そんなもの、選べる訳がない。

そんなもの、選べる訳がない。

未沙は喉がつかえて言葉にならなかった。

輝を見た。
グッタリとしていた輝は、しかし今は状況を把握したのか、その双眸に怒りの炎を宿してバイバルスを見上げている。

「ふざ…けるな…お前が死ね…」
「まだそんな口がきけるのか、英雄殿」

バイバルスは容赦なく輝を短機関銃の銃床で殴る。鈍い音がして、床に血が飛び散った。輝はさっきより力なく項垂れる。

「やめて!」

ミンメイが叫んだ。その大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙を流している。全身を震わせながら、両手を揉みあわせて未沙を見た。

「早瀬さん、私死にます。だから輝を助けて下さい」

「何を言ってるんだミンメイ!」

カイフンが驚きとも怒りとも取れる叫び声を上げた。でもミンメイは首を振る。

「いいの、私もういいの。疲れちゃったから。人類の救世主なんてもうイヤ」

ミンメイは涙を零しながら笑った。引きつった笑顔だった。

「ダメだミンメイ!自暴自棄になるな!」

カイフンは立ち上がろうとして後ろのテロリストに押さえつけられる。円卓をバンバンと叩いた。

「こんなくだらない茶番劇に付き合う必要はないんだ!ミンメイ座れ!君は何の関係もない!」

「カイフンさん、黙らないと人質をすぐ殺す」

バイバルスの言葉と同時に銃声が響く。床に引きずり倒された観覧客の一人が撃ち殺された。観覧客はあっけなく動かなくなる。人々の間から恐怖の悲鳴が上がった。
カイフンはそれを見て、悔しさに顔を歪ませる。

「今は早瀬大佐の時間だ。彼女に喋らせろ」

バイバルスは未沙を見た。しかし口を開いたのは未沙ではなく瀕死の男の方だった。

「…クソ野郎…お前が死ね…」
「黙っていろ、お前は生け贄役だ」
「ふざけるな…誰が生け贄なんかに…」

輝は縛り付けられた椅子ごと立ち上がろうとする。バイバルスが左手で頭から押さえつけた。

「大人しくしていろ、お前に選択権は無いんだ」
「殺してやる…お前を殺してやるぞ…」
「その前にお前が死ぬかもな、さあ選べ早瀬大佐!」
「私が!私が死ぬから輝を放して!」
「ダメだ!ミンメイそれだけはダメだ!」

カイフンは熱い涙を零していた。まさかこんな事になるなんて。
自らが起こしたこの騒動に、最愛の人を巻き込んでしまった。自分は何がやりたかったのだろう。何故、こんな事になってしまったのだろうか。

とにかくミンメイが死ぬのだけはダメだ。絶対にダメだ。カイフンは必死の形相で未沙を見た。

「早瀬大佐、軍人が民間人を守るのは当然の事だ、ミンメイを助けたまえ!」

カイフンは輝に死ねと言っている。いや、そもそもこんな事に付き合う必要は本来無い筈だが、それが現実的に与えられた選択肢の中に無い事を彼にも良く分かっていた。

未沙は青い顔でカイフンを見る。カイフンは強い意志を放つ瞳で未沙を見ていた。彼にしてみれば当然の結論だろう。でも、とても未沙には言えない言葉だった。

輝に『死ね』などと…

じゃあミンメイを殺すのか?
リン・ミンメイを?
人類社会全体の救世主。
過去も、そして恐らく今後の未来においても人々の希望の光として輝く役割りを担う筈の少女。
いま彼女が死んだら、果たして人々はどうなってしまうだろう。

何も言えない未沙に、かつて愛し合った彼の口から恐るべき言葉が紡ぎ出されるのが聞こえてきた。

「…未沙…迷うな…」

皆が一斉に輝に視線を集中させる。輝は弱々しく、しかしはっきりとこう言った。

「間違うんじゃない…人類に必要なのはどちらか…答えは一つしか無いじゃないか…君は頭のいい子だろう…?」

「いや!私でいい、私でいいから!」

ミンメイの泣き声が輝の言葉をかき消す。輝はゆっくりと血だらけの顔を上げた。ミンメイに優しく微笑む。

「君はこれからも必要な人なんだよ…背負わせちゃってゴメン…」

「やだ!輝死んじゃやだ!」

ミンメイが走り寄ろうとする。それをテロリストの一人が抱え込んで止めた。

「放して!輝ー!放して!」

両手を伸ばし、泣き叫ぶミンメイ。カイフンの怒号。人々の悲鳴。また銃声が響き渡る。

「さあ、選べ大佐!また一人死んだぞ!」


絶望が、未沙を支配していた。
足元から暗い闇がじわり、じわりと這い上がってくる。
それが触れる肌の感触に目眩さえ覚えた。悪寒が、未沙の全身をくまなく嬲り回している。

未沙は思っていた。
神様というのは本当にいるのだろうか?
ならば神様が人間に望んでいるのは何なのだろう。
ここは地獄だ。
現実という名の地獄にいま、自分はその身を置いている。

ここから抜け出したい。
でも、その為に踏み出す筈の未沙の足は重く深く地面にめり込んでいた。

輝を見る。
輝も未沙を見ている。
彼は頷いた。
もういいだろ?
仕方ないよ、こんな事もあるさ
先輩も、柿崎も、ショーンも辿った道なんだ
俺だけ仲間外れは口惜しくてさ

未沙は確かに見た。
彼の目はこう囁いていた。

お互い、いつ死ぬか分からないから、今を精一杯生きよう

だから一生懸命生きた
全身全霊で人を愛した
命を賭けて戦った
ここが終着点でもいいじゃないか
後悔はしない
あとは君に生きて欲しい
それだけが最後の望みだ


輝は笑った。
あの頃と同じ笑顔。
2人過ごした夏の湖のバカンスを、何故か未沙は思い出していた。


もうお茶に誘えないけど、ゴメンな


一筋、未沙の頬を涙が伝った。
震える唇を開く。

「輝…」

出たのは愛しい彼の名前。
ただそれだけ。

「さあ、どちらだ早瀬大佐!」

バイバルスの突き付けた銃口が、輝の癖っ毛を掻き分ける。

未沙は見ていた。
ただ、彼の静かな、血まみれの微笑みだけを見ていた。




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Re: はやく

落ち着いてください、句読点が抜けておりますwww

…ていうか新作書いてくださいよ〜読みたいよ〜

Re: ヒカルちゃん、(。・ω・。o[]o

はい、もうじきですね〜。

ですよね!
男の子が成長する過程では普通にあり得る事だと思うんですよね。世間の若者を見れば馬鹿ばっかじゃないですか。でも、自分達もそういう時代を経て来てる筈なんですよね。
いきなり完成した人間性を求めてもそれってむしろ歪な気がします。
大人になっても完璧じゃないのに。

おっしゃる通り、永遠の伴侶はタイミングと運命次第ですかね。応援してあげてください(^-^)/

拍手コメントありがとうございます!

9000ヒットありがとうございます〜>_<
それもこれも拍手をくださる皆様のお陰です。
そろそろ真面目に記念SS用意しないと…

私、運は定量制ではなくて積み立て式だと思ってますので、きっと益々良い事があるんじゃないでしょうか(^-^)/
もし良かったら何か贈らせて頂きますw

拍手コメントありがとうございます!

さすが、よく読んでらっしゃいますね…

クローン技術で輝ちゃん量産しても、全部の輝ちゃんが未沙とミンメイに走るんじゃないかと思うんですがwww

拍手コメントありがとうございます!

葛藤は切ないですね(´Д⊂

幸せの女神様はいつ微笑んでくれるのでしょうか…

まずは悪の元凶であるびえりを何とかしないといけませんね…
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Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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