「5.4.3…」

「5.4.3…」

タイムキーパーの合図と共にカメラがスタジオに戻って来る。

「皆さん、今日は人類の明日が決まります。テーマは人類の未来はどこにあるか、これを探っていきたいと思います」

前半では、政府側の華麗な連携にほとんど口を挟む余裕の無かった白髪頭の司会者は、ここから仕切り直そうと鼻息を荒くする。
休憩を挟み、幾分落ち着いた感のある両陣営はその流れに任せる様だった。

「カイフンさんのお話、興味深く聞かせて頂きました。そこで出た質問です。人類の希望は宙(そら)にあるのか、大地にあるのか。宇宙移民と、地上の貧困救済と。どちらが大事なんでしょう。グローバル総司令、その辺のところは如何ですか」

司会者に促され、グローバルは重々しく頷く。ところがここで異変が生じる。綺麗な連携を保ってきた政府側だが、ブエノ報道官がスタンドプレーでグローバル総司令の発言の機先を制した。

「それも興味がありますが、私は先ほどのカイフンさんのお話はまだ終わっていないと思うんですよ」

未沙が不審そうに右隣りのブエノを見やる。右手で髪をたくし上げたが、ブエノは反応しなかった。

「人の命の裁定をするな、と仰いますが、現実的には決めなくてはならない場面というのは出てくる筈だ。理想論は結構だが、何もせずに傍観する事が正しいとは思えない。これではまるで、目の前で何があっても手出しするなと言われている様なものです」

ブエノの魂胆はハッキリしている。余計な話題で茶化してグローバルの発言を妨害しようというのだ。未沙はグローバルを見た。新統合軍のトップは特に逆らう訳でもなく再び沈黙している。
総司令も、迷っているのかも知れない。これから話そうとしている内容を、果たして人々に告げて良いものかどうか。

もし自分とブエノだけでカイフンらGCCをやり込めたらそれはそれで御の字だ。ブエノが積極的な姿勢を見せてくれている間は、この流れに乗ってみるのもいいかも知れない。

カイフンを見ると、心なしか顔色が悪い。どうしたのだろうか?ここに来て突然臆した訳でも無いだろう。眉を寄せて険しい顔をしている。

「カイフンさん、それについては如何ですか」

司会者が話を振る。しかしカイフンは答えない。黙り込むカリスマを見てオタオタとしていた学生会長が、我慢出来ずに声を上げる。

「つ、つまり、人の命を大切にしろという事ですよ!」
「しかし命を救う為に犠牲にしなくてはならない事もある。崖から落ちそうな2人の男女がいたら、私は迷わず美女を救うよ。この場合、お決まりで男は落ちてしまうものだけどね」

茶目っ気たっぷりにブエノはウィンクする。会場は軽い笑いに包まれた。
未沙はこの話題に乗ってみる事にした。

「先程、カイフンさんが命の選択をしてはならないと仰いました。しかし、ブエノ報道官が仰る通り現実は往々にして選択の連続です。一つしか無いパンを大勢に分け与えていては共倒れになるでしょう。辛くとも選ばねばならないという状況は、人生の中で必ず訪れるものです」

まるで倫理学の講義の様だ。話しながら未沙はそう思った。相手に学生がいるだけに尚更そう感じる。
顔を真っ赤にする学生会長に代わり、今度は事務局長が喰いついてきた。

「では皆さんは自分達に人の命を裁く権利があると、そうお考えなのですね」

「そうした権利は誰にでもあると思います」

意外な返答に、事務局長だけでなくブエノも思わず未沙を見た。

「権利というよりも、義務なのでしょう。人が人を救う為に人を殺す。常に歴史の中で繰り返されてきた悲劇です。しかし自らを守る為に、大切な人を助ける為に、どうしてもそうしなくてはならないのであれば誰しもが決断の時というものがあると思います。これは過去の裁判事例からも明らかです」

未沙は具体的な例として、19世紀に起きた遭難事件を上げた。
沈没した船から脱出した乗組員が、水も食料もないボートの上で他の生き残りを殺して生き延びた。
とても凄惨な事件だったが、当時の裁判で乗組員は無罪になっている。

「私達は、常に命の選択を迫られる危険を持って生きています。こんな時代です、例外なく皆さんの上に降りかかる恐れのある危機です。その時、どう決断しどう行動するかが問われるべきであって、人は皆その時に決断を恐れてはならないのです。
決してそれで良いという事ではありませんが、常にベストだけを選ぶ事は誰にも出来ません。ならば、よりベターに見える方をその時その時に選択して行く事が必要なのではないでしょうか」

未沙はここから、パークでの発砲事件を引き合いに出そうかどうかを考えていた。ワザワザ蒸し返す事もないのか、それともより正当性を強調する材料にすべきか。
ところが、意外なところでGCCの事務局長は未沙に一矢報いる。

「なるほど、だから地上の人間を見捨ててあなたは宇宙に行くのですね」

嫌味な音色を含んだ声を発する事務局長は、嫌味っぽく笑っていた。未沙はしまったと思った。別にどうという事のない言葉だったが、話題を逸らそうとブエノの雑談に付き合ったのに、また移民の話に戻ってしまった。

「あなた方は地球よりも、その次の希望の星とやらを選択したという訳だ。我々を見捨てて、それを仕方のない事だと仰る。いやはや参りましたな、見捨てられた側としては悲しいばかりだ」

どうしようか。未沙はチラリとグローバルの顔を見た。そもそも今日のこの討論会は星間移民に関して話し合う場なのだ。やはりこの話題は避けて通れないのではないだろうか。

総司令の言う通り、全て話してしまった方が良いのだろうか

未沙は決断がつかない。その間を埋めるように、ブエノが言葉を継いだ。

「誤解があると困るんですけれど、移民計画に割かれる国家予算は全体の0.01%以下に過ぎません。移民を行うと地球が落ちぶれるかのようなイメージは、この際払拭したいんですよ、我々としても」

ブエノの表情はあくまでも爽やかだ。その顔のまま、左手を円卓の上に置く。
未沙はまだ迷いがあったが、兎にも角にも流れを切らないように言葉を続けた。

「軍においても、移民に参加する艦艇戦力はほんの一部です。第一に重要なのは地球本星である事は間違いありません」

未沙はカイフンを見た。
カイフンは、やはり青い顔のまま険しい表情をしている。

何かあったのだろうか。
どちらの陣営も、順風満帆という訳では無さそうだった。




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カイフン兄さんの沈黙が気になる。ミンメイの事、今でも大切なんだよね。未沙さんとブエノさんで何とかここは乗り切りたい。びえりさんの作品って囲碁みたいですよね。かつ映画的だし、きゃー(≧∇≦)

Re: タイトルなし

TV版でもカイフンはミンメイの事そこまで悪く思ってないと思うんですよね〜。性格はともかく大人だし。

別れてからきっと未練に想うんですよ。そしてそれをグッと我慢して生きてく。それが男ってものだと思います。

囲碁はちっこい頃やってました!級持ってるんですよ。

…たしか13級とかだったwww


> カイフン兄さんの沈黙が気になる。ミンメイの事、今でも大切なんだよね。未沙さんとブエノさんで何とかここは乗り切りたい。びえりさんの作品って囲碁みたいですよね。かつ映画的だし、きゃー(≧∇≦)
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