事件から一週間後

事件から一週間後、ヒカルはオーテックのチャップリン会長に呼び出された。

広報部の新しい担当者と一緒にシティの北西にあるオーテック本社ビルへ出向く。新しい担当はヒカルと年の近い男だった。チーリンの元部下で、ヒカルは覚えていなかったがジュノーTVで一度会っている。
こいつもオーテックの手先なのだろうか?簡単に挨拶だけして、ヒカルは特に口もきかなかった。

毛足の異様に長い絨毯の廊下を歩き、会長室に足を踏み入れる。そこには、会長の他にもう1人驚きの人物がヒカルを待っていた。

「早瀬大佐…」

「『元』大佐だ、一条大尉」

おっと今は准佐だったな、と言い直したのは、昨年のヴァーミリオン作戦以後行方不明になっていた未沙の従兄、早瀬アキラだった。

「…生きてたんですね」

「お陰様でね、あの戦闘以来散々さ」

早瀬アキラは肩をすくめて見せた。ヒカルは笑顔もなく言葉を継ぐ。

「なんでこんな所に」

「君に会いに来た。伝えておかなくてはならない事があってね」

驚いているヒカルに席を勧める。会長は黙って、シティの向こうの荒野まで一望出来る壁一面の窓ガラスの前に立っていた。
ヒカルは異様に柔らかくてむしろ座りづらいソファに腰を落とすと、じっと早瀬アキラの顔を睨む。

「…今までどこに居たんです?」

「秘密だ。シンパなら世界中にいる、至る所にね」

ヒカルはグッと左の拳を握り締めた。声を絞り出してその名を口にする。

「…チーリンは、ずっとあんたを待ってたんだぞ」

ヒカルの言葉にアキラは一瞬動きを止めたが、すぐに無表情になって応えた。

「はて、誰だったかな。記憶にないが」

ヒカルは立ち上がり、左手でアキラの胸ぐらを掴み上げた。隣りに座っていた広報担当者がアワアワと手を震わせる。アキラは無抵抗に、冷ややかな目でヒカルを見ていた。

「リン・チーリンだ!北京防衛大の、あんたと将来を誓い合った、リン・チーリンだ!」

アキラはヒカルの左手を両手で掴み、強引に襟から剥がした。軍服の襟元を整え、目だけでヒカルを見る。

「知らんな、女など全部捨てた。俺は死人なんだよ」

「貴様!」

ヒカルは激昂し、ギプスごと右手で殴りかかった。激しい音が室内の人の耳を打ち、アキラは背もたれの高いソファの裏までもんどり打って転げ落ちる。

「チーリンは、チーリンは本当に死んだんだぞ!ずっと、ずっとあんたを待ってたのに、それなのに…!」

怒りに震えるヒカルを後ろから若い担当者が抑えようとした。が、所詮パワーが違い過ぎる。猛獣の様に再び掴みかかるヒカルを、しかし今度はアキラが黙っていなかった。

「やるか怪我人、手加減しないぞ」

アキラがヒカルの襟を掴み返す。2人は額をゴツゴツぶつけ合って睨み合った。

「もうやめてください!こんなのリン大尉が望んでる訳ない!」

担当者が叫ぶ。ヒカルは後ろからしがみ付く青年を怒鳴りつけた。

「関係ない奴は黙ってろ!」
「関係なくなんかない!僕だって惚れてたんだ!」

意外なところから飛んで来た本気の訴えに、一瞬の間をおいて少し変な空気が流れた。気勢を削がれたヒカルとアキラは何とはなしにお互いの襟を離す。

「死んだ人間が、悲しむ様な真似はやめましょう。誰も喜ばないですよ」

アキラはついと顔を逸らすと、横長のソファに乱暴に腰を落とした。そっぽを向き、高く脚を組んで痛そうに顎をさすっている。

「…一条准佐、座りましょう。話をしに来たんですから」

ヒカルはジロリとアキラを睨みつけてから、静かにソファに腰を戻した。骨折している殴った右手がズキズキと酷く痛んだ。
ここでようやくチャップリン会長が客人達を振り返る。

「もう、いいかな」

どちらも返事をしない。会長はゆっくりソファまで歩いてくると、早瀬アキラの隣りに座る。

「私情はとりあえず、その辺で」「ここからが、大事な話だ」

極度の肥満による狭窄症で、途切れ途切れに話す世界最大の軍需産業の最高権力者。
その太くて短いモニモニした指に挟んだ葉巻に、ゆっくりと卓上ライターで火を付ける。紫色の煙が宙に舞うと、何やら怪しげな香りが広い室内に漂った。

「一条准佐、メガロード計画は失敗する」

「…何だって?」

突然の言葉に、ヒカルは頬が垂れ下がってブルドッグそっくりの会長の顔を見つめた。会長は葉巻を咥えて億劫そうに頷く。

「今日は、君にそれを話したい」「そして、計画失敗を阻止して欲しいのだ」「君の力でね」「リン大尉も、それを望んでいた」

ヒカルはブルドッグ会長の隣りに視線を流した。早瀬アキラは、真剣な表情でヒカルを見ている。

「一条准佐、君にしか頼めない。間違いなく未沙の味方である、君にしか」


広角パノラマな会長室の窓ガラスの向こうには、北国の変わりやすい夏の天気に照らし出された無限の荒野が広がっていた。
遠くの空は、段々と暗く陰り始めている。時たま光る細い線が、地上と黒雲とを頼りなく結んでいた。



間も無く嵐が訪れる。





「いのちの選択を」 おわり


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非公開コメント

ヒカル…

そっか、アキラ従兄さん出てきたからカタカナに戻ったのね。

輝ちゃんもあっちの女こっちの女とフラフラして、喧嘩して大怪我ばっかりして、どうなることかと思ったけれどヒーローっぽくなったなぁ!うん、間違いなくヒーローだなっ、格好いいぞー( ̄ー ̄ゞ-☆

びえりさん、今回も読み応えのある大作をありがとうございました!!

本当にいつも続きが楽しみなのだ~❤


ヒカル

懐かしのヒカル表記だと思ったら、あきらさんが登場ですね

これからも楽しみにしてます!

アキラ兄さん

アキラ兄さん登場ですね。女はみんな捨てた…ってスマートだわ。彼の活躍が楽しみです。*\(^o^)/*

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: ヒカル…

このシリーズ、輝ちゃん怪我してばっかですね…
( ̄∀ ̄;)

でもアクションがあればみんな怪我くらいしてると思うんですが、何故かドラマや漫画だとすぐ治っちゃうんですよねw銃で撃たれるくらいしないと変わらないっていう…

今後も輝ちゃんの怪我にご期待ください(^-^)/
あれ?違う?

> そっか、アキラ従兄さん出てきたからカタカナに戻ったのね。
>
> 輝ちゃんもあっちの女こっちの女とフラフラして、喧嘩して大怪我ばっかりして、どうなることかと思ったけれどヒーローっぽくなったなぁ!うん、間違いなくヒーローだなっ、格好いいぞー( ̄ー ̄ゞ-☆
>
> びえりさん、今回も読み応えのある大作をありがとうございました!!
>
> 本当にいつも続きが楽しみなのだ~❤

Re: ヒカル

最初は「実は輝ちゃんじゃなくてオリジナルなヒカルというキャラです」という逃げ道を考えてたんですがw
もう漢字の輝ちゃんの方が慣れちゃいました。


> 懐かしのヒカル表記だと思ったら、あきらさんが登場ですね
>
> これからも楽しみにしてます!

Re: アキラ兄さん

いや〜、出てしまいましたね。
従兄さん、前のシリーズで敵役だったのにオリキャラ人気投票一位だったんですよね。ビックリですw

まあ未沙の従兄弟ならって思えばそうなのかなw


> アキラ兄さん登場ですね。女はみんな捨てた…ってスマートだわ。彼の活躍が楽しみです。*\(^o^)/*

Re: (^--^#)ムムム。。

う〜ん、実際チーが生きてたらどうだったんですかね。
アキラ従兄さんがどんな態度だったか、そしてチーは輝ちゃんの前でアキラ従兄さんに向かって何を言うのか…

電話の結末はまた少し先になります。
少々お待ちくださいませ(^-^)/

拍手コメントありがとうございます!

ありゃ、無理ですかw
あれはあれで犬だと思えば可愛い…くもないかw

いや、絶対アフリカより暑いですよね。
マジ参っちゃいます( ̄∀ ̄;)
どうぞ熱中症にご注意くださいませ。因みにスポーツドリンクは糖分多過ぎだそうですww
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