スタジオ内は戦場だった。

スタジオ内は戦場だった。

響き渡る銃声。なまじっか音響設備の整ったスタジオ内だけにその音はオドロオドロしく人々の耳を打つ。
敵は一体どれだけいるのだろうか。テロリスト達の代わり番この集中砲火に、輝はその場からまったく動けずにいた。

「くそ、早く弾切れになれ!」

ズキズキ痛む頭も、ヒリヒリ滲みる両の手首も、気にしている余裕はまるで無かった。
今はとにかく生き延びる。その事だけが脳内の思考を支配している。全身の神経がビリビリと警報を発していた。

着弾して弾ける円卓の木片を防ぎながら、飛び交う銃弾の向こうを見る。
未沙がまだスタジオに居た。倒れたグローバル総司令をかばって覆い被さっている。
ふとチェーホフの言葉が輝の頭を過ぎった。

「妊娠してる」

「君の子供さ」


未沙…

この危機的状況の中、輝は未沙の元に駆け寄り、声を聞きたくて堪らなくなる。未沙、子供がいるのか?俺の子が、そのお腹の中に…

しかし轟き渡る銃声と不吉な着弾音とが非情な現実に輝を引き戻す。まずはなんとか、ここから彼女を逃さないといけない。誰か彼女を連れて出て行ける人物はいないだろうか。

輝は知らない事だったが、彼女の身を護る筈だったチェーホフとチェンは、順番にこの舞台から退場してしまっていた。頼りにしていたゼントラーディ人のスーデルももういない。そもそも彼ら同士が相打っていたのだからどうしようもない。なんという運命の悪戯だろうか。

今、未沙は一人ぼっちだった。
かろうじて攻撃が輝だけに向けられているのが不幸中の幸いと言える。しかしいつその無防備な体に恐ろしい鉛の弾が飛んで来るとも限らない。

輝は汗だくになりながら周りを見回す。幾人かの新統合軍兵士が、まだスタジオ内に留まっているのがチラホラ見受けられた。みんなグローバル総司令や早瀬大佐を助けたいのだろう。しかしいかんせん武器がない。

「ボリは、ボリはどこだ」

目を凝らす。ミンメイの派手な黄色い衣装が見当たらないので、もしかしたらボーリゾンは彼女を脱出させる事に成功したのかも知れない。
それはそれで良かった。
ミンメイ、怖かったろうに、ずっと自分を殺してでも輝を助けてくれとテロリストに懇願していた。それを思うと胸が痛む。

俺は絶対に生き延びなくてはならない

その決意が輝の内を満たす。こんな所で死ねない。生きて帰ってミンメイを抱き締め、安心させてあげなくては。
あの子を泣かせたままには出来ない。あの子に一番似合うのは、あの天使のような笑顔なんだ。

銃弾の雨の中、輝は相手に弾切れの気配がない事に気が付いて舌打ちした。無駄弾というか、とても贅沢な撃ち方をしている。余程持ち込んだ予備のマガジンに余裕があるのだろうか。一体、こいつらはどこからそんな重武装を手に入れたのだろう。

ふいに頭がクラリと揺れた。一瞬意識が飛びかける。輝は頬を叩いて気を引き締めた。
出血が酷い。頭を何度も叩かれて、頭蓋骨の中がガンガン響く。さっきは湧き上がる怒りから突発的に動けたが、このままだと本当に意識を持って行かれてしまう。

焦りの気持ちと共に、目下一番の心配事である未沙を見る。すると未沙の元に、体格の良い年配の護衛官が姿勢を低くして近づいて行くのが目に入った。飛び交う銃弾のすぐ脇で、とんだ命知らずだ。しかしありがたい。

やがて護衛官は未沙の元に辿り着く。一言二言会話を交わすが、未沙は首を振る一方だ。すると護衛官は未沙を無理矢理抱き上げて、出口に向かって走り出した。

「よし!いいぞ!」

思わず声を漏らす輝だが、未沙の軍服が赤く染まっているのを見て一瞬心臓が止まりそうになった。しかしすぐにそれがグローバル総司令の血だと気が付く。安堵のため息をついて未沙を見送っていると、今度は別の出入り口からテロリストが1人入って来るのが眼に映る。

テロリストはスタジオ内に駆けて来た。
新手かと警戒したが、そのテロリストは仲間に合流するフリをしていきなり後ろから仲間を撃ち始めた。
間違いない、変装したチェーホフかボーリゾンだ。

「ハハ!汚いヤツだ」

輝は額の汗を拭って笑いながら、今がチャンスとばかりに円卓を飛び出した。短機関銃を撃ちながらセット裏へ走る。ようやく安全な位置に移動して、そこからテロリスト達と改めて銃撃戦に突入だ。

「俺は、生きる!生き残るんだ!」

幾多の戦場をくぐり抜け、少年は兵士になった。
もうあの頃のあどけない瞳は取り戻せない。敵を殺し、味方の死を踏み越えて、彼は長い長い道を歩いて来た。その背後には死屍累々と敵味方の亡骸が連なっている。

「生きる!生きて帰って、ミンメイを抱き締める!」

自分が生き残る事。それはすなわち目の前の敵が死ぬ事だ。つまりまた人を殺さねばならない。
輝は引き金を引き続けた。

「生きる!生きて帰って、未沙に言うんだ!」

何を言うのか。そんな事は頭には浮かんで来なかった。ただ、輝は確信していた。
俺は、未沙に言わなくちゃならない事がある。
ただそれだけの想いが、今の彼を生き永らえさせていた。



時刻は21時40分を回っていた。




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非公開コメント

男になりはじめましたね。

かっこいいいぞ。ヒーローらしくなってきたぞ。
うんうん。
さあ、選択はどっちだ。

Re: 男になりはじめましたね。

しそ~が昔、マクロスサントラのアルバムジャケットの輝ちゃんを「少年兵」って書いてたじゃ~ないですか。
確かに輝ちゃんて作中ではまだ10代なんですよね。
そんな子供に過酷な現実…人は叩かれれば叩かれるほど成長していくと思いまする。(´∀`)ノ


> かっこいいいぞ。ヒーローらしくなってきたぞ。
> うんうん。
> さあ、選択はどっちだ。

拍手コメントありがとうございます!

それって凄く器用なんじゃありませんかwww

担いで逃げたマッチョさんはご年配のダンディ系ですが、ボリさんの趣味はジャニーズ系みたいですw

じゃあ何故フォッカーに惚れた…いや、オカマすら魅了するフォッカーぱいせんの素晴らしさをこそ褒め称えるべきか…

認知w養育費ww

どんどん生々しくなっていくwww
そのうちぱよ先生に怒られそうwww

拍手コメントありがとうございます!

カコイイありがとうございます(´∀`)ノ

今が踏ん張りどころですよね~。
とりあえずここを乗り切らないと笑顔もなにもあったもんじゃないですからね(;´∀`)

今またストック切れつつあるので調整しております(;´Д`)
そろそろペース戻せるといいな~
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Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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