「しかし参っちまいますね」

「しかし参っちまいますね」

部下の刑事の発言に、スタイナー部長刑事は道端にベッと唾を吐いた。

「仕方ねぇだろ、兵隊さんが出張っちまったら俺らに仕事は回ってこねぇよ」

「それで、散々現場を荒らした後でこっちに回してくるんすね。せめて情報共有させてくれりゃいいのにな〜」

「向こうもお役者仕事さ。クレームは警察庁経由で軍務省へどうぞ、てな」

ジュノーTV本社ビル前。ゾクゾクと担ぎ出される負傷者や死体袋を見ながら、やる事もなくボケッと立ち尽くす17分署の面々。
主導権が新統合軍にある以上、今の段階で警察が口出しすることは出来ない。このテロリスト事件の捜査も、軍の憲兵隊が中心になって行う事になるのだろう。

「しかし凄え事件になりましたね。スーデルちゃん、死んじゃったかなぁ」

「生きてるだろ?ゼントラーディ人はゴキブリ並にしぶといんじゃなかったか」

「デカ長、本庁の人に聞かれたら…」

「差別をなくそう、だろ?わーってるよ」

ケッと吐き捨てて、スタイナーはタバコを手に取る。そこでマッチを切らしている事に気が付いた。舌打ちして火のないタバコを咥えていると、何やらガヤガヤとうるさい人混みを発見する。

「なんだありゃ」
「ああ、ブエノ報道官です。記者会見してるんじゃないすか?タフですね、人質だったのに」
「ふん、仕事熱心なこった」

コンラッド・ブエノは、見事死地からの脱出に成功していた。銃撃戦が始まってすぐに円卓から這って離れ、物陰に隠れて様子を見ていた。パニックになった人々が出口に殺到するのをスルーして、一番人の集まらない離れた出口からソロソロとスタジオを出て行く。
観客を囮に使ったのだ。

「政府は決してテロリストの脅迫などに屈しません」

ヘアスタイルを整え、顔のススを綺麗に拭き、衣服を正してブエノは爽やかな笑顔でカメラに向かって語りかけた。
いつの間にかドーランまで塗り直している。

「皆さんもご安心ください、新統合政府は戦う政府です。世界平和のため、安全で快適な市民生活のため、これからも反政府テロリズムと戦い続けます。我々には正義と神がついています。決してくだらないデマや中傷に騙されないでください」

詰め寄せるマスコミを相手に、疲れた様子もなく白い歯を見せる報道官を遠目に見て、スタイナーは肩をすくめた。
人間、ああはなりたくないもんだ。笑いながら嘘をつく様な人間には。


「早瀬艦長の襲撃事件の捜査、どうなっちゃうんですかね」

「さあな、もっとデカい山で忘れられちまうかもな」

スタイナーはジュノーTV本社ビルを見上げた。何か起こればいい退屈しのぎになると思っていたが、これでは刺激が強過ぎる。こんな時だけ神様はサービス過剰だ。

「…神はなく、正義もなく、か」

「誰の言葉です?」

「忘れたよ」

スタイナーは咥えていたタバコを投げ捨てるとパトカーに乗った。
激動の8月5日は、もうじき終わろうとしていた。




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