I heard the sound of falling in love with her. -8-

その後も、2人はあーでもないこーでもないと言い争いながらひとしきりのプログラムをこなして行く。
何だかんだと言いながらも、未沙の機嫌はかなり良かったみたいだ。ここ最近の、おデコにしわを寄せたしかめっ面は影を潜め、ぶつぶつ文句は言いつつも生き生きとした表情になっている。
何故だかは分からないけれど、そんな未沙の様子が輝は無性に嬉しかった。

「違う違う、フォームはこう」
「こ、こう?結構キツいわ…」
「キツいからいいのさ。姿勢は前かがみに、体重を利用しちゃうと狙った筋肉に負荷がかからないからね」

壁一面のミラーの前で、未沙にダンベルトレーニングの指導をする輝。未沙は両腕に5キロずつのダンベルを持ち、片手ごとに捲き上げるようにして肩まで持ち上げる。辛そうに顔を歪ませながらゆっくり、ゆっくりとダンベルの上下を繰り返す。

「やっぱウェイト落とそうぜ」
「へ、平気よこれくらい」

最初、輝は「初心者は1キロから」と小さなダンベルを未沙に渡したのだが、「あなたは何キロを上げるの?」との質問に「ん〜20キロ?」と答えた途端「そんなに軽いのはイヤよ」と勝手に重いサイズに取り替えてしまったのだ。
彼女は彼女なりに、士官学校卒軍人という自負があったのかも知れない。

「ほら、背中が反ってる。体重で上げちゃダメなんだよ」

輝は未沙の腰と肩に手を添えて姿勢を直す。
汗ばんだ彼女の温かな皮膚に直に触れて、その温もりに一瞬唾を飲み込んだ。
初めて触れる、手のひら以外の生(ナマ)の早瀬未沙。まるで何かイケナイコトをしているかの様に、輝は焦ってすぐに手を離した。
まだ指先が彼女の汗で湿っている。心臓がドクンドクンと高鳴った。何とも言い表し難い衝動が、19歳の少年の心を風に翻弄される木の葉のごとく激しく揺さぶる。

自分の恥ずかしい動揺を気付かれただろうか。未沙の顔を確認すると、彼女は彼女でそれどころではないといった表情だ。必死になってダンベルの上げ下げを繰り返す。輝はホッとして「もういいよ、1セット10回以下ね」と未沙のダンベルを取り上げた。
急に過度な重りから解放されて、未沙の細く長い脚がふらつく。ぽすんとそのまま輝の広い胸板に背中から倒れ込んだ。

「あ、ゴメンなさい」
「い、いや、いいよ」

未沙は慌てて身体を離す。輝はダンベルをトレーニング台へ置きながら、たった今目の前を通り過ぎた彼女の白いうなじの香りを想った。

少佐、いい匂いがするな…

「やっぱり少し落とそうぜ。ふらつく位じゃ重過ぎるよ」
「そ、そうね。そうするわ」

未沙は何故か顔を真っ赤にしてうんうんと頷く。輝は左腕のパイロットウォッチを確認して「インターバル1分な」と未沙の顔を見ずに告げた。
輝の顔も、何故か赤かった。


「なあ、この上、プールになってるらしいぜ」

ウェイトトレーニングを終えて、タオルで汗を拭きながら輝が館内案内のプレートを見ている。
ビル内の三層からなるこのフィットネスジムの一番上がプールハウスになっている。軍では水泳教練などしないから、輝の目にもプールは珍しく映った。
未沙が後ろから案内プレートを覗き込む。確かに大きなプールハウスだ。しかし、未沙はその細く整えられた眉を寄せる。

「でも、水着を持ってないわ」

輝は視線をプレートのサイドに動かす。

「レンタルもあるみたいだよ」

そこにはレンタルウェアの説明が書いてある。会員制ジムなのでレンタル品は基本的に無料らしい。

「ちょっとだけ覗いてみる?」
「…そうね、水泳なんて何年振りかしら」
「俺、ガキの頃にはよく川で泳いでたよ」
「川で?嘘でしょ」
「いやいやホントホント」

運動によるエンドルフィンの放出が、2人に笑顔を取り戻させていた。輝と未沙は楽しそうに言葉を交わしながら上のフロアへと続くエレベーターに向かった。

そこであんな悲劇が待ち受けるとは知らずに。




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No title

えっ?悲劇?
悲劇すきー(^ー^)ノ悲劇楽しみーー

管理人のみ閲覧できます

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どうなるの?

え?悲劇ですか。
喜劇ではなく、悲劇ですか。
辞書に➖主人公の破滅で終わるのが普通。
とありました。
輝の破滅…なんだろう。( ̄◇ ̄;)

嗚呼、青春真っ只中!

本文はそんな感じですね^ - ^
しかし、次回こうご期待な続きかた。
楽しみです。
どんな悲劇が待っているやら。
あ、前回のヒカルの台詞ですけど、普通に考えると、凄い口説き文句ですね。
天然パワー恐るべし。

素直が一番

あ、未沙さんが機嫌直しているー。良かったです!
「素直が一番」
クローディアさんの寸言が木霊する(^.^)
プールでも素直でいてくだされ・・・。

読んでいると、体を動かしたくなりますね。

Re: No title

どエスmichyさまのお通りや〜( ̄▽ ̄)

ふふふ、いいんですね
どんな悲劇でも文句言いませんね
輝ちゃんがカツラだったとか、未沙が腋臭だったとかww


> えっ?悲劇?
> 悲劇すきー(^ー^)ノ悲劇楽しみーー

Re: 上げて落とすのですか

何を仰いますやら

仏のびえりですよ

和やかで心温まるSSばかりじゃないですか

Re: どうなるの?

辞書にそんなこと書いてあるんですねww

輝ちゃんの破滅…それは…



去勢??

> え?悲劇ですか。
> 喜劇ではなく、悲劇ですか。
> 辞書に➖主人公の破滅で終わるのが普通。
> とありました。
> 輝の破滅…なんだろう。( ̄◇ ̄;)

Re: 嗚呼、青春真っ只中!

本件に関しましては、あくまでも本人的には事象的事実を述べたまでとなっております。


> 本文はそんな感じですね^ - ^
> しかし、次回こうご期待な続きかた。
> 楽しみです。
> どんな悲劇が待っているやら。
> あ、前回のヒカルの台詞ですけど、普通に考えると、凄い口説き文句ですね。
> 天然パワー恐るべし。

Re: 素直が一番

体動かすと、精神的に高揚してやる気も出るんですよね。
「やる気スイッチ」って脳の中にしかないのでwやる気漲る為にもレッツフィットネストゥギャザーですね!


> あ、未沙さんが機嫌直しているー。良かったです!
> 「素直が一番」
> クローディアさんの寸言が木霊する(^.^)
> プールでも素直でいてくだされ・・・。
>
> 読んでいると、体を動かしたくなりますね。
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