I heard the sound of falling in love with her. -3-

「ああ、レイヤード大尉」

士官用サロンで輝がヴァネッサを見つけたのは、その日の夕方遅い時間だった。

マクロスが宇宙を飛んでいた頃から輝は未沙との親交があったが、ヴァネッサ・レイヤードとはあまり接点らしい接点は無かった。
同じブリッヂクルーで「利発で優秀なレーダー員」という話は、前々から未沙には聞いていた。しかし正直なところ輝の印象としては、いつもつるんでいる姦しい3人娘の一人に過ぎず、「気取ったメガネのフランス女」程度にしか相手を認識していなかったのである。
ただ、未沙が褒めるだけあってかなり仕事は出来る人物らしい。現在は、指令センター長である未沙の補佐役を務めているのだと言う。実質的な指揮所のNo.2だ。
階級も自分と同じ大尉に昇進していた。現場一筋の輝と違い、後方勤務のエリートは出世の速度も早いのだろうか。

「あら、一条大尉。ご無沙汰してます」

その「気取ったメガネのフランス女」は、一人で携帯液晶タブレットをいじっている所だった。ちょっとした息抜きにコーヒーを飲みに来たらしい。輝は「よう」と軽く右手を上げて挨拶し、丸テーブルの反対側のイスを引いて腰掛けた。

「一条大尉、聞いて下さいよ。このサロン、エスプレッソの淹れ方も知らないんですよ」

ヴァネッサは大振りのコーヒーカップを片手に渋い顔をして見せる。確かに、そんな大きなカップにエスプレッソを入れて寄越す店はあまりないだろう。これではショートブラックではなくロングブラックだ。
どちらかというと西海岸風の薄味なコーヒーばかり飲んでいて、濃く淹れたエスプレッソの苦味が嫌いな輝は、興味無さげに「アメリカ流だねハハハ」と軽い愛想笑いでスルーした。

「みんな元気でやってるかい?」
「ええ、キリキリ働いてますよ。いや、ピリピリかな?」
「噂は聞いたよ。なんか忙しいらしいね」
「もう朝から晩まで指揮所に詰めっぱなしです。ああ、可憐な乙女の貴重な日常がこうやって浪費されて行くんだわ。数少ない出会いのチャンスも奪われてお婆ちゃんまっしぐら。気が付けば仕事が恋人代わりですのよ」

ヴァネッサは芝居じみた口調で天を仰ぎ、オーバーアクション気味に嘆いてみせる。
こうして面と向かって話をした事が無かったので分からなかったが、一見クールで品行方正に見えるヴァネッサも、いわゆるフランス女らしいフランス女だった。大袈裟で、感情豊かで、物言いはハッキリしており、一度喋り出すと止まらない。頭の上から足のつま先まで全部が口になったかの様に、彼女の言葉の弾丸は片時も止むことはなかった。

「それでね、人員が足りないって言えば工夫が足りないって。時間が足りないって言えばスケジュール管理が杜撰だからって。そんなこと言われたってこっちはこっちでいっぱいいっぱいな訳ですよ。どうして管理職のお偉方って言うのはああ頭が固くて理解力が低いのか。大体自分達に出来ない事を私達に押し付けてるクセに何でも分かった様な事ばかり…」

「あ〜ハイハイ分かった分かった」

輝は両手を突き出してヴァネッサの言葉の洪水を堰き止めた。このままだと明日の朝まで延々と愚痴を聞かされかねない勢いだ。

「で、何の用です?私に声を掛けてくださるなんて」

まだ喋り足りなさそうなヴァネッサだったが、今度は少し興味深げに細縁メガネを直しながら輝に向き直った。成る程、察しのいい子なんだなと輝はちょっとだけ用心して話し出す。

「その、早瀬少佐の事なんだけど」
「少佐ならいま指令センターにいますよ」
「う、うん、それは知ってるんだけどさ」

輝はポリポリと癖っ毛頭を掻いた。そのハッキリしない態度に何か感じる部分があったのか、ヴァネッサは「ハハーン」と声に出さずに呟く。

「少佐が気になってます?」
「いや、別に。そんな事はないんだけど」
「隠さなくたっていいじゃありませんか。共に死線をくぐり抜けた者同士、友情以上の物が芽生えてもおかしくありませんよ」
「バカなこと言うなって」

輝は右手でヴァネッサの言葉を払うような仕草をした。ヴァネッサはまたも言い足りなさそうだったが、取り敢えず口を閉じる。

「少佐が、疲れてるって話を聞いてさ。少し心配になっただけさ」

輝はぶっきらぼうに言い放った。充分気になってるじゃんと思いつつも、ヴァネッサは少しだけトーンを落として輝に問いかける。

「そんな話題が出てるんですか?早瀬少佐」
「う、うん、確かオペレーターの子に聞いたって言ってたな」
「う〜ん、まあ、確かにちょっと最近カリカリしてますね」
「やっぱそうなのか」
「何というか、余裕がないと言うか。以前みたいな安定感が無いんですよね。一人でみんな抱え込んじゃってる感じ」
「う〜ん」

輝は思わず腕組みをする。マックスの適当な言葉に、ほんの少し引っ掛かる物を感じて念のためヴァネッサを捕まえてみれば、どうやら予感は当たっていた様だ。

「あの人、生真面目だからなぁ。任されると全部背負っちゃうんだろうなぁ」
「ですねぇ」

輝とヴァネッサはしみじみと頷き合う。

「でもそれじゃ本人も周りももたないだろうに」
「ですねぇ。誰か、少佐を気分転換にでも外へ連れ出してくれたらいいんですけど」

そこまで言って、ヴァネッサはじーっと輝の顔を正面から見つめる。変なプレッシャーを感じて、思わず輝は背筋を後ろに反らせた。

「ああホント、誰か助けてくれないかな〜。少佐に一言声を掛けられる、頼りになる人がいればな〜。そんな人が居たら、まさか見て見ぬフリなんてしないだろうしな〜」

「ハイハイ、分かった分かりました。何とかすりゃいいんだろ」

輝はヒラヒラと右手のひらを振って見せた。ヴァネッサは「よろしくお願いしま〜す」と軽い感じでウィンクして見せる。
取り澄ましたお堅い女かと思っていたが、やはりあのシャミーとつるんでいるだけの事はある。お調子者のフランス女を相手に、輝は心中密かに舌を巻いた。

「因みに、何て声を掛けるんですか?」

大きなコーヒーカップを口に運びながらヴァネッサが何気なく質問する。輝はマックスに貰ったチケットの事を思い出し、その事を素直に話した。ヴァネッサはエスプレッソの苦味とは違う意味合いの渋い顔を見せる。

「それ、まさかそのまま言わないですよね」
「何だよ、おかしいか?」
「おかしくはありませんが、もうちょっと色気のある誘い方の方がいいんじゃありません?」
「何で少佐を誘うのに、色気が必要あるんだ」
「バカだなーもう。あ、これ心の声です」
「…聞こえてたら意味ないだろ」

ヴァネッサはグッと人差し指を突きつける。輝は再び背筋を後ろに反らせた。

「どうせ少佐に“あんた最近評判悪いから少し落ち着けよ”とか言うつもりなんじゃありません?」
「正直に教えてやりゃいいだろ?」
「ホントにバカだな〜。これは本心です」
「…おたくわざとやってるだろ」
「いいですか、少佐だって女の子です。傷付く時は傷付くんですよ」
「あの氷の女がか?」
「…多分“氷の姫”の事を言いたいんでしょうけど、まあいいです。一条大尉も男だったら、その辺の女の子のデリケートな部分をよく考えてあげて下さい。あなたが、早瀬少佐を、誘いたいから誘うんです。それで万事収まります。D'accord??」

「ダ、ダコール」

何となくヴァネッサの勢いに押されて輝は頷いた。それに満足して、ヴァネッサは椅子から立ち上がる。

「じゃあ、よろしくお願いしますね。私は仕事に戻りま〜す」
「お、おう」

去って行く「気取ったメガネのフランス女」のお尻を見ながら、輝はテーブルの上に頬杖を付いていた。


ああ、おしゃべりな頭のいい女ってやりずれぇなあ




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以前みたいな安定感

明日から専門学校の試験シーズンが始まるというのに、びえりさん家を覗く行為が止まりません。連日のアップ万歳!!

ヴァネッサが良い仕事をしていますね。
彼女の言葉、未沙さんに対する「以前みたいな安定感が無い」に、すごく納得しました。そんな時期ってあるなぁと。

No title

わーヴァネッサ新鮮!
確かに彼女の立ち位置って、エリートコースですよね
気が付かなかったなーーーーー

いい仕事してますね。

ブリッジ3人娘のなかでいえば、ヴァネッサが1番タイプでしたね。(若かりし頃)
ヒカミサを1番間近で観てたキャラですから、いい仕事してくれますね。

テレパシー?

いや〜〜。まさかこんなに早く輝とヴァネッサが絡むとは…驚きです‼︎
(;゜0゜)

ヴァネッサのこと調べてたら、退役後の事が書かれてて、水商売で財を成した。とあって…(気分を害した方すみません。)
でもこのお話を読むと ほーう。と膝を叩いてしまいました。

彼女の人間観察力の才能は天性なのかもしれませんね。

Re: 以前みたいな安定感

おお、試験頑張ってください! (^-^)/

真面目な人ほど、キャパオーバーになるまで丸抱えしちゃいますよね〜。要領のいい人はどんどん他人に仕事投げちゃうんですが、責任感が強いとなかなかそれが出来ないという…

でも、全体の事を考えるとそれって効率悪いしシンドいですよね。
(´;ω;`)


> 明日から専門学校の試験シーズンが始まるというのに、びえりさん家を覗く行為が止まりません。連日のアップ万歳!!
>
> ヴァネッサが良い仕事をしていますね。
> 彼女の言葉、未沙さんに対する「以前みたいな安定感が無い」に、すごく納得しました。そんな時期ってあるなぁと。

Re: No title

一応、ブリッジの3人組って重要ポストを担ってますよね。キャラクターからは想像も出来ませんがww

マクロス世界は多国籍な筈なので、国際的なキャラクター付けがある方が面白いと言うのがびえりの考えでして、いつもそんなトコに気を付けてます。ヴァネッサもパリジャンぽく書いてみようかな〜なんて(∩´∀`∩)
TVのヴァネッサって日本人ぽいんですよね。


> わーヴァネッサ新鮮!
> 確かに彼女の立ち位置って、エリートコースですよね
> 気が付かなかったなーーーーー

Re: いい仕事してますね。

普通に絡ませると、立ち位置的にクローディアとキャラかぶりそうなんですよね。


> ブリッジ3人娘のなかでいえば、ヴァネッサが1番タイプでしたね。(若かりし頃)
> ヒカミサを1番間近で観てたキャラですから、いい仕事してくれますね。

Re: テレパシー?

ホントですよ、先読みされましたw
さすがびえりよりこのSSに詳しいkomesaさんですww

波乱万丈なヴァネッサの人生もそうですが、蒼い風の3人組の末路が哀れ過ぎますよねw


> いや〜〜。まさかこんなに早く輝とヴァネッサが絡むとは…驚きです‼︎
> (;゜0゜)
>
> ヴァネッサのこと調べてたら、退役後の事が書かれてて、水商売で財を成した。とあって…(気分を害した方すみません。)
> でもこのお話を読むと ほーう。と膝を叩いてしまいました。
>
> 彼女の人間観察力の才能は天性なのかもしれませんね。

想像

おひさしぶりです。

ヴァネッサとのやりとり、凄いですね。TVシリーズの台詞にありそう!輝の不器用っぷりも絵が思い浮かびます。

Re: 想像

ご無沙汰です、お元気ですか?(^-^)/

ヴァネッサを始め、マクロスって国際色豊かですよね。その辺の個性がもっと見えたらいいな〜と思います。
ヴァネッサも仕事は真面目、プライベートははっちゃけキャラの筈なんですが、はっちゃけ面を描かれる事がほとんど無いのでちょっと可哀想ですよね。

な〜んて深く考えて書いた訳じゃないんですが。


> おひさしぶりです。
>
> ヴァネッサとのやりとり、凄いですね。TVシリーズの台詞にありそう!輝の不器用っぷりも絵が思い浮かびます。

ノリノリ

いや、イキイキしてる。びえりさんところのヴァネッサ。

お喋り3人娘、と一括りされてますが彼女たちも超エリート軍人なんですよねー。
頭いいお喋りに敵う男なんていませんぜ!‥彼女らの口を閉じる程のいい男でもない限り(笑)

Re: ノリノリ

いい男…う~むう
輝ちゃんには無理スよねwww

ここでヴァネッサ書いてたら盛り上がっちゃって別のトコに変なお話書いちゃいました(;´∀`)
やっぱり書き込むとそのキャラクターに愛情が出るもんなんですね~シミジミ


> いや、イキイキしてる。びえりさんところのヴァネッサ。
>
> お喋り3人娘、と一括りされてますが彼女たちも超エリート軍人なんですよねー。
> 頭いいお喋りに敵う男なんていませんぜ!‥彼女らの口を閉じる程のいい男でもない限り(笑)

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Re: No title

その辺はあまり気にしないであげて下さいww

ヴァネッサにも...

いいっすね!ヴァネッサ...
今までは『ブリッジ三人娘』のone of themといったキャラだと思っておりましたが、私のヴァネッサ観がまるっきり変わりました!いい意味で!
そんな『才女』系のヴァネッサに手玉に取られたい自分がおります...。

Re: ヴァネッサにも...

初代マクロス、せっかくの国際色を活かせてないので、少し特色を出してみました!
そもそもヴァネッサって決して真面目一辺倒ってキャラじゃないんですよね。その辺も書きたかったので~。
で、書いちゃったら変な盛り上がり方をしてしまいました…(;^ω^)


> いいっすね!ヴァネッサ...
> 今までは『ブリッジ三人娘』のone of themといったキャラだと思っておりましたが、私のヴァネッサ観がまるっきり変わりました!いい意味で!
> そんな『才女』系のヴァネッサに手玉に取られたい自分がおります...。
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