視界にあの男の顔を捉えた瞬間

視界にあの男の顔を捉えた瞬間、ボーリゾンは「間に合わない」と直感して覚悟を決めた。


父親に連れられて、小さな頃から黒い森へ狩猟に出掛けていたボーリゾンは、自然とナイフを扱う事に慣れていった。
ナイフは狩りには欠かせない万能道具だ。仕留めたばかりの獲物の心臓を一突きにしてトドメを差す。
首筋や足の付け根など太い血管のある箇所を切って血抜きをし、まだ新鮮な内に皮を剥ぐ。
肉を切り分け、内臓を取り出す。10歳の頃から全てナイフ一本でやってのけた。生の肉を切るのは得意な作業だった。

ロシア秘密警察時代、ちょっといいな、と思っていた仲の良い先輩警官がナイフの愛好家だった。先輩の場合、ナイフを使うというよりコレクターとしての趣味だったが、ボーリゾンは先輩との寝物語にナイフの魅力を囁かれ、次第にその世界により深く取り付かれて行く。

政府の権力下で社会主義的な思想取り締まりを行う秘密警察の場合、日々の任務でナイフを使用する機会など滅多にない。精々容疑者を尋問する時にこけおどしに使う位だ。
その一方でボーリゾンは、警察署の地下室で「誰の口でも割らせる」尋問係として次第にその才能を開花させて行った。容疑者本人の意思や事実は関係なく、上が欲しい自供をその注文通りに引き出すプロとして、その名が知られる様になって行く。
この頃に催眠や拷問の仕方を覚えた。そしてそこで彼のナイフは大活躍していたのだ。

その鋭利な切っ先と、厚くて硬い刃身の美しさはまるで彫刻品の様だった。見つめれば見つめるほど刃物の迫力に飲まれ、ボーリゾンは新たな男性器を手に入れた気がしてナイフをいじるたびに興奮した。

やがて秘密警察の任務も過激性を帯びていく。新米の頃は任されなかった特殊な仕事にもよく帯同する様になった。初めて人を殺したのもこの頃だ。密入国した無抵抗なアジア人家族を冬の河に縛ったまま突き落とした。
落とされた人々は凍えて筋肉が動かず、あっけなく沈んでいった。青い顔をして震えている若手同僚を横目に、ああ、人の命なんて簡単なんだなとボーリゾンは思った。

旧政府系をバックボーンに持つマフィアに好きだった先輩警官が殺されて、ボーリゾンは三日三晩相手を探し求めて犯人を八つ裂きにした。この頃には既に常識的な倫理観は彼の中から失われていた。血を流す事への渇望だけが、いつの間にかその身の全てを支配していた。彼は飢えた狼だった。

競う様に外道な行為に身を投じる若き警官達。社会システムからはじかれた内陸からの移民やジプシー民を捕らえては、男女問わず集団で犯した。一緒にいた子供達も簡単に殺した。
権力という無敵の剣を手にした人間は際限なく暴君になれる。ロシア秘密警察はその事を身を以て証明する団体だった。誰に頼まれた訳でもなく、熱心に「人がどれ程残酷になれるか」の実証を毎日毎夜一心不乱に行っていた。誰も彼らを止める者はいなかった。

自分達は地上の神だ。そう嘯いては、若きボーリゾンも地下の尋問室で罪のない外国人などをいたぶって遊んだ。ナイフは最高の遊び道具だった。

ある日同僚に「ナイフなんて役立たずさ」とからかわれた。日頃「ナイフは銃より速い」と自負していたボーリゾンは酔った勢いでその同僚と賭けをする。拳銃とナイフ、抜いて先に殺した方の勝ちだ。
結果はボーリゾンの圧勝だった。抜く、構える、撃つの3アクションである拳銃に対し、ナイフは1アクションで全てを終える。目の前で戦えば拳銃など絶対に間に合わない。その事を知っていてボーリゾンは手加減せずに相手の喉を切り裂いた。
死んだ同僚を見下ろして「100ルーブルだ、ちゃんと払えよ」と笑っていたとは、後で仲間に聞いた話だ。ドラックとアルコールに泥酔していた本人はそれすら覚えていなかった。

この事件が問題視され「同僚殺し」のボーリゾンはロシア秘密警察を追われる事になる。後ろ盾を無くし、数々の悪事への報復を恐れたボーリゾンは密かにモスクワを去った。それが統合軍に志願した理由だった。


あの冬の教会でも、チェーホフに言われた。
「君はナイフの方が速いって言うけれど」
当然だ。よーいドンで戦えばナイフが勝つに決まっている。そんなもの、ナイフ使いを目の前で相手にする方が悪い。


だから、死を覚悟したこの時も、ボーリゾンは躊躇わずにナイフを抜いた。チェーホフの構えたアサルトライフルが火を噴くその瞬間にも、ボーリゾンのナイフは白く柔らかな旧友の喉元を切り裂いていた。


結果は相打ちだった。
でもボーリゾンはしてやったりと、その表情は満足気だった。




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ボリさんが

ボリさんが先輩を好きになった理由って、なんなんだろ・・?
ボリさんの生きた世界と先輩のエースパイロットとしての世界って、似てるようで、なんか違うね。
軍人の先輩と、闇の仕置き人・・
BLネタとしても美味しいかも・・

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スペッズナ・ズナイフ
プレッシング・ナイフ
建屋の中じゃ、銃やトラップより恐ろしかった・・・

一度 キル・フィールドで生き甲斐を見いだすと 抜けれないから
ボーリは、やっとKGB時代からの戦いに
終焉できたんかな?

Re: ボリさんが

それは是非、オネエ相談室で聞いてみてください!
あの世からのラジオ通信で答えてくださいますよ(^-^)/
(まあ答えを考えるのは描いてくれる人ですけど…)

意外にフォッカーが若くて年下だったらどうしよう…


> ボリさんが先輩を好きになった理由って、なんなんだろ・・?
> ボリさんの生きた世界と先輩のエースパイロットとしての世界って、似てるようで、なんか違うね。
> 軍人の先輩と、闇の仕置き人・・
> BLネタとしても美味しいかも・・

Re: 2人とも。( ✪ฺ╻✪ฺ)

いや、分かりませんよ!
「ゼントラーディの技術が…」とか言い出して機械化したヤツが復活する可能性も…w

ボリはどうなんでしょうね。フォッカー追いかけてる頃が一番だったんですかね〜。

是非オネエ相談室(あの世ver.)にリクエストしてくださいwww

Re: タイトルなし

ようやく肩の荷が降りたんですかね〜。

脳が刺激に慣れちゃうと人生変わっちゃうらしいですからね。脳に騙されてコントロールされたくありませんね…


> スペッズナ・ズナイフ
> プレッシング・ナイフ
> 建屋の中じゃ、銃やトラップより恐ろしかった・・・
>
> 一度 キル・フィールドで生き甲斐を見いだすと 抜けれないから
> ボーリは、やっとKGB時代からの戦いに
> 終焉できたんかな?
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