I heard the sound of falling in love with her. -13-

- Operation failed -

その文字が携帯タブレットに浮かぶと、セクション2の若い二人は眉をひそめて顔を見合わせた。

- 必勝作戦では無かったのか -

- 信じられない。プレイヤーはどんなミスを犯したのか -

- 詳細は不明だが、ラスボスを怒らせたのは間違いない。被害が飛び火しないよう、この件はくれぐれも内密にする様に -

- 今後もW.S.W(※winter storm watch 吹雪注意報)が続くというのか -


「ヴァネッサ。新航空路の案、エアトランだけまだ出てないわ。すぐに確認して頂戴」

「Y,Yes,sir」

セクション1のヴァネッサは僅かに緊張した声で返事をした。仕事に取り掛かりながらも、密かにタブレットをタップする。


- 新たな攻略法を考える必要がある -

- プレイヤーを交代させるべきなのでは? -

- その辺も踏まえて協議すべき -

- ではミーティングは例のバーで今夜22時より -

- log -

- log -


報告を終え、ヴァネッサはタブレットの画面をロックした。
肩越しにこっそり早瀬少佐の様子を伺うと、少佐は正面を見据えて身じろぎ一つしない。とても険しい顔をしていて、彼女の半径5メートル以内は完全に寒気の渦に包まれていた。
ヴァネッサは寒そうに軍服の襟を寄せる。
白い息を吐きながらエアトラン社の担当者に連絡を取ろうと、インカムのスイッチを外線に切り替える。呼び出し音が鳴り始めた所で、セクション1の背後の扉が圧縮空気音と共にシュッと開いた。
チラリとそちらに視線を投げる。癖っ毛の、背の高い若者が大股に室内へと歩いて来るのが見える。ヴァネッサは澄まし顔で呼び出し作業を中止して背後の様子を伺う。

「早瀬少佐」

幾分緊張した声で、東部パトロール中隊の一条輝大尉が、マクロス指令センター長の早瀬未沙少佐に話し掛けた。

「…何かしら」

全身に凍気を漂わせながら、正面から視線を動かさずに未沙が返事をする。輝の事を振り返りもしない。

「ちょっとお話があるんですが」
「忙しいの、後にしてくれない?」
「大事な話なんです」
「今も大事な任務中よ」
「じゃあここで結構ですが」

輝はチラリと聞き耳を立てているヴァネッサの方を見た。それから少し息を吸い込んで、朗々と大きな声で話し出す。

「先日少佐と2人で出掛けたフィットネスクラブの件ですが、とても良かったので隊のレクリエーションプログラムに取り入れたいんですけど」

「ちょ、ちょっと」

未沙は驚いて振り返る。ここは100人からが忙しく勤務するマクロス指令センターである。場所こそ最上段に位置するセクション1だが、そんなに大声を出されたらすぐ下のセクション2のスタッフにまで丸聞こえだ。
現に、チラチラと何人かがこちらを見上げている。未沙は怒ったように眉を吊り上げた。

「一条君、一体何の話をしているの⁈少しはTPOというものをわきまえて…」

「早瀬少佐と一緒に泳いだスイミングプールの話をしています」

堂々と、輝は言い放った。ヴァネッサは爛々と細縁のメガネを輝かせる。
フィットネスクラブへ行った事までは承知済みだったが、まさか一緒に泳いでいたとは知らなかった。水着姿でイチャつく2人を想像して思わず口元がほころぶ。

「あれはとても健康的かつ精神衛生上の利点も大きかった。最近少佐はゼントラーディ隊員のストレス対策に頭を悩ませていると聞きました。軍の教育カリキュラムに取り入れては如何でしょうか」

未沙はグッと黙り込む。確かに、戦後にゼントラーディ人の大量受け入れを行なっている新統合軍では、文化への不慣れさや習慣の違いから様々な軋轢が生まれ、色々な場面で地球人類との衝突がやまないでいる。
上層部はかなりその事に頭を痛めていて、未沙も現場指揮官のトップとして対策会議に奔走する毎日だった。こうした問題が、より組織内社会を複雑化し、未沙の仕事を忙しく、かつやり辛くしているのは間違いない。対策案の検証は急務と言えた。
つい先日も、総理総裁として臨時政府へ出向いているグローバルから対策会議の立ち上げを指示されたばかりである。

しかし、輝はそんな事をどこで知ったのだろうか。

「ゼントラーディ人兵士のストレスの原因は、主に発散先のない戦闘衝動の蓄積にあると思われます。こればかりは文化への憧れだけでは解決出来ない」

この辺は、事前調査をした際のクローディアからの受け売りだった。輝は松木からこのネタを仕入れてすぐに、頼りになる姐さんの元へと情報の査証に行ったのだ。

「しかしゲーム感覚で楽しみながら身体を動かすとなれば、様々な精神的鬱屈を解消出来るでしょう。そしてその為には、これらは訓練とはまた違った環境でなされなくてはなりません。いわゆるお遊び的なスポーツレクリエーションです」

「ぐ、軍隊でベースボール大会でもやれというの」

いつもと違う切り込み鋭い輝の文言に、一方的に押されていた未沙はようやく小さく言い返した。しかし準備万端でやって来た今日の輝の勢いには到底敵わない。

「それもいいんじゃないでしょうか。我々が当たり前だと思っている習慣も、彼らにとってみれば驚きと戸惑いの連続です。アイスホッケーなんて、チームを作っても良いくらいだ。何せここはアラスカですから」

輝の発言に衝撃を受ける未沙。スポーツチームだなんて、そんな観点は持っていなかった。自分の視野とは違う角度からの提案に、未沙は目を見開いて輝の真剣な顔を見る。
すると輝は、相好を崩していつもの砕けた口調になった。

「たまには不真面目な奴らの意見も聞いてみるといいさ。エリート同士でツルんでると見えるものも見えなくなっちまうぜ」

輝は、パイロット達の現場でフットボールの真似事に興じる隊員達を見ていた。その中にはゼントラーディ人パイロットも、下手くそながら混じっていたのだ。そして皆その顔は笑顔で溢れていた。

「身体を動かせば、その、受なんとかってのも活発になっていいんだろう?そしたら、おデコにしわ寄せてしかめっ面でツンケンする人も減るぜ」

輝は自分の額をツンツンと指差して見せる。彼が誰のことを言っているのかは明白だった。未沙は顔を真っ赤にして立ちすくむ。ぎゅっと握った親指の爪が手のひらに食い込んだ。

いつの間にか、指令センターは静まり返っている。最上段のセクション1で何が起きているのか、全員が興味津々に耳を澄ませ、こっそりと上を見上げていた。
ヴァネッサは密かに携帯タブレットの通話アプリを起動していて、下の悪仲間2人にセクション1での会話内容をリークしている。

未沙は黙っていた。輝の提案は至極真っ当な様に思える。いや、むしろ現状を変える良いキッカケにすらなるかも知れない。
軍公認のスポーツクラブチーム。広報などとも連携して、宣伝効果もありそうだ。何より今世間的に不足している娯楽の提供になるかも知れない。そしてそこで活躍するゼントラーディ人選手などが出てくれば…。

考えればいくらでもアイディアは広がって行く。何故こんな事に気が付かなかったのだろう。いや、こうした分野は彼らブルーワーカーの方が身に馴染んでいるのかも知れない。ホワイトカラーの自分に足りなかったのは、そうした人々と肩を並べる度量だったのだ。

未沙は唇を噛み締める。自戒と、口惜しさと、恥ずかしさとがない交ぜになって気持ちが混乱していた。輝の発言を認めたい。しかしまるでやり込められた様なこの現状と、自分への恥ずかしさとでストンと懐に落とす事が出来ない。ましてみんなの前で「一緒にプールへ行った」だなんて、何故わざわざここで大声で宣言したのだろうか。せっかく周りには昨日の事は黙っていたというのに…。

「俺が言いたいのはそれだけだ。で、具体的な検証のために発案者として少佐とキチンと協議したいんだけど」

輝は手にしていたバインダーを差し出す。未沙は不承不承それを受け取ると中身を開いてみた。予想通り要望書と申請書だ。
そこには、指令センター長への本日16時よりミーティングの申し込みについて書かれている。

「書式に問題は無いだろう?」

書いたのは輝ではない。士官サロンを意味もなくウロウロしていた町崎に書かせた。もし間違っていたらマクロスレイクに頭から突っ込んで釣りのエサにするぞと脅したので漏れはない筈だ。
未沙はザッと書類に目を通すと、輝の正しさを認めた。判断に時間のかかる人間は使えない人物だ。未沙の仕事上の信念が、彼女自身の決断を後押しした。

「…いいわ。後で資料を揃えて会議室に来て頂戴」

「Yes,Sir. Major」

輝は力強く敬礼すると、踵を返してセクション1を後にした。小さくヴァネッサが「Good job」と声を掛けると、目立たぬよう左手を軽く上げて応える。

一方、去って行く輝の後ろ姿を見送る未沙は、処理し切れない難しい感情にその身を浸していた。




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YDK

おー。輝くん、ヴァネッサに認められた?
やればできる子なんですよねー。輝くんは…ツメの甘さが心配ですが。

No title

ヴァネッサが襟を立てたり白い息を吐いたりする表現、好きです。
局地的氷点下。笑えます(^-^)

輝君にやり込められそうな未沙さんの逡巡が、いろんな意味で堪りません!

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情報戦かぁ・・・

輝の情報戦作戦、かなり頑張ってるじゃないですか!でも、一番繊細な情報、「未沙の気持ち」と「輝自身の気持ち」は、内偵の松木にも解らん事。。でも一番大切ですもんね・・。

なんか、もう未沙にしてみれば、輝は彼氏に限りなく近い存在だもん。足りないのは確証。わかっているだけに、未沙も切ないっていうか、つらいね。。

どうなることやら・・楽しみにしてまーす!

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緒戦は完勝かな?

攻めてますね。
まずは、ワンポイント先取ですね(多分)
さぁ、次ラウンドの攻防やいかに?
町崎氏出てましたね。
一部ファンが喜ぶでしょう。

Re: コペルニクス的転回かな

輝ちゃんて、結構重要な場面ではハッキリとした意思表示するんですよね。
感情先行型だけれど、そのあとちゃんと物事の正誤を見ているというか。亡命事件の時も、マックスの結婚の時も彼の一押しが決定打になりましたからね~。そういう理解の深さが未沙と共通している部分だと思います!

いやいや、もう寝っ転がっちゃいましょうよw

Re: ご無沙汰しております。

ご無沙汰です~!
特にシリーズ化するほどは考えてなくてですね、最初のアイディアではサッと終わっちゃう筈だったんですが、なんかしっくり来なくてボツになりましたw

Re: YDK

こっちではヴァネッサとうまくやってますねw
まあ何はともあれ輝ちゃんですから、過剰な期待は出来ませんよねwww


> おー。輝くん、ヴァネッサに認められた?
> やればできる子なんですよねー。輝くんは…ツメの甘さが心配ですが。

Re: No title

極局地性ブリザード警報発令中です(+_+)

輝ちゃんて口喧嘩弱くないんですよね。未沙も何度も負けてるし。
言葉のチョイスが小学生ですがwww


> ヴァネッサが襟を立てたり白い息を吐いたりする表現、好きです。
> 局地的氷点下。笑えます(^-^)
>
> 輝君にやり込められそうな未沙さんの逡巡が、いろんな意味で堪りません!

Re: ありがとう1

身体は強いし、戦闘意欲は高いし、アイスホッケーにはピッタリだと思います。ゼントランの人たち\(^o^)/

…カーリングはどうだろう…

Re: 情報戦かぁ・・・

まだこの頃は、未沙の押しかけ女房状態なんですよね~。
輝も「世話好きのねーちゃん」位の認識だったでしょうし、気持ちがハッキリとは固まってない頃ですよね。
まあそれでこの表題なんですが。

あ、マクロスのヒロインはミンメイですwww(しつこい


> 輝の情報戦作戦、かなり頑張ってるじゃないですか!でも、一番繊細な情報、「未沙の気持ち」と「輝自身の気持ち」は、内偵の松木にも解らん事。。でも一番大切ですもんね・・。
>
> なんか、もう未沙にしてみれば、輝は彼氏に限りなく近い存在だもん。足りないのは確証。わかっているだけに、未沙も切ないっていうか、つらいね。。
>
> どうなることやら・・楽しみにしてまーす!

Re: ドキドキ。。

ですね、私も書いててその辺は意識しちゃいますw
ヴァネッサに奢ると別URLみたいな事になっちゃいますよ!w

Re: 緒戦は完勝かな?

町崎はどうでも良かったんですがw輝ちゃんが書類苦手そうだったので。


> 攻めてますね。
> まずは、ワンポイント先取ですね(多分)
> さぁ、次ラウンドの攻防やいかに?
> 町崎氏出てましたね。
> 一部ファンが喜ぶでしょう。
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