スノー・ウォーズ the Final

戦いとは常に非情である。
どちらかは生き残り、どちらかは斃れる。
全員が笑顔で戦いを終える事は出来ない。そこには必ず勝者の笑みと敗者の涙があるのだ。

「くそ、良い位置取りやがって」

輝は戦っていた。
マックスとの激しい雪玉の応酬。そのうち、鋭い攻撃に追われて木立から追い出されてしまった。息を弾ませ、身を隠せる場所を探して辺りを見回す。すると雪に埋もれた電圧盤を見つけた。輝は勢い良くその後ろへと飛び込む。

「あいた!」
「いて!あ、町崎!」

飛び込んだ先には、プロテクターで身を固めた町崎が潜んでいた。プロテクターの色が白くて気がつかなかったのだ。

「オタクこんなトコに隠れてたのか」
「ひいい、撃たないで撃たないで」

小さくなってガタガタ震えている。まるで猫に捕らわれた子リスの様だ。いや、別に銃とか持ってないし。まあ内勤者が戦場に出ればこんなものか。

「オタク戦わないのか、そのままじゃ狩られるだけだぞ」
「もういいです、お家に帰りたいですぅ〜」

鼻垂れ泣きっ面の町崎に輝が苦笑していると、バスンと音がして電圧盤に雪玉が当たった。上に積もっていた雪がバサバサと二人の頭に降り注ぐ。

「くそ、マックスめ」
「ひぃぃ〜」

電圧盤の陰からチラと覗くと、マックスの姿が木立の中を移動しているのが見える。こちらを攻撃しやすい位置へと移動しているのだ。
空の戦いでは、攻撃に有利な位置を取るほど勝利へ近付く。パイロットにとっては地上に居たとしてもその戦い方は変わらないのだ。

「し、死ぬ〜殺される〜」
「バカ、雪玉で人が死ぬか」
「うう、僕が死んだら真っ白な雪原の中に埋めて下さい。惨めな姿が誰にも見つからないように」
「何を大袈裟な、ただの雪合戦だぞ」

輝は呆れながら町崎のヘルメット頭をポンポンと叩く。そしてふと何かを思い付いた様な顔になった。

「おい、ちょっとこっちに来い」
「あ〜れ〜」

町崎は輝に首根っこを掴まれると、そのままズルズルと引きづられて行った。


一方マックスは残りの敵を仕留めながら移動し、確実にライバルを減らして行く。
飛び交う雪玉をヒョイヒョイと交わし、まるで後ろに目が付いているかの様にスキがない。

「ぐぬう、む、無念…」

最後の雑魚キャラがバタリと倒れ、マックスは颯爽とセントラルパークを走り抜ける。雪合戦だというのにサングラスも外さない。余裕たっぷりな天才は、油断なく左右へ視線を走らせた。
…居た。あの人だ。
最後の強敵。最大のライバル。もっとも警戒すべき相手の癖っ毛頭が、パークの並木の向こうを移動しているのが見える。

「隊長、今日だけは僕がいただきますよ」

マックスは不敵に笑うと、硬く小さめに握った雪玉を握りしめて雪豹のようにしなやかにターゲットへと近付いて行く。
相手はこちらに気付いた様だ。進む方向を変えて逃げ出した。マックスは全速でそれを追う。

「逃げられませんよ、隊長!」

マックスは器用に雪道を走り抜けると輝の背後に接近した。輝は新雪に足がハマっているらしく動きが鈍い。あと10メートルで射程範囲内だ。5メートル、1メートル…

「もらった!」

マックスは小さなモーションで肘をスイングさせる。小さくて密度の濃い、投げやすく加工された雪玉は高速で真っ直ぐに標的へと飛んで行った。しかし赤外線誘導のないミサイルは惜しいところで相手の脇腹を掠めて過ぎる。
マックスは舌打ちすると、すぐさま片手でざっと雪を拾い上げ、走りながら両手で球にして行く。相手は先ほどの球に驚いたのか、はまたま新雪に足を取られたのか見事に前のめりにズッコケていた。

「よし!」

マックスはうつ伏せに倒れた輝の背後へと走り込んだ。雪玉を構えて、大の字のまま動かない輝に声を掛ける。

「隊長、ジ・エンドです。覚悟は良いですか?」

マックスはニヤリと笑うと腕を振り上げた。
戦いとは残酷なものだ。そこには勝者と敗者が存在する。片方は生き残り、片方は消えゆくのだ。

輝は倒れたまま、ゆっくりと顔だけをマックスに向けた。
その顔は…笑っていた。マックスは思わず手が止まる。

「マックス、お前は天才だが、自分の才能に溺れちまう傾向がある。いつも言ってるだろ?戦いはチームプレイだって」

マックスはハッとなる。それと同時に、ポスンと背中に雪玉が当たった。
驚いて振り向くと、そこには雪男…と見まごうばかりに真っ白に雪にまみれた小男が立っていた。
寒さからか、ガタガタと震えている。何だか全身がモコモコとしていて…あれはプロテクターか?白くて全然気がつかなかった…

「ま、町崎君…どこに居たの…」
「う、埋まってました…」

ガチガチと歯を鳴らしながら町崎は「へへへ」と笑う。強敵を追い詰めたという興奮が、普段は注意深いマックスの目を濁らせていたのだ。保護色で雪の中に伏せていた町崎を、マックスは完全に見落としていた。

囮が敵機を引きつけて、背後から僚機がロックオン。

近代航空戦の基本中の基本だ。ドイツでロッテ戦術が開発されて、もう80年も経っている。

「負けた…」

マックスはヘナヘナと膝から崩れ落ちた。癖っ毛の雪を払い落としながら歩いて来た輝が、マックスの肩にポンと手を置く。

「これが本物の戦場じゃなくて良かったな」

マックスは顔を上げた。その顔は悲壮感に満ちている。あまりに哀れなその様子に、思わず輝はギョッとなった。
そもそも、なんでマックスはここまで必死になって雪合戦なんかやっていたんだろう?こんなものにのめり込む様なキャラクターじゃないだろうに…

「なあマックス、オタクなんで…」

口を開いた輝の脚に、ガシッとマックスが縋り付いた。

「隊長!お願いです!」
「な、なんだマックス」
「ミリアにだけは、ミリアにだけは手を出さないでください!」
「…出すか、バカ!!」

輝は憤然として縋り付くマックスを振りほどいた。
そうか、成る程。マックスも俺と同じだったんだ。途中で気が付いた。あの人の唇が、他の男に奪われてしまうかも知れないって事に。
これは奪う戦いであると同時に、守る戦いでもあったのだ。

そういやミリアは美人だし、人気あるものなぁ

高嶺の花という意味では未沙もミリアも似ている。こんなイベントがあれば狙われるのは当然だろう。
輝はため息を吐くと、マックスにグッと手を差し伸べた。

「俺たち仲間だろ?そんなつもり、ハナから無いさ」
「隊長…」

マックスは瞳を潤ませて輝の手を握った。輝はマックスを引き起こし、2人はそのまま熱い握手を交わす。

「柿崎君は言い出しそうだったので、絶対に負かせるつもりでいました」
「うん、それは俺も否定出来ない」

2人は顔を見合わせて笑う。ああ、なんて爽やかなエンディングだろうか。戦いとは無情であるが、こんな終わり方もアリなんだな…

ポスッ

そんな感慨に浸る輝の背中に、雪玉が当たった。
輝が振り返ると、そこには歓喜の表情を浮かべる町崎がプルプルと両腕を震わせている。

「か、勝った!僕が優勝だ!」

唖然とする輝とマックスを置いてきぼりに、町崎は歓声を上げながら走り出す。歓喜の歌声を響かせて、パーク内を勝利のウィニングランである。

「僕が優勝ですよ〜!町崎健一、町崎健一の優勝だ〜!!!」

はしゃぐ町崎の視界に、大会実行委員をしている女子オペレーター達が映った。
その中に…居た!は、早瀬中佐!
いつものアバズレ三人組と楽しそうにお喋りしている。ああ、その笑顔、雪よりも透き通る白い肌、桜色の唇…ぼ、ぼ、ぼ、僕の物だ!アレが僕の物に…!!

「早瀬中佐〜!!」

駆け出す町崎。それに気がつく未沙とヴァネッサ、キム、シャミー。

「僕が、僕が優勝しました!あなたの町崎が、今参ります〜!!」

嬉し涙と鼻水とでクシャクシャになりながら町崎は疾走する。愛しいあの人の元へ、愛する“氷の姫”の胸の中へ…

「早瀬さ〜ん!」

ムチュ〜と唇を突き出して突進する町崎。僕は英雄だ、唯一の勝者だ!男どもよひれ伏せ、女どもよ崇めよ!我こそは町崎健一!我こそは町崎…

パンッ

乾いた音一発。
町崎は未沙にビンタで雪の中に張り倒された。

「やだ、何言ってるの町崎君」

未沙は怒った様な顔で町崎を見下ろしている。

「…へ?だ、だって優勝商品は好きな人にキスって…」

殴られた頬に手を当てて、町崎は未沙を見上げる。呆れ顔の未沙は腰に手を当てて、その桜色の薄い唇を開いた。

「嫌よ、なんでそんな事しなきゃならないのよ」

それだけ言うと「じゃあ皆んな程々に楽しんで」と笑顔で手を振って指令センターへと帰って行った。
唖然としてその後ろ姿を見送る一同。

『さーこの後は後夜祭でーす!キャンプファイヤーやるよ〜!気になるあの子をダンスに誘ってね!』

その場の空気を切り裂く様に、マイクを掴んだキムが叫ぶ。負けて意気消沈していた男共は雄叫びをあげて拳を突き上げた。

「元々こっちが本命だものね」

ヴァネッサがフフフとウィンクする。シャミーは口元に手を当ててケタケタと笑った。

「こんな仕事してたら、出逢いなんて無いものね〜。や〜ね〜」

キムがマイクに向かって叫ぶ。

『クリスマスまでに恋人をゲットするぞ〜!』

おー!

『ニューヨークに行きたいか〜!』

おおー!

浮かれた大勢の男女の叫び。そしてセントラルパークにうず高く積み上げられた焚き木に火が付けられた。
どこからともなくマイムマイムが流れ出す。BGMに載せて協賛メーカーの紹介が始まった。冬のアラスカの夕陽は早々と沈み、辺りはしっとりとした夜闇へと包まれ始める。

皆の笑顔が焚き火に弾けた。
この夜、多くのカップルが軍内で誕生したと言う。

優勝した町崎を除いて。

「あ、あの…僕…優勝……」

一人雪の上に取り残された町崎。彼はこの日身体を冷やし、悲しみのなか風邪をひいて勤務を休んだ。



戦いは虚しい。
世界に平和が訪れます様に。
メリークリスマス。




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非公開コメント

嗚呼、パラレル話。

お久です。
一気読みしました。あれれなキャラが居たですけど、まぁいっかですね。
オチが想像と違いましたが、まぁいっかです。タイトルの元ネタの新作観ました。
傑作でした^_^
あ、この話も傑作ですよ。

ははは〜。

予想外の結末でした。(O_O)

雪合戦は、合コンのメンバー集めの肴でしたか。
いつの世も、男女の出会いは難しいですな。

No title

町崎くん、かわいいね( ´∀`)
不意打ちに投げる雪玉も、ボソ…なんや(^_^)

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Re: 嗚呼、パラレル話。

まあいっかですね〜。

世の中なんでもまあいっかです。


> お久です。
> 一気読みしました。あれれなキャラが居たですけど、まぁいっかですね。
> オチが想像と違いましたが、まぁいっかです。タイトルの元ネタの新作観ました。
> 傑作でした^_^
> あ、この話も傑作ですよ。

Re: ははは〜。

オチなくたっていいじゃない
SSだもの

びえりみつを

キャンプファイヤーしたいw


> 予想外の結末でした。(O_O)
>
> 雪合戦は、合コンのメンバー集めの肴でしたか。
> いつの世も、男女の出会いは難しいですな。

Re: No title

きっと来年はまっちーファンが増える事でしょう(嘘

そのうち町崎×未沙を推す人が現れるのでは…


> 町崎くん、かわいいね( ´∀`)
> 不意打ちに投げる雪玉も、ボソ…なんや(^_^)

Re: めりくり!(遅)

ありゃりゃ>_<
流行ってますよねウィルス性胃腸炎。あれキツいからなぁ、大丈夫でしたか??大丈夫じゃないですよね。

体調取り戻して、良い年をお迎えください〜^ - ^

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Re: お久しぶりです!

お風邪大変でしたね!
私も昔は毎年風邪を引くのが当たり前でしたが、今はサプリメントを常用して風邪引かなくなりました。若い頃はサプリメントとか馬鹿にしてたのにな〜。

レポートいつまでもお待ちしていますよ!数少ない同好の士として楽しみにしていますw紅白、今年も見逃しましたwww

お、予想当たりましたかw流石ですww
柿崎は初めて書きました。単純そうで楽なキャラですw
町崎へのご褒美…苦労が認められて未沙さんに…ああそんな…
え?ダメ??

No title

皆がみんなかわいい・・・(*´ω`*)

あ、町崎君はかわいいとはちょっと言い難い。
まぁ憎めないキャラということにしておきます。

Re: No title

ああ、どこまでも報われない、悲しき町崎くん…w

確かに柿崎とかはまだ可愛いと言えなくもないかもですが、同じ間の抜けたキャラでも町崎くんだけはちょっと別枠ですよねw
まあ、私は柿崎も可愛いとは思えませんがww


> 皆がみんなかわいい・・・(*´ω`*)
>
> あ、町崎君はかわいいとはちょっと言い難い。
> まぁ憎めないキャラということにしておきます。
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