I heard the sound of falling in love with her. -5-

フィットネスを流行り廃りで語るには、現代人の健康意識は普段からちょっと高過ぎるんじゃないだろうか。
ズラリと並ぶ色とりどりのサプリメント群を前に、一条輝は何とも言えない嘆息を漏らした。

タブレット、グラニュー、リキッド、ジェリー、スティック、クッキー。あらゆる形状の健康食品が所狭しと並ぶ陳列棚には、大小様々なプラスチックボトルやアルミニウムバッグ、セロファンパックなどが参列し、刺激的で勇ましい謳い文句に装飾されて自己主張を繰り広げている。

何だかもう見ているだけで健康になれそうだ。手近なボトルの一つを手に取ると、マジマジと眺めながら新統合空軍の現エースパイロットは、極彩色のパッケージにプリントされた大げさなキャッチコピーに思わず肩をすくめて見せる。
自分も体調管理の為にサプリメントは飲むけれど、さすがにここまで大袈裟だと逆に引いてしまう。例えばコレ「飲んだだけで10キロ痩せる!」とか書いてあるけれど、そんなの毒以外の何物でもない。というかこの説明、どう考えても薬事法に抵触してるんじゃないだろうか。

「一条君、何してるの?」

不意に、後ろから声を掛けられる。
聞き慣れた声なので、誰のものかはすぐに分かった。輝はその酷いくせっ毛を揺らせて振り向く。するとそこには、思いも掛けない眩いばかりの光景が広がっていたのである。

蛍光グリーンのミニタンクトップから、形の良い双丘がツンと突き出ている。ブラックでピッチリとしたタイトパンツはプリンとしたお尻の丸みが強調されていて、腰まわりにはマーブルオレンジの配色が鮮やかな色付けとなっていた。
足元のネーブルオレンジのスニーカーも洒落ていて華やかで、幾重にも重なる靴紐がピンポイントのライムカラーになっているのが彼女のセンスを感じさせる。

でも本当はそれらの事なんかどうでも良くて、18歳の少年が何より心から感じていたのは、その女性的なシルエットというか、丸出しの“女体感”に対する「突き上げる衝動」と言う至極原始的なものだったのである。

「何か買うの?プロテインチューブならあるわよ?」

これからの運動の為に、ライトブラウンのロングヘアをアップスタイルに纏めている早瀬未沙少佐は和かに微笑みながら歩いて来る。
輝は彼女の艶かしいうなじの照りにゴクリと生唾を飲み込んだ。

「あ、いや、暇だったんで」
「あらヤダごめんなさい。着替え待たせちゃったわね」
「い、いや、そんな事ないよ」

何となく慌てて、ノッポの青年はサプリメントコーナーから早足で飛び出した。しかし彼女のじっと見つめる視線により、自分の手に持ったままのサプリメントボトルの存在に気が付く。
急いでコーナーへと引き返し、元の陳列棚にボトルを戻した。こちらを横目で見ていた店員には「ハハハ」と愛想笑いで誤魔化しておく。

「待たせて悪かったわ。さあ、行きましょう」
「う、うん」

2人は連れ立って歩き始める。
シティの流行発信地シュヴァンニュ・アベニュー。そこで最近オープンした話題の新フィットネスジムは、前評判通りに賑やかで洗練された施設だった。
ビルの三層分を丸々利用して、ウェイトトレーニング、ランニングマシン、エアロバイク、ダンススタジオ、ショートプールなどが併設され、ボクササイズやヨガクラス、0Gダンスまで幅広い運動がフォローされている。

輝と未沙は、マックスから貰った招待チケットのお陰でゲスト待遇で迎えられた。特別感のある賓客としての扱いに、気難しいと思われた早瀬少佐殿も相好を崩す上々の滑り出しだ。

「今日は誘ってくれてありがとう。身体を動かすのも久し振りだわ」

未沙の笑顔が妙に眩しい。輝は何故か落ち着かず、ワザとらしく咳払いなんかをしてみたりする。

「んっんっ、だ、だろうと思ったよ。あんな指令センターに引きこもりっ放しじゃ、絶対身体に良くないぜ」
「本当ね。スタッフの体調は気遣えるのに、自分の健康となると気が回らないみたい」

未沙は笑顔で応える。普段は指令センター長として気丈に振る舞う彼女の打って変わった素直な言動に、輝は少し胸の鼓動が早くなるのを意識した。
いつもビシッと凛々しく決めているあの軍服姿が、今日はこんなにも扇情的なスタイルで目の前を歩いている。
冷たいエリート女性士官の、見てはいけないプライベートを覗き見た様な感覚に、輝は心中密かに興奮していた。

思えば、未沙との付き合いも結構長い。マクロスが宇宙に飛び立ったあの日、初めてモニターで見た彼女をおばさん呼ばわりしてしばらく根に持たれた。
あの頃の未沙は、地味というか質実剛健というか、とにかく「仕事と呼吸だけして生きてます」といった感じのオールドミスのオーラに満ち満ちていた。実際、本人の語ったところに寄れば、ひたすら仕事一筋に生きて来たらしい。
その変な生真面目さが彼女の強さであり、同時に弱みにもなっていた。それが今の輝になら分かる。

「士官学校でね、格技の訓練を良くしたの。あなた程じゃないけれど身体は鍛えていたのよ」

隣りを歩く未沙が、笑いながら力こぶを作って見せた。とにかく今日は良く笑う。不覚にも「可愛い」なんて思ってしまった。ちょっとだけ、本当にほんのちょっとだけだけど。
未沙が差し出した細腕の力こぶは、しかし大した大きさにはならなくて、彼女の女性らしい柔らかな曲線を確認出来ただけに留まった。
輝は「そ、そうだね」と適当に相槌を打ちながら、チラチラと未沙の全身を覗き見する。
軍属であれば、それなりに女性兵士のあられもない姿と遭遇する事も少なくない。ノースリーブシャツ一枚でブラもせずに歩き回る粗野な恰好の女性兵士などザラにいる。
しかし今目の前にいる人は、そういった「身体を使う」タイプの兵卒ではないのだ。デスクに座り、お茶を飲みながらキッチリと制服を着込んで肌など見せない。普段隠しているだけに、こうやって唐突に見せつけられるとそのギャップに参ってしまう。
更に、彼女のスタイルの良さは火星やゼントラーディ艦での宇宙服で確認済みだったけれど、こうやって改めて見るとその腰の細さに驚きを禁じえなかった。自分などが触れれば簡単に折れてしまいそうだ。

二人の身長差から、彼女の胸の谷間も覗き込めた。際どい切れ込みのミニタンクトップの下には、紺色のドライタイプのアンダーウェアが見て取れたが、それだけでは彼女の双丘の存在感を隠し通す事は不可能だった。
今まで彼女をそうした目で見た事が無かっただけに、これには余計に衝撃を受けてしまった。

他にも無防備な脇の下や、ミニタンクトップからはみ出すおヘソなどの微妙な露出に、まるで今から出撃するんじゃないかという程に心拍数が高まっている自分がいる。
いつもなら、シンプルで飾り気のない軍服に身を包み、眉間に皺を寄せ、仕事の鬼と化して部下を叱るイメージだが、そうした喧々囂々としている「早瀬少佐」とは、今日は明らかに雰囲気が違う。
違和感と戸惑いと昂奮とがごちゃ混ぜになって、輝の頭の中をグルグルと渦巻いて更に混乱を深めさせた。

「柔軟体操する?」

そんな自分の様子には全く気付かず、平面マットへと向かう彼女。輝は慌てて先に行こうとする未沙の二の腕を取った。
柔らかな、彼女の温もりが手のひらに広がる。思わずハッと息を飲む。

「ま、待った待った。ストレッチは運動前にやるもんじゃないよ」
「どうして?怪我をしないように身体をほぐさなきゃだわ」
「いやいや、それは動的ストレッチの事で、静的ストレッチは運動能力を下げちゃうんだよ」
「ええ、何それ⁈初めて聞いたわ」
「例えばさ、ブラジル体操って知ってる?」

たわいもない会話を交わしながら、一面のガラス張りの前にズラリと並べられたランニングマシンへと2人は向かった。タオルや携帯をパレットに置き、パネルのクイックスタートを押すと足元のベルトがゆっくりと動き出す。それに合わせて2人は軽やかに走り出した。

走りながら、輝は横目でチラチラと未沙の様子を確認する。彼女はスポーティなアップスタイルに纏めた栗色の毛先を躍らせ、白いうなじを見せて息を弾ませていた。
形の良い綺麗な耳には、水色のワイヤレスイヤホンが刺さっているのが見える。何の曲を聴いているのだろう?自分があまりそういった分野に詳しくないので、「普段どんなアーティスト聞くの?」なんて洒落た会話はした事がない。
輝が聴くとしたら、唯一ミンメイのアイドルソング位のものだ。そんな話をしようものならほぼ間違いなく不興を買ってしまうだろう。

それより何より、蛍光グリーンのミニタンクトップをユサユサと大きく揺さぶる肉球の存在感が、今までにない感動と衝撃を宇宙戦争の英雄に与えていた。
あまりに凝視し過ぎて未沙に気付かれてしまうが、未沙は未沙でそうした事に鈍いのか「良い景色ね!」とガラスの向こうに広がるシティの景観に笑みを零す。
「そ、そうだね」と慌てて視線を逸らす輝は、誤魔化すようにパネルのスピードアップをタップした。慌てて速度を上げすぎたので足元を掬われ、そのままコントの様に前のめりにすっ転ぶ。
倒れたまま、ベルトの上をスルーッと運ばれてポイっと放り出されてしまった。

「ちょ、ちょっと大丈夫⁈」

未沙が驚いて駆け寄る。輝はとにかく恥ずかしくて、寝転がったまま「いやあ、最近のマシンは反応いいね」などと訳のわからない言い訳をするのが精一杯だった。


yuusannsounndou_convert_20160906185505.jpg
Illustrated by michy.
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 懐かしいアニメ作品
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

No title

おーーーーーかわいいねーーーーーー
未沙にとっては、普通に着たトレーニングウエアが!

ストレッチって、先にやったらダメなんやー
伸ばしすぎはアカンって事やな

なんか、楽しかったなー
今、休憩時間に読んでるんだけど、いい気分転換になったよ

またじっくり読みます!

頑張れ、輝くん!

なんですかね、この青春真っ只中な感じの輝くん。
読んでて楽しいですヨ。
未沙嬢は未沙嬢で、ナイスバディで
輝くんを惑わしてますね〜。鈍いとこはお互い様の様ですけど。
さあて、ひと騒動ありますかな?

文化の素晴らしさ

思春期の男の子は難儀ですね(^_^)。
こんな子がエースパイロットというのだから。
「ギャップ萌え」とはなんと素晴らしい「文化」なのでしょう!

未沙さんの色彩鮮やかな姿も、気持ちワクワクさせます。

うぶウブ

ほーうほーう。
高校生が年上女性にドキドキしている感じですね〜。
こんなウブい輝が見れるとは、お宝映像にしておきたいです。(*^^*)

未沙もフェアリーに変身していて、地に足がついていないようですね。

カワイイ話だな。うん、カワイイ話だ、これは。( ̄▽ ̄)

Re: No title

私、自分でもジムに行くからトレーニングウェアのデザインとか凄く好きなんです( ´∀`)
張りのある体って、男女ともに素敵ですよね!

ストレッチが運動能力を下げるのが分かったのは最近の研究なんですよね。
ラジオ体操みたいな「準備運動」はいいんです。サッカーのブラジル体操とか。
アキレス腱伸ばしとか、ああいうグーッと筋を伸ばすやつは運動後がいいんですよ~。


> おーーーーーかわいいねーーーーーー
> 未沙にとっては、普通に着たトレーニングウエアが!
>
> ストレッチって、先にやったらダメなんやー
> 伸ばしすぎはアカンって事やな
>
> なんか、楽しかったなー
> 今、休憩時間に読んでるんだけど、いい気分転換になったよ
>
> またじっくり読みます!

Re: 頑張れ、輝くん!

まあ小僧なんですよ、まだまだ。


> なんですかね、この青春真っ只中な感じの輝くん。
> 読んでて楽しいですヨ。
> 未沙嬢は未沙嬢で、ナイスバディで
> 輝くんを惑わしてますね〜。鈍いとこはお互い様の様ですけど。
> さあて、ひと騒動ありますかな?

Re: 文化の素晴らしさ

おお~でかるちゃ~… (by ブリタイ閣下

基本的に男の子は10代後半~20歳くらいの間が人生の中で一番性欲が高いのです(〃▽〃)ポッ
なので思春期にこんなシチュエーションを迎えてしまったら大変でしょうね~Ψ(`∀´)Ψケケケ

原色系でも、フォレッシェントカラーとかパステルカラーは大好きです!


> 思春期の男の子は難儀ですね(^_^)。
> こんな子がエースパイロットというのだから。
> 「ギャップ萌え」とはなんと素晴らしい「文化」なのでしょう!
>
> 未沙さんの色彩鮮やかな姿も、気持ちワクワクさせます。

Re: うぶウブ

いや~まさにそんなシチュエーションですな( ´艸`)

しかし、そんな場面から急転直下がびえりの真骨頂!
次週、地獄からあの女が復活します!『ミソメイ蘇る、北斗の宿命再び!』でお会いしましょう!


> ほーうほーう。
> 高校生が年上女性にドキドキしている感じですね〜。
> こんなウブい輝が見れるとは、お宝映像にしておきたいです。(*^^*)
>
> 未沙もフェアリーに変身していて、地に足がついていないようですね。
>
> カワイイ話だな。うん、カワイイ話だ、これは。( ̄▽ ̄)
カテゴリ
プロフィール

びえり 

Author:びえり 
iPhoneで書いているので「輝」と打てません

FC2の機能がよく分からないので、何か変だったら教えてください(´・ω・`)

最新記事
最新コメント
くせっ毛の飛行機乗り
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR