「来ますかねぇ」

「来ますかねぇ」

部下の刑事の言葉に、スタイナー部長刑事は切りそろえた口ヒゲを撫でながら「知るかよ」と返事をした。

「何にしてもどデカいイベントだ。派手好きが仕掛けるなら絶好の場だろ?」
「でも凄い警備ッスよ。軍人ばっか」

ジュノーTV本社ビル前。
警備…ではなく交通整理に借り出された17分署のパトカーに便乗して、スタイナーら「早瀬艦長襲撃事件」を追い続ける刑事達はTV局に入るお歴々の様子を眺めていた。

そもそもの事件の発端となった星間移民艦艦長 早瀬大佐、さらに新統合軍のトップである総司令グローバル元帥、政府からは内閣の顔役ブエノ報道官、そして新たなるGCCの指導者リン・カイフン。

「ここにミサイルでも落ちたら色々と終わりだな」
「怖い事言わないでくださいよ」

部下の刑事が思わず空を見上げる。スタイナーは側道の茂みにペッと唾を吐くと「冗談だバーカ」と部下の頭を小突いた。


今、ジュノーTV本社ビルは物々しい厳戒態勢になっている。警官も居るには居るが、その数倍の数の新統合軍兵士、そして憲兵隊がTV局周辺を占拠した状態だ。

「こんな中、わざわざ来るかなぁ」

部下の呟きに、スタイナー部長刑事は即答する。

「こんな中だからいいんだろうが。連中の身になって考えてみろ」
「でも難しそうですよね」
「出来るかどうかは犯人どもが判断するだろ。そこまで面倒見切れねぇよ」

スタイナーはタバコを取り出す。咥えると、マッチを擦った。嗅ぎ慣れた硫黄の匂いが心地良い。

「まぁ、俺なら外からじゃなくて中から攻めるな」
「中からって、どうやるんすか?」
「ふん、言ってみただけだ」

スタイナーはジュノーTV本社ビルに歩き出す。部下が慌てて声を掛けた。

「デカ長、入るんですか?」
「いんや、周りをぐるっと見てみるわ」

居並ぶ軍人の波を眺めて、スタイナー部長刑事は吸いかけのタバコを放り投げた。

「嫌だねえ、軍人さんってのはどこに居てもこの世は俺のものって顔してやがるぜ」




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GCC側の控え室には

GCC側の控え室には、代表であるカイフンを始めズアンらメインスタッフ、そして学生会からベイビーパンサーの面々が詰めていた。
結構な人数で、予めTV局側に広めの控え室をお願いしておいて良かった。

「いよいよですね」

学生達は興奮している。カイフンは鷹揚に頷いた。

「軍の連中をやり込めるのは勿論だが、野党の奴らの計画を暴露するのも命懸けだ。もし気遅れする者がいたら、今のうちにこの部屋を出て行ってくれ。そういう者まで巻き込みたくない」

学生達は一斉に「やります!」「協力させてください!」と口々に叫び出した。ある種の熱病に浮かされた様な空気感がその場を支配していて、後から振り返れば誰しもが冷静では無かったと気付けただろう。
しかしその場その時においては、彼らは正義感に燃える革命の勇士であったのだ。

そしてそれは、リン・カイフンという青年の醸し出す指導者としてのカリスマ性の高さの証明でもあった。
今の時代に、それはとても魅力的で、蠱惑的で、かつ脆く危険なものだった。

「ズアン、実力行使で来られた時はよろしく頼む」
「おう」

片目の長身の男は、その剃り上げたツルツルの頭を撫でた。元軍人の彼は、この中で唯一銃器の扱いに慣れていた。コッソリと、もしもの時の為に拳銃を隠し持っている。

「荒事は俺の専門だ。まあ、出番のない事を祈ってるがな」
「そう願うよ」

カイフンは笑う。
さすがにあの世界を救ったリン・ミンメイの従兄だけある。その端正な顔は、これから命を懸けて大仕事に挑もうというのにとても凛々しく堂々として見えた。
それをズアンは一つだけの目でじっと見つめている。

「そろそろお時間です」

TV局のスタッフが呼びに来た。カイフンは頷く。学生達は一斉に熱気に包まれた。いよいよだ、我々は戦いに行く。皆一様に顔が引き締まった。しかし熱意は1ミリ足りとも失われない。

「では、行こうか」

カイフンの一言に、室内の者全員が雄叫びで答えた。




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「ナジブ、何それ?」

「ナジブ、何それ?」

恋人のシャーリーンに声を掛けられて、ナジブ・シャリフは笑顔を向けた。

「何でもないよ、みんなにお茶淹れてくれたかい?」

シャリフは黒いナイロン製の大きなバッグを、控え室の壁際にあるテーブルの下に隠すように置いた。先ほど部屋に入って来たTV局スタッフからコソコソと渡された物だ。かなり重そうな、ゴトリとした音がした。
それをチラチラ見ながらシャーリーンは答える。

「ええ、でもイッチが全然手伝ってくれないのよ。彼女、ちょっと問題だわ」

腰に手を当ててお怒りモードだ。シャリフは「まあまあ」と彼女を宥めながらその場を離れる。
近くの仲間に、軽く目配せをした。仲間は頷くと静かにシャリフの置いた「荷物」を隠すように側に立つ。

「カイフンさんて緊張しないのかな」
「あの人が?誰の前でも緊張なんかしないわよ。誰よりも一番立派だもの」
「うん、そうだね。僕もそう思う」

シャリフは同い年のブリティッシュ系アメリカ人の彼女に微笑み掛けた。整った顔立ちに浅黒い肌。中東人独特の濃いい顔立ちがとてもセクシーなボーイフレンドに、シャーリーンは少し頬を赤くする。
シャリフはとても知的で、スマートで、紳士的で、そして優しかった。常に恋人として彼女を立て、誰に対しても親切だった。シャーリーンの自慢の彼氏。

彼をカイフンに引き合わせたのはシャーリーンだが、今では彼の方がすっかり学生運動にハマっている。いまや学生会の「カイフン親衛隊」とも言えるベイビーパンサーの中心人物だ。シャーリーンに対する周りからの扱いも随分変わった。

「あ、カイフンさんが何か言ってるわ、聞きに行きましょう」

シャーリーンに手を引かれ、シャリフは歩き出した。途中、すれ違う何人かと目配せを交わす。

「もうじきね!きっと世界を変えてくれるわ!」

「ああ、そうだね」

ナジブ・シャリフは笑顔で答える。

「もうじき、世界が変わるよ。きっといい方にね」




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「話の主体は私が」

「話の主体は私が、軍事の専門家としての意見を求められた際には早瀬大佐がお話になられる。グローバル元帥は締めのタイミングで話を収束させる。宇宙関係の話も早瀬大佐が対応をなさる。航路に関しては公開しない。メガロードの武装についても軍機なので公開出来ない。これで間違いありませんね」

新統合政府のコンラッド・ブエノ報道官は爽やかな笑顔で同意を求めた。
現内閣の顔役であり、マスコミ対策の総責任者であるブエノは、現職の総理大臣が一地方議員だった頃からの秘書官上がりだ。
戦前のハーバードで政治心理学を学んだエリート中のエリートで、その上まだ35歳独身長身イケメンという無敵のスペックを誇る。両親はメキシコ人だったが、本人は生まれも育ちも国籍も旧アメリカ合衆国だった。

その、マスコミ受けする爽やかな笑顔は、ネット上でも多くの女性ファン(主に主婦層)を獲得していた。白い歯とヒスパニック系の浅黒い肌との対比が眩しい。
ポマードで固められた黒髪は8:2分けで、今日もキリリと決まっている。

「もう充分じゃないかね」

そうゴチたのは、新統合軍総司令グローバル元帥だ。困ったような顔で火のないパイプを齧っている。
隣りで星間移民艦メガロード艦長 早瀬大佐がクスクスと笑った。

「念には念を入れませんとね」

すでに同じ内容の話を7度も繰り返している。見た目の爽やかさとは違って、ブエノ報道官は几帳面でキチキチとした神経質な男だった。

「ブエノ報道官は慎重でいらっしゃいますのね」
「いやはや、お恥ずかしい限りです。いわゆる心配性というヤツでして」
「とても頼もしいですわ。私、こうした仕事に慣れていないもので」
「いえいえ、移民計画発表時の早瀬大佐の演説はお見事でした。あの素晴らしい情景が忘れられませんよ」
「お褒めいただき光栄です」

早瀬大佐は緩やかに微笑む。かつては"氷の姫"とまで呼ばれた女性だが、今はその氷の片鱗すら見当たらない。
初めて会ったのは内閣府での打合せの時だった。噂に聞いていたのと違うな、とブエノは心の中で思ったが、顔には出さなかった。

「なに、私に全部お任せください。こんな討論会などよくある話です。今回はちょいとだけ大げさですがね」

ブエノはウィンクしてみせる。早瀬大佐は笑ってくれたが、グローバル元帥は渋い顔だった。
ユーモアのない人だなぁとブエノは思ったが、もちろん顔には出さなかった。




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VIP向けの控え室から出発して、

VIP向けの控え室から出発して、早瀬大佐らは収録スタジオへ向かう。
その前後を警備の兵が固めていた。
兵士の中の一人に未沙は気がつく。未沙が指令センター勤務の頃に、いつも自宅へ車で送り迎えしてくれた馴染みの顔の一人だ。年配で、自分の戦死した父と同じくらいだったはず。

通勤時、よく個人的な話もした。過去の自分と輝の関係も知られている。そう言えば去年の誕生日に、輝と喧嘩して仲直りして…

いけない、余計な感情が湧き上がってしまう。未沙は気持ちを引き締め直した。
ただでさえ、今日は輝もスタジオ入りすると聞いている。彼を見て動揺してしまったら、この大事な場面でミスを犯しかねない。
瞳を閉じて、精神を集中させる。何がなんでもやり遂げる、今日のこの仕事を。
移民の意義を全世界に改めて感じ取ってもらうのだ。人類の明日のために…

「大佐、ご気分が優れませんか?」

その顔馴染みの護衛官が心配して声を掛けて来た。未沙は瞳を開き、朗らかに笑い掛ける。

「いいえ、大丈夫よ。ちょっと緊張しているみたい」

一向は未沙の身体を慮ってゆっくりと歩を進める。未沙は身体のシルエットを隠すゆったりとしたワンピーススタイルの軍服を身に纏っていた。


未沙は、別れた輝の子供を妊娠していたのだ。
4ヶ月だった。




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