ミンメイは、人の流れに飲まれてよろめいた。

ミンメイは、人の流れに飲まれてよろめいた。パニックを起こした人々は出口がわからず無闇矢鱈にTV局の地下階を走り回っている。突き倒し、押しのけて、床に倒れた人を踏み潰す。実際、テロリストの銃弾以外にも多くの犠牲が発生していた。人々は冷静さを失ったアフリカ水牛の群れの様だった。

「みんな、こっちよ!」

勝手知ったる仕事場だ。ミンメイは地上に上がる階段へみんなを誘導しようとした。
あらん限りの声を振り絞るが、無数の悲鳴や怒号に掻き消されてしまう。派手な蛍光イエローの衣装も、人々の渦の中に埋もれて目に止まらない。

私も、役に立ちたい

なんら使命感などがある訳では無かったが、唐突にその時ミンメイは思った。
3年前、マクロスで戦ったあの日あの時。
正直に言えば怖さもあった。安全な場所で歌っていただけだけれど、戦場というものを初めて目の当たりにした。

でも、自分の歌が戦況を変えていることを、時間の経過と共に感じて気持ちが湧き立った。心の勇気が彼女を奮い立たせた。

あの時の感動が忘れられなくて、私は歌を歌っている

人生の、最初で最後の大舞台だったんだろう。
不謹慎かも知れないが、ミンメイはそう思う。私にとって、あそこは宇宙のコンサートホールだった。聴衆は残された全人類と幾千万の宇宙人。私の歌が届く限りあらゆる人々を感動させられた。心を揺り動かせた。

私は好きな歌を歌い、聞いてくれた人は何かを感じ、やがて戦争は終わった。
私は人の役に立てたんだ。私の歌が、人々を無残な争いから救う手助けをした。

身を撃ち震わせるその実感が、麻薬のように今でも忘れられない。その渇いた心を満たす為に、ミンメイは今も歌い続ける。
大勢の観客の前で、TVカメラに向けて、直接ライブ会場で。熱のこもった歓声にその身を震わせながら、ミンメイは一時的に渇きを癒す。
しかしすぐにまた喉は渇く。そして新たな癒しを求めて歌い続けるのだ。


私は、あの日のスポットライトが忘れられない…


マクロスを、人類を救ったあの日。
ある意味、ミンメイは歌手としての頂点を極めてしまった。
同じ感動は、もうどうやっても得られないのかも知れない。


逃げ惑う人々の耳をそれが捉えたのは、そんな時だった。
透き通る、しかし少し鼻にかかった甘い声。低いトーンなのに所々高い音域が顔を出す。
もうずっと聞きなれた、あの彼女の歌声。


Amazing grace
how sweet the sound
That saved a wretch
like me


ミンメイは歌っていた。
銃声と悲鳴が空気を満たすジュノーTV本社ビルの地下で、伴奏もなく、コーラスもなく、リン・ミンメイは歌っていた。

彼女は歌手だった。




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歌った! 伊東君子 follow me
じゃなくて良かったw
fly me to the moon
だったら・・・ 振り出しへ 戻る?

Re: タイトルなし

シナトラですかw
渋い所から攻めますねww


> 歌った! 伊東君子 follow me
> じゃなくて良かったw
> fly me to the moon
> だったら・・・ 振り出しへ 戻る?
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