、ツォフの「あまりサウスポート校と絡むな」という忠告とで、俺は意識して素っ気ない態度を取っていたのだ。
会う奴全てに愛想良く出来るほど暇じゃない。だが、今回はそれが裏目に出た。

「おい、お前」

不意に別の奴が俺の肩を掴んだ。明らかに憤慨した顔をしている。

「こいつは真面目に話してるんだ、なのにお前のその言い草はなんなんだよ」

冷静に考えると悪いのは俺なのかも知れない。だが、こちらの気持ちなどお構いなしにズケズケと入り込んで来る相手にも落ち度はある。俺はメンドくさくて肩に置かれた手を強く払い落とした。

「知らねえよ、つーか誰だよお前」

その一言に、相手はカチンと来たらしい。瞬間的に手が出た。「この地球野郎!」という言葉と共に、俺は左の頬を思い切りぶん殴られてカウンターの椅子から転がり落ちた。

「キャアアアア!」

目から火花が飛んだ。どこかで悲鳴が上がったみたいだ。ああ、こういう時って本当に女の子は悲鳴を上げるんだな。
ひっくり返りながらもどこか頭の片隅で冷静だった俺は、そのままの状態で天井を見上げる。頭を打ったのか、後頭部がガンガンと痛んだ。上からツォフが「平気か?」と呑気に見下ろしている。つーか止めろよ、お前何のために一緒に来たんだよ。

「おいコラ、何してやがる!」

別の声が上がり、ドカドカと重いブーツの音が響き渡った。ツォフに助け起こされて周りを見ると、イカつい格好をした連中が、さっき俺を殴った奴の胸ぐらを掴んでいた。何人か見覚えがある。多分昼に学校で会った奴らだろう。
と言う事は…

「サウスの奴が“地球帰り”を殴ったぞ!」

そう声が上がって、俺を殴ったサウスポート校の生徒らしい奴は、ノースポート校の連中に殴られた。するとそれを見ていた群衆の中から「サウスの仲間を守れ!」「ノースのクズどもをやっちまえ!」とワラワラと血気盛んな連中があれよあれよと飛び出して来る。

あっという間に、ダンスフロアは乱闘の渦と化していた。あちらこちらで罵り合い、殴り合い、逃げ回ってはひっくり返る。女の子の悲鳴は止む事がなく、聞くに耐えない罵声や物が壊れる騒音がそれらをまとめて覆い尽くした。事態はもはや収集不可能に近かった。

「大ごとになったな」

後ろでツォフが呟いた。俺はため息を吐いて「お前にも責任あるだろ」と小さく突っ込みを入れる。

「何にしても、こりゃライブどころじゃなくなっちゃったな」

痛むアゴをさすりなら騒乱状態のフロアを見渡す。かなりの人数が入り乱れてやり合っている。ある意味凄い光景だった。
見れば見知った顔がチラホラと。あいつスゲー鼻血出てるな。確かジョエインと言ったっけ、多分鼻骨がいっちゃってるな可哀想に。ヒューイはさっきから後ろから殴り掛かってばかりいる。こういう時って何となく性格が出るよな。あいつと仲良くするのはやめておこう。
俺は怒ると血の気が引くタイプだ。スーッと頭から血が引いて妙に冷めた目でそれらを眺めている。すると後ろから「大丈夫、ライブはやるよ」と能天気な声が上がった。振り向けば、調子の良い中国人ウー・レイが笑顔でそこに立っている。

「ほら、ミックが出て来たよ」

レイはステージを指差す。俺とツォフはつられてステージに顔を向けるが、突然カッと強烈なライティングに照らされて思わず両手で顔を覆った。

『なんだお前ら〜、元気が有り余ってんなぁ〜』

マイクの声は女だった。俺は腕の隙間から、薄目で眩しいステージを覗き見る。
そこには、バックライトで真っ黒になった人影が浮き上がっていた。強烈なステージライトとフロアに響き渡るその一声で、押し合い圧し合いしていた連中は一斉にピタリと動きを止める。

『これから暴れる体力は残ってるんだろうな?途中でヘバったら許さねぇぞ!』

マイクを握り締めて、乱暴なセリフを吐くその女性…いや、これを女性と言っていいものか?
黒いエナメルのボンデージ、太ももまである編み上げのロングブーツ、顔の半分を覆う無骨なライダースゴーグル…その上にあるのは、黒髪の“酷いくせっ毛”頭…

『ジョーヌの登場だ、お前ら耳をかっぽじって良く聞きやがれ!』

強烈なギター・リフがフロア全体に響き渡る。それと同時に、反射的に人の波がステージへ向けて押し寄せ始めた。
先ほどまでとは違う熱気に、地下空間は一瞬のうちに支配される。熱狂的な歓喜が渦巻き、沸騰し、床を踏み鳴らすブーツの振動が全ての人を腹の底から揺らしめした。

「あれがミックだ!!」

突如現れた強烈な音圧に負けないよう、俺の耳元でツェフが叫んだ。俺は驚いた顔でオレンジ頭を振り向く。

「え?ミック⁈え?なんで?⁈」
「見掛けたら教えろって言ってたろ⁈」
「え、あ、うん、たしかに、でも…」

『FUCKER〜!!!』

フロアの暗がりを引き裂くシャウト。堂々とした放送禁止用語から、そのライブはスタートした。

「嘘だろ…」

俺は愕然とした顔でステージを見ながら、ただただその場に呆然と立ち尽くすしか無かった。




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