MCC -2-

MCCには2人のレイチェルが在籍している。

一人は戦略部のレイチェル・クック少尉。旧合衆国シアトル生まれで、印象深いブルーアイズを持つ女性士官だ。

もう一人のレイチェルは情報部に所属している。ウェーブヘアの金髪で、ツリ目にソバカスという少し特徴的な風貌をしていた。

「ヤンポルスキー少尉」

名前を呼ばれて、レイチェル・ヤンポルスキーはキーを打つ手を止めて振り向いた。肩まで伸びたウェーブヘアがふわりと揺れて、セクション2の電灯をキラキラと反射する。

「…なにか」

猫のようなツリ目で、自分を呼んだ相手を凝視する。集中していた作業を中断されて不機嫌そうな表情を隠そうともしない。
厳しい視線で見つめられた男性士官はビクリと身震いしたかと思うと、途端にオドオドし出した。

「あ、いや、あの」

「……」

少しキツめな猫の目でじーっと見つめられると、その男性士官…MCCのアイドル(自称)こと町崎健一准尉は、怖いのか恥ずかしいのか照れるのか何なのかよく分からない感情に襲われた。
ようは異性に接し慣れていないのだ。おっかなびっくり、手にした書類をそ〜っと差し出す。

「さ、さっき、四角い顔した男の人がこれを情報局の誰かに渡してくれって…」

妙にハスキーな声で町崎は要件を述べる。猫目にソバカスのレイチェル・ヤンポルスキー少尉は、差し出された書類をじーっと見つめていた。

…見つめているだけで、なかなか手に取ろうとしない。町崎は町崎で、差し出した手を引っ込めるのも変だとばかり、そのまま何も言わずにボーッと手を伸ばしたまま突っ立っている。

何処かで何かの電子音が聞こえる。忙しない人々の会話の声。カーボン製の床を歩く軍靴の音。頭上を過ぎる艦内放送。

レイチェルと町崎の間に、空白の時間がしばし流れた。

「…あの〜」

そろそろどうでしょう、と言った態で町崎が恐る恐る声を発した。書類を持つ手がプルプル震えている。どうやら限界も近そうだ。
それをじっと見ていたレイチェルは、ようやくその細腕を伸ばして町崎から書類を引ったくった。

書類の表紙には『GCCに関する調査報告書』とある。報告者の署名は『A.A』となっていた。

「あ、それじゃ、よろしくです」

町崎はへへへと愛想笑いをしながらその場からフェードアウトして行く。レイチェルはそんな事には気にも止めずに、書類をペラペラと数枚めくった後にポイとテーブルへと放り投げた。

実につまらない事に手間を取らされた。レイチェルはそのまま無表情に自分の作業へと戻る。
今の彼女の仕事は、新たなはぐれゼントラーディ人によるテロ行為の可能性指標を数値化するという物で、ここ数ヶ月をこの難しい作業に費やしていた。
お陰で今日も残業だ。ふと正面のビッグウィンドゥを見れば、青灰色の雲が渦を巻いて凄い勢いで流れている。このフロアの高さでは、天気が悪いとスッポリ雲の中に覆われてしまい外界からの光はほとんど届かない。まだ18時を過ぎたばかりだと言うのに、ウィンドゥの外はまるで真夜中のような暗さだった。

いかにも冬のアラスカらしい悪天候に、レイチェル・ヤンポルスキー少尉は猫の目を細める。ソバカスだらけの高い鼻がヒクヒクと蠢いた。

「…変な空気」

小さく呟くと、再びコンソールの作業に意識を戻す。しかしまたしても作業の邪魔が入った。

「あの〜、もし良かったら」

町崎健一だ。何故かまた戻って来たらしい。
圧倒的に不機嫌な顔でレイチェルは振り返る。しかし少しだけ、その猫の目が見開かれた。
町崎准尉の手には、2つのティーカップが温かな湯気を立てていた。

「少し休憩しませんか?その、顔怖いですよ」

少し緊張した感じで町崎は笑う。とても失礼な物言いだが、彼らしいと言えば彼らしい。

「オレンジジャム入れたんです。その、ヤンポルスキー少尉はロシアご出身でしたよね?昔、ムーミンがよくジャム入りのお茶を飲んでたから…」

レイチェルはじーっと湯気の立ち昇るティーカップを眺めている。透き通った赤茶の綺麗な液体が白磁のカップの中でゆったりと揺れていた。町崎はへへへと愛想笑いしながらひたすら待つ。やがてゆっくり、ゆっくりと猫の目が町崎の顔へと移動した。

「ど、どうでしょう」

町崎はゴクリと唾を飲み込んだ。レイチェルはじーっとその町崎の目を見つめながら、その小さく尖った唇を開く。

「ムーミンはフィンランドよ」

あ!と町崎が声を上げた。しかしレイチェルは怒った様子もなく「いただくわ」と手を伸ばしてティーカップを一つ受け取った。

一瞬、指先が触れる。町崎はドキリと心臓が大きく昂ぶるが、レイチェルはまったく意に返さない様子でティーカップに口を付けた。

「…美味しい」

吊り上がった猫の目が、ほんの少し微笑んだような気がした。ソバカスだらけのレイチェルの顔を見ながら、町崎健一は「僕、グッジョブ」と心の中でガッツポーズをしていた。




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こんにちは
AAさんは好きなキャラです。あのUSBを無くして輝に怒られた人ですよね
GCG がらみのお話になるのでしょうか?AAさんに、また会えるかな…


町崎くん。なんかキュンときますね
カップル誕生なるでしょうか?

Re: タイトルなし

そうですw前もそれおっしゃってましたねww
もうmichyさんの中で「USBの人」なんですねww

マッチーは雪合戦では散々だったので、どこかで報われて欲しいですがw難しそうww


> こんにちは
> AAさんは好きなキャラです。あのUSBを無くして輝に怒られた人ですよね
> GCG がらみのお話になるのでしょうか?AAさんに、また会えるかな…
>
>
> 町崎くん。なんかキュンときますね
> カップル誕生なるでしょうか?
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