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チョコと僕らの水曜日 6

「ひ〜か〜る〜」

トントンと軽いノックの音。次いでそっとドアが開かれると、巻き毛の可愛らしい少女がヒョコッと顔を覗かせる。
しかし日が落ちているにも関わらず、部屋の中は電気も点いていなかった。

「ひかる〜…いないの?」

薄暗がりの中、ミンメイはピンクの小箱を後ろ手に隠しながらコソコソと部屋の中へと入り込む。暗がりに目が慣れると、ベッドの上で大の字になって寝ている制服姿のままの輝が見える。
耳を澄ませば、スヤスヤと穏やかな寝息も聞こえて来た。

「なんだ、寝ちゃったんだ」

ミンメイは小さくため息を吐く。ああ、ドキドキして損した。無茶苦茶緊張してドアをノックしたのに、当の本人はこんな時間からすでに呑気に夢の中だ。

「もう、いい気なもんね」

ミンメイは唇を尖らせる。男子なら少しは乙女の気持ちも汲み取って欲しいもんだわ、と心の中で輝の頬っぺたをギューっと抓った。
別に輝が何か悪いことをしている訳でもないし、突然訪ねて来た割に随分と勝手な言い草なのだが、それが年頃の娘というものなのだろうか。

ミンメイは頬を膨らませながら、輝が仰向けに横たわるベッドの端に腰掛けた。ギシリとスプリングの音がして、思わず心臓が止まりそうになる。
静寂の中、些細な音も大きくなって耳を打つ。起こしてはマズい。ミンメイは慎重に坐り直すと、ゆっくりと寝ている部屋の主の顔を確かめようと顔を近づけてみる。

暗がりの中で、窓から差し込む月明かりが彼の寝顔を照らしていた。
特段美男子という訳でもない。カッコいい物語の主人公のようでも、童話の王子様のように秀麗な訳でもない。極々平凡な、実に一般的な日本の男子高校生の顔だ。しかも酷いくせっ毛である。

ミンメイはベッドに頬杖を付き、じっとその「普通の顔」を眺めやる。
いつも見ている顔。毎朝おはようの挨拶をして、毎晩おやすみを言い合う顔。
一つだけ年上の、兄弟でもなければ恋人でもない、ただの同居人の顔…



ミンメイと輝の出会いは、輝が海外での放浪生活をやめて日本の学校へ入学するために帰国したその日の事だった。
何でも、事故で死んだ父親の遺言らしい。飛行機のパイロットだった輝のお父さんは、息子を日本の学校へ通わせたかったのだそうだ。

ちょうどその時、ミンメイは家出をして東京に出て来ていた。フェイチュンおばさんに憧れ、ずっと歌手を目指していたミンメイ。だが両親はバカな話だと相手にせず、娘を進学校に入れようと勝手に話を進めていた。
反発したミンメイは荷物をまとめて横浜の家を飛び出す。そのまま東京のシャオチンおじさんの元へ向かうが、途中で財布と携帯を盗まれて電車にも乗れなくなってしまう。
警察に行けば家に連れ戻されてしまうだろう。新宿のど真ん中で途方に暮れていた彼女に、優しげに声をかけて来たのは一人の優男だった。

その男はホストで、名前をカムジンと名乗った。外国人だろうか?心細かったミンメイは、優しく話し掛けてくれる彼にノコノコとついて行ったが、そのまま仲間のいる店に連れ込まれそうになる。危険を感じて逃げ出すミンメイ。歌舞伎町の大通りを、走る少女と大勢の男たち。
必死の思いでアルタ前の交差点まで逃げ切って、そこで背の高いくせっ毛の少年にぶつかった。

「大丈夫?」

地べたに転がるミンメイ。手を差し伸べられて、「大丈夫じゃない!」と思わず大泣きしてしまった。
全ての感情が爆発して、自分でもビックリする位の大声をあげて泣いてしまった。泣いても泣いても涙が溢れてくる。両親に理解されない不満、愛されていないんじゃないかという不安、初めて社会から受けた仕打ち、犯罪に巻き込まれ掛けた恐怖。色んな気持ちが混ざり合って、自分の感情の迸りを止める事が出来なかった。
大勢の人混みの中、きっと周りから注目を集めていただろう。恥ずかしいくらい変な風に目立っていたと思う。
それでも少年は、泣きじゃくるミンメイとずっと一緒に居てくれた。


ただ、居てくれただけ。
それだけだったけれど、ミンメイはあの時の事をずっと忘れない。


目立ったお陰でか、ホスト達もそれ以上は追って来なかった。ミンメイは少年にお金を借りて、シャオチンおじさんのお店へと無事に辿り着く。

「良かったね。じゃあこれで」

立ち去ろうとする少年にミンメイは連絡先を尋ねるが、少年は数年ぶりに帰国したばかりで今夜寝るところすら決まっていなかった。
しかも天涯孤独の身だと言う。

「ねぇおじさん!三階の部屋ってもう一つ空いているでしょう⁈」

それが、一条輝が娘々に寝泊まりする事になった理由だった。
ミンメイはあの一連の騒動が、運命だったと今でも強く感じている。それほどに少女にとって、強烈で劇的な出来事だった。



ミンメイはベッドに頬杖を付き、じっと自分を助けてくれた少年の顔を眺めやる。
いつも見ている顔。毎朝おはようの挨拶をして、毎晩おやすみを言い合う顔。
一つだけ年上の、兄弟でもなければ恋人でもない、ただの同居人の顔…


そう、恋人ではない。
でも、彼に恋をしていた。


「輝…」

ミンメイは少年の名を呼ぶ。輝はただ静かに寝息を立てているだけだった。そっと手を伸ばし、酷いくせっ毛に触れてみる。太くて、硬くて、ガンコなくせっ毛だった。ミンメイは思わずクスリと笑う。

「さてと」

ミンメイはベッドから立ち上がり、薄暗い部屋の中を見回した。手にしたピンクの小箱をどこへ置こうかと思案する。
昨夜、遅くまでミリアと一緒に手作りしたチョコレートである。大分おばさんに手伝ってもらったけれど、そんな事より大切なのはハートが篭っているかどうかだ。
それだけは、この中にいっぱい詰まっている。

「どうせ義理チョコの一つすら貰えなかったんだろうし。可哀想だから、このミンメイちゃんがとっておきのを恵んであげるとしますか」

ミンメイは輝の寝顔に微笑みかける。少年はただ静かに寝息を立てているだけだった。
そんなどうということの無い様子を見るだけで、ミンメイは胸がいっぱいになる。

「感謝しなさいよ、何せ乙女の手作り…」

言いかけて、言葉が止まる。
チョコの置き場所を探して彷徨っていた視線がとある一箇所で静止した。
それは、机の上に置かれた小箱。ほんのり上品な赤い包み紙に、シックな緑のリボンが掛かっている。
月明かりに淡く照らし出され、まるで夢の中の光景であるかの様に妙に神々しく輝いて見えた。

普段ならどうという事はないただの小箱。
しかし今日は2月14日、聖バレンタイン・デイだ。
それは、明らかにそれだった。


ミンメイの表情が、微笑みかけのまま固まる。大粒のつぶらな瞳が大きく見開かれ、厚いまつ毛が細かく震えた。
この部屋に入って来た時とはまた違う理由で、心臓がバクバクと音を立てる。


考えた事も無かった。彼が、他の誰かにチョコを貰うだなんて。
…一体誰が?

「輝は、誰かから貰える予定あるの?」

「そ、そんなの興味ないんだよ」

昼間学校で会った時は、そんな気配はまったくなかった。今年も確実にフェイチュンおばさんからの憐れみチョコ1個だろうと高を括っていた。相変わらずパッとしない彼。だからこそ、安心して見ていられた。気持ちを伝えるのを焦らなかった。

輝の顔を見る。大きな子供のように安らかな寝顔だった。邪気のない、純朴そうな少年の顔。
この顔が、他の誰かに向けられているかも知れないという感覚は、ミンメイの背筋をゾッとさせた。


輝が、私ではない誰かを好きになって、私の知らない人と付き合ったりしたら…


その想像は恐怖だった。胃に重たい物を感じて、ミンメイはゆっくりと部屋を出ると、静かにパタンと扉を閉めた。

後には、少年の健康そうな寝息だけが残った。




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テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

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撃ち抜かれた

『心の中で輝のほっぺたをギュ―っと抓った』に
ズッキューン♡
私がミンメイちゃんに撃ち抜かれた。母性本能鷲掴みされて持っていかれました。
不安と焦りの切なさ感で輝を見るミンメイちゃん。
ヤバい!ギュ―してあげた。(/ω\)

あと、歌舞伎町ホストのカムジン気になります。(・ω・)(強調)

管理人のみ閲覧できます

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Re: 撃ち抜かれた

もはやkomesaさんはミンメイの母ですな( ̄▽ ̄)
Lynn komesaとお名乗りください(`・ω・´)キリッ

カムジンは適当な出演ですみませんw
新宿のカムジン一家ですw
そして後に歌手デビューしたミンメイを見て「歌っていいなぁ…」と聞き惚れる予定です^ - ^


> 『心の中で輝のほっぺたをギュ―っと抓った』に
> ズッキューン♡
> 私がミンメイちゃんに撃ち抜かれた。母性本能鷲掴みされて持っていかれました。
> 不安と焦りの切なさ感で輝を見るミンメイちゃん。
> ヤバい!ギュ―してあげた。(/ω\)
>
> あと、歌舞伎町ホストのカムジン気になります。(・ω・)(強調)

Re: No title

歌舞伎町の有名人という事でw
もはや闇金ウシジマくんの世界です( ̄▽ ̄)

カムジン一家で唯一のイケメン…あとはただゴツいのばっか…ホストなのに…
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iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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