脚が震えた。

脚が震えた。

何だろう。
これは現実なんだろうか。

視界が歪む。息が出来ない。
足元に転がっている物は、もう人間ではなかった。
動かぬ肉の塊だ。
赤い装飾で彩られ、奇妙にねじ曲がった形をしている。

心臓が痛い。まるでナイフで斬りつけられたみたいだ。血が出ているんじゃないかと胸を手で押さえつける。息が吸えずに口をパクパクさせながら、輝は“それ”の傍らに跪いた。
イラついて声を掛けようとしたボーリゾンが、輝の様子に気が付いて黙り込む。

リン・チーリンの細い目は限界まで見開かれていた。驚きの表情をしたまま、その顔は時間が止まったかのように静止している。
顔にかかる前髪を、輝は震える指で掬ってあげた。

その頬に、触れてみる。
まだ柔らかい。でももう冷たかった。
温もりの失われた魂の抜け殻。
呼吸が苦しい。必死に息を吸い込むと、死の匂いが輝の鼻腔を捉え、急激な吐き気に襲われる。

輝はヨロヨロとその場を離れたが、すぐに座り込み、片手をついて嘔吐した。
それは静まり返ったスタジオで余りにも目立ってしまった。

「おい、お前、何やってる」

自動小銃を構えた武装集団の一人が近付いて来る。それでも輝は立ち上がれない。

「死体にビビったのか」

黒いアサルトスーツの男は鼻で笑った。その声が、輝の脳に耳障りに響く。輝は顔を上げた。男は銃口をこちらに向けて立っている。ボーリゾンはもう見当たらなかった。

「…お前か?」
「なに?」

輝は泣いていた。
口元から胃液を垂らしながら、気がつくと熱い滴りがとめどなく頬を濡らしている。
床についた左手が震えた。

「これは、お前がやったのか?」
「…なんだと?」

輝は返事を待たなかった。
咄嗟に出た両腕は目の前の両脚を抱え込む。輝の足は床を蹴り、肩から体重を掛けて男を押し倒した。激しい音がスタジオに響く。

「おい、何やってる!」

叱責の声が飛ぶ。構わず、輝は左手で男の喉仏を押し潰す。カエルが踏み潰されたような声を出して、目出し帽の中の男の表情が恐怖に歪んだ。
輝は暴動事件で骨折したばかりの右手で、手の甲だけを覆ったギプスごと何度も何度も男の顔を殴りつける。渾身の力を込めて。

「お前がやったのか⁉︎お前が!⁉︎」

叫びながら泣いていた。痛みは何も感じなかった。
組み敷かれた男はすぐに気を失ってしまったが、それでも輝は殴り続ける。

しかしここは敵地だ。
冷静さを失えば、その者の命運もそこまでだった。
輝は突然後頭部に強烈な衝撃を受け、前のめりに倒れ込んだ。意識が昏倒する中で、視界の隅にアサルトライフルの銃床を振り上げる男の姿を捉えていた。

もう一度、強い衝撃が輝を襲った。
今度は完全に意識を失ってしまった。




関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR