I heard the sound of falling in love with her. -2-

“winter storm watch(吹雪注意報)”

マクロス指令センターにおける隠語の一つである。

「今日、W.S.W 何%?」
「う〜ん、80%かな?」
「げ、高!ついてな〜い」
「ご愁傷様、私はもう上がりだから」
「ひ〜ん、お助け〜」

今日も指令センターには寒気が吹き荒れている。
宇宙機動要塞であるマクロスがアラスカの大地に墜落して以降、この宇宙からの落し物は動かぬ指令本部ビルディングとして、人類復興の中心地となっている。
当然、地球全体の治安防衛を担う軍隊(戦後は“新”統合軍と呼称)の指揮所もマクロスの中に設置された。

そして、その指令センターの初代センター長を任されたのは、マクロスの主任オペレーターを務めた歴戦の女傑、純血のエリート士官、「鬼より怖い」早瀬未沙少佐である。



「説明して頂戴」

アラスカはいま秋の筈だが、真冬の吹雪に勝るとも劣らぬ冷たい風が、指令センターの最上段セクション1に吹き荒れていた。
下段のセクション2でその声を洩れ聞いたスタッフ達は、自分達に関係ないにも関わらず思わず肩をすくめる。

「出た、少佐の『説明して頂戴』」
「今度は誰が犠牲の羊??」
「あれ、通信部のヤーニン中尉よ。さっきの通信障害の件じゃない?」
「お気の毒さま、ありゃ30分は立たされるわね」
「う〜怖。私だったら呼び出されただけで泣いちゃう」

通信部のヤーニン中尉は45歳の中年男性だ。三人の子持ちで、部局内では柔和なマイホームパパとして知られている。
外見的な特徴は髪の薄さ少なさ、そして盛り上がった肥満性のお腹という極ありふれた普通のおじさんだった。
そのヤーニン中尉が、額に脂汗をびっしりと浮かべながらヘコヘコしている相手は、年齢で言えばヤーニンの半分以下…それこそ娘でもおかしくない若さの女性である。

「アラスカ全空の航空管制を担う当指令センターにおいて、通信網が途絶えるなどとあってはならない失態です。指令センターは7分もの間、目隠しをされていたも同然だわ。事故が起きなかったのは不幸中の幸いですが、もし人命を損なうような大事件が起きていたら、これは人災と言っても過言ではないでしょう。あなたには事の重大さが理解出来ているの?そもそも…」

冷たく強烈なブリザードが、残り少ないヤーニン中尉の前髪を吹き上げる。中尉はあまりの寒気に猛烈な目眩いにすら襲われた。

寒風の発生元は早瀬未沙少佐だ。
若干20歳ながら、新統合軍のエリート幹部生として軍中枢の作戦指揮を一手に担っている。頻発する帰化ゼントラーディ人の反乱や各地での暴動事件など、警察の手には負えない大規模なトラブルの収束と監視を主な役割としている。
さらりとした栗色のロングヘアに切れ長の翠緑の瞳。長い睫毛とほっそりとした腰が印象的な女性だが、その表情はいつも険しく、額には深い皺を寄せていた。

早瀬少佐は完璧主義者だという噂だ。
突出して仕事の出来る人に見受けられる傾向だが、自分が構築した円滑に最適化された世界観を破壊される事を極端に嫌う。そして自分のシステムワークに付いて来れない低レベルな相手を忌避する。

要は足を引っ張られると怒るのだ。それも烈火のごとく怒る。
いや、この人の場合は猛吹雪のごとくと言うべきか。

「少佐、そろそろ出ませんと市長との会合に間に合いません」

もはや凍死寸前のヤーニン中尉を見かねたのか、未沙の補佐役を務めるレイヤード大尉が助け舟を出して来た。声を掛けられて、未沙は「明らかに言い足りない」という顔のままヤーニン中尉を釈放する事にした。

「いいわ、とにかく報告書を上げて頂戴」
「し、失礼いたします」

這々の体で、アットホームダディのヤーニン中尉は指令センターを後にした。未沙が腕時計を確認すると、15時の市長との会合にはまだ大分余裕がある。

「…随分慎重なタイムスケジュールね」
「すみません、1時間間違えたみたいです」
「まあいいわ」

未沙は、指令センターの最上段であるセクション1から下段フロアを見下ろす。こちらの様子を窺っていたスタッフ達が一斉に下を向いて視線を逸らした。

「まったく、どいつもこいつも…」

あまり上品とは言えない呟きと共に、未沙は熱くため息を漏らす。

未沙がここ「マクロス指令センター」の長に任命されて半年が過ぎようとしている。
マクロスが荒れ果てた地球へと帰還してから、グローバル艦長は臨時政府の頭首として軍を離れてしまっていた。クローディアはその補佐役として活躍している。
マイストロフ大佐ら幕僚達は別として、今や現場の前線指揮官としては未沙が唯一責任を負う立場にある。

自分の背負っているものは大きい

宇宙戦争をかろうじて生き残り、消えかけたロウソクの火の様な今の人類を、あらゆる危険から的確に守らなくてはならない。
その為の前線基地であるこのマクロス指令センターでは、どんな些細なミスでも許されないのだ。いつ、どんな小さな失敗が、生き残った人々の存亡を揺るがす大きな災害に直結するとも限らない。


その為なら、私は鬼でも悪魔にでもなれる


未沙の張り詰めた表情に、指令センター内のピリピリとしたムードは益々加速していくばかりだった。




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おぉ、続き物だぁ!

後編で締めかと思ったら、続くのね。
長めで宜しくですぅ。
他の方の空白の二年間ネタの未沙嬢より、
パワーを感じてます。

No title

未沙さん。以前いた上司に似ている・・・(-_-;)。
違うのは、彼からは職務に対する責任を感じなかったところ。

未沙さんがゆったりとできる場所が早くできますように。
頼むぞ輝くん!!!

私の注目

指令センターにブリザードが吹き荒れてますね。
中尉さん、ホワイトアウトにあわれてますな。
そんな中尉さんにアシストしたヴァネッサ。ナイスです。

私は、未沙を女にしたのはクローディア。部下や輝を繋いだのはヴァネッサ。だと思ってます。
指令センター時代のヴァネッサはいい仕事しますよね。
彼女に注目しています‼︎(O_O)

Re: おぉ、続き物だぁ!

なんか続いちゃいまして


> 後編で締めかと思ったら、続くのね。
> 長めで宜しくですぅ。
> 他の方の空白の二年間ネタの未沙嬢より、
> パワーを感じてます。

Re: No title

あ、いますよねこういう人( ̄∀ ̄;)

責任者が責任感を持ってないのって、存在意義まるでなしですな…
(´Д⊂
でも結局そういう人の方が多いんでしょうね〜


> 未沙さん。以前いた上司に似ている・・・(-_-;)。
> 違うのは、彼からは職務に対する責任を感じなかったところ。
>
> 未沙さんがゆったりとできる場所が早くできますように。
> 頼むぞ輝くん!!!

Re: 私の注目

実は私もちょいとヴァネッサをクローズアップしてた所でして。
先読みされた…( ̄∀ ̄;)

でも、ちゃんと整理するとマクロスの主要キャラクターって、お互いにあんまり交流ないんですよね。
有名なのは未沙とミンメイがほとんど顔を合わせた事がないってヤツですが、ヴァネッサも輝ちゃんに会ったのって、入隊後に道でばったり(ミスターランジェリーの直後)位で、あとは戦後になっちゃうのかな〜なんて。


> 指令センターにブリザードが吹き荒れてますね。
> 中尉さん、ホワイトアウトにあわれてますな。
> そんな中尉さんにアシストしたヴァネッサ。ナイスです。
>
> 私は、未沙を女にしたのはクローディア。部下や輝を繋いだのはヴァネッサ。だと思ってます。
> 指令センター時代のヴァネッサはいい仕事しますよね。
> 彼女に注目しています‼︎(O_O)

No title

そうそう、若くしての大抜擢だから、未沙には余裕がないんです。
まっすぐで一生懸命で余裕無いから、嫌味じゃないんだと思うー。
ファンもいる訳です・・。

Re: No title

年不相応に「何でも出来る完璧超人」も面白いと思いますが、やっぱり人って成長してナンボですよね(^-^)/

だから未沙も右往左往しつつ成長して欲しいと思います。
michyさんの様な完璧超人には分からないかも知れませんが!


> そうそう、若くしての大抜擢だから、未沙には余裕がないんです。
> まっすぐで一生懸命で余裕無いから、嫌味じゃないんだと思うー。
> ファンもいる訳です・・。

一度でいいから...

相変わらずの猛吹雪ですね!
間違いなくダイヤモンドダストが見れそうな位の絶対零度...。
でも一度でいいから、そんな未砂っちに叱られたい自分がいます...。

Re: 一度でいいから...

キグナス氷河…

あ、何でもないです!忘れてください(;´∀`)


いやあ、相変わらず小白龍さんはドMですな( ´∀`)b



> 相変わらずの猛吹雪ですね!
> 間違いなくダイヤモンドダストが見れそうな位の絶対零度...。
> でも一度でいいから、そんな未砂っちに叱られたい自分がいます...。
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