未沙を抱えてスタジオを脱出したのは

未沙を抱えてスタジオを脱出したのは、顔見知りの年配の護衛官だった。

未沙が指令センター勤務の頃、よくジープで通勤のお世話になった。雨でも降らない限りホロの無いジープで迎えに来る警護班を、未沙は「女性兵士への理解がない」と大いに怒ったものだが、この護衛官も未沙には散々怒られて来たクチだ。

父の早瀬隆司と年はほとんど変わらない。当番制の警護班だが、人当たりの良い彼がよく未沙の送迎を担当していた。後で聞いた話だが、若い護衛官同士が未沙の迎えを巡って喧嘩になった事があるらしい。それ以来、無用なトラブルを避ける為にこの護衛官が主に送迎を受け持っていたのだ。

ある時、未沙は付き合い始めたばかりの輝と喧嘩をした。その日は未沙の誕生日で、2人でホームディナーを楽しむ約束だった。しかし未沙には緊急の会議が入り、楽しい筈のデートはキャンセルとなる。
輝は怒ってしまい、電話にも出なかった。返事のない携帯を手に暗い気持ちで深夜の帰路についた未沙は、パーキングで1人未沙を待つ暗がりの中の輝を発見する。
アラスカの3月、雪の降る夜だった。未沙は「風邪ひいちゃうじゃない!」と怒ったが、本当は嬉しかった。とても懐かしく、胸を締め付ける想い出。あの時も、この護衛官と一緒だった。

思えば、グローバルとはタイプの違う「父親役」だった様な気がする。未沙と輝の仲も、バルトロウとの喧嘩で公になる大分前から知っていた。車内でそれとなく男性の気持ちについて相談に乗ってもらった事もある。

護衛官には年の離れた娘がいたらしい。未沙よりもずっと若いローティーンの少女だったそうだ。
この時代のご多聞に漏れず、ボドル基幹艦隊の襲来で少女は亡くなってしまった。

「失礼とは存じますが、中佐を見ていると未来の娘を見ているような気持ちになります」

一度だけ、護衛官がその心中を吐露した事がある。あれはいつの日だっただろうか。
人種も年齢も、もっと聞けば性格すらもまったく違う赤の他人だ。恐らく亡くした娘への哀悼が護衛官の勘違いを暴走させているだけなのだろうが、そう言われて不思議と未沙も嫌では無かった。


通路の先で銃声が響く。
テロリストがまだスタジオの外にもいるのだ。護衛官は未沙を降ろすと「ちょっと見てきますのでここに居てください」と走って行った。

未沙はスタジオに続く通路を振り返る。輝が心配だ。グローバルもあのまま放っておけば死んでしまうだろう。脚がそちらを向きかけたが、すぐに護衛官が戻ってきた。

「行きましょう、今がチャンスです」

「私、やっぱり戻ろうかと思うの」

未沙の言葉に、護衛官は険しい顔をする。

「大佐、大佐の任務は何ですか?」

「え?」

思わぬ言葉に戸惑う未沙に、護衛官は告げる。

「あなたの任務は、人々を星の大海へと導く事です。テロリストから仲間を庇う事じゃない。ここで死んだら、一体誰があの移民艦を動かすんですか」

未沙は青い顔で黙り込む。護衛官の言っている事が正しい。自分の甘えを指摘されて恥ずかしかった。

「さあ、行きましょう。きっと味方もすぐ近くまで来ています」

護衛官に手を引かれて、未沙は歩き出す。
「走れますか?」との護衛官の言葉に、未沙は「お腹に子供がいるの」と答えた。護衛官は目を見開く。

「それは…おめでとうございます」

「ありがとう」

こんな場で無ければ、本当におめでたい報告だった筈だ。訳知り顏でうんうんと頷く護衛官だが、今の未沙と輝の関係までは知ってはいないだろう。

「そうか…子供が…孫みたいだ…」

呟く護衛官に、未沙は思わず微笑んでしまう。しかしそんな柔らかな空気もすぐに引き裂かれた。ここは戦場なのだ。
通路の角を曲がる時に、テロリストの一人と鉢合わせをする。

驚いたテロリストは有無を言わさず引き金を引いた。護衛官は自らの任務を全うする。その大柄な身体でもって、未沙の盾になった。

時刻は間もなく22時になる。




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No title

そっかー・・やっぱりあの護衛管のおじ様が・・

未沙、やさしいね

Re: No title

「ロマネスク」で、未沙をマクロスに送るジープがホロなしで「朝、髪の毛セットしたんとちゃうんかい」などと心の中でツッコミを入れておりました(^-^)/

いやーねー、女心が分かってないわ、ぷんぷん


> そっかー・・やっぱりあの護衛管のおじ様が・・
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> 未沙、やさしいね
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iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

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