Oh , darling

冷たい冬の雨がシトシトと降り続くアラスカの夜。
ボリュームつまみを思いっきり捻ってビートルズのOH ! DARLING
を聞いていた。

ウーファーが震えるくらいの大音量。でも、全然物足りない。アルコールに浸された身体をゆっくりと大型のウッドスピーカーに覆い被せると、お腹の底まで振動が伝わって来る。
迫り来る音の波に、細い胴体は細かく、そして力強く震わされた。

ポール・マッカートニーの歌い出しがとても耳に、というか心に響く。サビのカッティングギター、懸命に絞り出すような枯れた声。
聞いているだけで、過ぎ去った色んな過去が脳裏に浮かんでは消えて行く。


オー、ダーリン
あなたに見捨てられたら
私は一人じゃなにも出来ないの
ねぇダーリン、私を信じて
お願いだから私を一人ぼっちにしないで


手にしたグラスから水滴がポトリと垂れる。
癖のあるラフロイグ。匂い立つそれを軽く一口あおると、ポールの嬌声を割いてカランと氷の音が耳を叩いた。


「Oh,darling…」


ポールのリードボーカルに合わせて、弱々しく呟く。小さな桜色の唇が、部屋のダウンライトに淡く照らされている。
長い睫毛が揺れて、少女は反対側の手に持った古臭いフィルムフォトを眺めやる。そこには、夜の噴水を前にした少年と少女が屈託のない笑みを浮かべていた。



354189.png



幼い二人の青春の1ページ。
腕を組んで、楽しそうに微笑んでいる。少女はそれをじっと眺めながら、大粒の瞳からポロポロと水晶のような涙の雫を零している。

涙の跡は、黒く頬に二本の線を引いていた。脂に溶けたアイライナーが大きく滲んで、少女の表情により憐れみの雰囲気を加えている。

窓の外は真っ暗で、ただ雨の水滴だけがひっきりなしに無作為な模様を作り出しては消え、消えては作り出している。ポールのエモーショナルなシャウトに時たまガラスが打ち震えるが、それ以外に今この世界に自己の存在を示す物はいなかった。


「Oh,darling…if you leave me…」


少女は縋り付くように、スピーカーに覆いかぶさる。鼓膜が破けんばかりのマキシマムボリュームだが、冷え切った身体に温もりを求めるように、少女は筐体にその細く小さな身体をすり寄せる。

とめどなく流れる涙。スピーカーのビッグノイズにかき消されて聞き取れない小さな歌声。
少女は力の抜けた手からグラスを滑らせる。音もなく、強烈なピートの香りが真紅の絨毯の上に広がった。


「When you told me…
You didn't need me anymore…」


かのアイビー・ロード・スタジオで、1969年に収録された古きナンバー。ビートルズ最後のアルバムとなった「アイビー・ロード」の収録曲である。
書いたのも歌っているのもポールだが、後にジョンは「これは僕のスタンスが色濃い曲だ」としてお気に入りの一つにあげている。
捨てられた恋人への気持ちをほとばしる激情と共に歌い上げる、激しくも切々とした悲しい歌。ポールは朝早く一人だけスタジオに早入りし、何度も何度も歌録りを繰り返したという。

心底惚れた女へ捧げる、究極の女々しさ爆発のラブソング。数多あるビートルズの恋愛を歌った曲の中でも極め付けの一つと言えた。
決して取り戻せないあの人の心に、ただひたすら懺悔する哀れな男の心の叫び。

それが、今の少女の心境にピッタリだった。3分ちょっとの短い曲をエンドレスにリピートさせて、その身を音の洪水の中にじっとりと浸している。しがみついた大型スピーカーの冷たさが、アルコールに火照った頬に心地良い。


「捨てないで…捨てないで…」


涙に濡れた瞳を閉じて、力なくその言葉を繰り返す。
少女は声にならない叫びを上げながら、過ぎ去った過去に想いを馳せていた。幸せだった、あの頃の無垢な二人の想い出に…







ただ、
曲が3分を過ぎてエンドを迎えるたびに
この最後の終わり方だけは気に入らない
そう思う少女であった。




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立て直す力は何処からくるのかな

表側久しぶりの新作ですね。待ってました!

音楽に疎いので、曲を聴いて翻訳歌詞を読んでみました。
…判らない。ポールの気持ちもミンメイの気持ちも。
何でこんなにボロボロになるんだろう。自分から手放した恋なのに。食べるご飯があって、お仕事があるのに。
ミンメイがまだ二十歳にも充たない、芸能界の住人だということを鑑みても、私には彼女を理解出来ませんでした。人はパンとワインだけで生きている訳ではないのだろうけれど。

ただ一つ、彼女には心開ける友人が居なかったんだろうなとは思いました。そうか。家族も居ないんだった。

作品の意図とは違うかも知れませんが、人との繋がりの大切さについて思う土曜日の朝となりました。

Re: 立て直す力は何処からくるのかな

どうもです〜^ - ^
曲を聴いててパッと情景が浮かんで書きました。これ、酔っ払いがバーで歌う定番曲なんですよ。コーカサス系の人はみんな酒飲むとブルースとかそんなんばっかですw

夜中にお酒飲みながら、心に沁み入る曲を聴いてると深く入り込んだりする事ありませんか?そのほんのひと時のお話なんです。
なにも朝から晩まで酩酊して泣き暮らしている訳じゃないので安心してくださいw
欧映画でよくありそうなシーンかなぁ位にみといていただけますと( ̄∀ ̄;)


> 表側久しぶりの新作ですね。待ってました!
>
> 音楽に疎いので、曲を聴いて翻訳歌詞を読んでみました。
> …判らない。ポールの気持ちもミンメイの気持ちも。
> 何でこんなにボロボロになるんだろう。自分から手放した恋なのに。食べるご飯があって、お仕事があるのに。
> ミンメイがまだ二十歳にも充たない、芸能界の住人だということを鑑みても、私には彼女を理解出来ませんでした。人はパンとワインだけで生きている訳ではないのだろうけれど。
>
> ただ一つ、彼女には心開ける友人が居なかったんだろうなとは思いました。そうか。家族も居ないんだった。
>
> 作品の意図とは違うかも知れませんが、人との繋がりの大切さについて思う土曜日の朝となりました。

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ひとときのお話なら

良かった!
アル中とかではないのですね( ノД`)…
いえ、びえりさん家のミンメイはもっとヤバい中毒になったりするから心配しました。(^ω^)

Re: ひとときのお話なら

え〜そんな〜
そんな事ありませんよ〜
ウチは爽やか系青春活劇がモットーですから( ̄▽ ̄)


> 良かった!
> アル中とかではないのですね( ノД`)…
> いえ、びえりさん家のミンメイはもっとヤバい中毒になったりするから心配しました。(^ω^)

甘いムズムズ

ふとした瞬間に、切ない恋が蘇っちゃって、身も心も「その時」に持っていかれることありますよね〜。
甘くて、切なくて、ムズムズして…。
こんな時は、部屋を暗くしてドップリ慕っていたほうが、心がラクになるような気がする私です。

Re: 甘いムズムズ

曲って特にパーソナルに来ますよね〜( ̄▽ ̄)

「あ、これ私のことを歌った曲だ!」ってなったり。まあそんな訳ないんですがw
聞く側の受け取り方でそれぞれの解釈が幾通りもあるって事なんでしょうね〜


> ふとした瞬間に、切ない恋が蘇っちゃって、身も心も「その時」に持っていかれることありますよね〜。
> 甘くて、切なくて、ムズムズして…。
> こんな時は、部屋を暗くしてドップリ慕っていたほうが、心がラクになるような気がする私です。
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