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2日目 シティ郊外にある空軍基地

マクロスシティの郊外にある新統合軍空軍基地。

空母プロメテウスとは別に新たに造成されたバルキリー用の大規模滑走路は、シティ住民の騒音対策や着陸事故防止の観点から多くの人々に待ち望まれた施設だった。

まだ開設途中であり、官と民とが入り乱れた状態で混乱した運用が行われている。


ヒカルにとって、家は遠くなるしマクロスからは離れて気軽に未沙の顔を見にも行けない。
ちっともいい事のない基地だったが、プロメテウスからヘリで行き来しているジーナ・バルトロウにとっては、大した不便は感じていないようだった。

「贅沢なご身分で」

ヒカルが拗ねたように言うのを、ジープの後部座席でバルトロウ中佐は笑った。

「あなたもバルキリーを降りて、制服組になればいいのよ。
実績は充分じゃない」
「ご冗談を」

ジープの助手席でヒカルは苦笑した。
運転席のショーン少尉がお気楽な声を上げる。

「やっぱり昇進したら革張りの椅子に座れるんですかね?」
「座れるわよ、ついでに居眠りも出来ちゃう」
「うはは、楽しみだな!」

歯を見せて笑うショーン・シーブックは、近年低年齢化をみせる空軍パイロットの中でも異色の存在だ。

ヒカルより2つ下の18歳。
確かにヒカルのバルキリーデビューより1年遅いが、もともとパイロットとして実績のあったヒカルと違って、純粋な訓練生からのステップアップだ。

北米全域を管轄に置くマクロス本部のパトロール部隊に配属になった時、「第二のマックス」と噂になったのをヒカルも知っている。

なんで「第二の一条」じゃないんだ、と多少不満はあったものの、ショーンの才能に関してはヒカルも感じるものがあった。
うまく化ければ新世代の天才になれるかも知れない。


その屈託のない笑顔で若い女子オペレーター達からの人気も高いショーンは、しかし周りが引くほど上昇志向の強い人間だった。

「一条大尉に憧れています」

と言われた時は、お、可愛い奴めと思ったものだが、彼が憧れていたのはヒカルの飛行技術ではなく、彼の星間戦争での英雄としての立場だった。

「俺も英雄になりたいんです」

がショーンの口グセだ。
今回の任務に選出された時、ショーンは真っ先に一番機を志願した。

「俺が一撃で決めて、皆さんに楽してもらいますよ!」

そんなショーンを見て、ヒカルは頼もしくも、可愛らしくも感じていた。
フォッカー先輩が自分を見る目もこんな感じだったのだろうか?
自分も随分と歳をとったものだ。


「シーブック少尉は偉くなりたいのね」
「ええ、そうです!」

バルトロウの皮肉に、ショーンは気づかなかったようだ。

「俺は出世しまくって、将軍になる男ですよ!」

ヒカルは後ろを振り向き、バルトロウと顔を見合わせた。

三人は、郊外の空軍空港のそのまた外れにある訓練施設へと、アラスカの寒空の下、猛スピードでジープを飛ばしていった。




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「おたくはどう思ってるんだ?」

「実際のところ、おたくはどう思ってるんだ?」

ヴァーミリオンのシミュレーションを行っている訓練施設の中で、このところ付きっ切りで顔を突き合わせているバルトロウ中佐に、ヒカルはフランクに話しかけた。

二人きりの時は、割とヒカルはこんな感じだ。
もともと階級を気にしない不良軍人であるヒカルはその天然ぶりも相まって、女性の上官に対して口の利き方がなっていなかった。
思えば、未沙と特別な仲になるキッカケもそれだった。


「どうってどう?」

紙カップのコーヒーを片手に、自慢の美脚を高々と組んで椅子に腰かけたジーナ・バルトロウは逆に聞き返して来た。
ヒカルの言葉は漠然とし過ぎていて、科学者への質問としては落第点だ。

「このシャトルの事さ」

ヒカルは教官室の窓の外に目をやる。
隣りのハンガーはゲートが全開になっており、アラスカの弱々しい日差しから隠れてヴァーミリオンの黒い容姿がハンガーの陰に沈んでいた。

ヒカルはヴァーミリオンを飛行機と呼ばなかった。特にこだわりがある訳ではなく、彼の感性的にこれは飛行機とは違ったのだ。
なにしろヴァーミリオンは「飛ぶ」のではなく「落ちる」のだ。


「効率的な破壊兵器よ。それが何か?」
「いや、そういう事じゃなくて」

ヒカルは何か言葉を探しているようだった。
バルトロウは何となくヒカルの言いたい事を理解していたが、彼が自分の言葉にするのを待った。

「あいつら、成功すると思うかい?」

ヒカルの目は、ハンガーの脇で談笑するヴァーミリオンのパイロットチームを見ていた。
訓練開始前の数少ない憩いのひと時だ。

いずれも地球の各エリアから集められた優秀なパイロット達である。
今回の作戦の為に特別に招集されたエリートチーム。

「五分五分ってとこかしら」

聞きようによっては、随分と冷たいバルトロウの返事だ。
ヒカルはバルトロウを一瞥し、またパイロット達に視線を戻した。

「死なす為に訓練してるワケじゃないんだぜ?」

ヒカルの表情は渋い。
この作戦がかなり難しいものであることを、パイロットチームのリーダーとして強く意識している。

「もちろんよ、成功して全員生きて帰って欲しいわ」

バルトロウもパイロット達を見る。

「その為に、落とすのを衛星軌道じゃ無くしたんですもの」


本来、ヴァーミリオンは衛星軌道からの落下で地上を攻撃する爆撃機だ。
しかし、今の段階ではスピードが速すぎて地面に激突してしまう。
その為、高度をうんと下げて上空30,000mから落とす作戦が組まれた。
速度は落ちるが破壊力も落ちる。しかし、戦艦一隻を行動不能に追い込むには充分な火力だ。


「おたくはホントにドライだな」
「どうしてよ」

ため息交じりのヒカルの言葉に、バルトロウは少しだけムクれた。

こんなくだけた顔をする性格では無かったが、毎日顔を合わせている間にバルトロウもヒカルの影響を受けたらしい。
未沙といいバルトロウといい、クール系の美女はヒカルの様なワンパク小僧に弱いのかも知れない。

「私だって皆を心配してるわ。それを技術的にサポートしているだけよ」


正直なところ、皆のシミュレーションの結果は芳しく無かった。
腕に問題があるのではない。難しすぎるのだ。

ヒカルとしては、準備を100%完了してから彼らを送り出したい。もちろん自分の事もしかりだ。
しかし、作戦の期日はすぐそこまで迫っている。足りない穴を埋めている時間は無かった。


「結局、いつもと同じさ。やってみなけりゃ分からない」

本当はそんなものでは無い事をヒカルは知っている。
だが、そうでも言わないと彼らの背中を押す勇気が持てなかった。

そんな、窓の外を物憂げに眺めているヒカルを、後ろからバルトロウはじっと見つめているのだった。




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遅めの昼食を取っていた。

午前中の訓練を終え、ヴァーミリオンのパイロットチームは遅めの昼食を取っていた。

「あなた達、よく食べるわねぇ」

彼らのシミュレーション訓練に付きっ切りのバルトロウが、呆れたように嘆息する。

落下で速度を稼ぐヴァーミリオンの場合、マイナスGになるのでバルキリーよりも失神事故の心配が少ない。
場合によっては固形物を口にしないパイロットもいる中で、彼らヴァーミリオン組は遠慮なくお食事を頂いていた。


「腹は減ってます、いつでもね」

アフリカ系ブラジル人のジョゼ・モレノ中尉が笑う。
肌の黒さに反比例して、その健康的な白い歯は見事なものだった。

「感心するわ、パイロットの鑑よ」

嫌味でなく、素直な気持ちでバルトロウは言った。
かくいう自分は、あまり食欲という物に興味を持てず、いつもお茶とヨーグルトなどで簡単に済ませてしまうのだ。


「中佐、質問があります」

中国人のチャン・ゴウリ中尉がバルトロウに声をかけた。
今のところ、ヒカルに次いで訓練成績の良いパイロットだ。ヴァーミリオン2号機に搭乗する予定である。

「なにかしら、チャン・ゴーリ中尉」

バルトロウにとって、チャイナネームの発音は難しいらしく、微妙な感じの呼び方だった。
しかし呼ばれた方は気にする素振りもなく、空のレーションをダストボックスに放りながら、真剣な顔でバルトロウに質問をぶつける。
とても真面目そうな男だ。

「ヴァーミリオンは非常に扱いの難しい機ですが、機首起こしさえ成功すればあとは撃って逃げるだけですよね」
「そうね」

バルトロウは頷く。

「逃げる時に、敵戦闘機に追われた時はどうすれば良いのでしょうか?」

「追いつかれないように飛ぶしかないわね」

答えは簡単だった。

「一撃離脱のヴァーミリオンは爆撃以外の武装を持ってないわ。ミサイルも予備を入れて2発だけ。追いつかれたらいい的よ」

ショーンが元気よく肩をすくめる。
後ろで見ていたヒカルが質問を続けた。

「被弾した場合、不時着は可能かな?かなり大きな機体だけれど」

バルトロウは唇に親指を当てて、ちょっと考える。

「それも難しいわね。落下後の揚力飛行のために着陸可能な条件が結構厳しいのよ。
滑走路ならともかく不時着はムリね」
「ムリなのか?1%も?」

ヒカルの言葉に、バルトロウは笑った。

「世の中に100%は無いわ」
「いい答えだ、ありがとう」

その時、休憩の終わりを知らせるブザーが鳴った。

パイロット達は、引き続きシミュレーションで自らの生還率を高める為に、重い腰を上げて散った。




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作戦支援チームの打ち合わせは

作戦支援チームの打ち合わせは、午後も遅めの時間に終わった。


本作戦の指揮官である早瀬未沙中佐の「ではまた明日」という言葉と共に、各セクションのスタッフ達が席を立つ。
個別に未沙に相談のある者だけまだ残っていたが、上席の技術部主任が声を発したので、下席のスタッフは資料片手にお預けの状態だ。


「ねぇ、早瀬中佐」

バルトロウは親しげに未沙に話しかけた。
未沙は一瞬驚いた目をしたが、すぐにいつものクールフェイスで応える。

「何かしら、バルトロウ中佐」

バルトロウがこんな声を出すのを未沙は初めて聞いた。確かに戦時中からの知り合いではあったが、別段親交を深めていた間柄でもない。


「個人的な事を聞いてもいいかしら」


個人的?
個人的な事?
あなたが私に?

たびたび予想外のバルトロウに、未沙はそれでも平静を装って返事をする。

「お話の内容にもよるわね。どうなさったの?」

「一条大尉の事なんだけれど」


未沙の左手がピクリと反応した。
部屋を出て行こうとしていたスタッフ達が、耳聡く足を止める。
まだ着席していたスタッフ達は資料を置きなおして目を爛々と輝かせた。


「…なにかしら」

未沙は冷静にバルトロウに向き直った。バルトロウは探るような目をして未沙の様子を伺っている。

「あなた、大尉の恋人?」
「!」

爆弾発言だった。
室内のスタッフ全員が色めき立つ。
出口にたむろっていたスタッフは引き返して興奮した顔で壁に張り付いた。
通路では中の様子を窺おうと関係ない者まで集まりだしている。

「…なにを仰ってるのかしら」

未沙の声は上ずっていた。
本人は平静を装っているつもりの様だが、頭から顎先まですでに真紅に染まっている。

「一条大尉の、恋人じゃないか、と聞いているのよ。早瀬中佐」

通路の方で女子達の黄色い嬌声が上がる。
未沙はちょっと怒ったように視線を伏せたが、耳まで赤いままで迫力がない。

「馬鹿馬鹿しい、知らないわそんな事」
「知らないというのはおかしいわ」

バルトロウは平然と食い下がった。

「あなたが、一条君と寝てるのか寝てないのかと尋ねてるのよ。寝てないなら違うと言えばいいじゃない」

「な…!」

あまりの事に、未沙はテーブルにまとめていたレジュメをバサバサと落としてしまった。

「い、一条君て…あなたこそその物言いは何なの⁉︎」

ついに首まで赤くなって、未沙は論点の違う切り返しをした。顔から火が出ている。相当混乱しているのだけは間違いない。

「私が一条君をどう呼ぼうと関係ないじゃない」
「大有りよ!」

未沙が真っ赤な顔でテーブルを叩く。
クールビューティーの代名詞とも言われる未沙のありえない姿に、周りで見ているスタッフ達も大騒ぎだ。

「じゃあ寝てるのね」
「寝てるわよ!」

売り言葉に買い言葉的な反応だった。普段の未沙ならありえなかっただろう。

言った本人は気付いていないが、周りが聞き逃すはずはない。
キャーという歓声と共に、女性スタッフ達が未沙の周りに集まってくる。

「中佐、そうだったんですか⁉︎」
「やだー中佐羨ましい」
「凄い!ビッグカップルじゃないですか!」
「どうして黙ってたんですか〜⁇」

え?という反応の未沙を残して、バルトロウは席をたった。
立ち去る時に「そうなの」と一言だけ呟いたが、誰の耳にも届かなかった。




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「…ねぇ、ヒカル」

「…ねぇ、ヒカル」

その日の夜、またヒカルの家に来てしまった未沙は、二人きりの甘い褥で気になる質問をした。

「なんだい?」

ヒカルはちょっと汗ばんでいて、嬉しそうに未沙のおでこにキスをした。
上機嫌なのは、つい先ほど熱い想いの塊りを全部未沙に打ち込んだばかりだからだ。

「あのね、その」

未沙はどう切り出していいか分からずもじもじしていたが、その仕草にヒカルが興奮し始めているのに気がつき、慌てて言葉を紡いだ。
このままでは話も出来ずに二回戦が始まってしまう。

「く、訓練でいま、バルトロウ中佐と一緒でしょう?」
「バルトロウ?」

ヒカルは意表を突かれた様だ。
未沙をまさぐっていた手が止まる。

「ああ、ほとんど一日中ね。彼女がどうかした?」
「…どんな感じなの?」

ヒカルは難しそうな顔をする。

「どんなって…仕事熱心だよ。ピッチアップのタイミング取りをしてるよ。オタク過ぎて、半分は何言ってるか分かんないけれど」

ヒカルは笑った。その様子に、未沙はちょっと安心した。

「そう…ならいいの」
「なんだいそれ」

ヒカルは不思議そうにしている。
でも未沙はもう充分だった。


そうよね、この人天然だもの。もし相手から何かあっても気付いたりしないわ。
心配するだけ無駄かも。

「なんだよ、自分だけ納得してさ」
「ふふ、いいの」

未沙はヒカルの首筋に抱きついて、甘えん坊をあやす様にキスをした。
ヒカルはそれに負けじと未沙に覆い被さってくる。

「やん、もう」
「言わないとこうだ!」

結局二回戦は始まってしまった。




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