隣の席のGCC北米支局長が、カイフンの顔を心配そうに覗き込む。

隣の席のGCC北米支局長が、カイフンの顔を心配そうに覗き込む。
カイフンはそれに気付き、片手を上げて「何でもない」と答えた。

少しだけ顔を動かして、観覧席の方を見る。片目のズアンと目が合った。ズアンは黙って頷く。

戦友だと思っていた男が、全くの敵の手先だった。その事がショックだったが、それよりも何よりもミンメイの事が気掛かりだ。

「彼女に監視を付けてある。見張り役は、銃を持ってる」

ズアンの言葉に衝撃を覚える。カイフンが余計な事を喋れば、いつでもミンメイを殺すぞと脅しているのだ。
ズアンとは、ホアン先生の難民キャンプで知り合った。中国からアラスカへ来るまでの間、二人きりで大陸を旅して来た。星空の下、野宿の日々が続いたが、お互いに過去の身の上話などを焚き火の揺らめく炎を眺めて延々と語り合った。

ズアンは統合戦争時代の事を、カイフンはミンメイとツアーで回った世界の事を。


俺が、どれほどあの子を大切に思って来たかよく知っている筈だ。
カイフンはズアンと旅した道程を思い出す。初めから、あいつは俺を騙すつもりだったのか?

自然と表情が険しくなる。北米支局長がやはり気になってカイフンに声を掛けて来た。

「カイフンさん、何かありますか?」

「…いや…」

歯切れ悪く、カイフンは首を振る。
どうしても、ミンメイの事が頭を離れない。

「そろそろやりますか」

北米支局長はカイフンに確認を求めてきた。
本当は軍の連中をもっとやり込めてやる予定だったが、どうにも当のカイフンの様子がおかしい。このままだと何も話さずに終わってしまいそうだ。
とっとと次の話題に移ろう。北米支局長は事務局長に目配せする。不審げな事務局長はそれでも頷くと、新たな提案をしようと司会者に向けて手を挙げようとした。

それを制止するカイフン。

「どうしたんです⁈」

驚いたというか、半分憤慨して北米支局長が疑いの眼差しをカイフンに向ける。
この人はさっきからおかしい。CM明け直前にズアンさんと少し言い争う様な仕草を見せた。それが原因だろうか?

「みんな準備は出来てます。ここであなたが覚悟を決めてくれねば、今日までの努力も水の泡だ」

カイフンと北米支局長が言い争っているかの様な光景は、すぐに見つかった。遠慮のない司会者が「ちょっと、どうしたの」と話に割り込んでくる。

「いや、なんでもないですよ」

北米支局長は愛想笑いで司会者に答える。そしてカイフンに耳打ちした。

「今は正念場だ、みんなあなたを見ています。何があったか知らないがシャンとしてください。勝負所でしょう」

カイフンは頷いた。そうだ、こんなチャンスは二度と無いかも知れない。これに失敗すれば、GCCはまた奴らの支配下に逆戻りしてしまうだろう。
世界を貧困から救うなどというのはただのお題目に過ぎず、政治家どもの手先に成り下がる。表では善人を装い、裏では結局為政者の奴隷として弱者を虐げる存在。
そんなものに身を落とす位なら、命を懸けて戦う方がマシだ。そう思って立ち上がったのでは無かったのか。なら、今語らずにいつ語るのだ。

カイフンは顔を上げた。決意を漲らせた表情で頷く。北米支局長は安堵のため息をつき、事務局長に合図を送る。
事務局長は「提案があります」と老齢な司会者に手を挙げる。全員の視線が事務局長に集中した。

「実はGCCにも色々と圧力が掛かっています。政治家や右系企業などその相手は様々ですが、その中でも最大級の相手がいるのです。私達の言論の自由を守る為に、今日はマスコミの皆さん、世界の皆さんに彼らの卑劣な手段を知っていただきたい」

事務局長の発言は司会者を始め、関係者席のマスコミ達の興味をかなり引いた様だった。意気揚々と、事務局長は我らの若きリーダーを見る。
新たな時代のカリスマ、言論の魔術師、世紀のアジテーター。さぁ、ここからはあなたの世界だ。思う存分奴らの陰謀をぶちまけてやってください。今日、我々はその為に集まったのだ。

北米支局長が、事務局長が、学生会長が、ベイビーパンサーの学生達が、政府側の者が、スタジオの観覧客全員、そしてカメラの向こうの世界中の人々が、1人のアジア人に注目した。

カイフンは一度、ゆっくりとその両目を閉じる。世界を変える。誰かが何とかしなくては。その想いだけでここまで辿り着いた。
難民キャンプで死んでいった子供達。動かない幼子を抱き締めて泣く母親。飢えと病気。蔓延する暴力と犯罪。無残に殴り殺されたゼントラーディの少女。
誰かが何とかしなくては。今がその時なのだ。

カイフンは目を開いた。
期待に満ちた人々の視線。
熱い双眸が火を放つ。
カイフンは口を開いた。


その時、あの子の声が聞こえたような気がした。



「カイフン兄さん」



花の様な笑顔が、カイフンから言葉を奪った。

「…ダメだ、私には語れない」

苦悶の表情で、カイフンは告げた。隣りの北米支局長が愕然とした顔でカイフンを見つめる。
失意の空気が、重々しく彼の周囲に纏わり付いていた。




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信頼していた人に裏切られるってダメージ大きいですよね。カイフン兄さん可哀想だな…。仲間からは裏切り者扱いされるだろうし。これからどうなるのかドキドキします。(≧∇≦)

困難打破は 焼け●ソで勝負だ!

えぇ~い!両陣営共に 自分達自身の暴露合戦をしちゃう うぇーぃっ

゜゜(´O`)°゜゜゜
インシュ・アっラーメ

Re: タイトルなし

よりにも寄って、てな感じですよね〜。

自分の弱みをよく知ってる相手だから、それを利用されちゃう訳ですから。
カイフン哀れ…

> 信頼していた人に裏切られるってダメージ大きいですよね。カイフン兄さん可哀想だな…。仲間からは裏切り者扱いされるだろうし。これからどうなるのかドキドキします。(≧∇≦)

Re: 困難打破は 焼け●ソで勝負だ!

じつは私…ゲイなんです!
ええ⁉︎じつは私も!
え…
これって…運命⁇

こうしてカミングアウト大会はハッピーエンドに終わった。


> えぇ~い!両陣営共に 自分達自身の暴露合戦をしちゃう うぇーぃっ
>
> ゜゜(´O`)°゜゜゜
> インシュ・アっラーメ

拍手コメントありがとうございます!

カイフン負けちゃいましたね(´・ω・`)
まぁミンメイ大事ですしね…かつて愛した女がコロされる言うたら誰でも見捨てられないですよね…
命の選択しちゃいますよねそりゃ。

またドサ回って頑張って貰いましょうか(^-^)/
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iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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