リン・カイフンに異常が発生したのは誰の目にも明らかだった。

リン・カイフンに異常が発生したのは誰の目にも明らかだった。
険しい顔で黙して語らぬ彼を、GCCの北米支局長が問い詰めている。若い学生会長はオタオタと慌てるだけだ。唯一老練な事務局長が、討論会の会話を頑張って続けていた。

もっと器用に生きられれば良かったのにな

そんなカイフンの様子を見て、レ・ズアンは彼を哀れに思った。
リン・カイフンと知り合ったのは、運動家のホアン・バン・ミン老人のキャンプに入り込んでいた時だ。あのリン・ミンメイのマネージャーで、反政府的な言動が目立つ有名人だというのはズアンも知っていた。しかし、ここまで彼の存在が大きくなるとは思ってもいなかった。

お前はやり過ぎたんだ、カイフン

ズアンは一つだけの目を細める。
世の中はそんなに簡単じゃない。想っただけでは物事は変化しないんだ。
どんな事も、手強い相手がいるのだという事を忘れてはいけないのさ。

今頃、リン・ミンメイは左翼系野党“自由の手”の配下に見張られている筈だ。カイフンが余計な事を喋れば彼女は拉致されて殺されるだろう。
弱みを持つという事はそういう事なんだ。カイフン、負けたくなければ強くなれ。強くならねば、いつまでもお前は他人の言いなりだ。

「今でも彼女の事を想う。世界でもっとも輝かしい女性だ」

旅の途中、カイフンが漏らしたミンメイへの想い。それを知った上で、ズアンはこの仕打ちをカイフンに仕掛けている。
痛む良心などとうの昔に捨ててしまった。今の俺はただの部品。政治家どもが陰謀を形作るためのパーツの一つに過ぎないのだ。


討論会は、ここぞとばかりに政府側が攻め立てている。黙りこくるカイフンを無視し、ブエノ報道官と早瀬大佐の連携でGCCの事務局長は圧倒されっ放しだ。とてもじゃないが役者が違い過ぎる。

これでこの反乱劇も終わりか

ズアンは小さく溜息をついた。
もしかしたら世界が変わるかもしれない、そういう期待をほんの僅かだけズアンも持っていた。しかし現実はやはりいつも通りの結末を選んだようだ。自らもその現実とやらの手先になったズアンは、失意の眼差しを円卓の盟友…いや、元盟友に向けた。

カイフン、許せとは言わん
だがこれからも挫けないでくれ

そう心の中で呟くズアンの一つだけの目に、奇妙なものが映った。
ズアンの座っていた場所が原因であった事もあるが、そのスタジオ内でそれに気が付いたのはレ・ズアンが最初の人間だった。

「…なんだ?」

その男達は、黒いアサルトスーツに黒い目出し帽を被っていた。
手には、短機関銃を持っている。

ズアンは身の毛が逆立った。昔戦場で培われた危険を察知する能力が、フルに働いている。
アレはダメだ、アレを円卓に近付けてはならない。特にカイフンには…
ズアンは立ち上がり叫んだ。

「おい!やめろ!」

それが最後の言葉になった。
スタジオの最初の犠牲者はレ・ズアン、元軍人のベトナム人だった。




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