I heard the sound of falling in love with her. -1-

「オープニングイベント?」

マックスにプライベートで呼び出された輝は、手渡された二枚のペーパーチケットを眺めながらギュッと両の眉を寄せて見せた。

「ええ。シュヴァンニュの新しいフィットネスジムなんですけど、凄く綺麗で洒落てるらしいです。今月中はプレイベント期間なので、良かったら行ってみて下さい」

マックスが伸ばした手の先には、A4規格のフライヤーが挟まれていた。輝は反対の手で受け取って、印刷面をマジマジと眺めやる。

『New Open!! COLD GYM Svanne Ave.』

真っ赤なフライヤーの中には黄色い極彩色のフォントが踊り、筋肉質で引き締まったナイスボディなフィットネスガールが満面の笑みで親指を突き立てている。結構可愛いな、などと思いながら輝はテーブルの上にフライヤーとチケットを放り投げた。

「で、何でマックスがそんなのに関わってんだ?」
「関わっているという訳じゃないんですが、まあ色々ありまして」

マックスはコーヒーの湯気を顎に当てながらのんびりと返事をした。
マクロスシティ、ラカンダストリートはマックスの新居。最近、マックスは軍の官舎を出て新しい借家を借りたのだ。小綺麗で清潔な広めの一軒家で、妻でありウィングマンでもあるゼントラーディ人のミリアと二人で暮らしている。

輝は今日、そのマックスの新しい愛の巣へと呼び出されていた。たまの非番に、引越し見舞いを兼ねて訪ねて来たのだが、呼び出された用事が「新しいフィットネスジムの招待券」だったとは予想外だ。

「ほら、僕ら有名人でしょう?何かって言うとパーティーやら式典やらの招待状が届くんですよ。みんな、マスコミに取り上げて欲しくて少しでも話題性のある物に飛び付きますからね」
「軍の広報を通せって突っ撥ねればいいじゃないか」
「これはこれで、得する事もあるんですよ。まあそれは置いときまして」

マックスが白磁のコーヒーカップをゆっくりとソーサーに戻すと、薄手の陶器が触れ合うカチャリとした音が心地良く輝の耳をくすぐった。

アラスカ、秋の昼下がり。
開け放たれた窓からは、柔らかな涼風が吹き込んで二人の男の頬を撫でて行く。庭に視線を向ければ、紅葉に彩られた樹木の鮮やかさが観る者の目へと沁み入った。
その滲むような色彩世界の中で、ビビッドレッドのカーディガンに身を包んだミリアが、サクサクと早枯れの落ち葉の上を歩いている。彼女のライムライトのロングヘアが風になびき、赤と黄色の風景の中に絶妙に溶け込んで、何とも言えない対比を醸し出していた。

「この招待券も、そんな脈絡のないアプローチの一つとして送られて来たんです。ミリアと一緒に行くつもりだったんですが、実は彼女、妊娠してたのが分かりまして」

「…え⁈」

さらりと言われたので、輝は危うく聞き逃す所だった。マジマジとかつての部下の顔を見やる。

「え?ミリア、え??」
「妊娠しました。いま三ヶ月だそうです」
「…あ〜、そう」
「ビックリしました?」
「うん、した。…いや、そりゃするだろ!」

マックスは、薄暗いティアドロップ型サングラスの下で嬉しそうに笑う。と言うか、今日の本当の目的はそれか。

「凄いな。それって、それって凄い事じゃあないか。地球人とゼントラーディ人、いやあ、凄いや。そんなこと想像もしてなかったよ」

「まあ、やる事はやってますから」

ニヤリと返すマックスが、妙に自分より大人びて見える。
視線を庭先へ移せば、ミリアが足元の落ち葉を踏む感触を無邪気に楽しんでいた。とても静かで、絵になる光景だった。

そうだ、こいつらやる事はやってんだよな

夫婦なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、何だか生々しい想像に輝は鼻をポリポリ掻きながらついと視線を逸らす。何だか、急に自分だけ取り残された様な気分になった。
俺はマックスより年上だし、ほんのちょっと前まで軍でも上官だった。でも、今では色んな意味でマックスの方が先輩だ。

「…ていうかお前、父親になるのか」
「そうなりますね。実感ないです」
「だろうな」
「ですよねぇ」

マックスはさして気にも止めず、テーブルの上のフライヤーを手に取った。

「そんな訳で、ミリアを連れて行く訳には行きませんし、良かったら先輩に行ってもらえればと」
「いいよ、そんなの興味ないし」
「あ、いや、先輩だけの話じゃないんです。早瀬さんとどうぞ」
「…なんでそこで少佐が出てくるんだ」
「またまた」

マックスは「分かってますよ」と言わんばかりの表情だ。輝は何か誤解があるんじゃないかと唇を尖らせた。

「つまんない噂でも聞いたか?」
「はい、聞きました。何でも早瀬少佐が先輩の家に通い妻状態だって」
「通い…何だって⁈」
「先輩の家で男物のパンツを干してる姿を見たって、ウチの隊の奴が涙ながらに語ってましたよ。さすが先輩、あの“氷の姫”にそこまでさせてるとは」
「お、おい、ちょっと」

輝は慌ててソファから体を起こした。
身に覚えがない…訳ではないが、大変な誤解を生んだものだ。
彼女とはそんな仲ではない。たまたま、男やもめな輝の生活を不憫に思って非番に家事を手伝ってくれているだけである。それだって別に俺が頼んだ訳じゃない。どちらかと言うと「おしかけ母さん」みたいなもんだ。

「そ、そんな話になってるのか」
「そうです。あれ、違いました?」
「違う違う!俺は何もしてない!」
「凄いですね、何もしてないのにあの“氷の姫”をそこまで躾けたんですか」
「いや、躾けてない!あれは未沙が勝手に…」
「成る程、押しかけ女房って訳ですね」
「いやいやいや、何か大きな誤解があるぞおい。俺が早瀬少佐に手を出した事になってるのか」
「出してないんですか?」

マックスが、サングラスの下から薄目で睨んで来る。明らかに信用していない顔だ。輝は酷い癖っ毛の頭をブンブンと振ってその視線を払い落とした。

「バカ言うな、あの鬼みたいな女に、誰が」
「そうですか?てっきり先輩と早瀬さん、そういう関係だと思ってました」
「そんな訳ないだろ!投げ飛ばされるぞお前」
「そうかな〜。僕の見る限り、早瀬さんの方はそうは見えないですけど」
「お前、怖いもの知らずだな…」
「早瀬さん綺麗だし人気あるし、先輩と凄くお似合いですよ」
「人気ある?綺麗?誰が??」
「早瀬少佐ですよ。“氷の姫”のファンクラブ、ウチの隊にも居ますよ」
「…さっきから何なんだ、その氷のなんちゃらとやらは」
「“Ice Princess”、早瀬さんのアダ名です。氷の様に冷たくて、透明感があって、身持ちが堅いって意味らしいですよ」
「ふむ、言い得て妙…ってそうじゃなくて」

輝は膝に手を付いて立ち上がった。鼻で息を吐く。

「バカバカしい。その、泣いてた部下に言っとけ。俺と少佐とは何の関係も無いってな」
「言わないで置きます。後で『やっぱり嘘でした』ってなりそうな気がしますから」
「…お前な…」
「何にしても、早瀬さんにお世話になってるのは変わりないでしょう?日頃のお礼も含めてお誘いしたらどうです?」

帰ろうとする輝に、マックスは改めてチケットをグッと差し出した。

「実は仲の良いオペの子が教えてくれたんですけど。早瀬さん、指令センター長なんて新しい任務に就いてからストレスが溜まってるんですって。結構参ってるみたいですよ、気が付いてました?
ここ、女子に話題の最新スポットですから、誘ったら早瀬さんも喜んでくれるんじゃないかなぁ」

マックスの言葉に、何とはなしに輝は足を止めて聞き入った。

「世話になるだけなって、なりっ放しは気持ち悪いでしょう?ねぎらいもたまには必要ですよ」

振り返った輝は、じっとマックスの差し出すチケットを見つめる。
確かに、未沙には何から何まで世話になりっ放しだ。掃除洗濯皿洗い、ほとんど一人暮らしの大学生のアパートへやって来る母親みたいに甲斐甲斐しく面倒を見てくれている。
父親一人に育てられ、母親にそうした世話を焼いて貰った経験のない輝としてはそれはとても心地良いもので、新鮮な気持ちで彼女の好意を受け入れていた。
それが“都合の良い女”としての扱いだなんて、そもそも女性経験の無い輝にとっては思いもしない事だったのである。

そう、何しろ彼はまだ童貞なのだ。

マックスの顔を見る。サングラスから透けて見える目はにこやかに微笑んでいた。
輝は諦めた様にため息を吐くと、マックスの手からチケットを奪い取ってポケットへとねじ込んだ。

「ちゃんと周りの誤解は解いておけよ」
「はいはい、了解です」

何とも締まらない捨て台詞と共に、新統合軍のエースパイロット同士の会合は終了した。




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びえりさんの輝にまた会えた

前回の作品アップから時を明けずに新作が読めるなんてびえりさん輝にまた会えたなんて喜びを噛みしめておりますchachaです嬉しくて句読点が抜けております。

意味深なタイトルと相まってドキドキしております。
後編が楽しみです。

ミリアが歩く情景に、母になる女性のしっとりさを感じました。アラスカの風が心地よいですね~。

No title

ひやーーーーーー!新作!わたしも輝にまた会えて嬉しいな
楽しみが増えた!

「出してないんですか⁈」先輩になったマックスって感じで、なんか嬉しくなるー(^_^)

そうか、都合のいい女にする程、輝は大人じゃないってことやね、納得…

falling in love か〜。

びえりさんの童貞輝、どんな男の子でしょう。押しかけ姫もどうなんでしょう。どう味付けしてくれるのでしょう。
もーう、めちゃめちゃ楽しみです。(//∇//)

しかし、マックスからの話って、何か見え隠れしてるような・・気のせいかなぁ。
でも、ああぁ〜〜楽しみだー‼︎(@ ̄ρ ̄@)

No title

結果にコミットや!
招待券欲しい!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

おぉー、空白の二年間ネタ。

このステージは
書く設定が、てんこ盛りじゃないですか!
アレやコレやとたまりませんよ。
嗚呼、後編が楽しみです。

Re: びえりさんの輝にまた会えた

ありがとうございます〜(^-^)/

昔は1日に3回、朝昼夜とupしていたんですw
その頃も、皆さんのこうしたコメントや拍手がモチベーションになってました。ありがとうございます。

ミリア、色彩的にも綺麗ですよね〜。
秋は少し早いかなと思ったのですが、秋の色彩が好きなのです(^-^)/


> 前回の作品アップから時を明けずに新作が読めるなんてびえりさん輝にまた会えたなんて喜びを噛みしめておりますchachaです嬉しくて句読点が抜けております。
>
> 意味深なタイトルと相まってドキドキしております。
> 後編が楽しみです。
>
> ミリアが歩く情景に、母になる女性のしっとりさを感じました。アラスカの風が心地よいですね~。

Re: No title

輝ちゃん、マックスにあらゆる面で抜かれてますよねww

輝ちゃんも男ですから、特有の勝手な部分もあると思います。ただ、どこまで意図的なのかでその人のキャラクターが分かりますよね。
輝ちゃんはナチュラルなキャラクターだと思うので、天然でズルいイメージです(´・ω・`)


> ひやーーーーーー!新作!わたしも輝にまた会えて嬉しいな
> 楽しみが増えた!
>
> 「出してないんですか⁈」先輩になったマックスって感じで、なんか嬉しくなるー(^_^)
>
> そうか、都合のいい女にする程、輝は大人じゃないってことやね、納得…

Re: falling in love か〜。

いや〜、輝ちゃんですからね〜w

TVで散々悪どい批判を受けてますよねw
でも、人間てそんなもんですよね。丸裸にして何の文句も無い聖人君子なんか世の中にいないし。

「でも漫画のキャラクターでしょ?」みたいな論になると別ですが、そうしたらもはや妄想する意味合いが無くなっちゃいますものね〜(´・ω・`)


> びえりさんの童貞輝、どんな男の子でしょう。押しかけ姫もどうなんでしょう。どう味付けしてくれるのでしょう。
> もーう、めちゃめちゃ楽しみです。(//∇//)
>
> しかし、マックスからの話って、何か見え隠れしてるような・・気のせいかなぁ。
> でも、ああぁ〜〜楽しみだー‼︎(@ ̄ρ ̄@)

Re: No title

株を買うと貰えますよ( ̄▽ ̄)ノ


> 結果にコミットや!
> 招待券欲しい!

Re: タイトルなし

輝ちゃん(というか男)の本音だと思いますww

フィジカ、フィジカウ〜
ああ、懐かしいてすね!
ホットウォーマーとかみんなしてましたよねww

オリビアは聖子ちゃんが目指した理想像ですよね〜

Re: おぉー、空白の二年間ネタ。

何でか、ここの期間は初めて書くんですよね〜

公式設定にもあるので、分かりやすいと言えば分かりやすいんですが。
ぱよぷ〜さんとかmichyさんの書いてらっしゃる内容がとても素敵で憧れます…



> このステージは
> 書く設定が、てんこ盛りじゃないですか!
> アレやコレやとたまりませんよ。
> 嗚呼、後編が楽しみです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 嬉し泣き~(T^T)

いや〜お休みええですね( ̄▽ ̄)
喜んで頂けて嬉しいです、ありがとうございます。

別URLの方のお話は先日ようやく終わりまして、意外に長いお話となりました。なので、あっちはまたアダルティネタとボツネタのオマケ部屋に戻そうと思いますw
普通のお話はこっちで書こうかな〜と思うとりますのでよろしくどうぞ(^-^)/

嬉しい!新作だぁ!

待ってました!
おまけに空白のこの時期のお話とは、嬉しい限りです。
さ、急いで続き読みに行きます。でわっ!

Re: 嬉しい!新作だぁ!

しぇんしぇい!
びえりの事ですから、適当に始まって適当に終わりまする( ´∀`)

なんか先生の真似して新シリーズで未来の話を書きたいんですが、イマイチ乗り切れません…
ここはやはりミンメイが主役になるしかないのでしょうか?!( ー`дー´)キリッ


> 待ってました!
> おまけに空白のこの時期のお話とは、嬉しい限りです。
> さ、急いで続き読みに行きます。でわっ!

待ってました~

びえりさん、待ってましたよ~!
またびえりさんの輝くんに会えて良かったっす!
それにしても甘酸っぱい匂いがぷんぷんしてますね!
続きがとても楽しみです!

Re: 待ってました~

この頃の輝ちゃんって、資料見ると18歳なんですよね…

18歳…ただの小僧やん!!Σ(´∀`;)

現代日本なら高校三年生ですからwそら青春真っ只中ですよねww



> びえりさん、待ってましたよ~!
> またびえりさんの輝くんに会えて良かったっす!
> それにしても甘酸っぱい匂いがぷんぷんしてますね!
> 続きがとても楽しみです!

32年前に戻ったみたい
パンドラの箱を開けてしまった
2年間目一杯溺れて封印していた分、一気にこの世界観を取り戻すように貪る毎日

ありがとう

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます〜^ - ^

やっぱり作品にハマるのって、その世界感に浸かる事ですよね。マクロスという作品の中の息吹に触れると、懐かしく切ない気分になっちゃいますね!!


> 32年前に戻ったみたい
> パンドラの箱を開けてしまった
> 2年間目一杯溺れて封印していた分、一気にこの世界観を取り戻すように貪る毎日
>
> ありがとう
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